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月影の守護師  作者: ドッグファイター
第二章 御霊降ろし編
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64話 緊急会議

狭間直輝の破壊の術、そして巨漢の魔霊との戦いからすでに一日という時間が経過していた。

そして、とある場所にて守護師の面々が顔を合わせていた。

 ◇◆◇◆





「なるほど、ではまだ異常は見られないということですね?」


「仰せの通りです」


「わかりました。ご苦労様です。もう下がって休んで下さい」


「承知致しました」


 望楼月也(ぼうろうつきや)は報告を受けた後も、しばらく黙って考え込んでいるようだ。

 例によって望楼月也と犬走美姫(いぬばしりみき)は床の間の上座に両並びで着座している。そして、上座から下座に向かって右側に本丸(ほんまる)家当主、三之丸(さんのまる)家当主が座り、その先にも数人の守護師が居並んでいる。左側には根石舞美子を筆頭に天端石(てんばいし)雪と隅志々郎が続き、こちらにも数人が居並んでいる。両側とも部屋の中央を向いて壁側に沿って並んでおり、本丸家当主と根石家当主は対面する形で座っている状態である。

 そして、ここに集まっている面々も月也と同じような思案顔になり、一気に重苦しい空気が充満していった。

 ではなぜ『異常はない』という報告なのに、一様は重く沈んでいるのだろうか。その答えは三之丸家当主と本丸家当主の会話から推測出来る。


「どういうことでしょうか……。あれだけ混乱した霊気が流れ出たというのに、何も起きないはずはないでしょうに」


「うむ、戦国武将の魂もかなり流出したが、魔霊の出現もないというのか。それどころか、悪霊の大量発生も無いというのは有り得るのか?」


「あれからすでに一日という時間が経過していますが、なぜ動きが無いのか不思議でなりません……」


 『あれから』というのは、狭間直輝(さまなおき)が結界を崩壊させた時のことだろう。結界が崩壊すると三之丸家当主の言葉通り、霊気が結界外へ流れ出ていくデメリットがある。

 本来、霊気は霊脈によって管理され調整されている。霊気とは人の怨念であり、悔恨なのだ。だから必要な個所へ供給し、そして不必要な箇所には遮断しなければならない。そのための結界であり、霊脈なのである。

 その結界が崩壊したとなれば必要な所に霊気が届かず、不必要な所に霊気が届いてしまうという事態に陥ることもあるのだ。その霊気が暴走しているとなれば、いかに危険なことなのかがわかるだろう。そして、これが霊脈の乱れに繋がっていくのである。

 霊脈の乱れが起こると、霊気が異様に濃くなってしまう場所が発生する。これが『霊気溜まり』となり、悪霊の大量発生率がグンと上昇してしまう。それだけではない。霊気が大量に集まれば、魔霊にとって格好な構成要素の場となるのだ。魔霊は多くの霊気を媒体とするからである。

 だが、今のところ霊気溜まりが発生したとか、悪霊が大量発生したという報告すら無いのだ。当然、小規模な悪霊が出現したという報告はあった。ただ、これに関しては普段から起こっているような事案で、特別変わった出来事ではないのである。


「何も起きていないということは、良いことなんじゃないのか」


「そうだな。被害もまだ報告されていないわけだしな」


「ひょっとしたら、もうすでに霊気が正常化しつつあるのかもしれないぞ」


「おお、そうだ。二之丸家の新当主様の術で回復しているということか」


 にわかにそう言った声が列の奥の方からもあがる。これも当然の反応だろう。なぜなら問題が起きていないのならば、何も憂慮することは無いのである。冬馬が放った術を見ていなくとも、名家の守護師ともなれば感覚でわかるものなのだろう。


「だったら、ここにみんなが集まる必要ってあるのかしら?」


「それもそうですね。では、陰陽頭(おんみょうのかみ)殿の意見を聞いてみましょう」


 美姫が横目で睨みつけるのだが、月也は至って冷静に陰陽頭である土御門(つちみかど)泰典(やすのり)へ視線を向けた。すると、守護師一同も月也と同じように泰典へ視線を浴びせる。泰典はそれを気に留めることなく、毅然とした態度で静かに口を開いた。


「確かに問題はまだ起こってはいない。しかし、異常事態ということに間違いはないだろう」


 これにはさすがに一同は少しだけざわついたのだが、月也が目線だけで場を威圧すると、すぐに静かになった。


「続けてください」


「結界は確実に崩壊している。我々の調査によると、少なくともこの山の結界はほぼ破られたと見ていい。更にその外側も至る所で崩壊が確認されている。全ての結界を確認するにはまだ時間は掛かるが、相応の被害は覚悟しておいた方がいいだろう。それに混乱した霊気も確認された。恐らくは……京都の市街地にもその混乱した霊気が流れ込んでいると考えた方がいいのかもしれない」


