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月影の守護師  作者: ドッグファイター
第一章 守護師覚醒編
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46話 孤独からの脱出

戦闘中に気力が萎えてしまった冬馬。そんな冬馬へ声を掛けたのは……


久しぶりなのでちょっと長めです。

 守護霊氏郷と魔霊秀吉が力と力の(せめ)ぎ合いをしている最中、その戦いから冬馬は目を(そむ)けてしまった。

 終いには、体を包み込んでいる霊気の光が次第に弱くなっていった。


「急にどうしたんだ、あいつ……」


 光太が勇一の顔を見るが、その勇一は「わからない」と言わんばかりに首を横に振った。ここまでしばらく静観していた望楼月也が、目を細くしておもむろに口を開いた。


「守護霊召喚によって霊気に当てられてしまったようですね」


「霊気に当てられたって……今更そんなことあるんですか?」


 準の言うことは最もだろう。冬馬は実家の裏山で悪霊と戦っている時でさえ、霊気に飲まれそうになっても堪える(すべ)を身に付けているのだ。いくら多量の霊気が集まる場所だからと言っても、『相承の儀』で父の意志を受け継いだ冬馬にとっては考えにくいことと思うのも無理はない。

 その疑問には月也ではなく、美姫が答えた。


「守護霊を召喚すると、その守護霊の想いを守護師は共有することになるの。他人の、しかも熾烈(しれつ)な時代を生きた戦国武将の『想い』は想像を絶するほど強烈よ。相当な覚悟が無ければ耐えられないし、霊気によって負の感情に飲まれてしまっても不思議じゃないわ。……やっぱり彼にはまだ早過ぎたってことのようね」


「そ、そんな……!」


 準が再び冬馬へと視線を移すと、冬馬は依然と下を向いたままだった。



 ◇◆



 冬馬の意識は完全に孤独な世界へと変貌していた。すでに陽が落ちた人里離れた静かな山中とは言え、ここには他にも守護師たちが何人もいる。それでも今は、自分一人だけが魔霊秀吉と戦っているような錯覚に陥っていた。


(がもちゅうさんが戦おうとしてる。ぼくが……ぼくが頑張らないといけないのに、ぼくも戦わないと……。でも……でも……!)


 殺気立った氏郷と秀吉の雰囲気が冬馬にも犇々(ひしひし)と伝わって来た。そして、秀吉に対する氏郷の想いが流れ込んで来る感覚もあった。これまで二人の間に何があったのか、細かな事情まではわからなない。だが、それでも氏郷が“戦う”という意志を持っていることは冬馬にもはっきりとわかった。

 そんな氏郷の想いに冬馬は戸惑った。出来れば“戦う”ことを避けたいと思ってしまったのだ。氏郷の想いに冬馬はどう応えて良いのか、何をどうすれば良いのかわからなくなったのである。


 共に戦う――――これが守護師と守護霊の関係性である。父の意志を受け継いだことで、冬馬にも(おぼろ)げながら頭の中では理解出来ている。だが、冬馬の気持ちは氏郷の戦意を共有するには色々な意味で、美姫の言う通りまだ早過ぎた。


 冬馬は父の意志を受け継ぎ、守護師というものを知ったつもりになっていた。霊気を体内に宿し、それを操り、そして悪霊を退治する。理屈では簡単なことだ。だが、いざ守護霊を召喚して戦うとなった今、冬馬の思考がある一点に執着してしまったのである。



 ――――戦うって(なん)なんだろう?



 誰のために、何のために戦うのか?


 死んだ父の意志を受け継いだから? 


 殺された直輝の仇を取るためなのか? 


 それだけで攻撃する理由になるのか?


 それは悪霊たちの魂を完全なる死に追いやることではないのか? 


