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月影の守護師  作者: ドッグファイター
第一章 守護師覚醒編
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26話 冬馬の固い決意

突然周りを驚かすような発言をした冬馬だったが……

 冬馬の突拍子もない発言に冷静な泰典もさすがに言葉を失った。


「え!? ……あ、いや、君はまだ霊気の扱いを熟知していないから無理だ。霊気の怨念に毒された人間を助けるには熟練の技術が必要になってくる。もう少しで応援が来るはずだからそれまで待つんだ」


「でも、早くしないとマズいんですよね? 暴れないように羽交い絞めするぐらいならぼくにも出来ると思います! その間にお頭さんがお祓いしてくれれば!」


 泰典の説得にも冬馬は引き下がらない。何か出来ることがあるはずだと信じて疑っていない。


「いやしかし、悪霊ならともかく相手はたがが外れた()()だ。何をしてくるかわからない相手をするのは簡単なことじゃないんだ。君は守護師の、いや、霊気の知識が無さ過ぎるから危険だ」


 泰典は冬馬にも理解出来るよう言葉を選ぶようにして説明している。話からすると、冬馬にはやらせたくないような口振りである。冬馬は霊気を扱えると言っても半ば素人同然なのだ。泰典が躊躇するのも無理もないだろう。

 そんな冬馬の言葉を横で聞いていた勇一の顔が怒りに満ちていた。


「……ふざけんな! お前みたいな素人に光太を任せられるか! あいつの命をなんだと思ってる! ふざけんなっ!」 


「落ち着くんだ! 今ここで言い争っても何も解決しない!」


 泰典が興奮する勇一を宥めた後、もう一度冬馬を諭すように喋り出した。


「二之丸冬馬君、君はまだ霊気の本当の怖さを知らない。怨念は君が思っている以上に危険なものなんだ。そんな初心者のような人間に陰陽師の頭として任せる訳にはいかない。わかってくれ」


 最後は穏やかな口調で締めくくった泰典の優しさが、冬馬にもしっかりと伝わってきた。それでも何もしないで見過ごすという事は出来なかった。


「確かにぼくは何も知らない素人です。霊気のことも、守護師のことも、そして父さんのことも。今まで何も知らずに生きてきましたから」


 冬馬はそう言って力なくうつむいた。


 何も知らない役立たずの自分が腹立たしかった。これほど守護師のことを知らない無知な自分が情けなくもあった。もっといっぱい勉強しておけば良かった。もっと色んな本をたくさん読んでおけば良かった。もしそうしていれば、今日というこの日に何かの知識を役立てられたかもしれない。そう思うとより一層に悔しさが募ってくる。

 親友の直輝が死んだ時、生きる気力を失くしてしまった日々。家に引き籠って暗く沈んでいた日々。何もしないで時間だけが過ぎていく日々。考えてみれば時間はいくらでもあったはずだ。だが、いくら悔やんでもその時間はもう戻って来ない。過去は変わらないのである。それでもそんな過去があるからこそ、冬馬はこれから強く懸命に生きると誓ったはずなのだ。


 冬馬は力強く顔を上げた。


「それでも、ぼくに出来ることがあるんだったら何でもやります! 霊気で体を動かすことしか出来ないけど、こんなぼくでも困っている人を助けられるなら、何でもやります‼」


 冬馬は思っていることを吐き出すように叫んだ。誰がどうとかではない。自分がそうしたいのだ。もう後悔はしたくなかった。時間を無駄にしたくなかった。準や泰典は無駄ではなかったと優しく言ってくれたが、それでも冬馬はそれが良かったと思えない。いつかそれで良かったと思える日が来るかもしれない。しかし、それでも今は空白を埋めるかのように、これからの人生を自分の力で生きていきたいという思いで溢れていた。いつか、父や直輝に「ぼくは生きている!」と胸を張って言えるようにと。


 そんな冬馬の熱い気持ちに押されたのか、それとも呆れ果てて根負けしたのか、勇一が口を開いた。


「お前、死ぬかもしれないぞ?」


 真っすぐな目で真剣な表情で話す勇一の顔を見れば、それは脅しで言っているのではないと冬馬はすぐにわかった。

 だから冬馬も思っているありのままの言葉で返すことにした。


「大丈夫! ぼくは死なないよ。死んだ父さんや友達の分まで生きるって決めてるから、絶対に死なないよ!」


 満面の笑顔で答えた冬馬の顔を見た勇一は、しばらくの沈黙の後でため息を吐いて思わず苦笑する。


「決めてるから死なないって、何だよそれ」


 それから勇一は横を向いて喋り出した。


「……ちっ、なら好きにしたらいい。でもどうなっても俺は知らないからね。止めるぐらいなら出来るだろうけど、光太は名家の加護を受けていない在野の中でもトップクラスの実力なんだ。その辺の名家の従者にも引けは取らない。気を付けるんだな」


