35話 知られざる過去
魔霊が不意を突いて狙ったのは勇一だった。
その時、冬馬は……
魔霊秀吉が猛然と勇一に迫る。その行動があまりにも俊敏で隙を突いたものだったので、当主たちの動きがほんの一瞬遅れた。すぐさま天端石雪が飛び出して追いかけるが、これは恐らく間に合わないだろう。
「なんで俺のところに来るんだ!?」
勇一は明らかに狼狽した顔で慄いていた。魔霊秀吉をただ見ているだけで一歩も動こうとはしない。恐怖で体が硬直しているのだろう。終いには手で頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。勇一自身で何とかしなければ防げないのだが、当の本人が恐怖で戦意を喪失していたのである。
勇一は光太と違い、精神的に脆い部分が見受けられる。頭は切れるのだが、いざという時には物怖じしてしまう性格なのだろう。その要因としては霊気を詳細に感知出来るということが挙げられる。それは冬馬が指輪を初めて嵌めた時の様子を見てもわかるだろう。それが故に細部にわたり色々な事まで気付き、相手の霊力も事細かにわかってしまうということになる。だから魔霊秀吉の恐ろしさも人一倍に理解してまうのだ。相手を自分よりも遥かに強いと認めてしまうと、勇一はそれに対して抗うという気持ちが出て来ないタイプなのだろう。
勇一は諦めてしまったかのように、魔霊から目を逸らして現実逃避したのである。もう無理かと思われたその時、すぐ近くにいたこの男だけはまだ何も諦めていなかった。
その男とは――――冬馬だった。
冬馬は光太が言った、「守護師に乗っ取る」という言葉だけで何となく理解した。それは魔霊秀吉の次のターゲットが勇一であること。そして、もし怨念に憑りつかれでもしたら、先程の光太のように自我を失い暴走するかもしれないということだった。最悪の場合は秀吉自身が勇一の体を乗っ取るということなのだろう。
しかし、そんな事は冬馬にはよくわからない。冬馬がこの瞬間に思ったことは、「勇一がピンチ」と「あの魔霊はヤバい」、そして「救えるのは自分しかいない」ということだった。
ひょっとして勇一を庇うことで自分が死んでしまうかもしれないのに、どうしてそう思ったのかは冬馬自身もよくわかっていない。ただ一つ言えることは、冬馬の心に『死』という概念が強烈に存在していることだ。父の死、そして親友の死によって、それが冬馬の心を強く支配していたのだ。もうこれ以上、身近な人の死を経験したくなかったし、当然ながら見たくもなかった。心をえぐられるような想いは二度としたくない。それは絶対に阻止しなければならないという湧き上がる気持ち。これはもう信念と言ってもいいような、そんな冬馬の強い想いだった。
「ぼくは死なないって決めてるから死なない。だから、ぼくにも出来ることがある!」
冬馬は咄嗟に勇一の前に立った。どうやって防いだら良いのかなんてわかる訳がない。だが、やるべきことは知っている。それは霊気を集められるだけ集めて、それを使うこと。
そして出来ることはもう一つだけあった。それは守護師指輪を使うことである。
『右手はいざっちゅう時以外、使うたらあかんっ!』
冬馬が初めて指輪を嵌めた時、準が言っていたこの言葉がずっと頭に引っ掛かっていた。今がその『いざ』という時ではないか。そう思った冬馬はどうなるのかも考えず、迷わず左手小指に嵌めている指輪を右手の小指に付け替えた。
魔霊秀吉を受け止めるかのように両手を前に突き出す。そして勇一を守るために想いを霊気に伝えた。
《みんな、ぼくに力を貸して!》
想いを念じるように発した言葉が言霊になる。そしてそれが冬馬の霊力となって、突き出した手に凄まじい勢いで集まって来た。一瞬、冬馬はその膨大な霊気の怨念に呑まれそうになる。
「ぐあああああああっ‼」
色んな霊気の想いが体中を巡って行く。吹っ飛びそうになる意識を懸命に繋ぎ止める。とにかく必死で堪えるしかないのだ。ただ、今の冬馬には雑念など一切なかった。次第に膨大な霊気をもコントロール出来るようになっていく。
