49話 冷めた再会
新たな魔霊出現に緊迫する冬馬たち。その魔霊に誘発するかのように現れた人物がいた。その人物とは……
誰も立ち入れないこの場所に突如として現れた人物。その人物の上空で旋回していた式札がスーッと陰陽師の土御門泰典が居る場所まで飛んでいき、役目を終えたからなのか跡形もなく消滅した。これを見てもわかるように、この人物が泰典の捜していた『侵入者』だったのである。
「やれやれ。陰陽師に見つかるなんて、僕もまだまだ修行が足りないなー」
そう言ってその侵入者は「ハハハハハッ!」とお腹を押さえて大袈裟に笑う。
「……誰や!?」
準が眉を顰めてその人物の顔を凝視している。辺りは霊気の光でほんのりと明るいのだが、それでも表情がよく見てとれないのだろう。だが、冬馬にはその人物が誰なのか、はっきりとわかっていた。
現れた侵入者とは――――四年前にこの世を去った狭間直輝だったのである。
直輝は黒い鳥居を潜り抜け、社殿の方を向いて石畳の上をゆっくりと歩を進めている。ここまで来ると、その表情もよく見えるようになった。冬馬にとっては見慣れた、懐かしい笑みを浮かべていたのである。
冬馬の顔がやや緊張気味に硬くなっている。何せ目の前には死んだと思っていた親友の姿があるのだから、自然と表情が強張っていくのは仕方がないだろう。それは俄には信じがたい光景だったからである。
準は冬馬の緊張した様子を見て何かを感じたのだろうか、驚愕の表情で力なく前へ伸ばした右手を冬馬へ向けた。
「お、おい、冬馬……あいつって……」
「…………」
冬馬は準の問い掛けに、何も答えられなかった。目の前の直輝の姿を見た途端に思考回路が一時停止してしまっていたからだ。半ば上の空のように直輝を見つめている。色んな想いがフラッシュバックするかのように、冬馬の頭の中を過去の出来事が駆け巡っていた。
直輝と初めて会った時のこと。そこから始まった、ドキドキするような楽しかった日々のこと。そして、突然訪れた直輝の死という現実。その現実をやっと受け入れることが出来るようになったというのに、今度は生きていた頃と同じ姿で目の前に現れたのである。冬馬はこの現実をどう受け止めていいのか、瞬時に判断出来なかった。
そんな冬馬の横顔を準が心配そうに見つめている。これ以上は声を掛けられないのだろう。ただ、じっと見つめているだけだった。困惑しているのは準だけではない。光太や勇一はまだこの事態を把握出来ていないようで、首を傾げている。そんな二人は舞美子の言葉で侵入者の正体が誰なのか、はっきりと知ることになる。
「あれは四年前に亡くなったはずの八下家が一家、狭間家次期当主の狭間直輝で間違いあらへんなぁ。やっと姿を現しはったわぁ」
「ええっ!?」
声を合わせるかのように叫んだのは光太と勇一だった。当然である。死んだという人間が目の前にいるのだから、驚くのも無理はないだろう。
「やっぱり冬馬の親友やった奴やったんか……」
準に至っては、その表情がしかめ面へと変わっていく。冬馬の反応を見て、何となく察しがついていたのかもしれない。恐らく彼の頭の中では、冬馬に何と声を掛けたらいいのか考えていることだろう。だが、それは上手くいっていないようだ。準は未だに冬馬を見つめたままで、何も声に出さなかったからである。
少し落ち着いた勇一が思案顔になっていた。
「『やっと姿を現した』って、どういうことだ……?」
「っていうかよ、なんで死んだ奴が生きてんだよ!」
「そんなこと俺にもわからないよ。でも一つ言えるのは、名家の連中には何か秘密があるみたいだね」
勇一は三人の中ではいち早く、何らかの事情があると勘付いているようだ。それは名家当主たちの顔に、驚きというよりも厳しい顔つきになっている者が多かったからだろう。光太に至ってはさらに混乱したようで、直輝を見ながら「秘密って何だ?」と勇一に聞き返したのだが、その勇一は言葉を続けない。それが何かはわからないのだろう。結局、三人は静観するように黙り込んでしまった。
冬馬にも死んだはずの人間がどうして生きているのか、わかるはずもなかった。だが、目の前に居るのは紛れもない、冬馬もよく知る狭間直輝である。考えられることがあるとすれば、四年前に直輝が死んだ時に何かが起きたということだろうか。魔霊秀吉によって殺されたという直輝。これは冬馬も先の自我喪失時に知ったことだ。だが、その後に直輝の遺体が忽然と消えたという事実を冬馬は知らない。これはごく僅かな者しか知らない機密事項になっているから当然ではある。
