33話 犬走家当主の力
光太から見事に怨念を祓った冬馬だったが……
冬馬は黒い鳥居から少し離れた場所で倒れた光太をじっと見つめていた。
自分が放った霊気の使い方はこれで正しかったのか。怨念に憑りつかれた光太は救えたのか。正解がわからないのでモヤモヤした気持ちになっていた。まだ周辺に何かがいる、そんな感覚があったのだ。それでも一つだけはっきりとわかることがある。それは光太の体から怨念が消えているということだった。
「一応、あの根石家の怖い人に確認した方が良いかな」
今すぐ舞美子に聞きに行きたかったが、倒れている光太を放って置くわけにはいかない。どうすべきかと冬馬が辺りを見回してみると、周辺にいる悪霊の数はかなり減っていた。変わらず明日美と美音の姉妹が活躍しているお陰のようだ。
「聞きに行くよりも、まずはこの人を何とかした方が良いような気が……。大丈夫なのかな?」
冬馬によって祓われた光太は石畳の上に俯せたままだった。意識があるのかないのか、顔がよく見えないので判断出来ない。さすがに心配になってきたので覗き込もうと光太に近づいた時、冬馬の視界に大きな影が飛び込んで来た。思わずびくついて見上げると、それは駆け寄って来た天端石雪の姿だった。
その雪は冬馬の顔を見るなり、
「お見事」
と真顔で一言だけ呟いてから、光太の腕を取って自分の肩に回して抱え起こした。そこで冬馬は初めて自分の術が間違いではなかったと思えたのであった。それは褒め言葉のようだったのだが、それでも冬馬は嬉しさよりもどこか腑に落ちない気持ちだった。
「あ、ありがとうございます。でも、これで良かったんでしょうか。なんかスッキリしなくて……」
確かに怨念は祓った。しかし、悪霊のように倒したという実感が湧かない。手応えが今一つ感じられなかったのである。冬馬にはその感覚がずっと残ったままだったのだ。
その冬馬のモヤモヤしている要因を雪があっさりと解明してくれた。
「それはあれが原因だと思う」
雪がそう言って目線を鳥居の上へと上げる。ここでようやく冬馬はそこに何かいることに気が付いた。
「うわっ! な、何あれ!?」
そこには歪な黒い影が漂っていたのだ。悪霊とは違って人の形をしていない。それでも霊気が渦を巻いている様は、それがまるで生き物のように見えてくるのが不思議な感じではある。
「あれは死者の魂。あれがこの子に憑りついていたみたい。しかも、あれだけの霊気を集めているのは相当名の知れた大物だと思う。いつ動き出すかわからないから、一旦みんなのところに戻った方が良い」
雪は神妙な顔つきでじっと渦巻いている黒い影を見つめている。その見つめる目は童顔の柔らかい表情からは想像もつかない程の厳しい顔つきになっていた。
冬馬もその黒い影をよく見てみると、渦を巻きながら次第にその姿を大きくさせているようだった。今はちょうど人が一人丸くなって入るぐらいの大きさだろうか。
「あれってもしかして、準が言ってた戦国武将の――」
冬馬がそう言い掛けた次の瞬間――――
――――黒い影が眩く光った後、四方に霊気が拡散していった。
霊気を感じ取ることが出来る者ならば、この異変にはすぐに気付いただろう。そう、この場にいる全員がその異様な霊気の雰囲気を感じ取ったのだ。
「気を付けて!」
普段おっとりとした口調の雪が声を張り上げるように叫んだ。それだけで冬馬の緊張は一気に高まっていく。雪は光太を胴を左腕で持ち上げるようにして脇の下に抱え込み、腰を落として身構えて頻りに周囲を警戒している。光太は依然ぐったりとしていて意識があるのかないのかわからない。
そこへ異変に気付いた明日と美音も残っていた悪霊から離れて、冬馬たちのいる場所までやって来た。明日美は長槍を持ったまま、そして美音は桜の花びらを引き連れてである。
「デカ姉ちゃん、これは何や!? あれが何かしよったで!」
「うちも今まで感じたことない霊気やわ!」
