表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月影の守護師  作者: ドッグファイター
第一章 守護師覚醒編
34/67

34話 魔霊の登場

光太から飛び出した黒い影が動き出した。

そこに現れたのは……

 (いびつ)な黒い影が渦を巻きながら()()の形を(かたど)っていく。よく見ると何かの絵のようにも見えてくる。冬馬にはそれが植物の絵のように見えたのだ。

 草が三本縦に並んで生えていて、それぞれに小さな葉が付いていた。真ん中の草には葉が七枚、その両脇の草には葉が五枚付いている。そしてそれぞれの草の根元からは、さらに大きめの葉がだらりと下に垂れ下がっていた。


「やっぱり出て来はったわ。『五七(ごしち)の桐』の御方(おかた)がなあ」


 口調は落ち着いているが、舞美子の顔は少し怒りを(にじ)ませたような表情に見えた。冬馬はまだ会って間もないが、初めて見るその顔がとても印象的だったのだ。これまでずっとどこか余裕の表情をしていた舞美子のこんな表情を見ると、それ程までにこの黒い影がどういう存在なのか理解出来たのである。

 それにしてもこの模様は何なのか。冬馬には何かの葉っぱの絵にしか見えない。これが何を意味するもののかさっぱりわからなかった。


「あの絵の模様は何か意味があるのかな……」


「あれは家紋(かもん)といって、家柄を示す紋様だ。ちなみにあの家紋は『五七桐(ごしちきり)』とも言うんだが、目の前に見える家紋はその中でも特別な家紋だ。あれは別名『太閤桐(たいこうきり)』とも呼ばれている」


 冬馬の後ろから陰陽師の泰典がそっと教えてくれた。

 

 家紋とは――――古くから出自といった自らの家系や血統、家柄や地位などを表すために用いられてきた紋様のことである。戦国時代には各家でそれぞれ個別に家紋が使われており、その紋を見ただけで大体どこの家かわかったのである。ただ、他家と同じ家紋を使用している場合も多くあり、一概にその家紋だけでどの家なのか断定は出来ない。また、羽織や武具、刀や甲冑などに好んで多く使われており、今でも家系図と共に受け継がれている物のひとつである。

 それでもこの家紋は特徴があるようで、泰典は誰の家紋なのかすでに見抜いているようである。


「たいこうきり……?」


 冬馬は『太閤』と聞いてもピンとこなかったのだが、次の舞美子の一言で誰のことを指しているのか鮮明にわかったのである。


「戦国時代、つまりのところ安土桃山時代の太閤さん、って言うたらわかるやろかぁ?」


「……え? あっ、聞いたことがあります。確か……太閤秀吉(ひでよし)だったかな。……えっ!? 秀吉ってまさか!」


「まあ、そのまさかやなぁ」


 舞美子の顔がまたいつもの笑みに戻っていた。気のせいかもしれないが舞美子の表情から少しだけ緊張が取れたように冬馬の目には映ったのだ。それを見た冬馬は少しだけ安心した気持ちになった。冬馬もやはりどこか緊張していたからである。


 しばらくすると、やがて『五七桐』の家紋に姿を変えた黒い影は光を強く発していき、そして薄暗い光から青い光へと変わっていった。


「青に変わった!? ど、どういうこと!?」


「青っちゅうことは木気(もっき)の属性や! 魔霊にも五気の属性があるんか……!」


 冬馬と準はお互いに顔を見合わせて叫んでいるが、その間にも青い光になった『五七桐』はその形をさらに大きくしていく。この反応を見ると、準も冬馬と同様に、魔霊という悪霊を初めて見るようだ。

 それから青く光った紋様は人間が一人収まるぐらいの大きさになってピタリと動きを止めた。『五七桐』は青く煌々と光り輝き、まるで心臓が動いて呼吸をしているかのように、その光度を強弱させている。


 そして――――


 『五七桐』の真ん中に一本の線が縦に入ると、すぐさま家紋の絵が真っ二に割れるように開いた。まるでおとぎ話に出てくるあの桃のようである。桃が割れるようにして二つに分かれると、やがて家紋は煙霧のように消えていった。

 すると、そこから人影が現れたのである。その人影はまさに人間のように見え、額に手を添えてゆっくりと首を左右に振るという大袈裟な動作で辺りを見回している。そして、やはり人間のようにニヤリと笑った。


