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月影の守護師  作者: ドッグファイター
第一章 守護師覚醒編
53/67

53話 挑発

見失っていた直輝の姿を再び見つけつことが出来た冬馬たち。

そして、ここから直輝に対する直接攻撃が始まろうとしていた……

 明日美の一振りで真っすぐな一筋の道が出来た。そして、そこには直輝の姿が見えたのである。だが、冬馬はまたも違和感を覚えた。


「まさか……!」


「今度はなんやぁ?」


「直輝が……教えてくれた……?」


「ふーん」


 舞美子は余裕の笑みを浮かべているが、冬馬は何か良からぬ事が起ころうとしているのではと思った。胸の奥が少しずつざわつくような、浮ついた気持ちになっていった。ただ、それでも冬馬にはそれが何なのか、この時にはまだ理解出来なかった。

 再び姿を(あらわ)にした直輝は、満面の笑みで目の前にいる明日美へと視線をやった。


「やあ、明日美ちゃん」


 それから直輝は顔の前で握り拳を作り、人差し指を上に立てから手前に二度倒した。明らかな挑発ポーズに、明日美は少し怪訝そうな顔で見ていた。


「んん? 直ちゃん、指の体操なんかやって何してるんや?」


「ハハハハハッ! 相変わらずだね、明日美ちゃんは。そう見える?」


 とぼけた顔の明日美に対し、直輝はまだ満面の笑みのままだ。明日美が直輝のことを『直ちゃん』と呼んでいるところを見ると、この二人にもまた冬馬の知らない関係性があるのだろう。だが、それよりも今は直輝の行動に注意しなければならない。直輝は頭を使って戦うタイプと聞いた。何かしらの罠があると思うのは、誰の目にも明らかだ。


「直輝は絶対に何か作戦があるに決まってる! そんな挑発に乗っちゃいけない!」


 冬馬は思わず声を出して明日美へ叫んだ。だが、その声が聞こえているのかいないのか、残念ながら明日美には届いていなかった。


「指の体操……って、ちゃうわな。ウキャキャキャッ! 直ちゃん! それ、おもろいやんっ!」


 明日美は満面の笑みを浮かべると、体に纏っている白い霊気を更に強めて勢いよく前へ跳び出した。この行動に冬馬はドキドキしながら見ていた。何せ、直輝から霊気が感じられない以上は下手に手を出さないほうが良いに決まっているからだ。


「危ないよ!」


 思わず前のめりになった冬馬を止めたのは、意外にも姉の舞美子だった。


「いや、かまやしまへんわあ」


「どうしてっ!?」


 側にいる舞美子の顔を見ると、その顔はいつもの笑みではなかった。


「言うたやろ? 明日美は名家の当主並みの力を持ってる守護師や。ある意味、今のあの子の力を見るには丁度ええかもしれまへん」


 そう言うと舞美子はまた、いつもの不敵な笑みに戻った。

 冬馬は改めてこの舞美子という人間の本質がわからなくなった。いくら何かの策があるにせよ、危険な罠かもしれないところへ大切な妹を突っ込ませたのだ。それは守護師としての、そしてこの戦いの指揮を任せられている立場がそうさせているのだと思った。だが、すぐにそれを否定した。


(いや、違うか……。この人は妹のことを完全に信頼してるんだ)


 当然ながら妹の力は把握しているはすだ。それを()んで考えているに違いない。それは妹だけではない。この場にいる守護師全員の霊力や性格であったり、個々の適性を見て動いているのだろう。そうでなければ、皆が彼女の指示に従うはずがないのだから。そう思えることも、この短い時間で彼女に対する信頼が冬馬にも構築され始めている証でもあった。

 冬馬は雑念を振り払うように首を振って明日美に目を向けると、その明日美は遠慮なく霊気で模った槍を頭上へ大きく振り上げていた。そして、程なくして大きな叫び声が聞こえてきた。