「なんと……!」


 本丸家当主が苦虫を噛み潰した顔をすると、一同はまたざわついた。そして、すぐに神妙な顔で黙り込んでしまった。さすがに重すぎる空気に耐えかねたのか、月也は再び泰典に訊ねた。


「それで、市街地に何か変化は見られますか?」


「いや、今のところは日常のままだ。ただ……逆に静か過ぎるかもしれんな」


「嵐の前の静けさ、というわけですか。ちなみに、二之丸家の術の効果はあると思いますか?」


「それもまだよくわからないな。ひょっとすると、それが今の静けさに繋がっているとも考えられなくもない」


 月也は「なるほど」と呟き、ここでようやくこれまで沈黙を守っていた舞美子へと視線を向けた。


「では、あなたの意見を聞いてもよろしいですか?」


「承知しました」


 舞美子は軽く頭を下げて一礼すると、グッといつもの不敵な笑みになった。


「本来、濃度の高い霊気が蔓延すれば、人体、特に『人の心』に影響を及ぼすものです。しかし、まだ何も報告があがっていないということは、まだその段階には至っていないと見るのが正しいでしょう」


「潜伏期間ですか」


「仰せの通り」


 月也が言った『潜伏期間』とはどういうことか。これは人の病気のようにじわじわと体を内部から蝕んでいき、やがてそれが大きくなって顕著に症状が表れるようになる。恐らく、これに近い状態ということなのだろう。


「なるほど。しかし、霊気による影響が低い人間はまだしも、すぐに影響を受けやすい人も少なからず居るはずです。それはどう説明しますか?」


「それについては、まだはっきりとしたことはわかりません。考えられる要素はいくつかありますが、まだ特定するには至っておりません。今は何かしらの要因が絡んでいる、としか言えません」


「その要因とは?」


 月也も顔を少しだけ前に出して舞美子へと続きを促した。舞美子は「あくまで予測の域を出ませんが」と前置きすると、この場を軽く見まわしてから再び月也へと視線を戻した。


「まずは破壊の術が影響していると考えます」


 またも一同からどよめきが起こる。


「破壊の術……ですか」


「はい。あれは霊気に破壊の意志を持たせるものです。それにより霊気は暴走状態に陥り、混乱するという側面も持ち合わせています」


「そうなれば、影響を受けた者の精神が乱れるはずじゃないのか?」


 三之丸家当主も前のめりになっている。


「どういうことだ! 早く言わんか!」


 本丸家当主は遠回しの発言は嫌う傾向にあるようだ。舞美子はそんな本丸家当主の怒気が混じった催促を気にする様子はない。むしろ、それを楽しんでいるかのような笑みに見えなくもない。それが本丸家当主には余計に面白くないのかもしれない。ぶすっとした顔が更に険しくなっている。


「それはまだ調査中で御座います」


「こ、このっ……人を馬鹿にするのもいい加減にしろ!」


「まあ、落ち着いてください」


 月也に言われては黙るしかない。本丸家当主は顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。


「『まずは』と言いましたよね。では、まだ何かあるということですね?」


「はい。それは先ほど声が上がった、二之丸家の回復術の影響かと思われます。破壊の術に回復の術。これは言葉ほど単純な話ではありません。何せ、人々の『心』に影響をもたらすものですから。これらが混ざり合うと、どのような影響を及ぼすのか。それを判断するにはまだ早過ぎるかと」


「あなたでも予測は不可能というわけですね。それなら確かに現時点で判断するには早計です。なるほど、それがまさに調査中ということなのですね?」


「仰せの通り」


 本丸家当主以外は納得といった表情になった。この場の空気が舞美子でわからないことは仕方がないといった雰囲気になる。これは皆の舞美子への信頼の高さの表れなのだろう。


「では、この状況で打つ手は何でしょう?」


「はい。まず第一に、結界と霊脈の再構築が優先すべき事項です。ただ、これに関してはいたちごっこになる可能性が高いと思われます。陰陽師の方々には根気よくやって頂くしかありません」


 この発言にはさすがの泰典も渋面になり、ゆっくりと無言で頷いた。これは結界や霊脈を修復しても、また破壊の術を使われるとどうしようもないということだろう。


「我々がやるべきこと、一つは裏切り者の捜索で御座います」


「破壊の術を放った、あの者ですね?」


「はい。これに関してはすでに開始しております」


 舞美子はそう言うと、左へ視線を流した。その視線の先には八下家である隅家当主の志々郎がおり、ゆっくり深々と頭を下げた。それを見た月也は納得した表情を浮かべた。


「なるほど、捜索に調査も兼ての行動ですか。まったくあなたらしい、抜かりない手段ですね」


「有難う御座います。ですが、月也様の方でもすでに開始しているのでは?」


 舞美子が間髪入れずに鋭く突っ込むと、月也も眉をピクリと動かし、口角を少し上げた。時間にしてほんの数秒だったが、ピリッとした張り詰めた空気が流れる。舞美子は月也の動向でさえ調査しているのだろうか。