明日美も目を丸くして辺りを見回しているのだが、美音は明日美の背中に隠れるようにして叫んでいる。この姉妹も動揺しているのか、体をくっつけるようにして身構えていた。
「たぶんこれは……。いや、その前にお客さんがいっぱい来るみたい」
雪の顔がさらに険しくなった。なぜなら地面の至る場所から黒い人影が無数に湧き上がって来たからだ。石畳やその脇の土の面から、そして木々の茂みの間からなど、とにかく所構わずそこら中から姿を現し始めた。それは顔の部分に二つの光を宿らせながら、地面の下から浮き上がるように出て来る。明日美と美音が懸命に減らしたあれが、また再び大量発生したのだ。
「あ、悪霊が!?」
冬馬は思わず目を疑った。もちろん、それは悪霊の姿を見たからではない。その数に驚愕したのだ。先程現れた数の比ではない。恐らく何百といった数なのは間違いないのだが、すでに目視で数えられるような状態ではなかった。あっという間に辺りを埋め尽くし、冬馬たちも悪霊の大群に囲まれてしまった。
即ち、冬馬たちと美姫や舞美子たちとが完全に分断されてしまったのである。
「どうする、デカ姉ちゃん! 美音がこいつらの動きを止めて、あたしが舞美姉のとこまで道を作ったらええか!」
明日美は長槍を突き出し、そして美音が手を合わせ目を瞑る。この辺りはさすが息の合っている姉妹だろう。お互いにどうするのか、考えを共有している。この状況下でまずは美姫や舞美子と合流するという考えは、冷静な判断と言って良いだろう。だが、雪は即座に明日美の前に手を広げた。
「ちょっと待って」
雪が美姫たちがいる方向を向いて集中している。恐らく美姫たちの動きを霊気で探っているのかもしれない。とにかく冬馬はこの中で雪の指示に従った方が良いと判断し、その言葉を待つことにした。
その頃、分断された美姫たちがどうなっていたかというと……。
突然、黒い影から霊気が発散されたと同時に異様な雰囲気が漂い始めた。そしてこれが何を意味するのか、熟練の守護師である名家の当主たちはすぐに察知していたのである。
「やっぱり動き出しはりましたなぁ」
「ここからが本番って訳ですね。それで、どうしますか? 軍師さん?」
舞美子の言葉に反応したのは望楼月也だった。見れば、いつの間にやら身体強化の術を発動させている。その体から黄色い微光が発せられていたのだ。月也だけではない。後ろに控える本丸家当主の体は青い光が、そして三之丸家当主の体からは赤い光が発せられている。これはそれぞれの属性の霊気によって色が付いているのである。
「恐れ入ります。まずは周りの兵隊さんを片付けへんと、後々面倒な事になりますよってぇ」
舞美子はそう言って美姫の方へと視線を移す。
「わかってるわ」
舞美子と美姫が会話をしている間に、彼女たちの周りにも悪霊の大群が次々と発生した。こちらも見渡す限り、悪霊でどんどんと埋め尽くされていく。
「な、なんやこれ!? どないなってるんや!?」
準が美姫の手前まで戻ってくると、当主たちの姿を見てまた驚いた顔をした。名家の当主全員が身体強化の術を掛けて戦闘態勢に入っていたからである。
その姿を見ただけで準はただ事ではないと悟ったようで、美姫の後ろに控えて大人しくなった。そのすぐ近くでは勇一もいて、その顔は緊張で引き攣っている。そして神社の社に一番近い場所にいる陰陽師の泰典はというと、普段と変わらぬ強面のままの厳しい顔つきだった。
「舞美姉さん、まずは結界を」
「承知しました」
舞美子はそう答えると、すぐさま手を合わせて唱事を呟く。
《闇夜結界 発動》
その名の通り、舞美子が言霊による結界術を施したようだ。辺り一面が少し暗がりに包まれた。そして何よりの違和感があるとすれば、時が止まったような静寂そのものだった。風も無ければ音も無い。まるでここだけが異空間にでもなったかのような錯覚を覚える程である。
「闇夜を展開するってことは……!」
