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月影の守護師  作者: ドッグファイター
第一章 守護師覚醒編
36/67

36話 追憶からの喪失

しばらく振りの更新ですみません。


魔霊秀吉から聞いた言葉に、冬馬の記憶のカギが壊される……

 魔霊秀吉の口から聞いたその名前で、冬馬の頭の中は真っ白になってしまった。


 それは冬馬にとって唯一無二の存在だった人。明るくて元気で優しい、人当たりの良い柔らかな物腰の少年で、いつもたくさんの人に囲まれていた。どんな人でも彼と接すると好きになってしまう。いつも冬馬を温かく見守ってくれていた太陽のような存在。冬馬にとっては無くてはならない大事な人だったのである。



 狭間(さま)直輝(なおき)――――二之丸冬馬の親友()()()少年の名前である。



 冬馬が直輝と初めて会ったのは今から八年ほど前のこと、まだ十歳の子どもの頃だった。冬馬のクラスに直輝が転校生としてやって来たのだ。


「狭間直輝と言います。親の仕事の都合でしばらくこの町で暮らすことになりました。気軽に声を掛けて来てください。よろしくお願いします!」 


 背は低くてずんぐりむっくりの体型だが、目鼻や口がくっきりとしていて意外と顔は整っている。何よりも一番の特徴はその笑顔だった。見るからに優しそうな顔で、心から楽しいと表現しているかのような、全くもって屈託のない笑顔なのだ。いわゆる第一印象が抜群に良いタイプの少年である。だが、それは見た目だけではなかった。


 当時の冬馬には友達と呼べる存在がいなかった。クラスメイトで少しは喋る人がそれなりにいたのだが、内気で控えめな冬馬はいつも一人でいることが多かった。別にいじめられていた訳ではない。人と上手く会話することが出来なかったのだ。話し掛けられても、「うん」とか「そうだね」としか返せない。それは自分の気持ちを表に出すことが恥ずかしかったことと、何よりも自分に自信が無かったのだ。だから、一人でいることが冬馬にとっては苦でなく、楽だったのである。


 そんな冬馬の人生を変えたのが、この狭間直輝の登場だった。みんなの前での自己紹介を終えた後、指定された席に着く前にいきなり冬馬に声を掛けてきたのだ。


「へえ。君、二之丸(にのまる)冬馬(とうま)って言うんだ。珍しい名前だねえ。うん、もう覚えちゃったよ。よろしく!」


 転校生の直輝は冬馬の胸に付けている名札をチラッと見て、嬉しそうな顔つきで挨拶をしてきた。

 冬馬にとってはまさに青天(せいてん)霹靂(へきれき)だった。クラスでぼっちの陰キャである冬馬が、転校生という注目度ナンバーワンの陽キャから一番最初に声を掛けられたのだ。それだけでクラス中が少しざわつく。ちらほらと「なんで?」という声が嫌でも冬馬の耳に入って来る。注目されることに慣れていない冬馬にとって、これは苦痛以外の何物でもなかった。


「うん……」


 一言だけ返事すると顔を下に向けて、ただただこの転校生が早く席に着くのを待った。だが、転校生は一向に動く気配がなかった。どうしてだろうと思い、そっと顔を上げて見てみると、まだ微笑みながらこちらを見つめていたのだ。思わず目線を()らして(うつむ)いてしまったが、それでも転校生は動かなかった。また周りがざわつく。張り詰めた緊張感に耐えられずに観念した冬馬は、意を決して再び顔を上げると、勇気と共に声を振り絞って出した。


「よ、よろしく……」


 (かす)れ気味の自信なさげな声だった。しかも、恥ずかしそうに引き()った照れ笑いを浮かべて挨拶した冬馬に、直輝は全く気にする様子はなかった。逆に顔を見る見ると明るくさせていくと、


「うん、よろしく!」


 と、この転校生はクラス中に響き渡るような大きな声で返したのである。冬馬から返事を貰えたのがよっぽど嬉しかったのか、嬉しさを目一杯に表現するかのような満面の笑顔を浮かべたのであった。

 その直輝の笑顔を見た冬馬は自分の中で何かが弾け飛ぶのがわかった。それは冬馬の心の中に掛かっていたカギが壊れるような、そんなスッキリとした感覚だったのを冬馬は今でも覚えている。


「やったあ! 転校初日で友達が出来た! ひゃっほーい!」


 転校生の直輝はクラス中のみんなに向かって、「いえ~い!」と両手に作ったピースを前後に動かして喜んでいる。少し腰を落とした姿勢で、いかにも滑稽(こっけい)なその格好を見た他の生徒たちから自然と笑いが起こる。気を良くした直輝は自分の席の椅子の上に立ち、大袈裟に両手を上げて左右に振ってみせた。