「あの子、ひょっとして右指輪を……!」
美姫が冬馬の指輪に気付いたようだが、もうすでに魔霊秀吉が冬馬にあと数メートルという所まで来ていた。冬馬の目の前に小さな薄黒い壁が出来上がったと同時に、魔霊秀吉の振りかざした刀がそれに接触した。
傍から見れば、魔霊秀吉が振り下ろした刀を冬馬が素手で受け止めているようにしか見えないだろう。冬馬は霊気で武器を作ろうとはしなかった。そもそも作ったことが無いので咄嗟には出来なかったのである。
「今日ここでまた水気を潰してやるだぎゃあああああっ!」
「止まれえええええっ!」
お互いの雄叫びのような叫び声が辺りに木霊する。それから間もなく、「ガシッ‼」という大きな音の後に「ドンッ!」という轟音が響き渡った。お互いの薄黒い霊気と青い霊気が入り乱れるように弾け飛び、その衝撃と轟音が地鳴りのように拡散していく。周りにいた守護師たちも踏ん張って衝撃に耐えている。
「ぐぬぬ……! あいつは魔霊の攻撃を霊気の障壁だけで受け止めようと言うのか! いくら右指輪だからといって無茶し過ぎだ!」
温厚そうに見える三之丸当主が柔らかい顔つきを顰めながら叫び、気難しそうな本丸家当主は口を大きく開けてあんぐりとしている。それ程までに指輪を右手の指に嵌めるという状況が特別なことなのだろう。
冬馬にその違いがわかることがあるとすれば、霊気が集まる量が桁違いに多くなったことぐらいだった。それに伴い、心と体に掛かる負担も比例するかのように大きくなっている。今までのように好き勝手に使うイメージでは、恐らく数十分と持たないだろう。魔霊秀吉の振りかざした刀を霊気の壁で押さえながら、冬馬はそんな感覚が頭を過っていた。
「準が言ってた言葉の意味がよくわかった! なんて凄い霊気……!」
そう感じていたのも束の間、冬馬の体がじりじりと後方へと下がっていった。魔霊秀吉の力に押されていたのだ。それに伴い、冬馬の体中に激痛が走る。
「うおおおおおおっ!」
霊気の使用過多に体が悲鳴を上げ始めたのだ。それでも冬馬は怯むことなく、霊気を使うことに意識を集中させる。すると後ろへ下がっていた体がピタリと止まった。魔霊秀吉の勢いを何とか食い止めたのだ。
だが、その代償は高かった。無理をさせた体が言う事を聞かなくなり、力なく片膝を突いてしまい頭も地面の方へと下がっていく。
そこに魔霊秀吉が止められた刀をもう一度頭上に振り上げ、今度は両手で握った柄の部分を真下に振り下ろそうとした。
「もろうたがや!」
「あっ!」
冬馬は思わず声を上げた。咄嗟に防御しようとしたのだが、体が動かなかったのだ。前につんのめった状態で、頭上が無防備のガラ空き状態になってしまっていたのだ。
「ここで水気を完全に消してやるだがやっ‼」
にんまり顔の魔霊秀吉に冬馬が戦慄した瞬間、冬馬の耳に待ったを掛ける声が聞こえた。
「させない!」
冬馬が辛うじて顔を上げて目にしたのは、白く鮮やかに光った大きな弾丸。その弾丸とは雪の大きな体だった。重心が完全に前のめりになった状態で猛然と魔霊秀吉に迫っていたのだ。その左手には霊気でいつの間にか霊気で模造した刀が握られている。
「また金気かやあ!」
後ろを振り向いていた魔霊秀吉が青く発光した体を雪の方へ反転させると、すぐに雪の霊気の刀が到達した。魔霊秀吉は手にした刀を前に出して防ごうとしている。そこで冬馬は体に力が入らず、そのまま俯せに倒れてしまった。
「やっぱりこうなるわよね……」
美姫の溜め息交じりの声は冬馬には聞こえていない。
刀を横にして白い弾丸を受け止めようとした魔霊秀吉だったが、雪の攻撃はそれを上回るほどに凄まじかった。雪は両手で刀を握ると同時に魔霊秀吉に切り掛かり、そのままの勢いに任せて体ごとぶつけるようにして前方へ押して行った。雪の右手の親指にはキラリと白く光る指輪が嵌められている。冬馬と同じで、今の雪は普段よりも数段に霊力が上がっているに違いない。
「負けない!」
