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月影の守護師  作者: ドッグファイター
第一章 守護師覚醒編
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48話 黒幕

守護霊信長に叩きのめされた魔霊秀吉の側に現れたものとは……

 俯せて倒れている秀吉のすぐ側に、禍々しい黒い塊の影が突如出現した。煙のようにも見える影は、モクモクと渦巻いている。

 守護霊信長は鼻で笑うように「フン」と吐き捨てると、美姫のいる方へと飛び退いた。秀吉を取り囲んでいた守護師たちがそれを見て一斉に慌てて身構える。

 この黒い影は魔霊秀吉が登場した時と同じような塊である。徐々にその姿を大きくしていった。


「また何か来たのか!?」


 近くで見ていた本丸家当主が声を上げるが、秀吉を取り囲んでいる名家の当主たちは静観している。一歩も動けないのか、それとも動かないのか。

 その隙に黒い塊は瞬く間に黒色から黄色の紋様へと変わっていった。それは“絵”というよりも、文字がたくさん並んでいる紋である。『大』という文字が三つ並んでいて、ひと際目に付くのは『大吉』という文字といったところだろうか。


「これは『大一大万大吉』の紋! まさかこの戦国武将まで出て来るとは……!」


 三之丸家当主は驚愕の表情を浮かべていたが、ふと我に返ったように主家当主の望楼月也の様子を窺った。“月也に何か考えがあるのなら”とでも思ったのだろう。だが、その月也は「なるほど」と一言呟くだけだった。どうやら何かわかったことがあるようで、目を細めてずっと黒い塊を眺めている。


「あれは石田三成(いしだみつなり)の家紋で間違いないようね。やっぱり秀吉は一人で動いていたんじゃなかったということになるわね」


 犬走美姫は冷静に黒い影を直視しているが、やはりこちらも動こうとはしなかった。ただ、舞美子の方へと一瞥(いちべつ)しただけだった。当然、その舞美子も静観している。

 そんな状況を呆然と眺めていた光太が、何か(ひらめ)いたような顔付きで勇一を見た。


「なあ、勇一……思ったんだけどよ、あの魔霊が出て来る前に攻撃して消した方が良いんじゃね?」


「……あっ、なるほど! 出現する前に倒した方がいいに決まってるもんね」


 妙案だと言わんばかりに二人はこの戦いの軍師である根石舞美子へと振り返った。自分たちでは無理でも、舞美子たち名家の当主クラスならそれが出来ると思ったのだろう。だが、舞美子はそれを否定するように首を横に振った。


「それは止めといた方がよろしいなぁ」


 舞美子の答えが期待外れだったのか、光太は少し口を尖らせて悔しそうな顔をした。だが、何かを感じたのか、違う方向へと顔を向けた。そこには犬走美姫があからさまな軽蔑の視線を送っていた姿があった。


「ばっかじゃないの。あんたたちは相変わらずバカ丸出しね。ほんと、いつまで経っても成長しないんだから」


「……んぎ!? ど、どうしてだよ!」


 完全な上から目線の美姫に、さすがの光太も怒気を覚えたのかグワッと睨み返した。しかし、体はなぜか一歩引いた状態になっている。美姫は呆れ顔で「はあ」と一つ溜息を吐いて、少々面倒そうな顔をした。


「あのね、周辺の霊気があの霊魂に集中しているのよ? 今あれに干渉すると、あんたたちの魂も大量の霊気に干渉されることになるわ。別にあんたたちがどうなっても構わないんだけど、また自我喪失しても良いって言うんだったら好きにしたら?」


「……くっ!」


 美姫と光太たちは守護師のトップと在野という格の違いがあるのだが、今の会話を聞くとそれだけではないようだ。冬馬から見ても、明らかに光太たちが美姫に対して苦手意識があるように見える。