 今の冬馬には恐らく答えは出ないであろう、そんな疑問の念を抱いてしまったのである。



(どうして戦わなくちゃいけないんだろう……)



 心の中で自問をしても誰も答えてくれない。当然である。想いは口にしないと誰にも伝わらないのだから。


 父が生きていたら、恐らく言葉をくれただろう。


 直輝が生きていたら、きっと答えてくれたに違いない。


 だが、冬馬にとって大事な存在である二人はもう居ないのだ。

 本来ならば、こういった場面では父であったり、師と仰ぐ者が道筋を説くものだろう。だが、冬馬にはそういった存在が居なかったのである。だからこそ、冬馬にとって親友の直輝は特別な存在だった。


 冬馬は直輝が生きていた頃はいつも彼に頼っていた。グループで行動していた時も、常に直輝が中心となり皆を引っ張る存在だった。冬馬はそれに付いて行くだけだったのだ。直輝に任せていれば何も問題ない。そう思っていたし、それが当たり前だった。

 だが、直輝が死んでからは人と行動することがほとんど無くなっていた。いつも一人で行動し、いつも一人で考え、いつも一人で決めていた。

 高校を卒業して就職することになり、決意を新たに意気揚々と家を出たまでは良いが、根底にある冬馬自身の性格は何も変わっていなかったのである。

 守護師という呪術師を初めて知り、あれよあれよという間に重要な戦いに発展していった。その中で冬馬は守護師として覚醒して、さらに力を手に入れた。そして、守護霊である蒲生氏郷を召喚して魂と魂が繋がった。しかし、冬馬にとってこの凄まじい流れの中で対応するキャパシティーが限度を越えてしまい、冬馬の心が知らず知らずのうちに拒絶反応を示したのかもしれない。

 それと、ここ数年は誰かと共に行動することはなかったので、これだけ大勢の人間と接することに戸惑ってしまったことも影響しているのだろう。いつも一人で居ることが当たり前になっていた冬馬にとって、これに順応する力は無かったのである。



 ◇◆



 冬馬は下を向いたままで立ち尽くしていたが、次第に尋常ではない大量の汗が顔から出て来た。体も小刻みに震え出している。体を動かしてもいないのに、息遣いも荒くなってきていた。


「あ、あかん! 冬馬っ!」


「準! 待ちなさい!」


 準は冬馬がまた自我を喪失すると思ったのかもしれない。慌てて飛び出そうとした時、それを阻んだのは彼の主である美姫だった。


「いや、で、でも! 冬馬がまた暴走したらまずいでしょ!」


 慌てた準とは対照的に美姫は冷静な態度で、「落ち着きなさい!」と一喝した。その声で準の動きがピタリと止まったが、顔はまだ納得していないようで美姫の顔を睨みつけるように見つめていた。

 それを見た美姫が一つ溜息を吐いてから、トーンの押さえた声色で話し出した。


「よく見なさい。あれは暴走じゃないわ。明らかに彼の心の中で起こっている問題よ」


「えっ!? じゃあ、一体何が……」


 準が驚いて美姫の顔を見つめたが、その後方で舞美子が不敵な笑みのまま口を挟んだ。


「あれは一種のパニック障害みたいなもんやなぁ」


「パ、パニック!?」


 今の準は忙しい。冬馬の一挙手一投足に一喜一憂している。それだけ準が冬馬に対して感情移入しているのだろう。それから準は悔しそうな顔に変わっていった。


 そんな準の気持ちも、残念ながら今の冬馬には届いていなかった。

 父の意志を受け継ぎ、守護師という戦いに慣れてきたことの影響が出たのかもしれない。今まで一杯一杯だった気持ちに、ほんのわずかだが余裕が生まれてしまった。そこに守護霊の想いが入り交じり、そしてほんのわずかに出来た隙間に霊気という怨念が忍び寄って来たのだ。

 自分がやらなければいけないという責任感とプレッシャーが重なり、そこに攻撃性の強い想いが混じり合って極度の緊張に達したのである。


 今までの冬馬ならば、このまま塞ぎ込んでいたに違いない。自分一人ではどうすることも出来ないのだから。


 だが、今は違った。


 この場には口にせずとも、冬馬の想いを直に感じられる者がいたのである。霊気を通じて想いを感じ取ることが出来るスペシャリストたちが集まっているのである。


⦅冬馬、深く考える必要はないさ⦆


(が、がもちゅうさん……!)


 突然、冬馬の頭の中に氏郷の声が聞こえてきた。冬馬は顔を上げて戦闘中の氏郷を見つめた。氏郷は秀吉の力任せの押しに対してまだ防戦一方で、目線は秀吉に向いたままだった。それでも、落ち着いた声色で冬馬へと話し掛けていたのである。


⦅一人で抱え込むんじゃない。お前はもう一人じゃないんだからさ⦆


(一人……じゃない……?)