雪が力強い口調で気合いを入れると、堪らず魔霊秀吉の体が後方へと動き始めた。魔霊秀吉は雪の勢いを止められなかったのだ。二人の体は刀と刀を交えながら、倒れている冬馬の頭上を飛び越えて行く。そして、そのまま神社内にある社の方へと迫っていった。
「畜生め!」
グイグイと押している雪に対し、さすがに魔霊秀吉も分が悪いと見たのか、突然体を後ろ側に倒した。
「――!?」
雪は力を入れて押していた相手が突然居なくなったので、空を切るような形で体が前傾姿勢になった。雪の体は頭からダイブする格好になってしまったのだ。その雪の下に潜り込むような形になった魔霊秀吉は、倒れたその反動を活かして雪の腹部を両足で大きく上に蹴り上げた。
「んぐっ!」
不意を突かれた雪は体勢を崩しながら社の方へ飛ばされてしまう。このまま飛んでいけば社の壁に激突してしまう。だが、雪は大きな体を器用に前転させて体勢を立て直すと、地面にしゃがみ込むような格好で地に足を突きそのまま滑っていく。
着地して停止した雪はすぐさま後ろを振り返り、魔霊秀吉の位置を確認する。
「どこに行った!?」
同じ目線の高さに居ないことに気付き、ふと空を見上げた。そこには宙に浮いた状態で止まっている魔霊秀吉の姿があった。
魔霊秀吉は雪を蹴り上げた後、そのまま後ろに一回転してから地面を蹴り上げ、空に向かって上昇していたのである。魔霊ともなると空を飛べるようで、地上から数メートル上空で浮いている状態だ。不快極まりない顔で雪を睨みつけると、さらに上昇していく。
「たわけどもめ……」
それから魔霊秀吉は上から倒れている冬馬を見下ろすように目線を下方へ向けた。
ここで美姫と舞美子が冬馬と魔霊秀吉の間に入り、他の守護師たちもそれに追いつき加わった。透かさず舞美子が指示を出す。
「美音、防御壁!」
「承知っ!」
美音が両手を前に突きだして言霊を唱える。
《我が魂に集いし金気たちよ 我が前で壁となり 我を堅守せよっ!》
美音の前に白い大きな壁が現れた。この障壁は舞美子が作った“攻撃を逸らす盾”よりも、守りを重視したようなどっしりとした大きな作りである。
「明日美は美音の護衛を!」
「承知や!」
明日美も身体強化を強めて美音の側に立った。
一方の魔霊秀吉は宙に浮いたまま動きが止まっていた。勇一に憑りつこうとして失敗に終わったのだが、邪魔をされた雪をじっと見つめていた。それから首を動かして、最初に邪魔をした冬馬を見つめた。眉を顰めて何やら口元が動いている。何か考え込んでいるようにも見える。
倒れた冬馬は思うように体を動かせなかった。激しい運動をした後の筋肉疲労のような症状で、体中に激痛が走っている状態だ。俯せてひたすら痛みに耐えていると、舞美子が近寄って来て冬馬の右手の小指から指輪を外し、そのまま左手の小指に付け替えた。すると、体の痛みがすぐに引いていき、程なくして自力で起き上がれるぐらいまで回復したのだ。
「あ、あれ!? 体の痛みが無くなってる……。どうして?」
「あんさんの水気のお陰やなぁ」
水気と聞いて、舞美子が説明してくれたことを思い出した。
『水気とは“生”の根源であり、癒しの力でもある』
冬馬は現実味を帯びていない不思議な力に感心するしかなかった。自分の両手を見つめながらグーとパーの形を交互に繰り返していると、駆け寄って来た美姫が開口一番に冬馬を怒鳴りつけた。
「ちょっとあんた! 右指輪で何してるのよ!」
「ひいっ!? ご、ごめんなさい……」
ただでさえ怖い雰囲気の美姫に大声で怒鳴られたので、冬馬は体をびくつかせて驚いてしまった。
だが、右指輪が何のことを言っているのかはすぐにわかった。自分の右手の小指を見つめる。今は左手に嵌められているが、右手に指輪を嵌めた途端に大量の霊気が凄まじい勢いで集まって来たので恐らくこれのことだろう。
「それは守護霊を……」
美姫はそう言い掛けて途中で言葉を飲み込んだ。
「ハァ……今はそれを言っても仕方ないか。それはね、無闇矢鱈右手に付けていいもんじゃないのよ」
今度は声のトーンを抑えているが、美姫の表情は呆れたような顔になっている。ちょっと安心した冬馬は深呼吸してから、美姫の顔を見た。