「ほうほう、これはようけ集まっとるな! なんでゃあ、今日は祭りでもあるんかあ?」


 少し意地悪そうな笑顔で現れたのは、小柄な体躯の男の姿だった。頭が時代劇で見るような黒い烏帽子(えぼし)を被っており、その身は見るからに派手な衣装を纏っている。目がチカチカする様な金と赤の色が入り混じった羽織袴だ。正確に言えば、これは胴服(どうふく)指貫(さしぬき)とよばれる戦国時代によく着用されていた服装なのだが、現代人から見れば和装した姿という印象だろう。右手には刀が握られており、威風堂々としたその立ち姿は肉眼でもはっきりとわかる。その体は守護師が身体強化をしているかの如く、全体が薄暗い青の光に包まれていた。

 しかし、この男の特徴はやはりその顔だろう。丸っこい目の横にはしわがあり、小さな鼻におちょぼ口。輪郭が顎のラインにかけてスリムになっていくその顔は、まさに『猿』そのものだったのだ。


「これが魔霊なんか……」


 準が目を丸くして(おのの)き、そして顔が青ざめていく。勇一も同様に感じているのか、体が小刻みに震えている。この二人が戦慄しているのは恐らく、この魔霊の持つ霊気を感じ取ったからだろう。影の時には感じられなかった霊気が、今は漏れ出すかのように膨れ上がっていた。この場にいる全員がそれを感じ取っているに違いない。


 魔霊(まりょう)とは――――戦国武将が悪霊化した禍々(まがまが)しき存在である。その霊力は一般的に現れる悪霊の比ではなく、その(ほま)れ高き魂に集う霊気は想像を絶する量だ。それに怨念の塊であるが故に只の悪霊ではなく、人々に甚大な害悪をもたらす存在なのである。かつて英雄と(うた)われ(あが)められた存在が、いつしか人々から恐れられ(うと)まれてしまった。悪魔や魔物といった荒唐(こうとう)無稽(むけい)な『魔』という比喩になってしまったのは仕方のないことかもしれない。

 そしてその特徴と言えば、この魔霊のように“自我”が存在するということだろうか。


「これは出迎えご苦労だぎゃ。それにしても久しい顔が見えるのう! ひょっとして名家の連中がワシの為に集まってくれたんかの。ギャハハハハハッ!」


 この魔霊の登場により、この場の緊張が一気に高まった。それは皆の顔を見れば否が応でもわかるものである。これほどの圧倒的な霊力を誇る魔霊を相手にするとなると、熟練の守護師たちでも身の危険を感じるものなのだろう。


「フフフッ、やはり出て来ましたね。捜していた特等級の大物が……!」


 主家である望楼(ぼうろう)家当主の月也(つきや)は軽く笑いながら見つめてはいるが、顔はやや紅潮させていたのだ。本丸家当主と三之丸家当主の二人も、目の間にしわを寄せて神妙な顔つきで身構えている。そして、陰陽師の泰典だけは相も変わらず表情を変えずに一歩離れた場所で立っていた。


「舞美姉さんの判断で()()()を召喚するから、その時は合図をお願い」


「承知しました」


 美姫と舞美子が小声で確認している。恐らくこの魔霊に対する作戦があるのだろう。この魔霊が出て来ることが分かっていたようなので、対策を十分に取っているようだ。これだけでも緊迫した空気が張り詰めていくのである。

 しかし、こんな緊迫した空気感が伝わらないような、鈍い感覚の持ち主が残念ながらこの場には居たのである。


「本当に猿みたいな顔してるんだ、豊臣(とよとみ)秀吉(ひでよし)って……」


 そう呟いたのはもちろん冬馬である。冬馬の天然は魔霊を目の前にしても臆することはなかった。ただそれは、この魔霊の霊気の強さを感じてはいるのだが、魔霊の真の恐ろしさを知らないだけであった。知らないという事は時として力を与えてくれるものではあるが。冬馬はこの魔霊の顔を感心するかのような表情でじっと見入っていたのである。

 そして緊張感が無いと言えば、やはりこの二人も同じだった。


「ウキャキャキャキャッ! お前、いくら何でも本人目の前にして『猿』って言うたらあかんやろ、『猿』って! ウキャキャキャッ!」


「明日美、それ以上(わろ)うたらうち、耐えられへん、もうあかんわ。……サル、クククククッ!」


 明日美と美音の姉妹は腹を抱えて笑い出してしまった。さすがの舞美子も苦笑いになっている。この二人は緊迫した場面でも物怖(ものお)じしない性格なのだろう。それでも悪いと思ったのか、舞美子の後ろに隠れるようにして腹を押さえている。