「たあああああああっ‼」


 次の瞬間、明日美は上から下へ力一杯に槍を振り下ろしたのである。


 明日美の霊気は今までとはまるで違っていた。その要因といえば、今は言霊を使って全力で戦っていることに他ならない。この明日美の攻撃を防御するには、並大抵の霊力では防ぎきれないだろう。それ程までに威力のある攻撃なのだ。今の直輝にはその霊気があるのかも不明だ。動きが大きい明日美の攻撃には幾分の隙があるので、定石ならば『避ける』ことを選択するはずだ。だが、直輝は笑顔のままその場に留まっていた。


「覚悟おおおっ‼」


 明日美が時代劇風なセリフを吐いた直後、「ドンッ!」という鈍い重低音が響き渡ると同時に、白い霊気が(まばゆ)く光りながら四方八方に飛び散った。普通ならばまともに明日美の攻撃を受けた直輝は、余程の霊力が無い限りはただでは済まないだろう。冬馬の目から見ても、明日美の攻撃は確かに直輝を正確に捉えたはずだった。だが、攻撃を仕掛けた明日美の顔は驚きの表情に変わっていた。


「なんやこれ!?」

 

 明日美の渾身の一撃は、見事に直輝の頭上で止められていた。なんと、直輝は素手で明日美の槍を止めていたのである。しかも、片手を突き出しただけだった。まるで眩しい太陽の光を遮るように、空に向けて手を(かざ)しているだけのように見える。


「はいっ、残念でしたー」


 直輝は楽しそうな顔で舌を出してお道化(どけ)てみせた。よく見ると、明日美の槍は直輝の体には到達していなかったのである。

 本来、霊気を込めた武器であっても霊気の輝く光がぶつかり合うものだ。だが、直輝からは未だに霊気が発せられていない。だからか、目に映る光景は明日美の槍が何も無い壁にぶつかって止まっているようにしか見えないのである。明日美が驚くのも無理はないだろう。

 直輝は振り払うようにして明日美の槍を押しのけた。すると、明日美はいとも簡単に後方へと弾かれた。明日美は態勢を整え、踏ん張るようにして美音の前に着地した。


「明日美、大丈夫か!?」


「大丈夫やっ! (なん)ともないっ!」


 明日美は美音の心配をよそに、また攻撃する姿勢になって槍を構えた。

 結果として霊気で身体強化している明日美が、霊気を使っていない直輝に押し負けたのである。一体どういうことなのか、冬馬には理解出来なかった。

 だがしかし、この結果を予測していた者がいた。


「やっぱりなぁ」


 それは根石舞美子である。()も当然といった(てい)でいつもの笑みを崩さない。そして、瞬時に直輝の秘密を理解した者が他にもいた。


「結界のような術が掛けられているみたいですね。それもかなり強力なものです。なるほど、これでは霊気を感知出来ないのも当然ですか。しかし、人体にあれ程の術を掛けるのは見たことが無ければ、聞いたこともありませんよ」


 いつの間にやら舞美子たちのすぐ側に来ていた望楼月也が、珍しくニヤリと微笑んだ。その後ろには難しい面立ちをした本丸家当主と、三之丸家当主も控えている。

 月也の言葉を聞いても、冬馬には何のことかさっぱりわからなかった。


「えっ!? 結界ってどういうこと!?」


「頭の悪い冬馬にもわかりやすく言えば、僕には霊気の攻撃が効かないってことだよ!」


 冬馬の疑問に答えたのは直輝だった。ニンマリとにやけた後、「ハハハッ!」と声を上げたその顔は、無邪気な笑みで心から楽しんでいるように見える。彼にとってこの結果は、「してやったり!」といったところなのかもしれない。

 霊気の攻撃が通用しないとなれば、どのようにして戦えばいいのか。『相承の儀』によってそれなりの知識を得た冬馬でも、答えは簡単には出て来なかった。だが、主家の一人であるこの男の反応は冬馬とは違っていた。


