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上級貴族

 ウォルバーの統治者・ウェイン伯爵は、部下である税務署長・ピーターと馬車に乗っていた。



 彼らが向かっているのは中央都市・アーヴェルだ。


 そこには、税金の賦課・徴収をつかさどる歳入庁が置かれている。そこにいる上級貴族・スカイラーに会って、献金を渡すことが目的だ。


 スカイラーには、定期的に献金を渡している。そのお陰で、多少の不正を見逃して貰っているのだ。



 ウォルバーの商人ギルドへ攻勢をかけた今、変にタレこまれても面倒になる。


 それならば、先手を打って反撃の芽を摘んでおこうという腹積もりだ。




 道中、ウェインはピーターに話を振る。


「それで、昨日の商人ギルドはどうなったんだ?無事に金は受け取れそうなのか?」


「ええ。そりゃもう。こちらにはウェイン様がついているわけですからね。問題なく、支払いを約束させましたよ」



 ピーターは相好を崩し、それに答える。



 彼が上機嫌なのは、その交渉が上手くいったこともあるが、それだけではない。


 ウェインから指示された金額を勝手に上乗せし、それが自分の懐に入るよう、書類を改竄したからだ。



 それに―――、と、ピーターは昨日のことを思い出して舌なめずりする。



 商人ギルドのマスターは、思いのほか()()()身体つきをしていた。


 表情は前髪で隠されよくは窺えなかったが、それがまたミステリアスな感じでたまらない。


 あの時はゆったりしていた服装だったが、それでも身体の要所は発達しているのが見て取れた。



 彼女のように生意気そうな態度の女を征服し、思い通りに扱ってやれたら、どれだけ快感だろうか?



 これから、何度かあの場所を訪れることもあるだろう。いつか、()()にしてやりたいものだ……。



 下卑た笑みを浮かべ、だらしなく開いた口から垂れるよだれを袖で拭う。


 せっかく中央都市に行くのだ。帰りに娼館にでも寄るか。



 ピーターは喉の奥でクツクツと嗤い声を立てた。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 ドロテアは、憂鬱な気分で”ダンジョン村”の外れを歩く。



 今の社会では、頑張って稼いでも、その大部分は権力者に吸い取られてしまう構造なのだ。


 カトリーヌは、気を取り直して仕事に取り組んでいるが、ドロテアはどうしても納得できなかった。



 正規の税金を払うのは仕方ないとして、それにしても、あのピーターとかいう役人は最悪だった。


 正規以上の金を私達からふんだくり、さらに、カトリーヌを侮辱した。



 許せない。

 何らかの仕返しをしてやりたいところだが……、残念ながら、今のドロテアにはその力もなければ、知恵も無い。



 ため息をつく。



 足元の石ころを蹴飛ばした。


 勢いよく飛んでいった小石は、藪を超えた。



 その向こうで、コツン、という音が聞こえた。



 どうやら何かに当たってしまったようだ―――と思うと同時に、藪の向こうからやかましい泣き声が響く。




「うわああ~~~~~ん!頭になにか当たったよお~~~~!!ママぁ、痛いよ~~~、よしよししてよお~~~~~~!」



 情けない声に続き、媚びを含んだ声が聞こえる。


「ああ、レオン様、どうしたのですか?可哀想に……。よーしよし、ママが慰めてあげますからね~」




 藪の向こうはキャイキャイと騒がしい。


 あまりの事に硬直してしまったドロテアだが、好奇心が勝って、様子を窺うことにした。


 藪の切れ目にそろそろと近寄り、そっと覗く。



 そこには、身なりの良い青年と、それを取り囲む4人の女性たちの集団が見えた。



 一体、あれは何なのだ?


 狐につままれたような気分で、それを見つめる。



 青年は、一人の女性の胸に抱かれ、もう一人に手を握られ、さらにもう一人の女性に『強い子がんばれ』などと励まされていた。


 しばらくして泣き止んだ青年は、女性たちを引き連れて、意気揚々と”ダンジョン村”の宿屋の方面に歩き出した。



 ……一体、私は何を見たのだろうか?


 冒険者のパーティにしては、どうにも偏っているような気がするが……。



 というか、彼らは”ダンジョン村”の宿屋へ入っていった。


 とすると、宿泊者名簿に素性を記入するだろう。


 まあ、虚偽を書くかもしれないが、ドロテアは興味をそそられた。



 彼らに少し間をあけて、宿屋の裏口から入ってゆく。




 宿屋の管理人室では、大柄な女性が事務机に座り、羽ペンを動かしていた。


 ドロテアは、その女性に気さくに声を掛けた。



「やあ、シルビア。調子はどう?」


 シルビアと呼ばれた女性は、くるりと振り返り、人懐っこい笑みを浮かべる。


 彼女は、”ダンジョン村”の宿泊施設を取り仕切る管理人だ。元々、大規模な旅館の女将をしていた経験があるために抜擢されたのだ。



「ああ、お嬢様。いい感じですよ。人の入りも十分。トラブルなども何もなし。平和が一番ですね」



 ドロテアは、”ダンジョン村”でも、お嬢様と呼ばれていた。


 ……カトリーヌから商人ギルドの皆へ、”ダンジョン村”の出資者だと紹介されたのだ。


 お嬢様と言われるのも(むべ)なるかな、だ。


 特にドロテアの素性を―――、令嬢だという事がバレている訳ではないが、それでもお嬢様と呼ばれているのがなんだかおかしかった。



「それは良かった……。あの、ちょっと宿泊者名簿を見せてほしいんだけど」


「構いませんよ。こちらです」



 シルビアから手渡された名簿を覗く。


 さっき宿泊した一行―――、あった。


 男1人と女4人のパーティ。



 男の名は―――、




 レオン・スカイラー。




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