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月影の守護師  作者: ドッグファイター
第一章 守護師覚醒編
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25話 異変

更新が遅くなりすみません。あまりにも長くなったので分割して投稿します。


突然冬馬たちの目の前を勇一が吹っ飛んできて……

 冬馬の目の前に勇一の体が凄まじい勢いで飛ばされて来た。黒い鳥居の下を潜り抜け、そのままの勢いで冬馬たちの横を通り過ぎていく。石像の台座を通り越した後、石畳の上を背中から派手に倒れると、しばらく滑った後に後方へ二回、三回と回転したところでようやく止まった。


「なんや!? 何が起きたんや!?」


 先程まで光太と話をしていたはずの勇一がいきなり吹き飛ばされて来たのだ。しかも明らかに何かの力が加えられてのものなので、準が混乱してしまうのも無理はないだろう。

 仰向けに倒れた勇一は左肩を手で押さえている。口を開けて苦しそうに呼吸している様子を見ると、どれほどの大怪我をしているのか想像もつかない。


 それを見た冬馬の顔に緊張が走る――(これはただ事じゃない!)


 結界が破れた影響である事は間違いない。では、どうして勇一が飛ばされて来たのか。悪霊にやられてしまったのか、それとも新たな第三者が現れたのか。一緒に居た光太は果たして無事なのだろうか。


 今まさに()()が起きようとしている――冬馬の直感がそう告げていたのである。


 しかし、それが何なのか冬馬にはわからなかった。

 神社の中心部から外側に向かって不穏な霊気が流れていることはわかる。今は守護師指輪のお陰で霊気をつぶさに感知出来るようになっているからだ。それでもこの異変を理解するには、まだまだ冬馬には経験が足りなかった。

 それに緊張しているのは冬馬だけではない。準は周りをキョロキョロと見回し、「え!? え!?」と強張った表情で慌てふためいている。泰典も一見落ち着いているように見えるが、顔が引きつっていて緊張で体が硬直しているようだ。

 冬馬は倒れている勇一が心配になった。あれだけ派手に倒れたので、無事では済まないという事は容易に想像がつく。急いで勇一の元へ駆け寄った。


「だ、大丈夫!?」


 勇一を見ると体が身体強化の術で微光している。これは意識がしっかりと体に向いている証拠で、朦朧もうろうとしていては術が解けているはずである。冬馬の問い掛けにも「うるさい……」と答えているので、過度な心配はいらないかもしれない。肩を押さえているので怪我をしているかもしれないが、それでもそんな勇一の姿を見て冬馬は少しだけ安心した。ひょっとして、このまま死んでしまうのではと思ってしまう程の衝撃だったからだ。


「ああ、良かったあ……」


 思わず零れた言葉だったが、それが冬馬の本心だった。親友の直輝が死んでからの冬馬は死に対する意識が強くなっていて、それは身近な人間が死んだことによって芽生えた感情でもあった。


(人が死ぬのはもう嫌だ……)


 その思いは自分の事だけじゃなく他人の事でも同じで、それほど直輝の死は冬馬にとって人生を左右した出来事だったのだ。

 あと心配なのはケガの具合だろう。檳榔子染の羽織も汚れていて所々破れている。左肩を押さえているので、そこが一番大きな怪我かもしれない。勇一が喋ろうとしないので詳細はわからないが、すぐにどうなるという状態ではないようだ。本来なら救急車を呼ぶのだろうが、今はそんな事を言っている場合ではなさそうである。

 こんな状況下でいち早くこの異変に対応したのは泰典だった。


算木(さんぎ)君は無事かっ!」


「は、はい! 怪我の具合はわかりませんが、大丈夫そうです!」


「そうか、よし!」


 泰典は勇一の安否を確認すると、鳥居の向こう側を見据えて照明弾を消した。


「悪いが我慢してくれ!」


「俺は問題あれへん!」


「え!? あ、ぼくも大丈夫です!」


 一瞬辺りが暗闇に包まれたが、冬馬と準の身体強化術の光でほんのりと明るかった。それに少々暗くても冬馬は裏山で悪霊と戦っていた時、自分の体の光で対応していたので全く問題はなかった。それでも明るさに目が慣れていたので、冬馬は自分の目に感覚を集中させて目を暗がりに順応させた。