冬馬には知らないことだらけなのだが、不思議と取り乱すようなことはなかった。まるで夢を見ているかのような浮ついた感覚だが、これが現実だということを認識出来るぐらいには落ち着いている。そして、冬馬の心には直輝が生きていて“嬉しい”という感情よりも、“どうして”という疑念の感情が先に沸き起こっていたのも事実である。なぜなら『侵入者』が狭間直輝かもしれないということを、彼が現れる前から何となくわかっていたことだったからだ。
魔霊秀吉から感じた霊気でそう思っていた。確信はなかったが、自我喪失時の『相承の儀』によって冬馬の霊力が格段に上がったことでわかり得たことだったのである。
直輝は冬馬の近くまで来ると、ピタリと足を止めた。冬馬も現れた直輝に向かって足を一歩前に踏み出す。ようやく頭の中で整理がついてきて、四年前に戻っていた記憶をなんとか現在へと引き戻したのである。
「直輝…………」
それでも冬馬はそう言ってしばらくの間、ただ直輝を見つめるしかなかった。久しぶりの再会だというのに、それ以上の言葉が出て来ない。話したいことは山ほどあるはずなのに、何を話して良いのかわからないのだ。死んだはずの直輝が生きていたことは、冬馬にとって嬉しい出来事のはずだ。それなのに、冬馬の心は冷めたような感情が支配していたのである。それはどうしてなのか。その要因ははっきりとわかっていた。
それは “違和感” だった。
しばらく振りに見る直輝の背は相変わらず低く、ずんぐりむっくりの体型も変わっていない。ずっと絶やさない、童顔から溢れ出るような愛想の良い笑顔も以前と同じだ。だが、四年前と何かが違うと冬馬は感じていた。それが何なのか説明は出来ない。どこかが違うのだ。久しぶりに会ったその瞬間から、そう感じる違和感を拭い去れないでいる。それはずっと近くで見てきた冬馬だからこそ、感じ得ることなのかもしれない。見た目や喋り口調は直輝そのものなのだが、どこか違う人のような感覚も少なからず感じていた。だからなのか、感傷的になることもなかったのだ。
この『守護之御魂神社』に異様な雰囲気が漂い始める。これは狭間直輝が現れたというだけが理由ではない。その原因は先程から感じているもう一つの“違和感”だった。それは恐らく、周りの守護師たち全員が感じていることだろう。それが胸騒ぎのような感覚と嫌な予感となって、ずっと胸の奥で渦巻いているのだ。守護師として覚醒した今の冬馬にとって、それが最大の違和感かもしれない。
その違和感とは――――直輝から全くと言っていい程、霊気が感じられないことである。
冬馬は守護師として覚醒してから、人の霊気を感じ取れるようになった。守護師はもちろん、魔霊の霊気だって感じることが出来る。それによって、その者が持つ『霊力』が何となくわかるのである。だが、目の前にいる直輝からは感じないのである。百戦錬磨である名家の守護師たちが彼に気付かなかったのも、これが起因しているからに違いない。それでも、そんな直輝の姿を見ても名家の守護師たちに驚きもなければ、困惑もないようだ。あるのは険しくも厳しい顔つきだった。そして、すぐには動こうとはしなかった。これは何よりも、この得体の知れない『侵入者』を警戒しているということなのだろう。名家の守護師でさえ、迂闊に手を出せないのである。
「フフッ、なるほど……これでは確かに気付きませんね」
そう言って冷やかにニヤリと表情を崩したのは主家当主の望楼月也である。彼ほどの人物でも感じ取れない直輝の存在は、恐らく『異物』としてその目に映っていることだろう。
「侵入者とは、あいつのことだったのか……」
三之丸家当主の顔は苦渋に満ちている。
「そういうことか。生き返った人間を『特殊な存在』と称するのは言い得て妙だな」
本丸家当主は舞美子をチラ見して、少し冷やかな笑みを浮かべている。この三人の声は静かな闇夜結界の中で冬馬の耳にも聞こえてきた。その言葉に冬馬はハッとした。
(やっぱり直輝は守護師だったんだ……)