「それでは私たち主家の出番、ということですね?」


 月也はそう言うと、美姫を横目でチラ見した。美姫の表情は次第に険しくなっていく。それは怒りに満ちていると言うよりも、気持ちが重苦しくなっているように冬馬は感じた。

 それにしても、この場面でどうして主家の出番なのだろうか。


「それってどういう意味なんですか!?」


 頭が混乱しかけている冬馬は聞かずにはいられなかった。しかし、間髪入れずに美姫が動き出したのである。


「それは後で説明するわ。明日美! 美音! 退きなさい!」


 舞美子と冬馬の間を割り込むように美姫が勢いよく跳び出して行った。前傾姿勢で日本刀を携えたままの状態である。まさに鬼の形相といった表情で、鬼気迫るものを冬馬は霊気を伝って感じた。ただでさえ霊力の高い美姫がパワー全開で動けば迫力満点だ。


「ほえ?」


 まだ何が起こったのか理解していない明日美だったが、美姫の凄まじい霊気を感じて「うわっ」と慌てて横へと飛び退いた。美音もそれに釣られて「ま、待って!」と叫びながら飛び退いた。

 美姫が真横に寝かせた日本刀を鋭い太刀筋で振り抜いた。さすがの直輝も今度ばかりはすぐさま後ろへと飛び退いた。美姫は直輝とある程度の距離を取ったところで止まった。両手で刀をしっかりと握ると、直輝へ向けて構える。そして、一つ深呼吸をしてから美姫は瞼を閉じた。その表情は先程とは打って変わり、落ち着いた穏やかな表情が冬馬にはとても印象的だった。

 

「へえー。それで、どうすんの? まさか僕を斬るなんてないよね?」


「とうことは、これが何なのかわかってるってことね」


 直輝は依然として笑顔のままだ。主家である美姫と対峙しているというのに、この余裕は何を意味するのか。いくら強大な霊力を持つ美姫の霊気による攻撃でも、絶対に防げるという自信から来るものなのだろうか。

 それでも美姫は直輝には構わず、程なくゆっくりと閉じていた目を開けた。


 そして――――



《我が魂に集いし者たちよ 我が想いに応え 其の力を此処に示せ》



 美姫が唱言による言霊を発したのだ。

 すると、美姫から感じられる霊気が急激に増幅していった。あっという間に美姫の体に黄色の霊気が次々と集まってくる。そして、その色が今までにない程に色濃くなっていった。檳榔子染めの羽織の背中の『犬』の紋が輝きを増している。

 主家である美姫に集まる霊気の濃度が膨れ上がっていくだけで、周りの人間にも影響をもたらしてしまう。現に光太は息苦しそうな表情をしていた。


「なんて霊力なんだ……あれだけの霊気を体内に取り込むなんて、あの女は化け物か……!」


 しかめっ面になりながらも、光太の体は小刻みに震えていた。光太は美姫とは以前から知り合いのようだが、ここまで力を発揮する姿を見るのは初めてのようだ。光太だけではない。勇一も、そして準も影響を受けているようだった。


「準たちは僕の後ろに回って少し離れてて!」


 冬馬は慌てて叫んだ。今のこの状況下で、光太たちに合わせて動くような美姫ではないだろう。今は霊気が乱雑で不安定になっているのだ。その中でこれだけの霊気を集めることが出来るのは、やはり霊気を扱う技術が高いということなのだろう。逆に言えば、霊気に当てられてしまうのはまだまだ技術が足りていないということの裏返しでもある。