⦅これからは俺がいる。それに俺だけじゃないさ。他にもいるだろ?⦆


 氏郷の言葉に冬馬はふと視界が開けたような気がした。周りには自分だけではなく、他にも守護師たちがいることを思い出したのだ。

 冬馬はゆっくりと首を動かして周囲を見渡した。すると、とある方向から突き刺さるような鋭い視線を感じた。恐る恐るそちらへ振り返ると同時に、そこにいた人物から大きな怒号が聞こえてきた。


「ばっかじゃないのっ‼」


「うわっ!?」


 あまりにも大きく、しかも怒気が満ちている芯の通った声に、冬馬は今まで考えていたことが頭の中から吹っ飛んでいった。


 冷静にその人物をよく見ると、そこには冷ややかな視線で仁王立ちする犬走美姫がいた。だが、霊気を伝ってくる美姫の“想い”は、決して怒りだけではなかった。不甲斐ない冬馬に対する怒りと共に、「しっかりしなさい!」という激励の想いが(こも)っていることも強く感じ取れたのだ。


「あんた、大事なことを忘れてるんじゃないわよ!」


「大事なこと……?」


 そう言われても、冬馬にはすぐに理解出来なかった。困惑して美姫を眺めていると、その横で不敵な笑みで佇む根石舞美子の姿が目に入った。


「ほんま、これやから()()()はあきまへんなぁ」


「ぼっち!? ううっ……!」


 舞美子の強烈な言葉が冬馬の心をえぐる。いくら一人でいることが気楽で好きだからといっても、やはり“ぼっち”と言われることは辛かった。


(なん)もわかってはらへんなぁ。あんさんがぼっちやったんは、あんさん自身の問題やでぇ? 自分で自分の心に(ふた)をしてカギを掛けてはる。誰にも頼らずに、(なん)でも()んでも自分一人で背負い込みはる。少しは周りを見てみいやぁ」


 舞美子にそう言われ、冬馬はもう一度周りをぐるりと見渡した。


 そこには心配そうな顔で見守る準がいた。その横には準と同じような顔をしている光太と勇一もいる。

 舞美子のすぐ後ろには、ニコニコしている妹の明日美とニヤニヤしている美音が待機していた。今にも例の笑い声が聞こえてきそうだ。

 他にも白く光った一段と大きな体が目についた。こちらは無表情だが、いつでも飛び出せる態勢でじっと見守っている天端石雪だ。その横には身体強化の術をかけたまま、魔霊秀吉の方を向いて警戒している本丸家当主と三之丸家当主がいる。

 少し離れた場所には陰陽師の土御門泰典が額に手を添えている様子が見える。恐らく、飛ばした式札に全神経を集中しているに違いない。

 そして、落ち着いた様子でどっしりと構えている望楼月也が厳しい表情で戦況を見つめていた。


 ここには冬馬以外にも、魔霊秀吉と戦うために集まっている者たちがいる。そのことを冬馬はようやく思い出した。


「やっと気付きはったなぁ。うちらを傍観者(ぼうかんしゃ)にしてどうするんやぁ?」


「――――‼」


 舞美子は相変わらずの不敵な笑みだが、冬馬にはその目が優しい眼差しに見えた。


⦅これはお前一人で戦っているんじゃない。お前にはもう仲間がいるんだ。一人で無理なら、仲間に頼ればいいのさ⦆


(仲間……‼)


 頭の中で聞こえる氏郷の言葉に、冬馬はハッとした。ずっと一人で居ることに慣れ過ぎてしまっていた。そして、ようやく気が付いたのだ。


 本当は一人でいることが寂しかったことに。

 本当は分かり合える友達が欲しかったことに。


 でも、傷つくことが怖かった。

 嫌われることが怖かった。

 そして、何よりも大事なものを失うことが怖かったのだ。


 だが、今ははっきりとわかる。自分がただ、現実から逃げていたということに。


(そうか……ぼくは一人でいることを直輝が死んだせいにしてたんだ。……ちゃんと向き合ってなかったんだね。ほんと、あの人が言う通り、ぼくは“ばか”だったんだ)


 そんな負の感情に包まれた冬馬だったが、美姫を見つめるその表情は清々しい程の笑顔に変わっていた。


「ほんと、ばかな子……」


 ぼそりと呟いた美姫の表情がふわりと和らいだ。この戦いに主家当主として厳しい姿勢で挑んいる美姫にとって、冬馬の心情の変化は足を引っ張る不安材料でしかないはずである。それでもここまで手を出さず、口を出さずに見守って来たのには、美姫なりの想いがあったに違いない。