 美姫の言葉から推測すると、周りの守護師たちは動けないのではなく、敢えて動かなかったのである。


「まあ、何が起こるかわからへんから止めときやって話やわぁ」


「そうですね。ただでさえ、今ここに霊気が集中していますからね。これだけの霊気を下手に刺激すると、あそこにどんな影響が出るかもわかりませんから」


 月也が神社の中央にある社殿を見ながら真顔でそう言うので、光太は口を噤むしかないようだ。既に黙って大一大万大吉の紋へと集中している。


「とは言っても、出来るだけ早く決着を付けた方が良いんだけど……」


 美姫はそう言って守護霊の信長へと視線を移した。その信長はというと、相変わらず気怠そうな顔をしている。その横で家康は顔を顰めて嫌悪感を露にしていた。


 守護霊信長に何か考えでもあるのだろうか。

 冬馬はこの時、内心では違和感を覚えていた。なぜなら、夢の中で氏郷が冬馬へ助言したことを思い出していたからである。氏郷は「急いだ方がいい」と言っていたはずである。それなのに同じ守護霊である信長の態度を見ていると、到底急いでいるようには感じられない。秀吉を圧倒する力があるにも(かかわ)らず、封印を急ぐわけでもなかった。信長と氏郷の考え方に相違があるのだろうか。


 腑に落ちない冬馬を他所に、現れた黒い影が周辺の霊気を大量に集めたところで例によって紋が真っ二つに割れる。そして、そこに姿を現したのは紛れもない魔霊の姿だった。


「遅ればせながらこの三成、只今到着に御座りまする」


 現れた魔霊は石田三成で間違いないようである。()の魔霊は秀吉と同じような羽織袴を着用している。色は地味目の藍色だが、その着こなしはきっちりとしており、そこから見ても几帳面さが窺い知れる。

 服の上からでもわかるほど線の細い、いかにも頼りなさげな体つきだ。“優男(やさおとこ)”という言葉が当てはまる程の上品な面持ちだが、その目は眼光鋭く、隙の無い雰囲気は他を寄せ付けぬような迫力さえ感じさせる。現に、取り囲んでいる名家の当主たちは一歩も動けないでいる。今は動かないのではなく、動けないのである。迂闊に動けば何か仕掛けて来そうな雰囲気を、この魔霊が醸し出しているのだ。

 

「ふんっ、相変わらずウザい奴じゃん」


 家康は嫌悪感を隠そうとはせず、舌打ちをして悪態をついた。石田三成と徳川家康は、言わずと知れた『関ヶ原の戦い』において因縁の間柄である。家康の態度を見れば、死後でもその関係性は続いているのかもしれない。

 

 現れた魔霊三成は秀吉の側でひざまづくと、その秀吉の姿を見るなり(しき)りに感心していた。


「これはこれは秀吉様、こんな所で就寝なされようとするなんて一風変わった所作をしてらっしゃる。ふーむ、さすが関白様で御座います。やることが庶民とは違いますな」


 周りには守護霊の信長に家康、そして氏郷がいる。それに守護師の両主四従家が揃っているというのに、魔霊三成は動揺することなく落ち着いた態度である。


「やっと来よったんか、三成! そんなたわけたこと言うてにゃあで、(はよ)うワシを起こすだぎゃ!」


「ああ、それは気が回らず申し訳御座いません」


 そう言われても三成は慌てることなく、やれやれといった表情で倒れている秀吉を抱え起こした。


 石田三成は秀吉に見出(みい)だされ、主に内政面でその手腕を発揮した人物である。秀吉からの信頼は厚く、文治派と呼ばれる内政担当の筆頭として重要な仕事を任された一方で、武断派と呼ばれる武将たちとは度々衝突して対立したと言われている。わかり易く言えば、文化系と体育会系が衝突するようなものだろうか。

 秀吉の死後は武断派が家康に(なび)き始め、文治派は勢力が衰えていく。そして三成は孤立していき、結果的に『関ヶ原の戦い』へと至るのである。三成の死に様を知っている者は、彼が魔霊と成り得る悔恨の念を抱いていることに何の疑いも抱かないだろう。

 三成はちらりと家康を睨みつけると、負けじと家康も睨み返した。ここにもまた、不穏な空気が流れ始める。

 そんな守護霊たちを黙って見ていた月也が、「そういうことですか」とぼそりと呟いた。


「ここまで予測していたとは、さすがですね。恐れ入りました」


 月也は魔霊が出て来るというのに、感心したようにほんの少しだけ舞美子へ笑みを零した。だが、舞美子にリアクションは無い。あるのは相変わらずの不敵な笑みである。


「協力者がいることは(はな)からわかっておりましたので、誰が出て来ても驚きはありません」


「舞美姉さん、秀吉はあの魔霊が来るのがわかってたってことなの?」


「恐らく、太閤はんはずっと待っていたと思われます」


 美姫の問い掛けに舞美子は不敵な笑みのままだ。間髪入れずに月也が言葉を挟む。


「どうしますか? さすがに二体の魔霊を一度に封印するにはもう少し人数を増やさなければいけませんよ?」


 秀吉と三成を囲むように南側で本丸家当主、東側に三之丸家当主、西側へ天端石雪、そして北側には冬馬を始め、他の守護師たちがいる。魔霊が二体だとこれでは不十分ということのようだ。