 ここで美姫の目が一段と鋭くなった。直輝へ仕掛けるつもりだろう。


「あんたは生きてるの? 死んでるの? どっち‼」


 美姫が叫ぶように直輝へ問いかけると、美姫の体は見る見るうちに霊気の眩い輝きを増していく。


「さあ? 実は僕にもよくわからないんだよ…………なーんてね。ハハハハハッ‼」


 挑発する直輝に対し、美姫の顔が怒りに満ちていくかと思えば、意外にもそうでもなかった。少し冷めたような目つきで「そう」と小声で呟くと、前傾姿勢になった。


「僕に霊気の攻撃は意味ないよ?」


 ドヤ顔で笑みを浮かべる直輝に対し、美姫はお構いなしに日本刀に両手の力を込める。直輝は「ちぇっ」と詰まらなそうな顔をしてから少しだけ身を屈めた。

 冬馬も直輝と同じことを思った。先程の明日美の攻撃が実証済みだ。いくら明日美の霊力を超える力で攻撃しても、大きなダメージは与えられないに違いない。


「直輝には効かないのに、あの人は霊気の刀で何をするつもりなの!?」


「まあ、大人しく見てなはれぇ。ああ、ちなみになぁ。あの日本刀はこれと一緒で本物(ほんもん)やけどなぁ」


 舞美子は自分の腰に差してある日本刀に手を当てた。


「えっ? 本物って……そ、それじゃ、あれで斬ったら直輝は本当に死んじゃうんじゃ……!」


 冬馬は一瞬にして血の気が引いた。今、目の前で直輝が斬られるかもしれないのだ。そう思うと胸の奥が締め付けられるように苦しくなった。いくら死んだとは言え、今は生きているかもしれない直輝を美姫は殺そうとしているのではないか。守護師のことはまだよくわからないが、世の為となれば人殺しも(いと)わないのではないか。瞬時にそう思った冬馬は居ても立ってもいられなくなった。


「だ、だめだ! 殺しちゃ――――」


 舞美子は右手を横に出し、跳び出そうとした冬馬を塞ぐようにして止めた。


「大丈夫や言うたやろぉ? まあ、そこで大人しく見てなはれぇ」


「で、でも!」


 舞美子に止められても冬馬は抑えきれず、跳び出そうとした時だった。美姫が再び言霊による詠唱を始めたのである。



《犬走家当主の権限において 此処に存在する全ての者たちに告ぐ》



 その瞬間、辺りが静寂に包まれる。いつしか、悪霊の動きも止まっていた。他の守護師たちは固唾を飲んで見守っている。

 そして、周辺がにわかに色付き始めた。辺りに彷徨っている霊気たちが反応し始めた証拠だ。黄色はもちろん、白、赤、青、そして黒の霊気たちがぽつぽつと目に見える形で出現し始めたのである。


「こ、これは……!」


 瞬く間に霊気の濃度が上昇していく。強烈な圧迫感を感じた冬馬は、後ろにいる準、光太、勇一の状態を確認した。予想通り、彼等は少し苦しそうな表情を浮かべている。さすがにこうなると、美姫を止めるよりも三人を守るという意識が勝ってしまう。何が起こるのかわからないので、冬馬はいつでも防御出来るように見守ることにした。

 ここは周りに街灯も無い山中なので、十四夜月の月明りは意外に明るく感じる。本当ならば星さえもよく見えるはずだ。だが、今は美姫が放つ土気の黄色い光がその景観さえも奪っていた。美姫の体が神々しいほどに眩しく輝いていたのである。

 そして、また美姫の口から言霊による詠唱が聞こえてきた。



《是より我に従い 其の力を互いに呼応させ ()の者を封じし全てを滅せよ‼》



 一回目は霊気を集めるための言霊。二回目はその霊気を支配する言霊。そして三回目の今は、集めて従えた霊気を使って術を実行するための言霊だったのである。わざわざ三回に分けたのは、それだけ膨大な霊気を集め、そして強力な術を使うということなのだと冬馬は感じた。

 そして、それは冬馬の予想通りだった。美姫の刀に五種の霊気が集まってきて、目が眩む程の光が発せられた。霊気を感じることが出来る者ならば、その危険性に気付かない者はいないだろう。辺りにいる悪霊たちが堪らず後退りをしているのだ。そして、美姫の集中力は他を寄せ付けない程に凄まじかった。

 やがて美姫によって集められた眩い光の塊が、突如上方へ動き出した。いや、よく見ると美姫が刀を振り上げたのである。


 そして――――――――



《犬走家秘奥義 斬絶(ざんぜつ)っ‼》



 美姫の透き通るような声色の言霊が辺りに響き渡った。今までに聞いたことがないような、心に振動するほどの大きな声色だった。


 美姫による強大な一撃が直輝に炸裂しようとしていた。にもかかわらず、直輝は依然として余裕の笑みを浮かべたままの表情が、冬馬にとって一抹の不安が残っていた。

 




ここまで読んで頂きありがとうございました。

今後もご愛読して頂ければ幸いです。

どうぞよろしくお願いします。

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