 身体強化は視力がずば抜けて良くなるということではない。身体強化の術による五感の強化は拡張するのではなく、感覚が研ぎ澄まされると言った方が正確だろう。


 次に泰典は羽織の懐に手を入れると、紙の札を五枚ほど取り出した。それを無造作に頭上へ放り投げると、その札はふわりと宙に浮く。そして目を瞑り、胸の前で大きく「パンッ!」と手を叩いた。

 

《散!》


 泰典が言霊を発すると、紙の札はまるで意思が宿ったかのようにさらに上へと舞い上がっていく。程なくして上空で二度その場で旋回した後、それぞれ四方に散っていった。

 冬馬と準はそれを目で追っていたのだが、やがて見えなくなる。そこで準が何か閃いたようで、したり顔で泰典に振り向いた。


「あれは式札しきふだ……! そうか、結界を修復するんやな!」 


「いや、少し違うな。破れた結界を構築することも大事だが、それには時間が掛かり過ぎる。今は流れ出た霊気を食い止める方が先だ。式神はこの事態をふもとにいる仲間に知らせただけだ。下にいる連中が四方からここに向かって囲い込むように来れば何かあっても対応出来るし、その方が結界の修復も効率がいいんだ」


 準の予想はどうやら違ったようだ。要するに傷口を塞ぐというよりも、まずは流れ出る血を止める方が先ということだろう。それを事前に配置していた陰陽師たちを使うという対応力は、積み重ねてきた経験から来るものかもしれない。そうでなければ陰陽師のトップも務まらないということだろう。

 準は納得した顔で「さすが抜かりないな」と言って首を左右に動かして辺りを見回した。


「まあ確かに、こんな霊気が街へ流れ込んだらシャレならんからな」


「それは大丈夫だ。この山全体には何重にも結界が施されてあるから、すぐに市街地まで及ぶことはないと言っていい。だが一箇所でも結界が破れたということは、そのパワーバランスが崩れてしまうということなんだ」


 そう言いながら泰典はさらに紙の札を取り出し、台座の上に鎮座する石像に札を張り付ける。


「……崩れるとどうなるんですか?」


 勇一の傍で容体を心配していた冬馬だったが、やはりこの二人の会話の方が今は気になるようだ。


「結界のバランスが崩れると、この山の霊気が引き寄せられるようにここへ集まってくるはずだ。結界は見えない壁を作っているだけじゃなく、霊気の流れをコントロールする役割もあるんだ。ただでさえここは全国の霊脈が合流している最重要ポイントだ。このまま霊気の濃度が一気に高くなってくると、霊気溜(れいきた)まりが発生する恐れがある。そうなるとどうなるかわかってるだろ? さっき胴木君の技を間近で見た君ならばね」


「人体に影響が出る……!」


 それは冬馬もつい先ほど痛い思いをして経験したばかりだ。もしも大多数の人間がそんな霊気に触れてしまったら、どんなに恐ろしい事になるのか。今の冬馬が想像するのは容易いことだった。


「それだけやあれへんで。一番厄介なんは精神が崩壊することや。なんや嫌な予感するわ。光太の奴が気になるから見に行ってくる! お頭さん、ちょっとの間、その二人のこと頼むわ!」


 準が身体強化によって黄色に発光させた体を弾ませるようにして、鳥居の下を潜って外に向かった。


「あっ、待って! ぼくも――」


 冬馬も続いて行こうとした時、勇一が声を上げてグワッと目を開いた。


「くそっ……!」


 冬馬が振り返ると勇一が無理に上半身を起こして、さらにそのまま立ち上がろうとしていた。左肩付近を手で押さえてふらついているので、冬馬は危なっかしくて見てられないと慌てて勇一を支えようと傍に寄った。


「まだ動いちゃ駄目だよ! 肩が痛いんでしょ? 休んでた方がいいって!」


 冬馬が手を差し伸べたのだが、勇一はそれをパチンと手で叩いて払いけた。


「うる……さい……! お前には……関係ねえ……!」


 勇一は右手で左肩を押さえた状態で、口を大きく開けてまだ肩で息をしていた。それでも顔を上げて鳥居の向こう側を鋭い目付きで睨んでいる。だが、やはり勇一は肩が痛いようで時折しかめっ面をしている。