「おいおい、なんじゃいお主らは。天下人(てんかびと)であるワシに向かって失敬だがや!」


 この魔霊は怒ってしまったのか、目を見開き、地団太踏むように足をバタバタさせる。すると、また二人の姉妹から笑い声が漏れた。その滑稽な動きが、やはり『猿』のようにしか見えないのだ。本当はこれが『猿』と言うあだ名の由来なのかもしれないと、冬馬は思ったのである。

 その『猿』こと、この魔霊秀吉はゆっくりと守護師の面々を睨んでいく。


「フンッ、まあええだがや。それにしても見ない顔も増えとるようだぎゃ、たかが四年でこうも変わるんかの。みんな死んでもうたんかあ? 守護師とはなんて脆弱な人間なんだがや。いや違ったわ、人外の化け物だったがや。ギャハハハハハッ!」


 今度は少し沈んだ顔をしていたかと思えば、面白くて仕方ないといった笑顔になり大声で笑い転げている。人間そのもののような振る舞いに、冬馬はこの魔霊という存在がよくわからなくなってきた。


「なんか普通の人間みたいに見えるけど、まさか生き返ったということなのかな!?」


「騙されたらあきまへんで。こいつは()()()()やあらへん。()()や。こう見えても守護師を平気で殺すろくでなしやわ。こいつの本質は悔恨やら未練やらの塊なんやからなあ」


「あっ、そうか……さっき感じたのはそれなんだ。恨みと言うか、憎しみと言うか。人間に対して執着しているような感じだったけど……」


 舞美子の真剣な眼差しの言葉で冬馬は我に返った。今、目の前にいるのは『霊』なのだと思わないと駄目なのである。

 しかし、魔霊と言えども元は人間なのだ。そして人間だった頃の感情がそのまま怨念となり、魂に反映しているのである。冬馬が光太の想いに触れた時、何かに邪魔されたような感覚があったのは、恐らくこの魔霊である秀吉が何らかの妨害をしていたのかもしれない。

 その魔霊秀吉は冬馬を食い入るように見つめていた。


其処許(そこもと)ようわかったのう。……さすがは二之丸家の者だがや」


「――っ! どうしてそれを!?」


「そないもん、さっきの水気(すいき)の術でようわかっとるがや」


 魔霊秀吉は視線を光太に向けて、またニヤリと意地悪そうな顔になった。

 この男は自らを天下人と言い、そして呼ばれた名前を否定しないので恐らく豊臣秀吉で間違いないのだろう。戦国武将の魂が霊気によって実体化した姿が今、冬馬の目の前に立っているのである。信じ難い光景ではあるのだが、他の当主たちの顔がどことなく緊張の面持ちで見守っているので本当の事なのだろう。

 しかし、この魔霊秀吉はそんな雰囲気を何とも感じていないのか、当主たちをゆっくりと見回して舞美子に目を止めた。


「四年前だったか、水気の家はワシが全部滅ぼした思うとったが、まさか始祖家(しそけ)の生き残りがおったとはな! 守護師とは小賢(こざか)しい真似が上手いのう。これは愉快だがや、ギャハハハハハッ!」


「四年前? 四年前って何のことを言ってるんだろう……」


「無駄話はもうよろしいやろ? とっとと終わらせましょか!」


「そうね」


 冬馬の疑問を無視して舞美子が語気を強めると、美姫も賛同して霊気を高めていく。そしてそれが雪に準、明日美に美音にも伝わっていく。皆で一気に畳みかけるつもりなのか。


 そう思われた時――――


「うるさいなも、邪魔すんでねえ!」


 嫌悪感を()き出しにして秀吉が右手の刀を素早く振り払うと、そこから青い霊気の波動が瞬く間に拡散していく。

 冬馬は瞬時に感じた。これはただの霊気の波動ではないということを。

 まともに浴びてはただでは済まないだろう。簡単に吹き飛ばされてしまうか、耐えたとしても霊気の怨念によって身も心もダメージを追ってしまうかもしれない。だが、迷っている時間など無かった。


「ヤバっ!」


 思わず零れ出た言葉の直後に冬馬の視界に見えたものは、『根』の紋が入った羽織を着た舞美子の背中だった。気が付けば皆の前に出ていて、霊気による大きな白い盾を模造していたのだ。それはただの盾ではなく、やや『くの字』に折れ曲がったものだ。盾というよりも防壁といった印象で、皆が隠れる程までに大きな壁である。尖った鋭角の部分を前面に出し、皆の前に居座るように配置していた。