準が唾をごくりと飲み込む。かなり緊張している様子だ。それもそのはずである。準の見つめる先に、美姫が目を瞑って手を合わせて集中していたからだ。それだけで周辺の霊気が反応して美姫にどんどんと集まって来ている。
「ってことは、あれを出す気ですか!? ……あっ! 冬馬は何も知らんから危ないかも――」
準が咄嗟に動き出そうとしたところを舞美子が右手を出して制した。
「大丈夫やぁ。向こうには雪ちゃんがおるから心配あらへんわぁ。それより、あんさんらも退避準備しときやぁ。陰陽師はんもなぁ?」
「了解だ」
舞美子は勇一にも念を押すように睨みつけてから月也に軽く会釈すると、それを待っていたかのように美姫の集中力が増していく。
そして――――美姫の口から唱事の詠唱が零れる。
《我が魂に集いし土気の者たちに命ずる 地を伝いて 彼の悪霊を殲滅せよ》
美姫は言霊を唱えた後、石畳の上に左膝を突いて屈んだ。そして、そのまま指輪を嵌めている左手を地面に触るようにそっと置いた。
それから一呼吸置くように息をスッと吸い込んだ後――――
《滅!》
美姫が最後に少し強い口調で言霊を叫んだ。すると美姫の体が一段と鮮やかな黄色に輝き、程なくして霊気の光が凄まじい勢いで放たれていった。
美姫が術を使うそのほんの少し前。
冬馬は悪霊の様子にじっと意識を傾けていた。まだ出て来たばかりで動きが鈍い。ほとんど動かずに止まっている状態だ。それでもぽつりぽつりと動き出そうとしている悪霊も数体いる。明日美の言う通り、今のうちに倒して美姫と舞美子に合流した方が良いのではないか。そう考えていた時だった。
――――‼
空気が変わったのだ。いや、止まったと言った方が正しいかもしれない。ずっと感じていた風が止んだのだ。それだけではない。静まり返ったような無音の世界になっている。雪や明日美たちの息遣いが聞こえるほどだ。
「これは!? 何が起こったんだろう?」
冬馬が驚くのも無理はない。まさに時間が止まったような感覚になったからである。
「闇夜発動やな。これだけの結界を展開出来るんは舞美姉しかおらんな」
「クックックッ! 舞美姉様の結界術は陰陽師をも凌ぐと言われている。当然じゃ!」
美音は何故かドヤ顔で冬馬をチラッと見て、「フッフーン!」と言ってにんまり微笑んだ。
「そ、そうなんだ……」
冬馬は困惑した泰典の顔が目に浮かんだ。美音のこの言葉を聞いていたら、恐らくそんな顔をしていたに違いない。
「その『闇夜』って何なの?」
冬馬の疑問には雪が答える。
「正確には『闇夜結界』って言うんだ。その場にある霊気を一時的に外へ出さないように封じ込める術のことで、悪霊ぐらいなら閉じ込めることは可能。でもこれ程の規模は美音ちゃんの言う通り、舞美子様じゃないと無理だと思う」
「へえ、あの人ってやっぱ凄いんですね。人の心も読めるし、ちょっと怖いというか、おっかないというか」
「それ以上は言わない方が良いと思う」
「同感やな」
「お主は何もわかっとらんのう」
それから三人は「うんうん」と二度頷いた。
「…………?」
この三人の言葉の真意は後になってわかるのだが、この時の冬馬にはまだその意味が理解出来なかった。
冬馬が首を傾げていると、また霊気に異変が起きた。今度は霊気が一箇所に集中しているかのように膨れ上がっていく。
「美姫様の霊気がまた強くなってる……!」
雪に言われるまでも無く、冬馬にもそれはわかった。背筋が凍りつくような恐ろしいまでの霊気を感じる。
明日美は何かに気付いたのか、美音と顔を見合わせていた。
「……あっ! ひょっとして美姫姉はあれをやるつもりやな!?」
「むむう!? まさか美姫姉ちゃんの必殺奥義、『爆滅迅雷砲』が出るんか!? うっひゃあ! めったに見られへんし、めっちゃ楽しみやん!」