そのことを今更ながら実感したのである。名家の当主たちが直輝のことを知っているのが何よりの証しだろう。四年前まで何も知らず共に過ごした冬馬にとって、直輝はごく普通の親友だった。あの頃の冬馬には悪霊や守護師といったことなど想像すら出来なかった。ましてや、直輝が命懸けの戦いをしていたなんて微塵も感じられなかったのである。
では、なぜ直輝は守護師であることを隠していたのだろうか。その答えは単純明快だ。
それは――――守護師とは “陰の存在” だからである。
今の冬馬にはそれがよく理解出来る。守護師とは決して世間に知られてはいけない存在なのだ。霊気を体内に取り込み、異能の力を発揮する。悪霊を退治することを前提に考えれば、それは素晴らしい力と言えるかもしれない。だが、一つ間違えれば人を殺傷するほどの凶器にも成り得るのだ。それは先の光太たちとの戦いで冬馬も身に染みていた。霊気という目に見えないものを操ることは、他の人からしてみれば恐怖でしかないだろう。これは、恐らく科学的に証明出来ない現象である。何も知らなかったあの頃の冬馬に説明しても理解不能だろうし、それによって直輝との接し方も変わってしまったかもしれない。
それを踏まえたうえで、冬馬には気になることがあった。それは、守護師という立場を隠していた直輝がどうして冬馬に近づいて来たのかということだ。考えられる理由は一つしかないだろう。
それは、冬馬が『二之丸家』という守護師名家の血を引いているということだ。
その頃の冬馬は守護師のことすら知らなかったのだから、当然『二之丸家』という家系など考えたこともなかった。だが、恐らく直輝は知っていたに違いない。狭間家とは両主四従八下という守護師界の名家なのである。とりわけ、二之丸家の下についている二家のうちの一家に当たるのだから、知らないはずがないだろう。冬馬を守るために一緒に居たのか、それとも冬馬を監視するために近づいて来たのか。何にせよ、ただ学校のクラスが一緒で仲良くなったという、そんな単純なものではないことは冬馬でもわかる。
(直輝は初めから何かの目的があってぼくに近付いて来たんだね……)
そう思うと、少し寂しくなった。守護師としての直輝のことがわかったのは嬉しかったが、その反面知らない方が良かったという感情も少なからずあった。直輝が与えてくれた楽しかったあの日々は偽りだったのだろうか。少なくとも冬馬には今でもそうとは思えない。いや、思いたくないのだ。
そんな複雑な感情が入り混じっていた時、冬馬の頭の中で声が響いた。
⦅冬馬、今はあまり深く考えない方がいい⦆
思念で守護霊の蒲生氏郷が話し掛けてきたのだ。氏郷も冬馬の心境が気になったのだろう。だが、冬馬と氏郷は魂と魂で繋がっているのだ。お互いの想いは共有出来ている。気遣ってくれた氏郷の優しさに感謝しつつも、冬馬は気丈に振る舞った。
⦅ぼくは大丈夫だよ。ちょっと混乱したけど、ちゃんと現実を受け入れるつもりだから⦆
⦅そうだな⦆
氏郷は短くもあったが、優しい声色で答えた。それを聞いて冬馬は安堵感を覚えた。温かく見守ってくれているという安心感に繋がっているのだ。今の冬馬が落ち着いていられるのも、この氏郷の存在は大きい。そんな氏郷に、冬馬はふと聞いてみたいことが頭に浮かんだ。
⦅あのさ、がもちゅうさんが夢の中で『急げ』って言っていた意味が、何となくわかったよ⦆
今の冬馬には氏郷の想いも感じ取れる。氏郷が冬馬を心配していたということもわかるのだ。
⦅ああ、そのことか……⦆
⦅がもちゅうさんは、ぼくと直輝を会わせたくなかったんだよね?⦆
少しの間があってから氏郷が答えた。
⦅……そうさ。お前はまだ守護師として目覚めたばかりだったからな。今のお前には、この現実を受け入れるのはまだ早いと思っただけさ⦆
⦅そっか……⦆
冬馬は氏郷がそれ程までに心配していたと思うと、ただただ嬉しかった。父の守護霊として父と共に戦った氏郷が、子の冬馬を心配するのは当然かもしれない。それでも、やはりその優しさに感動したのだ。だからこそ、氏郷の想いにも応えたいと冬馬は強く思った。守護師として今の自分に何が出来るのかはわからない。だが、この戦いは自分の想いだけで動いているわけではないのだ。今のこの状況をどうするかが、今の最大のポイントであることは冬馬にもわかっている。