 その想いを冬馬はまだ知る由もないことなのだが、美姫の二之丸家に対する想いが何かあるのだろうか。


 その直後、美姫が突然()()を感じた。


「――――あっ! 舞美姉さん!」


「ようやくゴーサインが出たようですなぁ」


 舞美子の言葉に、月也も薄っすらと笑みを浮かべる。彼等の中で何か変化があったようだが、冬馬にとってそれはさほど関係なかった。


 冬馬は改めて自分の未熟さを痛感していた。所詮はまだまだ素人なのだ。守護師として覚醒したが、守護師としての戦いの経験値がほとんど無いのが現実なのだから。


 戦うことが怖い。

 攻撃することが出来ない。


 それならば、どうすればいいのか。


 自分で出来ない事があれば誰かに頼ればいい。そんな単純明快な考えが冬馬の頭の中からいつの間にか消えていたのである。

 冬馬の体に纏っている黒光りした霊気がまた一段とその強さを増していく。そして、冬馬は大きく深呼吸をして前を見据えた。冬馬はようやく冷静さを取り戻したのである。


(守護師の戦いなんて経験がないのは当たり前。戦いが怖いのも当たり前なんだ。攻撃が出来ないなら、ずっと守護師として戦ってきた人たちにお願いすればいいんだ!)


 冬馬の目に活力が戻って来る。美姫たちが感じた()()を冬馬も感じていた。それがどういった意味があるのかはわからなかったが、俄然守護師当主たちの霊力が満ちてきている事はしっかりとわかる。

 そしてふと、氏郷が夢の中で言っていたことを思い出した。


 “何かあれば根石家の当主に頼れ”という言葉を。


「根石さん! お願いがあります!」


 冬馬が舞美子へ振り返ると、その表情は不敵な笑みではなく、穏やかな優しい微笑みだった。


「ここまでよう頑張りはったなあ……」


 そう呟くように声を発すると、いつもの不敵な笑みへと変わる。


「あとはうちらに任しときぃ!」


 舞美子が冬馬の要望がわかっていたようで、歓喜が滲んだ声を張り上げたのだが、すぐにその顔から笑みが消えて真剣な表情へと変わった。これだけで場の空気が一変するには十分な効果である。周りの守護師たちの雰囲気も激変し、再び本気の戦闘モードに切り替わったのである。

 舞美子は冬馬から声が掛かるのを待っていたかのように、すぐさま行動に移した。まず最初に、四従家の二人の当主へと向いた。


「本丸家当主様と三之丸家当主様の御二方は秀吉はんの東側と南側に配置!」


「承知した!」


 この二人も何の躊躇もなく二つ返事ですぐに動き出す。舞美子はそれには目もくれず、視線は後ろで控えている大きな女性に向いた。


「雪ちゃんは西側へ!」


「承知!」


 雪も大きな体とは思えないような機敏な動きを見せる。


 指名された三人はそれぞれ青、赤、白の霊気の光を纏いながら、瞬時に飛び出して行った。さすがに名家の当主たちである。舞美子の意志が確実にしっかりと伝わっていないと瞬時には動けないだろう。惚れ惚れするほど揃った動きであったが舞美子はそれを目で追わず、背中越しにいる二人の少女へと流し目を送る。


「明日美と美音は陰陽師はんの護衛を!」


「承知や!」


 明日美と美音も指示が来ることがわかっていたようだ。この二人も自分たちの役割を十分に理解している動きを見せている。


「二之丸家の新当主様はここ北側で、後ろにいる三人の護衛をお願いしてもよろしいかぁ?」


 ここで舞美子は準と光太と勇一に目をやった。


「はい!」


 冬馬は氏郷を視界に入れつつ、準たち三人の前に立った。

 戦うことは出来ない。だが、彼等を守ることなら出来る。そう思うと、気が楽になるのを感じた。今はこれでいい。そう自分に言い聞かせるように、後は戦況を見守ることにした。


 そして舞美子の方はと言うと、美姫と月也へ体の向きを変えた。


「では、お願い致します」


 そう言って片膝を突いて舞美子が二人に頭を深く下げる。美姫はそれを一瞥(いちべつ)してから、月也の方へと視線を移した。それは主家の当主たる威厳がある堂々とした振る舞いである。美姫もいつでも応えられるように準備をしていたようだ。