 そして秀吉の放った霊気の波動が盾に到達すると、波動が見事二つに割れて後方へと分散させたのである。ただ、舞美子の作った盾もその衝撃で消えてしまった。


「畜生め! まーたおみゃあさんかあ!」


 魔霊秀吉の顔からは笑顔が消えている。明らかに苛立った目つきの視線は霊気の波動を逸らした舞美子に向けられていた。


「それにそっちにおる娘は犬走家の当主か。よくもワシの作った()をあっさり殲滅しくさったのう」


 今度は美姫に目を向け、そして少し薄笑いを浮かべた。恐らくこれは、美音の言う『爆滅迅雷砲』を美姫が大群の悪霊に放ったことを言っているのだろう。

 それにしても、どうも先程から女性の守護師ばかり見ているような気はあるが、美姫は不快そうな顔を隠すことも無く秀吉を睨みつけている。

 そして舞美子はいつになく、ドヤ顔に近い不敵な笑みを浮かべていた。


「目覚めたばっかりで弱いと思うてたけど、そうでもあらへんみたいやなぁ。それにしても、あの秀吉はんに覚えていただけてるなんて光栄やわぁ」


「ちっ、その顔は忘りゃあせんで。四年前、よくもワシを甚振(いたぶ)ってくれたのう。危うく永久に眠りにつくとこだったがや。のう、根石の小娘や」


 どうやら魔霊秀吉と舞美子の間には何か因縁の様なものがあるらしい。周りの者も黙ってその会話を見守っている。


「よう言うわ……。こっちも忘れてへんでぇ。うちらの仲間をえらい目に遭わせてくれたことはなぁ」


「ああ、あれか。あれはあの(ちい)しゃあ小童(こわっぱ)がワシに歯向こうたからじゃ。身の程知らずのたわけだがや。ギャハハハハハッ!」


「何を言っている! あれはお前が――」


「おみゃあは黙っとりゃあ! ワシは今、根石の娘と話とるんじゃ!」


 本丸家当主が怒気を込めて放った言葉を、魔霊秀吉はあからさまに不愉快な顔をして途中で遮った。

 その間に舞美子は美姫にアイコンタクトだけで無言で頷いてから、魔霊秀吉にまた不敵な笑みを向けた。美姫は他の当主たちに目で何やら合図を送り、本丸家当主もあっさりと引き下がって黙り込んでしまった。


「まあよろしいわぁ。そないなことよりあんさん、この状況わかってはるんかなぁ。もう詰んでるんやでぇ?」


 舞美子が魔霊秀吉の注意を惹きつけてるようだ。他の当主の守護師たちがじわりと動き出している。


「名家の六家が揃っているということか。ギャハハッ! それがどうしたと言うんだぎゃ、六家と言うても一人は何も知らないド素人だがや。何か出来るとでも思うとるんかあ?」


「別に六家が揃わんでもあんさんぐらいはどうにでも出来るわぁ。要は邪魔が入らんかったらええだけの話やしなぁ」


「フンッ! それで、こうやって時間を稼いでワシを取り囲んだようじゃが、何かものすごい技でも見せてくれるんかの? ひょっとして、そこの陰陽師でも使うて結界でも張るんかや?」 


 陰陽師の泰典を見やってにんまりとほくそ笑む。その泰典は微動だにせずにただじっと成り行きを見守っているだけである。恐らく陰陽師としての役割が彼にはあるのだろう。手出しはしない方針のようだ。

 ただ、その間にも雪を含めた名家の当主六人が魔霊秀吉を包囲していた。この状況をどうするのか、当主たちの間では舞美子の意思が伝わっているようである。


「ギャハハッ! そんな上手くいくもんかいなあ?」


 囲まれているのに不敵に笑う魔霊秀吉。まだどことなく余裕があるように感じられる。


「そんなことよりどうだぎゃ、ワシと手を組まんかあ? ワシらの魂がどんな可能性を秘めとるか、知りとうないかあ?」


「あんさんアホやろぉ。ああそうですか、わかりましたって言う訳あらへんやろぉ?」


「ワシの魂が蘇れば面白いと思わんかあ? 今のこの日ノ本を変革させてやることが出来るやもしれんでな。かの天下人であるこのワシが、死後にまた天下を取る。どうだぎゃ、お主らもええことばかりだろうて」