「仰る通りです。ですが……」


 月也が舞美子へと指示を促したのだが、舞美子は左手でクリクリと髪を弄り始めた。他に考えがあるのか、それともまだ纏まっていないのか。


「まだ()()()()、ということですね?」


 月也がほんの少しニヤリと含み笑いをしたのだが、舞美子はいつものように不敵な笑みで返すのみであった。この二人はこの局面でさえも、お互いの考えを探り合っているのだろうか。


「裏で糸を引いていたのは、この魔霊ということ?」


「いえ、恐らくは……」


 舞美子はそこまで言ってから美姫の問いに答える代わりに、陰陽師の土御門泰典へと顔を向けた。

 その泰典は「侵入者がいる」という冬馬の言葉で、その“魂”をずっと今まで式札を使って捜索していた。守護霊の信長と家康が現れてからも、ひたすらに集中していたのだ。その泰典の表情が魔霊三成の登場時に変化したことを、舞美子は見逃さなかったのである。泰典は南側にある社殿から、いつの間にやら北側にいる冬馬たちの近くまで移動していた。当然、護衛していた明日美と美音も一緒に移動して来ている。


「そろそろ()()()が見つかったんとちがう?」


「ああ」


 舞美子に話し掛けられた泰典はそう一言だけ呟くと、目を瞑り大きく溜息を吐いて冬馬を見つめた。

 その冬馬は、先程の違和感の答えが見つかったような気がした。


「そっか……。そういうことなんだ」


 冬馬は舞美子がこの山にいる侵入者が現れるのを待っていると気付いた。そして、恐らくそれは守護霊の信長も同じなのだと感じた。

 冬馬には侵入者が誰なのか、何となく予測は付いていた。魔霊秀吉から流れ込んで来た霊気で気付いたことがあったからだ。そして、泰典も感付いているのかもしれない。冬馬を見る目が心配そうな目をしていたからである。


 実のところ、冬馬の心はまだ整理が付いていなかった。


(ぼくはどうしたら……)


 冬馬は新たな魔霊の出現によって、さらに緊張が高まっていた。どこか守護師と守護霊の間にも意思の疎通が出来ていないようにも思える。侵入者の発見によって、また何か良からぬことが起きるのではないか。そんなことも相まって不安も同じように膨れ上がっていった。

 そして、一番の悩みはこの状況下で攻撃出来ない自分の役割をまだ模索していたことである。攻撃や防御以外に何が出来るのか。信長の言葉に対して、未だに答えは出て来なかった。そんな冬馬の不安な心情を察してか、氏郷は思念で優しく声を掛けてきた。


⦅悩んでいても仕方ないぞ、冬馬。今は他の連中を守ることだけに集中すればいいのさ⦆


(……うん、わかった)


 冬馬は余計なことは考えないようにした。不安なままでいると、霊気が憑りついて来るからだ。大量の霊気が今もなお、この周辺を渦巻くように(うごめ)いているのだ。今は氏郷の言う通り、目の前の戦いに集中しないといけない。


(今、出来ることを全力でやるだけ。みんなを守ることがぼくの役割なんだ)


 冬馬は自分にそう言い聞かせると、自分の視野がまた狭くなっていることに気付いた。一つ深呼吸をしてから、今一度周りを見回した。


 ここにはすでに守護師を始め、数多くの霊気を纏った者たちがいる。その霊気の微光によって桜並木が鮮やかに浮かび上がっていた。三列に揃った切り石が敷き詰められた石畳が真っすぐに延び、古びた神社の社殿が今は鮮明に映し出されている。暗くて気付かなかったのだが、近くでよく見ると一般的な一軒家程の大きさだろうか。四方に階段が設置されており、一メートルほどの高い場所に鎮座している。