またもや危機感ゼロの状態に戻ってしまった二人。だが、言ってしまえば美姫の霊気の高まりがそうさせたのである。それだけこの姉妹は美姫と舞美子に絶対的な信頼を寄せているのだろう。
「今度は何!? その『爆滅迅雷砲』って何なの!? でも、その技の名前ちょっとカッコいいかも……」
「うおっ!? この良さがわかるんか!? そうやろ、カッコいいやろ! うちが命名したんやで!」
冬馬の言葉に美音の顔が見る見るうちに「にぱー」と明るくなっていく。腰に腕を当てふんぞり返るように得意顔になった。
「そんなこと言ってる場合じゃない。美姫様の技が発動したら一斉に上へジャンプして。それで舞美子様と合流する」
雪の指示に明日美と美音は『当然』という顔で頷いている。だが、冬馬は意味がわからない。
「え!? どうして上に跳ぶ必要があるんですか?」
「理由は後で説明するから。あっ、来る! 思いっきり跳んで!」
雪の合図とともに冬馬はとにかく思いっきり上へ跳んだ。
すると、霊気の爆発が起きたような振動と音が響き渡った。結界が展開されているせいか、今まで以上にその衝撃と音が伝わって来る。
そしてジャンプした冬馬は驚くほどの跳躍をしていた。身体強化をしているので、通常では有り得ない程の高い位置まで上昇していたのだ。少し高い場所が苦手な冬馬は不安になりつつも、今まさに何が起こっているのか気になった。そこで、冬馬はまだ上昇している状態でふと下方を見てみた。
そこには驚くべき光景が展開されていたのである。
「な、何ですか、これは……‼」
冬馬の目に飛び込んできたのは、数多の悪霊で埋め尽くされている神社周辺。そしてその中を縫うように地面を伝っている、無数に張り巡らされた黄色い稲妻のような光の線だった。
「あれは美姫さん得意の大技や!」
いつのまにか準が近くにいて、ドヤ顔全開で説明している。近くにいたのは準だけではなかった。周りを見ると同じように他の守護師たちも高く跳び上がっていた。先程までは深い森林に囲まれていた風景が、今は周りの視界が完全に開けている。それ程までに高い場所まで跳び上がっているのだ。もう『跳ぶ』ではなく『飛ぶ』と言った方が良いぐらいに、これは常人離れした跳躍であった。ちなみに陰陽師の泰典だけは近くの木の上に飛び退いている。
「す、凄い! これは、次元が違う……!」
「土気の霊気を地面に放って悪霊をやっつける術やな。あれだけの霊気を放つんは相当の霊力が必要になる。せやからこれは美姫さんクラスの守護師やないと出来へん大技や。ま、敵味方関係なく喰らうんがたまに傷やけどな!」
よく見れば、一点だけ黄色に煌々と輝いていた。恐らくそれが美姫のいる場所だろう。美姫を起点にして黄色い光線が四方に向かって地を這っているのだ。それは湧き上がってきた悪霊に向かって無数に伸びている。はっきり言ってこれまでの術とは比べ物にならない程に壮大な術であることは冬馬にも一目瞭然であった。悪霊の数は恐らく数百に達していたはすだ。そのほぼ全てに黄色の光線が伸びており、次々と悪霊の数が減っていくのが目に見えてわかるのだ。跳んで回避する理由とは、こうして地面から離れていないとあの術に巻き添えを喰らうからなのだろう。
「これがあの人の実力なんだ……! 犬走家当主の美姫さん……」
冬馬は初めて美姫を見た時のその横顔を思い出していた。クールで素っ気ない態度だったが、とにかく奇麗だった。恐らく冬馬が今まで生きてきて出会った中で一番と言っていいほどの美少女なのは間違いない。
「ちょっと怖いけど、ほんと奇麗な人だよね」
少し気が強そうで冬馬には苦手なタイプなのだが、それを差し引いてみても心が惹かれる思いだった。
と、ここで重力が働き、冬馬たちはじわりと下降していく。やはり空を飛んでいる訳ではないので当然である。かなりの高さまで跳んだのだ。先程光太の攻撃を避けた時に跳んだ時とは比較にならない。それは地面に着地した際に無事では済まないような高さなのだ。