「何を寝ぼけたこと言うてはるのぉ? 今の時代、あんさんなんかお呼びやあらへんわぁ。過去の人間が口出すほど今の日本は腐ってへんわぁ。アホらしぃ」


「小賢しいことを言いおって、相変わらず根石の娘は生意気な奴だぎゃ」


「そりゃどうもおおきにぃ。あんさんも相変わらず女好きの楽しいアホで何よりやわぁ」


 舞美子のこの言葉で魔霊秀吉の顔が見る見るうちに怒りの形相に変わっていった。


「ワシに向かってアホってなんだぎゃ! 半兵衛(はんべえ)手懐(てなず)けたからっていい気になりよって、調子に乗るでにゃあ!」 


 恐らく半兵衛とは、豊臣姓を名乗る前の羽柴(はしば)秀吉の頃に参謀として活躍した竹中(たけなか)半兵衛重治(しげはる)のことだろうか。だが、冬馬は誰のことを言っているのかさっぱりわかっていない。冬馬は歴史に関しては全く興味が無く、授業で習った日本史も苦手だった。彼の中ではごく一般的に知られている戦国大名と呼ばれる武将しか知らないので当然ではあるのだが。

 それでも今は舞美子と魔霊秀吉の会話にこの場の全員が集中していた。


「あれはなあ、おみゃあさん如きに扱える代物だねえで。おみゃあさんでは宝の持ち腐れだがや!」


「そんなん、あんさんに言われんでもようわかってるわぁ。そやけどなぁ、これはうちが決めたことやあらへんのやでぇ? 秀吉はんの軍師が()()望んだことやぁ。それをうちがとやかく言うことやあらへわぁ。大好きな軍師はんに振られたからって、八つ当たりもええとこやわぁ」


「んぐぐぐぐっ! 小癪なっ!」


 魔霊秀吉の顔がさらに怒りで満ちていく。こうして見ると人間のように見えるのだが、秀吉は悪霊なのである。それにしても秀吉という歴史上の大物相手にも一歩も引けを取らない舞美子の精神力は大したものだった。悪霊として見てもかなりの霊力があるので、一切の油断は出来ない。それでも堂々としたやり取りは何か深慮があってのことなのだろう。それは今、当主たちが完全に魔霊秀吉を包囲したことが関係しているのかもしれない。


「もう今日があんさんの命日になったらよろしいわぁ。さっきあんさんが言うた通り、今日はあんさんの為に集まったんやからなぁ」


 舞美子が美姫に視線を送り、そして他の当主たちを見て目で確認している。それぞれがお互いに意識を共有しているかのようである。

 しかし、こういう時は得てして思い通りにならないことも多々あるのだ。意識を失っていたと思われていた光太が、ふらつきながらも立ち上がり魔霊秀吉を指差したのである。


「気をつけろ……! あいつは人間の体を……守護師の体を乗っ取る気だ……!」


 この言葉に冬馬や準の顔に動揺の色が広がる。他の当主たちに至っては露骨に顔を(しか)めて嫌悪感を丸出しにしていた。その中でも舞美子の表情だけは変わっていなかった。 

 しかし、一瞬の出来事だったが取り囲んだ当主たちの気が乱れてしまった。


「そんなこと言うてももう遅いだがや。ワシを怒らせるとどうなるか見せにゃあいかんでな! これだけの守護師が集まっとるで、選び放題だぎゃ!」


 魔霊秀吉が突如上へ跳ね上がり、そして守護師たちの包囲を飛び越えて行った。その行く先は先程憑りついていた光太にではなく、勇一に向かってだった。


「ど、どうして俺に……!?」


「今度はおみゃあで試してやるだぎゃ! ギャハハハハハッ!」


 名家の当主たちがバラけたことが致命的だった。美姫や舞美子たちが魔霊秀吉を抑えようにも完全に間に合わない。どうやら魔霊秀吉はタイミングを狙っていたようだ。明日美や美音にしても離れ過ぎているのでどうすることも出来ない。一同はただ、これを見送るしかなかったのだ。

 唯一可能性があるとするならば、勇一の近くにいる一人の男だけなのであった。




ここまで読んで頂き、ありがとうございます!


やっと戦国武将の魂である魔霊が登場しました。戦国武将出る出る詐欺になりかねなかったので申し訳ありません。

それにしても『尾張弁』が難しくて書き切れていないかもしれません。もしおかしい箇所があれば教えていただければ幸いでございます。


では、今後もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