 同じく月也も理解しているのか、美姫の目を見つめて無言で頷いた。


(凄い……! たぶん、あの人の頭の中には常に色んな考えがいっぱいあるんだろうな。これが経験の差なのかなあ。でも、それだけじゃないか)


 冬馬は舞美子のてきぱきとした指示を感心した様子で見ていた。そんな冬馬へ準が改まった態度で話し掛けた。


「冬馬、色々大変やろうけど、何かあったら俺に言うたらええ。俺には力は無いし、何も出来へんかもしれんけど……それでも、お前の味方でいることぐらいやったら出来るから!」


「うん……ありがとう、準」


 冬馬は改めて準という友を得たことに感極まった。もっと素直に喜べばいいのだろうが、今はそれどころではない状況である。込み上げてくる感情をグッと抑えていると、今度は光太と勇一が声を掛けてきた。


「お前、全部一人でやろうとするんじゃねえよ。俺たち守護師にも出来ない事はあるんだからよ」


「そうだね。守護師ってのは霊力があると言っても、一人でやるには限界がある。霊気には五気があるし、戦い方も守護師それぞれに多種多様だからね。だから俺たちはいつも二人でいるようにしてるんだよ」


「そうなんだ……。うん、ありがとう」


 光太と勇一は穏やかな表情だ。冬馬の力を認めた一方で、まだ守護師としての戦いをわかっていない冬馬に先輩としてアドバイスをしているのかもしれない。出会った頃に比べるとかなり好意的な発言になっている。

 冬馬は守護師の戦い方など知らなくて当然なのだが、それでも今の自分には足りないものがたくさんあると痛感した。父から“意志”を受け継いだとは言っても、まだまだ知るべきことは山積みのようだ。

 少し嬉しそうな顔の光太は照れ隠しなのか、氏郷と秀吉を取り囲むように移動した名家の当主たちへと目をやった。


「それにしても、四方を名家の当主で固めているのはやっぱり意味があるんだよな?」


 これには舞美子が間髪入れずに答えた。


「当然やわ。これで魔霊を封印する手筈は()()整ったことになる」


 舞美子はまだ厳しい表情を浮かべている。普段のおっとりとした口調とは違い、はきはきとした話し方に、無遠慮な光太でさえも気後れしてしまう程だ。


「そ、そうなのか。俺たちの出る幕はないってことだな」


「だね」


「そりゃそうやろ」


 三人は顔を見合わせた後、舞美子の顔色を窺うようにじっと彼女の次の言葉を待っている。


「あんさんらは後ろで控えといたらよろしいわぁ」


 三人はここでは戦力にならないことを理解しているようで、ある意味ホッとしたような表情を見せた。だが、舞美子の言葉にはまだ続きがあった。不敵な笑みになって準たちを睨むように凝視した。


「それよりもよう見ときやぁ。ここからは滅多にお目にかかること出来ひん光景やからなぁ。()()()()()()()()()、しっかりと目に焼き付けとかなあきまへんでぇ」


 そう言うと、舞美子はまた厳しい顔付きへと変えた。

 準たち三人は舞美子の言った意味を瞬時に理解出来なかったようで、「どういう意味だ?」と零している。だが、それもすぐにわかることになる。


 主家当主の二人のうち、最初に動いたのは月也だった。「パンッ」と両の手を叩き、そのまま合わせた。



《我が魂と盟約を結びし者よ 我が召喚の意志に従い その青き姿を現せ》



 月也の手に黄色い霊気が集まって来る。それが次第に膨れ上がり、月也の手から頭上へと舞い上がっていく。そして黄色の塊が徐々に変化していき、色も黄から青へと変わっていった。


 一方の美姫も手を叩いた後、拝むような形で言霊(ことだま)による唱言(となえごと)を詠唱する。



《我が魂と盟約を結びし者よ 我が召喚の命に応え その赤き姿を見せよ》



 美姫の手からも黄色の霊気の塊が出現し、次第に大きくなっていく。そして、月也と同様に上へと昇って行き、こちらは黄から赤へと色を変えていく。


 美姫と月也が守護霊召喚の術を使ったことで、この場の霊気が一変した。主家である二人の守護霊に大量の霊気が集中し始めている。霊気の流れが変わったのだ。あらゆる霊気が二人を中心に流れ込んでいく。