 社殿は檜皮葺(ひわだぶき)というヒノキの樹皮で造られた大きな屋根が特徴だ。四方にそれぞれ扉があり、そこは厳重に注連縄によって閉ざされていた。一般的な神社に見られる賽銭箱(さいせんばこ)や鈴は無く、この社は参拝する拝殿ではないということが窺い知れる。

 空を見上げれば、奇麗に姿を現している十四夜月がいつの間にか上の方まで位置を変えていた。その月明りに照らされたこの『守護之御魂神社』は、初春(しょしゅん)に入ったここ京都で花見をする宴の会場としては打って付けだろう。だが、残念ながら今はそんな余裕はない。なぜなら、ここにいる人間は今、生死の境目にいるのだ。

 冬馬は昨日までとは打って変わった状況に、今更ながら不思議な感覚に陥った。


(ぼくは今、とんでもない世界に来ちゃったような気がする)


 冬馬は頭の中のごちゃついた物事を取っ払うと、程よく冷静になれた。ここまでは順応するだけで精一杯だったが、覚悟を決めた途端に周りがよく見えた。景色も人もよく見えるのだ。


(でも、これが父さんの生きていた世界なんだ。とにかく今は自分を信じるだけ。がもちゅうさんや準に光太さん、勇一さん、それに他のみんなも。信じるだけなんだ!)


 名家の当主たちはさすがの歴戦の強者といったところだろうか。皆一様に落ち着きを払っている。緊張の面持ちはしているものの、動揺している様子はない。

 ただ、準たち三人は冬馬の後ろでじっと身を屈めている。緊張と恐怖で体が固まっているのかもしれない。それを見ると、冬馬はこの三人を自分が守らなければと強く思わざるを得ない。それだけでさらに緊迫感が増していく。

 そんな緊迫した空気に、さすがのこの姉妹も動揺を隠せなかった。


「舞美姉、これからどうなるんや? あの魔霊と戦うんか? そしたら、あたしらはどうしたらええ?」


 明日美の顔は薄ら笑いを浮かべているのだが、少し緊張しているのか、いつもの笑い声は聞こえてこない。明日美の後ろに隠れるように身を潜めている美音の顔からは、完全に笑顔が消えていた。


「あんたらはそこで大人しくしとき。いざという時はうちが守ったげるさかい、心配せんでええ。これから()()()()()をしっかりと目に焼き付けとけば、今はそれでよろしいわ」


 舞美子はそう言うと、明日美と美音の頭を軽く撫でる。一瞬だったが、姉としての優しい顔を覗かせた。それを見た明日美と美音は少し安心したのか、いつもの笑顔に戻った。

 冬馬は自分よりも年下の女の子が気丈に振る舞っている姿を見て、更なる想いを強くした。


「大丈夫だよ。ぼくも全力で守るから」


 美音がキョトンとした顔をした後、「お前に守ってもらわんでも大丈夫や!」と目を吊り上げてブリブリと怒り出した。


「お前がか? まあ、頼りないけど頼りにしてるわ」


 例によって明日美には「ウキャキャキャキャ!」と笑いながら背中をバシバシと叩かれたのだが、冬馬は普段の二人に戻ってホッとした。

 新たな魔霊が現れてかなり不安だったのだろう。緊迫した空気が否が応でも緊張感の無い明日美や美音にも伝わったようだ。それでも、舞美子の存在と冬馬の不思議な雰囲気にいつもの調子が戻って来たようである。


「ハハハ……今のぼくにはそれぐらいしか出来ないから」


 冬馬はニコッと笑った。自分でも照れ笑いなのか苦笑いなのかよくわからなかったが、それでもこれが自分の本心であることは間違いないのである。これが今の自分に出来る唯一の戦法なのだ。

 冬馬が信長の方に目をやると、その信長は一歩前に進み出て石田三成を凝視した。


「やっと()()()が姿を現したね。遅いよ、まったく」


 やはり秀吉だけでなく、信長も待っていたようだ。その顔はほんの少しニヤついているようにも見える。先程までのやる気のない気怠そうだった表情が、今は微塵も感じられなほどに変わっていたのだ。信長に声を掛けられた三成は不敵な笑みを浮かべて丁寧にお辞儀をした。


