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月影の守護師  作者: ドッグファイター
第一章 守護師覚醒編
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21話 制御された力

更新が遅くなってすみません。


守護師指輪を嵌めた冬馬の力は……

 冬馬は守護師指輪(しゅごしリング)を嵌めた途端、心に静寂が広がっていくのを感じていた。先程は父のことや二之丸家という名家のことを聞いて心が乱れていたが、指輪を嵌めたことでざわついていた気持ちがゆっくりと密やかに落ち着いていく。今まで都会の喧騒の中に居たのが、急に誰もいなくなって静まり返っているような感じに似ている。


(名家のことなんてわかんないから考えても仕方ない。それに父さんのことも……)


 冬馬はグッと目を閉じて、そしてパッと目を開けた。


(今は父さんのことを信じよう。……そうだ、父さんを信じたらいいんだ。母さんが好きだった父さんを信じればいい。あの人たちが言ってることは本当か嘘かもわからないんだし。だから父さんは人殺しなんかじゃないって信じればいいんだ!)


 そう思うと冬馬の心の中から自然と不安が消えていった。それはまるで、“それでいい”と誰かが背中を押してくれるような不思議な感覚だった。


 そして、変化していたのは精神状態だけではなかった。


 今の冬馬には、“霊気の力を制御出来る”という感覚が芽生えていた。理屈ではない。そう感じるのだ。

 冬馬は守護師指輪を嵌めた瞬間、乱雑に湧き出ていた力が体の中を穏やかに伝っていくような感覚になるのがわかった。

 今までは霊気を使うには頭の中でお願いするように念じて霊気を操っていた。言霊なんて知らなかったので当然なのだが、霊気を支配するとか従順させるとか、そんな意識は全く無かった。ただ、頭で念じると自然と不思議なエネルギーがどんどん出て来るような感覚だった。

 だが、それを上手く使えていないことも何となくわかっていた。力が逃げるというか漏れるという感覚。例えるなら、両手で水をすくってみても、指の隙間から水が零れ落ちていく。そんな感覚だったのが指輪を嵌めてから、穏やかに体全体を霊気が無駄なく巡っているのが感じ取れた。体という大きな容器を手に入れたと言えばわかるだろうか。


 見ている者たちにもそれを感じ取れたのだろう。冬馬の落ち着いた穏やかな表情を見れば一目瞭然なのだが、明らかに今までの冬馬とは雰囲気が違っていた。


「指輪嵌めただけでこんなに変わるんか……! それにしてもなんちゅう霊気の力や。やっぱりあいつは紛れもない従家(じゅうけ)の人間やな」


 準は思わず感嘆する程、冬馬の霊気に圧倒されてしまったようだ。未だに片膝を地に突いたままなのだが、なぜか嬉しそうに微笑んでいる。泰典に至っては目頭が熱くなって目を押さえている。他の四人には気付かれないようにそっと後ろへ下がり目を瞑った。


 光太と勇一はまだ動揺が治まっていない。特に勇一は震える手をもう片方の手で押さえている。それでも震えは止まらないようで、力一杯握り拳にしている。 


「二之丸家とはここまでの力なのか……。根石家の奴等とはまたどこか違う気配がするけど……」


 想像を遥かに超えていたのか、勇一は口を真一文字にして下唇を噛んだ。

 そんな中、光太の方が逸早(いちはや)く正気を取り戻していた。身体強化した術が薄暗くなって解け掛かっていたが、今はしっかりと発光している。またニヤついた顔に戻っていて、冬馬の体を下から上へ舐めるように見ている。


「へへへ、なるほどな。それぐらいじゃねえと面白くねえ。そんじゃあ、こっからは遠慮なく全力でやってやらあ!」


 唱事の言霊による身体強化は、言霊がない時とは比較にならない。光太が突っ込んで来る速度は先程よりも格段に上がっている。


「うおおおおおっ!」


 左肘を前に軽く突き出して、ショルダータックルのような態勢だ。恐らく体当たりするように体ごとぶつけるつもりだろう。

 だが冬馬はその動きにも難なく対応する。


「――見える!」


 半円を描くように左足を後ろへ引くと、体も同じように回転して左へと体の向きを変える。その直後、光太の体は気流だけを残して冬馬を通り越していく。光太の体当たりを冬馬はあっさりとかわしたのだ。