「やっぱりこうなるよね。これだけ高く跳ぶと落ちたら……って、どうすんのこれっ!?」
一気に無重力状態からマイナスGへと移行する。ジェットコースターに乗って落下する時に感じる浮遊感そのものである。
「冬馬! 霊気を上手く使って降りるんや! さっきやったみたいにやったらええ! そしたらゆっくり降りれるはずやから!」
「わ、わかった! やってみる!」
先程は見よう見まねで上手く出来た。今の冬馬には霊気の使い方が多岐にわたることを理解している。
(念じるように、お願いするように周りの霊気を使うんだ)
冬馬の体が重力に逆らうかのように落下速度がゆっくりと減速していく。それでも空気抵抗は受けるようで、髪の毛や来ているパーカーのフードが揺れている。
「ハァー、良かった……」
冬馬は上手く霊気を操作出来ると安心したのか、また下の様子を見てみた。
「それにしても悪霊がどんどん減ってる。これならあっという間に……」
「いや、そうでもないようやわぁ」
ふと横を見ると、舞美子が不敵な笑みで下の戦況を見つめながら喋っていた。
「そうなんですか? あんなに凄い勢いで減ってるのに……」
「それはそうと、さっきうちの悪口言うてはらへんかったぁ? 美姫ちゃんにはええ印象持ってはるのに、それはちょっとあんまりやわぁ」
「……んぎっ!? え!? い、いや、何のことかよくわかりませんけど……」
「ふふふ、ほんにあんさんは揶揄い甲斐のある素直な子やわぁ」
舞美子はそう言って鳥居の上に留まっている黒い影を見つめている。
冬馬は話題を変えるべく、黒い影に目をやった。その黒い影は依然として渦を巻いているだけである。冬馬から見ると、それはまるで生き物が息をしているかのような不気味な雰囲気であった。
「……あれは何なんですか?」
「あれは魔霊と呼ばれる存在、つまりは戦国武将の魂が悪霊化してしもた化け物ってことやなぁ」
「あれが……魔霊……!」
そう言ったところで冬馬は台座付近にゆっくりと着地した。舞美子や準、雪や他の守護師たちも次々に着地している。見渡せばあれだけ悪霊で埋め尽くされていた石畳の上も、今は外の出口の方まで奇麗に見通すことが出来る。
美姫は皆が着地する直前に術の使用を止めていた。それでも悪霊はほとんどの数がその姿を消している。美姫はすでに立ち上がり、何事も無かったかのように黒い影の方へ意識を集中していた。その横に舞美子が並び、そのすぐ後ろに明日美と美音、そして雪に準、冬馬と勇一が並んでいる。光太は雪によって台座の横に寝かされていた。一番後ろに陰陽師の泰典が木から降りて立っている。
望楼家他の当主たちはそこから少し離れて、美姫の横の方で様子を窺っていた。
「さあて、そろそろあの魔霊はんが姿を現すと思うんやけどぉ?」
舞美子が左指で髪を弄りながら不敵に笑い、鳥居の上を見上げている。他の守護師たちの注目もすでに悪霊から黒い影へと移っている。
すると、その黒い影は渦を巻きながらゆっくりと鳥居の下まで降りてきた。よく見ると、じわじわとその姿を変えていっている。
「何かに変形している……!?」
黒い影はモクモクと煙のように動き、そして何かの絵のような紋様へと姿を変えていった。それでも冬馬には一体何がどうなっているのか、何もわからなかった。
だが、他の当主たちはすでにわかっているようで、じっと食い入るように睨みつけている。とりわけ舞美子の表情が冬馬にはとても印象的だった。
「やっぱり、五七の桐が出て来はったみたいやなあ」
そう言った舞美子の顔がいつもの不敵な笑みではなく、怒りを滲ませたような厳しい顔つきだったのである。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
ついに魔霊が登場します。戦国武将出る出る詐欺に近い状態でしたので、ほんと申し訳ありません。
次回からバッチリ登場しますので、今後ともよろしくお願いします!