 先に行った準も気になるが、このまま勇一を無視するわけにはいかない。行かせてしまうと駄目だと思った冬馬は、引き止めようと話題を変えてみた。


「それより一体何があったの? 赤い髪の人は無事なの?」


「……」


 まだ肩で息をしながら顔を背けて黙っている勇一に代わって、冬馬の問いに答えたのは泰典だった。


「恐らく、赤髪の胴木(どうぎ)君が霊気に取り込まれて自我を失っている。大方、突然暴れ出して算木君が抑えようとしたところを、蹴られでもしてここまで吹き飛ばされたんだろう。彼は体力も精神力もかなり消耗していた。そんな状態でこれだけの霊気が流れ込んで来たら、大量の怨念には抵抗出来ないだろう」


「……ちっ」


 勇一は渋面で泰典を睨む。どうやら図星のようだ。


「そんな……! じゃあ、早く助けないと!」


 冬馬が鳥居の方へ振り返るが、ここからかなり離れているので詳細な事まではよくわからない。


「言ったはずだ……お前には関係ない……! 俺たちは今までずっと……二人だけでやってきた……。今さら誰かの助けなんか……いらない……!」 


 切れていた息もだいぶ整ってはきていたが、まだ話す言葉は途切れ途切れで苦しそうだ。それでも「俺が行く……!」と吐き捨ててからまた勇一はフラフラとゆっくり歩き始めた。

 冬馬が「そんな――」と言い返そうとした時、泰典がそれを遮った。


「そんなこと言ってる場合じゃないだろ‼」


「――!」


 突然の大声で勇一は目を覚ましたかのように体をびくつかせて、それからは動きが完全に止まってしまった。


「今は一刻を争う状況だ。早くしないと本当に取り返しのつかないことになるぞ。自分たちだけの問題ではないという事を理解するんだな」


「……」


 勇一は睨みつけるような表情だったが、また舌打ちをして目線を落とした。その顔はしかめっ面だったが、どこか迷っているようにも見える。


「まずは胴木君を助けないといけない。霊気の怨念が完全に憑りついてしまう前に何とかしないと元に戻らなくなる」


「えっ!? ……だったら、どうしたらいいんでしょうか!?」


 怨念に支配されて戻らなくなるとどうなってしまうのか。しかし今はそうならないようにする事が先決だろう。冬馬は疑問を押し殺して泰典にその方法を聞いた。


「それは霊気を以って怨念を取り除かないといけない。守護師の中でも出来る者はいるが、これは俺たち陰陽師の仕事だ」


「でも……」


 冬馬は何も出来ない自分に悔しさが湧いてきた。本当に何も出来ないのだろうか。頭の中で必死に考えてみる。


「守護師が対象だと高度な霊気操作が必要になるんだ。なんせ体に入る霊気の量が一般人に比べ桁違いに多いからな。堀切君が見に行っているが、彼では恐らく止めるだけで精一杯だろう。下の連中も来るのにまだ時間が掛かる。せめて守護師の名家の誰かが来てくれるといいんだが」


 泰典が思案顔になって「何をしているんだ……」と呟いて怪訝な表情に変わっていく。


 その時、冬馬はまだ考えていた。

 今、自分は何をすべきなのか。もし自分が今日ここに来た意味があるとするならば、それはどういう事なのか。光太を救うにはどうすればいいのか自問自答をしたのだが、簡単に答えは出てきた。


「じゃあ、それ、ぼくがやってみます!」


 冬馬のその言葉に思わず勇一が「はあ!?」と言って冬馬に振り返る。泰典が高度な技が要求されると言ったはずなのに、その顔は「こいつ何を言ってるんだ」と言わんばかりの呆れ顔になっている。泰典も悪い夢でも見たかのような表情で絶句している。

 だが当の冬馬は悪びれるどころか、なぜか自信満々の顔になっていたのである。




ここまで読んで頂き、ありがとうございます!


今日はこの後(一時間後ぐらいに?)次話を投稿しますので引き続きよろしくお願いします!

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