 身体強化の術がレベルアップしているのは、言霊を使った光太だけではなかったのである。


「そうか……さっき陰陽師さんが言ってたっけ。身体強化の術は体力だけじゃなく、五感も強化するって」

 

 光太の動きにしっかりと目が付いていく。それに連動して冬馬の体も正確に素早く動く。指輪を嵌めた冬馬の体も今までのそれとは違っていたのだ。

 大きく行き過ぎてしまった光太は左足で踏ん張ってブレーキを掛ける。それでも止まり切れず、準と勇一のいる場所まで突き進んでいく。


「危なっ!」


 準が咄嗟に道の脇へ飛び退く。勇一も同じように準とは逆方向へ飛び退いたので、二人は左右に分かれた状態になった。光太は砂埃を巻き上げながら滑って行き、準と勇一の間を割った所で止まった。


「今のうちに……」


 光太と勇一の態勢が乱れたのを見た準は、その隙を見計らって冬馬の方へ移動した。それを見た勇一が「ちぇっ!」と舌打ちをして苦い顔つきになった。


「しくったね。本当はあいつが指輪を嵌める前に方を付けたかったんだけど」


「まあ、いいじゃねえか。あいつの力を拝めただけでも十分だ。あとはどうやってぶちのめすか、だろ?」


 ドヤ顔の光太を見て、勇一は大きな溜息を吐いて力なく笑った。


「……簡単に言ってくれるね」


「なんだよ、俺たちはこの日の為に鍛錬積んで来たんだろうが。それにまだ取って置きを残してるしな。いくら名家でもあいつはまだまだ経験も知識も浅い。全力でいけば何とかなるはずだ」


「そのポジティブな性格が羨ましい」


「ハハハッ! 今更何言ってんだ。それが俺のチャームポイントだろ?」


「ヒヒヒッ、それを言うならストロングポイントだよ」


 先程もどこかで似たような会話をしていた者たちがいたが、この二人は息が合っているようで、お互いにんまりと笑って顔を見合った。


 その頃、冬馬と準もこの後どうするのか、作戦会議をしていた。


「冬馬、親父さんのことやけど……」


「うん、大丈夫。なんか色々有り過ぎて整理出来ないけど、今は父さんを信じる。父さんは人殺しなんかしないって信じることにするよ」


「おう、せやな! 今までのあいつらの行いを見てきた俺から言わしてみたら、あいつらを信じる方が無理あるっちゅうねん。だからそれでええと思うで!」


 準はニコッと笑ってから、また真顔に戻った。


「せやけど冬馬、これ以上の戦闘は不味い。霊気の力が上がれば上がる程、他への干渉力も大きくなるんや。特にこの辺りは良くない。だから今はあいつらから逃げることの方が優先や」


「でも、どうやって逃げるの? あの人たち、かなりしつこそうだけど」


「俺が食い止めてる隙にお前が逃げるしかないやろ」


「そんな! あの人たちはぼくを捜していたって言ってたんだ。準は関係ないんだから準が逃げた方が良いよ!」


「アホ言うな! 俺が逃げたら、それこそ美姫さんに何言われるかわからんわ。新入りのお前を迎えに行くように言われてるんや。お前を守らんと意味あれへんやないか」


 珍しく神妙な顔つきでいう準に冬馬は何も言えなかった。もちろん準の言う通りだと思ったこともあるのだが、そう言ってもらったこと自体が嬉しかった。ここに来てから目まぐるしく状況が変わる中で、冬馬は助けてもらってきた準には感謝の気持ちしかない。

