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書簡阻止

 ドロテアは、目を覚ます。


 見慣れた天井。いつものあばら家だ。



 ゆっくりと伸びをする。



 昨日、ウォルバー城に乗り込んだ後。久しぶりに実家―――、というか、あばら家に帰って来ていた。



 最近は、ずっと”ダンジョン村”の方に泊まりこむ生活が続いていた。


 事務所の一部屋を間借りさせてもらっていたのだが、カトリーヌが気を使ってくれていたので、十分すぎるほど快適だった。



 それと比べると、やはりあばら家の寝室は狭く、寝具も質素だったが、これはこれで落ち着くものだ。


 欠伸を浮かべて、髪の毛を掻きながらベッドから降りる。


 サイドテーブルの引き出しから櫛を取る。寝ぼけまなこで髪を()かす。



 サイドテーブルの上に置いてある、クマの縫いぐるみと目が合った。


 ―――今は亡き父が作ってくれた、大切な縫いぐるみだ。


 髪をリボンでまとめつつ、クマを眺める。



 今後、この家を離れて活動することも多くなりそうだ。……せっかくだから、この子も一緒に連れていこう。


 クマの縫いぐるみ―――ジニーと名付けたそれ―――を、いつも持ち歩いているレザーバッグの中に仕舞いこむ。



 朝の身繕いを軽く終えると、階下へと降りる。


 そこには、いつものように、マーガレットが朝食を用意して待っていてくれた。



「おはよう、マーガレット。……マーガレットの朝食を頂くのも、久しぶりね」


「ああ、お嬢様。おはようございます。ですねえ。さ、温かいうちに召し上がってください」



 ドロテアは頷いて席に着く。


 たっぷりとバターが塗られた、厚切りのパンを咥える。温かい野菜のスープに口をつける。


 体が芯から温まるようだ。ほっと息を吐く。



 同じように朝食をとるエドワードとマーガレットに向けて、ドロテアは口を開く。


「……ところで、皆は、”ダンジョン村”には来ないの?一緒に過ごせたらいいのに」



 ふむ、とエドワードは顎に手をやる。


「まあ、そうですね。……しかし、私達までもが商人ギルドの世話になるのも申し訳ありませんし、これもお嬢様が一人立ちするのに絶好の機会でしょう。

 どうせ、このあばら家の世話も誰かがしなければなりませんしね。ですので、私達の事は気にしなくて構いませんよ」


 マーガレットもそれに同意するように頷く。



「……そうかもね」


 ドロテアは、そう呟いてパンを齧る。


 ……今さらだけど、エドワードとマーガレットって、なんだか、使用人というより、祖父母みたいだ。



「まあ心配無用です。別にこの家は無くなるわけじゃありませんし、私達はいつでもここに居ます。寂しくなったらいつでも戻ってくればいいのです。


 それまで、思いっきり学んで来て下さい。私達は、お嬢様を常に応援していますよ」




 二人の笑顔に背中を押されるように、ドロテアは頷く。


 ―――私は、精一杯成り上がる。そして、その姿を、この二人に見てもらうんだ。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 あばら家で朝食をとった後、ドロテアは”ダンジョン村”事務所へ向かう。


 事務所内が騒がしいことに気付いた。



「こんにちは……何か起こったのですか?」


 事務所の上座、奥まったギルドマスターの机に集まっている人だかりに声を掛ける。



 人だかりから、ぬっとカトリーヌが顔を出す。


「こんにちは、ドロテア……。例のウェイン伯爵だがな、奴が早速行動を起こしたんだ」



 ドロテアはゾッとする。


「えっ、行動を起こしたって……、何をしでかしたんですか?」


「ああ。奴は、助けを求める書簡を、上級貴族のスカイラーに送ろうとしていたんだ。


 まあ、その行動自体は未然に防げたんだがな。冒険者ギルドを見張りにつけていて良かった」



 ドロテアは、胸を撫で下ろす。


「それは良かった……。その書簡には、具体的に何が記されていたのですか?」


「これがそれだ。読んでみるか?」



 カトリーヌから手渡されたその書簡を広げる。


 そこには、奴の現状と泣き言、今までスカイラーに献金した自分の実績と、それをネタに自分を助けてもらうよう要請する文章が書かれていた。



「……なるほど。でもこれで、奴の尻尾をさらに掴むことができましたね」


 ドロテアは、書簡をカトリーヌに返す。



「ええ。ウェイン伯爵の後ろにいる黒幕は、上級貴族のスカイラーね。


 ……しかし、これはマズいことになったわ。献金が急に途切れれば、スカイラーも不審に思ってこちらへ連絡を寄越すでしょう。その際に現状がバレてしまえば、逆に私達が反逆罪で吊るし上げを食らう可能性もある。これをどう乗り切るべきか……」



 カトリーヌが吐き捨てるが、ドロテアは、それを聞いて考え込む。


 固まってしまったドロテアに、カトリーヌは気遣わしげな視線を向ける。


「ドロテア?大丈夫?」



「……いえ。この勝負、()()できる可能性はまだあります」


「……どういうこと?」


 カトリーヌは、興味深げに聞いてくる。



「ええ。前言った、ここの宿屋に泊まっている上級貴族の令息についてです。


 奴はまだ、この”ダンジョン村”に滞在しているようです。


 奴は、自分の事をスカイラー一族だと言いました。しかし正直言って、奴は貴族の器ではありません。


 そんな出来損ないの息子が、ハーレムを引き連れて、辺境の”ダンジョン村”に長期滞在している……。


 ここには、何かの意図を感じます。ひょっとして、これを調べることで、突破口となるかもしれません」




 ドロテアの瞳が、強い光を帯びる。



 私の成り上がりは始まったばかりなのだ。


 ……訳の分からない上級貴族などに、止められてなるものか!




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