「そうなんですか……。知らなかったとはいえ、すみませんでした。ただ、準からは『いざ』っていう時に使うもんだって聞いていたので。そうしないとこの人が死ぬと思ったんです」
そう言って冬馬は勇一に視線を移した。勇一と横にいる光太も覇気がなく、青ざめた顔をしている。冬馬が身を挺して勇一を守った訳だが、美姫にしてみればかなり無理があったようだ。怒っているというより、むしろ心配して諭しているような感じである。
「それはそうなんだけど、あんたは右指輪してどうなるかわかってないでしょ?」
「はい……。あっ、でも、付けてみてわかりました」
「あんたねえ……」
まるで他人事のように言う冬馬に美姫は完全に呆れてしまったようで、また大きく溜息を吐いた。バツが悪そうに頭を下げた冬馬に声を掛けたのは、もう一人の主家の当主だった。
「フフフッ、その選択は間違いではありませんから気にしなくて結構ですよ」
そう言って望楼月也は左手人差し指につけている指輪を右手の人差し指に付け替えた。
「――あっ!」
その瞬間、背筋が凍るような感覚に陥った。感じた霊気の強さがあまりにも大き過ぎたのだ。この望楼月也の実力は、やはり犬走美姫と並ぶ主家の守護師であるということが窺い知れる。
「ああ、驚かせてすみません。ですが、今は緊急事態なのでご了承願います」
軽く微笑んだ月也は何事も無かったかのように平然としている。その手に嵌めた指輪をよく見ると、冬馬と同じように薄っすらと光っていた。だが、冬馬と違う箇所がある。それは色もそうだが、指輪の台座になっている平らな部分に何か絵のような模様が付いていたのだ。冬馬はその絵柄がどこかで見たことがあるような気がしたのだが、すぐには思い出せなかった。
月也はスッと指輪を隠すように左手で右手を覆いかぶせると、美姫に向き直した。
「いくら守護師名家の力が強大であっても、あの太閤秀吉が相手ですからね。我々が魔霊と対等に戦うにはこれしかありませんよ」
「……そんなのわかってるわよ。ただ、知らないで使うのは危険すぎるわ」
そう言って美姫も自分の嵌めている指輪を見つめる。美姫の指輪も右手の人差し指に嵌められていた。
「確かに、一歩間違えれば死に至る事もありますから、ちゃんと教えてあげないといけませんね。それに今は『御霊卸の儀』をする訳ではないですからね」
月也の『死』という言葉に、冬馬は気付かされた。あのまま無理をして使い続けていたら、一体どうなっていたのか。そう思うと、改めて使い方を考えなければと痛感したのだった。
「まあ、結果的には守れた訳ですし、もうその辺でよろしいかと。こないな守護師でも見殺しにする訳にはいきませんから」
沈んだ冬馬を庇うように優しい口調で舞美子が微笑んだ。人の命を守ったのだから仕方ないといったところだろう。
そして、舞美子のその言葉で美姫と月也が光太と勇一の方に視線を移す。すると、二人は何とも物恐ろしい表情で目線を逸らしてしまった。いくら主のいない在野の守護師でも、主家の当主には頭が上がらないようである。大企業の社長クラスを目の前にしたサボり癖のあるアルバイト従業員といったところか。守護師界のトップであるこの当主たちの前では、二人とも借りてきた猫のように大人しくなっていた。
望楼月也はそれを冷やかな目で見た後、舞美子に振り返った。
「それにしても、ここからが肝心です。我々がここに集まったのは、そこにいる二之丸家の跡取りに『認定の儀』をする為だけではないのでしょう? あなたの本当の目的を達するためには、事を慎重に運ばないとまた逃げられるかもしれませんよ」
「言わずとも全てお見通しということですね」
舞美子は不敵な笑みで月也を睨み返すように見つめた。それに対し、月也も同じように不敵な笑みを浮かべる。この二人はまるで腹の探り合いでもしているかのようだ。同じ守護師同士でもそれぞれの思惑でもあるのだろうか。
「フフッ、勘違いしないでください。他意はありません。これは我々守護師一同が気に掛けていることですからね」