 舞美子が言っていた意味がここでようやく理解出来た準たち三人はこれに耐え切れず、思わず地に片膝を突いた。それほどにこの場にある霊気の濃度が一気に上昇しているのだ。


「くっ……なんていう霊気の量なんだ……‼」


 光太が振り絞って出した声が少し(かす)れている。勇一と準は耐えるのに精一杯といった様子で、声にならない声で喚いていた。


「大丈夫?」


 冬馬の言葉に準はしかめっ面で首を縦に振るが、かなりきつそうである。見かねた冬馬は三人の背中にそっと手を触れた。体が薄っすらと光った後、三人の表情が和らいだ。水気の霊気で体内に入り過ぎた霊気を浄化させたと言えばわかりやすいだろうか。


「おおっ……! やっぱり凄いなこれ。冬馬、ありがとうな!」


 準が笑顔で冬馬の肩をバシッと叩く。


「あ、ありがとよ」


「サンキュー……」


 準の熱い礼に苦笑いになった冬馬へ光太と勇一が小さな声で呟いた。冬馬はそれには笑顔で「うん」とだけ言って頷いて応えた。恥ずかしそうに頭を掻く光太。恥ずかしさを紛らわすように勇一が言葉を続けた。 


「根石の当主が簡単に守護霊召喚をしなかった理由が何となくわかったよ。守護師が一斉に守護霊を召喚すると、霊気が有り得ないくらい集中してしまう。これじゃ耐性の弱い奴がいたら一溜まりもないもんね」


「まあ、それもあるけど、ここの場所が場所やからなあ。ここからは一気に(かた)を付けるから気を引き締めや!」


 舞美子の真顔の言葉に三人は黙り込んだ。霊気には冬馬のお陰で辛うじて飲まれなかったが、舞美子の迫力には完全に飲まれてしまったようだ。三人は無言で視線を舞美子から主家の二人へと移した。

 冬馬も主家二人の方を見てみると、美姫と月也が作りだした霊気の塊が見る見るうちにその姿形を変えていた。

 美姫が作りだした塊は煌々と赤く光り、次第に紋様へと変化していく。その形はまるで何かの花の形のようだ。五枚の花弁が付いた花を、さらに五枚の花弁が円を成すように囲っているように見えなくもないので、冬馬は花の紋様だと思った。


「あれは何の花なのかな……?」


「あれは花やあらへん。木瓜(もっこう)紋て言うてなあ、瓜を切った断面図とも、卵を囲む鳥の巣とも言われてる。これはその中でも『織田木瓜(おだもっこう)』って呼ばれる有名な家紋やわ」


「おだ……って、まさか!」


 織田と聞けば、冬馬には思い出す人物は一人しかいない。だが、すぐに冬馬の意識はもう一つの家紋へと移る。家紋とか、歴史に疎い冬馬でも見覚えのある紋様だったからだ。月也が作りだした青く光った霊気の塊は、ある植物のようなものへと形成していた。


「あっちは……あっ! 見たことがある!」


 冬馬にもわかるような家紋だ。円の中にトランプのスペードのような形をした葉が、その尖った頭を突き合わせたような形で三つ入っている。


「あれは黄門様の印籠でも有名やからなあ。誰でも一度は見たことがあるはずやわ」


「水戸黄門の印籠……そうだ、それだ!」


 水戸光圀公の家紋と言えば、『三葉葵(みつばあおい)御紋(ごもん)』である。これは徳川家が代々使用している家紋で、ある意味日本で一番有名な家紋かもしれないので、冬馬が知っていても不思議ではない。


 その二つの家紋が大きく膨らんでいき、やがて人体程の大きさで動きを止めた。



 ――――そして、やはり家紋は縦二つに割れ、それぞれ守護霊が姿を現したのである。



 現れた守護霊は氏郷と同様に若い青年の姿だった。一人はまるで寝起きのような雰囲気で、気怠そうに首を左右に倒している。逆に、もう一人はやる気満々といった態度で、今にも跳び出して行きそうなほどの前傾姿勢になっている。


「ほんと、めんどくさいなあ」


「久々に暴れてやるじゃん!」


 二人の守護霊が発した言葉も両極端で、その表情を見ても明らかに対照的だった。




ここまで読んで頂き、ありがとうございます!


今月は滅茶苦茶多忙なので更新は無理かと思いましたが、何とか出来てホッとしてます。今後も絶対に更新しますので、よろしくお願いします!

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