「これは信長様、申し訳御座いません。準備に少々手間取ってしまいましてね。ですが、その分こちらは万全で臨めますよ?」


「ああ、ああ、そうかい、そうかい。じゃあ、なんならここで決着つけてもいいんだよ?」


「フフフフフッ! そうなればあなた方が不利になると思うのですが、それでよろしいのですか? 我々としてはそちらの方が都合が良いので、一向に構いませんがね」


 不敵に笑う三成の顔は優男の面影が完全に崩れている。その笑みに対して信長は不快感を出すわけでもなく、ただじっと睨みつけている。強烈な霊力を保持している守護霊の信長と家康が相手だというのに、三成の態度は怯むどころか挑発しているようにも見える。恐らく、信長が「秀吉組」と言った言葉の意味がここにあるのかもしれない。三成が何か手札を隠していると見ていいだろう。家康の顔がさらに険しくなっていく。一触即発の空気が辺りに充満していった。

 守護霊二体と魔霊が二体。ただでさえ霊気が異様に集まっているこの場所で、本気の戦いをするとどうなってしまうのか。少なくとも、霊力の低い者たちにとってはその影響は脅威としか言いようがないだろう。緊迫した状況になったその空気に、魔霊秀吉が待ったをかけるように三成へ声を掛けた。


「ま、待て三成! その前に報告することがあるはずだぎゃ! 首尾はどうなっとるだぎゃ?」


「ああ、それは御心配に及びません。時間は掛かりましたが、この三成に抜かりは御座いませんゆえ」


「おおっ! そうか! ギャハハハハッ! そうかそうかっ‼ でかした三成‼」


 秀吉は信長に殴られたことなんか忘れたかのように、嬉しさを隠そうとはしない満面の笑みを浮かべた。やはり三成には何か秘策があるのか、それがこの余裕の態度の表れでもあるようだ。


「して、誰が集まっとるんだがや?」


「秀吉様が望んでおられた面々は着々と呼応しております。中でも、()()()はいつでも動かせる状態にありますので御安心を」


「――――!」


 三成の言葉に、守護霊よりも守護師たちの方がいち早く反応した。三成は他にも仲間を集めていたということのようである。


「七本槍だって!?」


「ま、まさか特等級の魔霊がまだ出て来ると言うのか! それは不味いぞ!」


 秀吉を取り囲む本丸家当主と三之丸家当主が驚きを隠せないでいる。普段は無表情の雪でさえ、目を見開いている。それだけでこの発言の重みがわかるというものである。

 だが、一人だけわかっていない者がいた。


「槍なんか動かしてどうするんだろう。槍が降ってくる技……とか?」


 秀吉の七本槍と言えば、知る者からすれば脅威に感じるだろう。だが、冬馬のような知らない者からすれば、何が何やら意味不明のようである。


「バカかお前は! 七本槍ってのはな、秀吉子飼いの七人の精鋭武将たちのことを言うんだ! 特にあの二人が来ると厄介だぞ!」


「えっ、あの二人って何!? えっ、そんなにヤバいの!?」


 冬馬が光太へ聞き返した時だった。



 ――――――――「ああ、それなら心配いらないよ」



 その返事が聞こえたのは光太からではなかった。もちろん、準や勇一でもなければ他の守護師でも守護霊でもなかった。その声は誰も居ないはずの場所から聞こえてきたのである。


()()()()七本槍を動かす気はないよ。特にあの二人はね」


 声の主は()も意味あり気に含み笑いをしている。

 それは冬馬にとって聞き覚えのある声だった。懐かしくもあり、明るくて安心する声色。冬馬には瞬時にその声の主が誰なのかわかった。


「久しぶり、冬馬」


 そう呼ばれた冬馬の心は、一瞬にして四年という月日を巻き戻していく。


「…………やっぱり直輝なんだね」


 新たに現れた声の主の方へ振り向くと、上空には泰典が飛ばした式札が旋回している。その式札の下にこの世を去ったはずの狭間(さま)直輝が立っていたのである。

 それは四年前と何ら変わない姿だった。




ここまで読んで頂き、ありがとうございます!


遂に出て来ましたね。ようやくこの章の核心部分であり、この物語の本筋が見えてくると思います。

どうぞ、次回もお楽しみにしてください!


では、今後もよろしくお願いします!

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