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月影の守護師  作者: ドッグファイター
第一章 守護師覚醒編
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16話 理不尽な宣戦布告

いきなり現れた者たちの正体は……

 冬馬の背後からいきなり男の声が聞こえてきた。

 冬馬が後ろを振り返ると、少し離れているが赤髪と金髪の男二人がこちらをニヤニヤしながら見ている。


「本当にいたな。がせかと思ったけど、来てよかったぜ!」


 そう言ったのは短く刈った真っ赤に染めた髪が特徴の男だ。体躯は大きく、百八十センチ以上はあるだろうか。服の上からでもわかるほど筋肉質のムキムキ体型だ。ぱっちりした目を大きく見開き、大きな口を開けてニヤついている。見た目はまさに悪人顔で、相手を見下したような目つきである。紫の派手なシャツにジーンズというカジュアルな格好で、ジーンズのフロントポケットに手を入れている。


「そうだね。あとは何か有用な情報が手に入ったら言うことないけどね」


 赤髪の横でそう答えたのは、金色に染めた肩まで伸びたロン毛が特徴の男。こちらも背は高いが赤髪男よりもスマートな体型だ。切れ長の目を更に細めて薄ら笑いを浮かべているが、整った顔つきで見方によってはイケメンの部類に入るだろう。こちらもカジュアルな白いシャツにジーンズといった服装で、腕を組んで仁王立ちしている。


 この二人には共通していることがあった。それは檳榔子染の羽織を着ているということだ。身なりからしてこの男たちも守護師ということなのだろう。


(またなんか出て来た……。今日はどうなってるんだろう)


 冬馬はそう思っていたのだが、同時に二人の風貌を見て準とどこか似ていると感じていた。


「何でお前らがここにおるんや! また何か企んでるんやろ!」


 そう言って準が喧嘩腰で二人の男を睨みつけた。サンダルの先から見える親指が軽く曲がっている。力が入っているのだろう、腰を少し落として身構えている。


「えっ!? 同じ服着てるし、なんか似てるし、友達じゃないの?」


「違うわ! こんなガラ悪いチンピラが友達なわけないやろ!」


 冬馬はこの二人が準と同じ匂いがしたのでそう思ったのだが、どうやら準の仲間ではないようだ。それにしても準はチンピラ呼ばわりしているが、チンピラというよりはひと昔前の不良と言った方がしっくりくるかもしれない。歳も見るからに若く、準や冬馬とさほど変わりはないように見える。

 準のツッコミに赤髪の男が苛立った顔で一歩前に出た。


「随分な物言いだな、クソ犬んところのペットが! 相変わらず胸糞悪いやつだ。ペットはペットらしくピアスじゃなくて首輪でも付けとけよ、ば~か!」


「ああ!? お前、美姫さんの悪口だけは許さんぞ、コラッ!」


 準とこの赤髪と金髪ロン毛の二人は顔見知りのようではあるが、口ぶりからしてあまり良好な関係では無いようだ。今にもお互いに飛び掛かりそうな険悪な雰囲気である。準は左足を少し前にして、じりじりと前に出る。赤髪の男は眉間にしわを寄せ、準に向けてガンをとばしている。

 やれやれといった表情で見かねた泰典が一歩前に出た。


「おい、止めるんだ君たち。この場所で事を荒立てると、どうなるかわかってるんだろう?」


 この辺りは厳重に結界が張っているので、当然のことだろう。もしも結界が破れてしまうとどうなるのか。泰典の落ち着き払った真剣な眼差しが、それを危険だと物語っているようだ。

 しかし泰典の忠告はこの二人には届かなかった。


「そんなの知ったこっちゃねえな! それに部外者が首突っ込むんじゃねえ! 陰陽師のおっさんには関係ねえだろが!」


「まあ、確かに陰陽師の俺が守護師を止めるのは筋違いだ。ケンカなんて好きにしたらいい。だがな、ここでやるのなら話は別だ」


 泰典は神社の方を見て、また赤髪の男を見つめた。


「ふんっ、それがどうした! そんな簡単に結界が破れるわけねえだろうが。知らねえとでも思ったのか!」


「フッ、まあいいだろう」


 どうやら結界は頑丈に張られているので心配は無いようだ。見透かされた格好だが、それでも泰典は年の功なのか、動揺することなく話を続けた。


「それより君たちは見たところ、どこの名家にも属していないようだが」


 泰典はこの二人の羽織に紋様が入っていないことに気付いていたようだ。羽織に紋様が入っていなければ、名家の一門衆でもなければ従者でもないということらしい。


「当たり前だ! 名家なんてクソばっかで信じられっか! 俺たちは誰にも従わねえ、自由な傭兵なんだよ‼」


 落ち着いていさめた泰典の言葉は、いきり立つ赤髪の男にはどうやら逆効果だった。“名家”と聞いて赤髪の男は更に激高してしまった。

 それにしても、名家に対して恨みでもあるような物言いである。赤髪の男の手が握り拳になってプルプルと震えている。どうも穏やかではない雰囲気になってきた。

 一方、大声で罵声を浴びせられても泰典の表情に変化はない。ベテランらしい落ち着きで二人をなだめようとしている。準も熱くなっているので、これからこの場をどうやって収めようか思案しているのだろう。あごの下に右手を置いて二人を見ている。