そうこうしている間にも、社の側で雪が身体強化をさらに強めて魔霊秀吉に備えている。その反対側では美音が障壁を作っていて、それを守るように明日美が横に立っている。そして本丸家当主と三之丸家当主がその前に立ち、魔霊秀吉の動きに注視していた。他の者たちは少し離れた場所から見守っている状態だ。
それがあるからなのだろう。舞美子と月也が会話を継続している。
「それで、あの魔霊から彼の手掛かりを引き出すとは言っても、あまり悠長なことはやっていられませんよ?」
「承知しております。ですが、あの“桐の御方”がここに現れたのは、やはり彼が関連しているのは間違いないと思われます」
「なるほど。では、彼はまだ生きている、ということなのですか?」
舞美子と月也の会話に出て来る『彼』とは誰のことなのだろうか。四年前に何かがあったことは間違いないのだが、冬馬には知る由も無い。ただ、冬馬の心はなぜかこの時から胸騒ぎを覚え始めた。
心がざわつき不安になる。彼とはいったい何者なのか。ひょっとして自分に関係している事なのかもしれない。そう疑問に思っていると、その答えを意外にも魔霊秀吉から聞くことになる。
「何をブツブツ言うとるだぎゃ。お主らの目的なんぞ端からわかっちょうよ。どうせ四年前に消えたあの小童のことを捜しちょうよ? それでワシに探りを入れて聞き出そうとしとるんだがや」
「ふふふ、さすがは太閤はん。頭が切れるんは生きてる時と変わらへんのと違う?」
「フンッ、うるせえだぎゃ。守護霊を使わんとワシに対抗するんは裏が有り過ぎて、もう表になっとるだがや」
「せやったら教えてもらわれへんやろかぁ?」
「水気嫌いのワシを誘き出そうと二之丸家の跡取りをここへ寄こしたんじゃろうが、生憎じゃったなあ。あの小童はもう死んどるがや」
「――!」
舞美子と月也は一瞬眉を顰めたが、すぐに不敵な笑みに戻った。だが、他の名家当主たちの顔色は驚きの表情になっている。その面々を魔霊秀吉は嬉しそうに見渡すと、今度はにっこりと笑った。
「間違いにゃあて。四年前、西之丸家の娘は仕留め損ねたが、狭間家の跡取りはこのすぐ近くでワシが殺したがや。このワシがなあ!」
「えっ!? 四年前にこの近くで殺したって……まさか!?」
冬馬は心臓の鼓動が段々早くなっていくのがわかった。先程から感じていた胸騒ぎが、ここに来て活発になり始めたのだ。
「ギャハハハハハッ、そうだがや! 水気系統の狭間家と西之丸家の生き残りはワシが潰したんだがや! 狭間家の跡取りの方はちゃんと息の根を止めてやったがや! それはお主らも見ていたがや?」
美姫の顔が渋面に満ちていく。他の当主たちは怒りに満ちた表情になっている。さすがに舞美子と月也の表情からも不敵な笑みが消えていた。
「西之丸ってどこかで聞いたことあるような……。けど、狭間なら知ってる……」
冬馬はふわふわする頭で考えたが、『西之丸家』については誰なのか思い出せななかった。だが、『狭間家』ならすぐに誰なのか思い当たったのだ。それは冬馬が良く知っている人物と同じ苗字だったからだ。
「なんだお主、西之丸家も狭間家も知らにゃあのか。知らにゃあのなら教えちゃるがや。二之丸家の下に就いとる八下のことだがや。狭間家の跡取りの名前は何て言いよったかいなあ……。あ、思い出したがや! 確か……」
「……まさか!」
驚愕の顔をした舞美子に、魔霊秀吉がまた嬉しそうにしたり顔で見つめた。そしてその後、魔霊秀吉の口から冬馬にとって衝撃の名前が聞こえてきた。
それは―――――
「狭間直輝と言ったかいなあ?」
「狭間……直輝……‼」
その名前を聞いた瞬間、冬馬の頭の中は真っ白になった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
これまで深く触れて来なかった冬馬の親友の直輝ですが、ようやく明らかになっていきます。四年前に何があったのかも、少しずつわかると思います。
次回もどうぞよろしくお願いします!