「ありがとう!」


 満面の笑みで答える冬馬を見て、泰典も心を動かされたようだ。「仕方ない」と呟いて冬馬を見つめた。


「そこまで言うんならいいだろう。だが決して無茶はするな。危ないと思ったらすぐに逃げるんだ。わかったな?」


「はい! ありがとうございます!」


 振り返りながら冬馬はまたにこりと微笑んでから、準のいる鳥居の方へ駆け出して行った。


「あいつは不思議な奴だね。あれだけ一方的に戦いを吹っ掛けたのに、根に持ってないどころか助けるとか言ってやがる。ほんとバカな奴だ」


 勇一はそう言ったが、顔はどことなく柔らかくなっている。冬馬の純粋な思いが勇一に届いたのかもしれない。そんな勇一に泰典も優しく答える。


「恐らく彼は何も考えていないだろう。自然とそう思って行動しているようにしか見えないしな。だが、それが二之丸家という血筋なのかもしれない」


「あんた、二之丸家に詳しいのか?」


「俺が知っているのは、先代が相当なお人好しだったという話だけだ」


 勇一はそれについては何も聞かなかった。情報を集めていると言っていた割に、あっさりとしている。彼の中で何か踏ん切りでもついたのだろうか。「それはたぶん、持って生まれた資質なんだろうね」と独り言のように呟くだけだった。


 駆けて行った冬馬の背中を見つめながら、勇一は台座の横に再び腰を下ろした。やはりまだ肩が痛むようで、また手で押さえて顔をしかめている。

 そんな勇一を泰典は横目で確認すると、神社の方へ振り返り様子を窺う。どうやら神社には異変はないようだ。再び鳥居の方へ視線を移し、羽織の懐に手を入れた。


「さてと、まずはこの霊気を何とかしないと……ん? ……なんだ!? ……あっ!」


 泰典は何かに気付いた。何やら鳥居の向こう側が騒がしい。何かまた別の問題が起こったのだろうか。泰典が鳥居の向こう側をじっと見つめていると、先に駆け出していたはずの準が冬馬と入れ違いに猛ダッシュで戻って来た。


「あかん! ヤバいっ、ヤバいっ‼」


「どうしたんだ!」


 泰典が聞き返したと同時に、“ヤバい”という状況がすぐに理解出来た。

 ずしんと体に響くほどの空気の振動が伝わって来る。


「霊気が濃すぎるわ! ちょっと危ないで!」


 準が台座の前で反転し、そして身構えてから鳥居の先を見つめた。

 すると、程なくして砂埃を巻き上げながら石畳の上を滑るようにして何かがやって来た。


「何だ!?」


 泰典は一見何が来たのかわからなかったようだが、それが近くまで来た時にようやく確認出来たようだ。強張った顔がさらに険しくなっていく。

 泰典が見たものとは、前傾姿勢のまま後ろ向きで石畳の上を滑ってくる冬馬の後ろ姿だった。


「うぐぐぐっ!」


 冬馬は顔の前で両腕をクロスさせた状態で、泰典の前まで来た所で辛うじて止まった。


「大丈夫か!」


「は、はい、ぼくは大丈夫です! でも……」 


 泰典への返事に口籠った冬馬は鳥居の方から目を離さない。その視線の先に薄っすらとした光が見える。

 やがてそれが近付いて来て見えた光景は、光太がゆっくりと歩いて来る姿だった。冬馬にはその姿が衝撃的だったということである。


「やはり自我を失っているか……」


 その様子がおかしいことに泰典もすぐにわかったようだ。やや背中を丸めて腕をだらりと下げている。体が微光している状態なので、しっかりと身体強化の術を掛けていることが窺い知れる。だが覇気がないというか、まるで感情が抜け落ちてしまったような雰囲気があった。


「光太……!」


 勇一が悲しそうな目で光太を見つめた。ずっと苦楽を共にしてきた友人の姿が変貌している。恐らくこんな姿を見たくはなかったであろう。自我を失った光太が迫って来る姿だけでも、この状況が異様な雰囲気に包まれていることがよくわかる。