「ありがとう、ございまーす! 狭間直輝でーす! よろぴく~!」


 最後は声色まで変えて(おど)けると、それでまたどっと笑いが湧き起こる。中にはキャッキャウフフと拍手までする者までいた。何とも愛らしい、そして憎めないその笑顔が人を惹きつける。どこか古臭い感じもするのだが、それが返って親しみやすさに繋がっているのだろう。一瞬にして教室内の空気を変えてしまい、しかも物の見事にみんなの心を鷲掴みにしたのだ。それは後々考えてみると、(ひとえ)にこの直輝の人柄だった。自然とみんなを明るく元気にする資質を持っている、そんな陽気な性格だったのだ。


 明るくて面白い。一緒に居て楽しい直輝は、あっという間にクラスの人気者となった。自然と直輝の周りに人が集まって来るので、冬馬はなかなか話が出来ない。それでも直輝は必ず時間を作って、冬馬とあれやこれやと色々な話をしてくれた。内容は他愛のないことばかりだったが、それでも冬馬は今までに感じたことのない楽しさを味わっていた。

 それからは何をするにも、冬馬は直輝と一緒に行動した。体育の授業でペアを組むのもいつも一緒、クラスの係も図書係で一緒、もちろん休み時間は一緒に遊んだし、給食も一緒に食べた。いつしか、冬馬にとって直輝は一緒に居て当たり前の存在になっていった。

 そして、小学校を卒業する頃には直輝のお陰もあって、次第に他の人ともそれなりに会話が出来るようになっていた。まだ少し恥ずかしがり屋な面はあったが、直輝に出会う前の内気で自分の殻に閉じ籠る冬馬の姿は消えていた。

 それから中学生になると、直輝以外にも何人かの同級生と仲良くなった。とは言っても、直輝を介して知り合ったので名前もはっきりと覚えていない。あだ名で呼び合っていたので、顔とあだ名ぐらいしか知らなかった。それでも冬馬にとっては充分だったし、何より楽しかったからそれで良かったのだ。それまでは友達なんていなかったのだから、気軽に喋れる同級生がいるだけで幸せだった。


 だが、その幸せはある日突然、消えて無くなってしまう。



 直輝が死んだのである。



 最初に聞いた時は信じられなかった。

 いつも一緒に居た存在が忽然と消えたので理解出来なかったし、現実を受け入れられなかった。前日まではいつもと同じように過ごしていたのだ。だから、当然のように次の日も会えると思っていた。居なくなるなんてことは考えたこともなかったし、想像すらしたことがなかったので、やはり信じ難い現実だった。

 だが、母に連れられて行った葬式でその現実を目の当たりにした。そこには横たわって動かない直輝の姿があったのだ。顔を見ても死んでいるなんて思えない。事故死だと聞いたが目立った外傷などはなく、ただ眠っているようにしか見えなかった。


 冬馬はそれからの事を覚えていない。あまりにも衝撃的過ぎて、パニックどころか記憶が飛んでいた。気が付くと家に戻っていて、自分の部屋で傷心により茫然自失になっていたのだ。

 そして、次の日からしばらく学校には行かずに自分の部屋に閉じ籠ってしまう。直輝の居ない世界など信じたくなかった。そんな世界で生きる意味など無いとさえ思った。生きていく希望も気力も湧かなかったのである。


 少しだけ落ち着いたある日、ふと思い立って学校へしばらくぶりに行くと、直輝と仲の良かった同級生はみんな居なくなっていた。担任の教師に聞くと、「転校した」とだけ教えられた。ただ、冬馬にとってそれはさほど重要なことではなかった。直輝が居ないとその人たちとも繋がっていなかったし、個人的な付き合いもなかったからだ。


 つまりは結局のところ、冬馬は直輝に依存していたのである。だからその存在が無くなると、冬馬の心は虚無になってしまったのだった。


 その日から冬馬はただ時間が過ぎていくだけの生活になった。だが、冬馬にとってはこの時間が心を癒し、そして生気を回復させてくれた。この苦しくて辛いだけの『直輝が死んだ日の記憶』を忘れるという代償を払って……。



 冬馬は魔霊秀吉が言った「狭間直輝を殺した」という言葉で、当時の記憶と感情が鮮明に蘇ってしまった。負の感情が心の底から湧き上がってくる。今まではこういった辛くて苦しい時は、グッと我慢してひたすら耐えてきた。だが、今の冬馬にこの負の感情を抑えることは出来なかった。制御不能に陥った冬馬の心は黒く塗りつぶされるかのように感情が削がれていき、自分が自分で無くなっていくのがわかった。遠のく意識の中で、冬馬は成す術もなかった。


(直輝……)


 そして、程なくして冬馬の意識はなくなってしまったのである。




ここまで読んで頂き、ありがとうございます!


更新が遅くなって申し訳ありません。今後は章の終わりまである程度定期的に更新できると思いますので、今後とも、よろしくお願いします!


次話は明後日には投稿出来ると思いますので、また読んで頂ければ幸いでございます。

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