 しかしそんな冬馬の気持ちに、やはりこの男が水を差す。


「させるか、ばかっ! 積年の恨みを晴らすチャンスなんだ! 逃すかっ‼」


 そう言ってから光太が体を沈めて前へ飛び出して行く。それに合わせて勇一も準に向けて距離を縮めようとしている。

 準は光太が攻勢に出ようとしたその動きに反応したのだが、準より先に冬馬が進み出た。


「お前、何しよんねん!」


「やっぱり逃げるなんてしたくない。ぼくも準と戦うよ!」


 一瞬躊躇(とまど)った準は「ああ、もうっ!」と叫喚してから頭を掻き、観念したのか冬馬の横に並んだ。


「しゃーない、赤髪は任せた! 金髪はこっちで食い止めるから、なるべく派手にやらんようにな! 落としどころはやりながら考えるわ!」


「オッケー!」


 冬馬は光太を自分の方へ誘導するように、じわりと準と鳥居側へ距離を取った。準もその意図がわかったようで、逆側の北側の方へ一歩、二歩と動いていく。

 冬馬はとにかく光太と勇一が諦めて去ってくれることを考えていた。下手に攻撃をすると刺激しかねない。それに冬馬には元々『人に攻撃をする』という概念が無い。だから迷うことなく相手の攻撃をかわすか耐えることしか頭になかった。


「フンッ、舐められたもんだな。力を手に入れたヒーロー気分ってわけか。調子に乗ってんじゃねえっ!」


 光太は先程避けられたせいもあってか、今回は敢えて速度を落としてゆっくりと間合いを詰めてきた。そしてその距離が五メートルを切ったところで前に飛び跳ねた。


「今度は避けられっか?」


 光太はニヤリと笑みを浮かべ、右ストレートを叩きこむ。すると「ガシッ!」とぶつかる音と共に、ズシリと体に重く感じるような空気の波動が周辺に伝っていく。

 冬馬が避けずに左手で光太の拳を掴むようにして受け止めたからだ。


「ちっ!」


 あからさまに不快な顔をする光太。それでも右手を掴まれたまま右膝を上げたかと思えば、それを冬馬の左脇腹辺りへ突き上げる。


「おらっ!」


 膝蹴りを繰り出した光太の顔がまたも渋った表情になる。またも「ガシッ!」という音が響いたのだが、冬馬は左膝を上げて左肘と挟むようにして光太の膝蹴りを止めていた。 


「まだまだ!」


 光太は無理矢理に右手を引っ込めて蹴り込んだ右足も下ろした。そして今度は時計回りにくるっと回転したと思えば、右足の先を高く上げて蹴り上げる。


「だあっ!」


 これはいわゆる上段への回し蹴りだ。光太は声を出して“シャウト効果”を利用して力を込めて技を繰り出しているが、これも冬馬はいとも簡単に右手でガードして止めた。


「さすがは名家の血といったところか。全然余裕で付いて来るじゃねえか。くそっ……気に入らねえな」


 無言のまま淡々と防御する冬馬に、苛立った光太は少し後ろに退いて横を向いてペッと唾を吐いた。


 冬馬は戦いながら考えを巡らせていた。

 光太の動きに付いて行けているのは、霊気をコントロール出来ているお陰だとわかっていた。相手の動きがよく見えるし、感覚も研ぎ澄まされていく。

 それと同時に守護師という力を初めて実感していた。自分の動きの変化もそうなのだが、光太の動きも変わっていたからだ。唱事で言霊を使うとこうも変わるのかと、冬馬は改めてその威力を感じていた。

 そして、今一番大事な事はこの局面をどうやって乗り切るかだった。だが考えても妙案は出なかった。辿り着いた答えが『耐える』だった。今は光太の攻撃をひたすらに耐えて、相手が根負けするのを待つという事だけだった。


「攻撃しねえって腹くくってんなら、それはそれでありがてえな。こっちは攻撃に専念出来るってもんだからな。色々試してやるぜ」


 そう言って光太は左手の指輪を右手で触れて、白い歯を見せて不敵に笑った。




ここまで読んで頂き、ありがとうございます!


いつもの更新より遅くなり申し訳ありません。推敲やら手直しやら何やらで、もうてんやわんやで訳わからんと思考停止していました。(←言い訳)


なるべくまたペースアップしていきますので、今後ともよろしくお願いします!




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