 しかし、異常はそれだけではなかった。前方には無数の発光した物体が次々と浮かび上がってきたのだ。


「あれは……! 最悪の事態だ。霊気溜れいきたまりになって……」


 泰典はそう言って絶句した。驚きの余り言葉が続かなかったようだ。

 なぜなら光太の周りに地面から次々と悪霊が出現していたのだ。その数、パッと見ただけでもざっと五十は超えているだろうか。


「こ、これは……!」


 山で悪霊と戦いまくっていた冬馬でもさすがに驚きを隠せない。

 光太と悪霊たちは引き寄せられるように神社へと向かって来る。それでも悪霊は目覚めたばかりなのでまだ動きが鈍い。まるで寝起きのようなその姿が、返って不気味さを漂わせていた。

 そうこうしている間にも悪霊はどんどんと数を膨らませていく。遂には百を超えただろうか、もう目視では数えられない程になっていた。鳥居付近の石畳の上が無数の悪霊で埋め尽くされてしまったのだ。


「まずいぞ! この数はさすがに異常だ! どうしてこんなに……!」


「お頭さん、それはこの神社のせいやろ! 戦国武将の魂に引き寄せられとるんちゃうか!?」


「えっ!? 準、今なんて言ったの!? 戦国武将がなに!?」


「この神社は戦国武将の魂が祀られとるんや!」


「だから、それってなんなの!」


 冬馬たちが半ば錯乱状態に陥った時だった。


「――あっ!」


 準が何かに気付いて西の空を見上げた。

 青ざめていた顔も一変して、まるで安心したような歓喜の表情になっている。


「やっと来たか……!」


 泰典も空を見上げ一つ溜息を零すと、こちらも安堵の表情に変わる。


「え!? なに!?」


 冬馬もそれに気付いて同じ方角を見上げると、何やら西の空の方がピカピカと光り輝いていた。

 しかし冬馬だけが、それが何なのかわかっていなかった。


 冬馬たちが空に見たものとは――


 ――夜空に散りばめられた星々の中に、ひと際目立つ五つの大きな輝きだった。


 そして――

 

 ――それはとてつもなく豪快にやって来るのである。


 瞬く間にその輝きが大きく膨れ上がっていく。やがて何かの球のような、目視ではっきりと認識出来る程に大きくなっていった。

 それは一つの黄色い球を先頭にして、その後ろに白い球が四つ続いている。いずれもこちらに近付いて来るのが冬馬にも確認出来た。すると、あっという間にその球が近付いて来て人間大の大きさまで迫って来た。


「伏せろっ‼」


 誰かの掛け声でその場に居た四人は一斉に体を前屈みにして頭を下げる。

 直後に冬馬が立っている場所と光太がいる黒い鳥居の間に、五つの光った球が轟音と共に凄まじい勢いで着弾して爆風を巻き起こす。


「んぐぐぐぐぐっ!」


 そこに居る者全てがその風圧で飛ばされそうになり、髪やら羽織やらがバサバサと激しく揺れている。それだけではない。周りの木々も激しく揺れて、地面に散っていた桜の花びらまでもが再び宙に舞い上がり乱舞している。冬馬も体に力をグッと入れて踏ん張らないと、その風に持っていかれそうになる。地面に手を突いて懸命に耐えていると、やがて羽織がバタバタと靡く音が収まった。

 冬馬が顔を上げると、その目には複数の人影のようなものが薄っすらと映っていた。やがてそれが()だと認識するのに、そう時間は掛からなかった。


「またなんか変なのが来ちゃったけど、やっぱりこれって……」


 光太や悪霊でさえも風圧に押されて数メートル後方へ後退りをしていた。光の球から出て来た人たちはちょうど冬馬と光太の間を割って入るような形になった。


 冬馬たちの目の前に現れたのは、檳榔子染の羽織を着ている美しく光り輝く五人の女性の姿だった。




ここまで読んで頂き、ありがとうございます!


新キャラ出て来ましたね! 美少女が出て来ましたね! え? 最後の一行だけで何が「出て来た」だって? 

仰る通り、申し訳ありません!

書き進めるうちに予定が大幅に狂いまして……。ですが次話は間違いなく新キャラも含めて主役を食うぐらいに彼女たちが暴れてくれますので、楽しみにしててください!


では、今後もよろしくお願いします!

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