「フフッ、さすがにわかっていたようですね。もちろん、隠すつもりはありませんでした。こういったことは早いに越したことはありませんから」


 舞美子が「仰せの通り」と一言呟くと、また月也と舞美子との間にほんの少し妙な()があった。お互いに牽制しているのか、それともまだ隠していることでもあるのだろうか。何やら情報戦の空気が流れ始めた時だった。この空気に割って入れるのは、もう一人の主家であるこの当主しかいない。


「わかったわ。それで、次は何なの?」


 美姫は二人のやり取りに、半ば呆れ顔でそう言って舞美子へ促した。美姫の透き通るような声は、場の空気をまた通常のものへと変える。


「それは水気系統の整備で御座います」


「二之丸家新当主の承認ですか」


「はい。破壊の術には水気の回復術が対抗手段となるのは必至です。今の段階ではまだまだ不十分で御座います。こちらも早急にやるべき事案かと。当然、ここにいる皆様方に異論が無ければ、の話ですが」


 舞美子はそう言ってぐるりと見回した。そしてまた、沈黙の時間が流れる。


「すでにあの子の力は、みんなわかってるはずよ。承認することに異論なんてあるのかしら?」


 美姫の言葉に、一同は首を縦に振っている。本丸家当主だけは相変わらず膨れ顔でムスッとしている。だが、それでも異論を唱えることはなかった。

 ただ一人だけ、「よろしいですか?」と発言する者がいた。それは三之丸家当主だった。


「一つだけ引っ掛かっていることがありまして」


 三之丸家当主がこういった発言をすることが珍しいのか、美姫が意外そうな顔をして聞き返した。


「何なの?」


「はい。それは二之丸冬馬が放った術のことです。恐らくあれは魔霊相手だと思うのですが、本当に彼がやったものなのですか?」


「それってどういう意味かしら?」


 美姫がグッと睨むと、さすがの三之丸家当主もまずいと思ったのか、少し取り繕うように表情を和らげた。


「あ、いえいえ、別に疑っているわけではありません。ただ、それまでとはあまりにも違ったものだったと感じましたので。あの霊気の使い方はとても攻撃的で、まるで別人のような感覚でした」


「あの子以外に誰がやるって言うのよ」


「それはそうなのですが、あの術は以前にも感じたことがあるような気がしましたので」


 そう言うと、三之丸家当主は月也の方へと視線を移した。それは同意を得ようとしているようにも見える。


「確かに、あれが二之丸冬馬と言われても違和感を感じます。例えば……()()が乗り移ったかのような錯覚さえ覚えました」


 月也は美姫へ鋭い視線を向けたのだが、その美姫は少し困惑した顔をしていた。


「悪いんだけど、それに関しては答えられないわ」


「何か問題でも?」


 月也の怪訝そうな視線が美姫に突き刺さる。


「違うのよ。あまり覚えていないのよ」


「確かに、あの時のあなたは顔色が悪かったと記憶しています」


 ここで舞美子が間に入った。


「代わりに私がお答え致します」


「わかりました。では、あなたにお願いします」


 これに月也はあっさりと納得して舞美子へ促した。


「恐らく、あれは『相承の儀』で得た力だと思われます」


「その前に、彼はあの魔霊との戦いで一度気を失ったのではないのですか? 途中で霊気が消えたような感覚でしたが」


「仰せの通り。彼は一度力を使い果たしましたが、水気の力で復活して立ち上がりました。その後は恐らく、無意識の状態で戦っていたと思われます」


「無意識ですか……」


「守護霊を使った戦いをしていたところを見ると、潜在的意識の中でやっていたとしか思えません」


 舞美子は表情を一切変えず、不敵な笑みのままだ。


「なるほど……。では彼は意識して戦う、つまりは術を使うことがまだ十分ではないということですか」


「仰せの通り。早急に対応する必要性があると思われます」


「そうですか」


 月也はそう言ってからしばらく無言のまま思案顔になった。他の者たちも一様に難しい顔になってしまっている。沈黙を破ったのは本丸家当主だった。


「それで、当の本人の意識はまだ戻らんのか? いつまで寝ているんだ」


「目が覚めればここに来るようには伝えておりますが……まだのようで御座います」


 さすがの舞美子もこれには真顔で答えている。


「わかりました。では、次の議題に移りましょう。特等級の魔霊への対処についてですが……」


 月也は冬馬のことをあまり気にしていないのか、あっさりと話題を変えて話を進めていく。そして、この会議は依然として重たい空気のまま進行していくのであった。




最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

今後ともご愛読のほど、よろしくお願い致します。

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