冬馬は氏郷に確認しておかなければならないことを思念で伝える。
⦅あの直輝って、どこかおかしいよね?⦆
⦅ああ、そうだな。あいつは正気ではないような感じだな。死んだ人間だから当たり前かもしれないが、何を仕出かすかわからないような雰囲気がある⦆
氏郷にも直輝から感じる違和感が何かあるのかもしれない。それは冬馬が感じたものと同じなのだろうか。そもそも直輝が霊気を持っているかどうかも、今ははっきりとわからないのだ。そんな不思議な存在がこの闇夜結界の中にいること自体が違和感なのである。この結界は霊気を持っていない者は入って来られないはずなのだから。
⦅直輝は何をする気なの?⦆
⦅それはわからないさ。けどな、これだけの面子の中にわざわざ飛び込んで来たんだ。何かが起こると思っていた方がいい。気を抜くなよ、冬馬!⦆
⦅……うん、わかった⦆
氏郷の言葉で冬馬は覚悟を決めた。
やはり目の前にいる直輝は、冬馬の知っている直輝とはどこかが違う。今、この状況下で現れた直輝を、以前と同じだと思わない方がいいと判断したのだ。はっきりとわかるまで、決して油断しないと冬馬は心に決めた。
しばしの間、沈黙の静かな時間が流れていた。冬馬と直輝は見つめ合ったまま、お互いに口を閉ざしている。だが、何も喋ろうとしない冬馬に痺れを切らしたのか、先に口を開いたのは直輝の方だった。
「どうして何も喋らないんだい? 久しぶりに会ったんだから、いっぱい話をしようよ」
「そうだね……。でも何も言葉が出て来ないんだよ」
「何だよそれー」
そう言って「ハハハッ」と軽く笑った直輝は、ほんの少しだけ目を細めて言葉を続けた。
「それにしても、冬馬は僕を見ても驚かないんだ」
直輝はにこやかな笑顔だが、その眼差しは鋭い。冬馬は初めて見る、直輝の突き刺さるような視線に怯むことなく見つめ返した。
「うん。……何て言ったらいいかわかんないけど、自分でも不思議な感じだよ」
「そうなんだ。やっぱ四年も経つと人って成長するんだな」
「そうかもしれないね」
四年ぶりの再会だというのに素っ気なく対応している自分に少々驚きはあったが、それでも冬馬は直輝との対話を冷静に受け止めることが出来ていた。そして、その冷静さによって直輝が着ている服装がはっきりと目に留まった。
「本当に直輝も守護師だったんだね。……ぼくは何も知らなかった」
冬馬は初めて見る檳榔子染の羽織を着た直輝の姿に、改めて自分が何も知らず共に過ごしたことを悔いた。だが、知っていたからといって何が出来たのだろうか。もし知っていたら、直輝の死を阻止することは出来たのだろうか。それは否である。覚醒もしていない冬馬の力では何も出来なかったはずだ。そう思うと、そんな後悔も“開き直り”という感情へと変えることが出来た。
「直輝はぼくにずっとそれを隠して悪霊と戦っていたんだね」
「ふんっ、当たり前だろ? この日のために、冬馬を驚かそうと思ってずーっと秘密にしてたんだ。だからさ、その反応は僕にとってはちょっと物足りないんだけどなー」
「この日のためにって……全然笑えないよ」
両手を広げておどけるポーズをとる直輝を見て、冬馬は少し寂し気な表情になった。
以前の冬馬なら一緒に笑っていたかもしれない。直輝はいつも冗談ばかり言って周りの人を笑わせていた。冬馬はそれがとても好きだった。眩し過ぎるほどに輝く太陽のような存在。自分にはないものを持っている直輝が羨ましくもあった。彼のようにはなれないが、側にいることで自分も明るくなれるような気がしていた。それだけで十分楽しかったし、充実もしていた。
だが、今は心から笑えなかった。内容もそうなのだが、今の直輝は以前の直輝とは違うと思うと、感情にブレーキを掛けるような感覚になっている。
冬馬の反応に少し面白くないといった表情をすると、直輝は守護之御魂神社の社殿の方へと再び歩を進めた。その進んでいった方角が冬馬には理解出来なかった。そこが守護師たちの居る場所ではなかったからである。
「直輝はどうして……どうしてそっちの方にいるの?」
直輝が現れた時もそうだった。話していた内容が明らかに守護師側ではなかったからだ。冬馬はずっと気になっていた。守護師だった直輝が魔霊側にいるということを。
「ああ、それを聞いちゃうんだー。フフッ、そんなの聞かなくてもわかってるんじゃないの? ハハハハハーッ!」
直輝が進んでいった方向は魔霊の秀吉と三成がいる場所だったのである。冬馬が自我喪失中に魔霊秀吉と拳を交えた時、瞬間的に流れ込んで来た想いに直輝の存在があった。それが不思議で仕方なかったのだ。どうして敵対していた秀吉の想いの中に、直輝という存在が交わっているのかを理解出来なかったからだ。だが、今は目の前の光景でそれがはっきりとしていた。
またもお腹を抱えて笑う直輝に、冬馬は以前には無かった感情が芽生えた。
「ちゃんと答えてよ、直輝!」
自然と怒りが込み上げてきたのだ。直輝に対して初めて出た感情である。
「何だよー冬馬。そんなに声を荒げても僕はビビらないよ?」
直輝は愛想の良い笑顔のまま、最後は吐き捨てるように声のトーンを下げた。今までに聞いたことがない直輝の声色に、冬馬は改めて感じたことがあった。
「直輝……たぶん君は今、生きてちゃいけないんだよ……」
そう言って、冬馬は言葉を詰まらせた。これは冬馬が率直に感じたことを口に出しただけだった。ただただ、悲しかった。あの明るくて優しい、そして思いやりのある直輝のイメージが崩れ去っていくような気がした。確かに、守護師としての直輝を冬馬は知らない。本当は攻撃的で、自分の我を通すような性格だったのかもしれない。しかし、そう思いたくなかった。今の直輝は別人格になっていると思いたいのだ。
一度死を迎えた人間が生き返ると、性格まで変わってしまうのだろうか。守護霊で見てみると、織田信長や徳川家康、それに蒲生氏郷も生前と同じだったかは冬馬にはわかるはずもない。だが、何百年と時を経て変わっていることは守護霊たちも否定はしていなかった。それでも直輝は死んでから、まだ四年という月日しか流れていないのだ。そもそも彼の肉体は彼自身のものなのか、それとも霊気を媒体に実体化した姿なのかすら、今はわからないのである。
やはり、目の前にいる直輝が本当の直輝と信じるには早計のような気がすると、冬馬はそう感じていた。
黙り込んだ冬馬をじっとにこやかな笑顔で見ていた直輝だったが、これ以上の会話を諦めたのか「ちぇっ」と吐き捨てると、他の守護師たちをじっくりと舐め回すように見回した。
「へえー、これだけのメンバーが揃ってるなんて凄いねー。そんなに大事な戦いなのかなー?」
目に映る範囲内でも、両主四従家の名家が戦いの場に揃っているのだ。冬馬にはまだわからないないことだが、これはかなりレアな状況なのである。
「まさか犬走家と望楼家の当主お二人が揃い踏みで出陣してるなんて、生きている間に一度見られるかどうかだよね。あっ! 僕は死んでるんだったー。ワハハハハッ!」
直輝の陽気な笑い声だけが闇夜結界内で高々に響き渡る。まるで映画の主演を演じているかのような独壇場になっていた。これだけのメンバーが揃っているにも拘わらず、臆することのない堂々とした振る舞いである。
思えば直輝が生きていた頃もいつもクラスの中心で存在感は抜群だった。だが、今の直輝はどちらかと言うとヒールに近いような感じがある。それは皆から歓迎されていないことも相まってなのだが、この状況下ではそう見えるのも仕方ないだろう。中には嫌悪感を丸出しにしている名家の当主もいるほどだ。それでも、誰も何も言わず静観している。それが直輝には気持ちいのか、さらに「ハハハハハッ!」と大声で笑った。楽しくて仕方ないようなその顔は、冬馬のよく知る直輝そのものだったのには胸が痛くなった。
直輝を止める者は誰も居ない。そう思われた時だった。
「うるさいわね」
それは透き通るように響く、どこか威厳さえ感じるような声だった。その声は直輝の笑い声に包まれた空気の中を、真っ向から潰すように貫いたのである。直輝は思わず笑い声を止め、声がした方へと視線を向ける。冬馬も同じ様に声が聞こえた方を振り向いた。
そこにはクールに佇む主家当主、犬走美姫の姿があった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
なかなか更新出来ずに申し訳ありません。この先の事で色々と変更した部分があって上手く整理できませんでしたが、ようやく纏まりました。今後の展開もどうぞ楽しみにしてください。
よろしくお願いします!