 そして冬馬はというと……。


 新たに現れた二人に困惑していた。正直言って、ここまで歩いて山を登って来たので疲れていた。もうすぐ到着と思っていたので、邪魔された気分になったのだ。


(せっかくあとちょっとで休めると思っていたのに、なんか嫌な雰囲気……)


 そう思っていたが言い出せる雰囲気ではない。仕方なく二人が自由な傭兵と言った訳を聞いてみた。


「ねえ準、自由な傭兵って何? あの人たちはフリーの守護師ってこと?」


「あいつらは仕えてる主人がおらん守護師で、在野ざいやって呼ばれとるんや。赤いのが胴木光太(どうぎこうた)で、金髪が算木勇一(さんぎゆういち)や。あいつらは在野の中でも特に有名でな、好き放題やりたい放題悪さばっかりしよるんや。身寄りがおらんから止める奴もおらんしな。でもフリーの傭兵って言うたらカッコよ過ぎる。俺から言わしてみれば、遊んでばっかりで定職にも就かへんフリーターみたいなもんや」


 冬馬の問い掛けに少し毒気を抜かれたのか、準は屈めていた姿勢を戻して腰に手を当てて突っ立って答えた。この答えに赤髪がすぐに反応した。


「おい、今フリーターを侮辱したろ、お前! フリーターのどこが悪いんだよ。遊んでようが仕事してねえニートよりマシだろうが。全国のフリーターに謝れ、ばか! クソペットが!」


 悪態をつく赤髪の光太の顔がわかりやすいほどの、人を馬鹿にしたような顔になっている。その顔を見てイラっとした準が、こちらもあからさまに挑発的な顔で応戦する。


「新入りの前やから恥かかへんよう、オブラートに包んで言うたったのに。ほんまは遊んでばっかりでろくに仕事もせーへん、守護師とは名ばかりのクズって言いたかったんや。夢持って頑張ってる人とか、必死に生きてるフリーターの人もおるんや。お前らみたいなんと一緒にしたら失礼や。お前こそ全国の頑張ってるフリーターに謝れ!」


 ドヤ顔でニヤつく準に、赤髪の光太は額に青筋を浮かべた。一度両手で頭をわしゃわしゃと掻いて「ぐううううっ!」と唸っている。その唇はわなわなと震え、両の手を拳に変えた。どうやら口喧嘩では準の方が一枚上手のようである。

 光太が右足を後ろに引いて踏み込んだ時だった。光太の横で静かに見守っていた金髪ロン毛の勇一が、光太を右手で制してから前に出た。


「今日は随分と威勢がいいね。そっちこそ新入りの前で調子に乗ってるだけじゃねえの?」


「そうだそうだっ! 新入りの前でカッコつけてんじゃねえ! それとも陰陽師が守ってくれるとでも思ってるのか?」 


 勇一の援護射撃で、また元気を取り戻す光太。どうやらわかり易い単純な男のようである。

 勇一の口撃はまだ続く。


「それにそんなに粋がっててもいいのか? お前、俺たちに一度も勝ったことねえの忘れたのか?」


「ちっ……」


 勇一は「ヒッヒッヒッ」と笑いながら満足げにニヤついている。痛いところを突かれたのか、準は歯ぎしりをして渋い表情になった。それに気分を良くしたのか、光太が追い打ちを掛けるように毒づいた。


「教えてやるぜ。弱いくせにキャンキャン吠えるのは負け犬の遠吠えって言うんだ、ばーか! 良かったな、クソ犬のペットらしい称号じゃねえか。いや、クソ犬はあの冷徹女だから、お前は犬の糞だな! ハハハッ! クソは引っ込んでろ!」 


 泰典は変わらず冷静な態度で見ていたが、少し怖い表情をして「あいつら、まさか……」と呟いた。さすがの泰典も不味い雰囲気になってきたと心配しているのだろうか。

 光太の怒りに満ちていた顔は、またニヤついた悪い顔に戻っていた。


「クソは黙って便器にでも入って流されてろ、ばーか! 今日はそこの新入りに用があんだよ!」


 先程から光太のセリフにストレスが溜まっていた冬馬は、この言葉で遂に我慢の限界を超えてしまった。背負っているバックパックを地面にドンッと降ろし、犬たちが驚いて後ろの方へ退いていく。


「さっきから何だよ、君たちは! 汚い言葉ばっかりで気分が悪いよ! 準に謝れ!」


「おい、冬馬……俺のことはええから気にすんな」


「だめだよ! こんな品性下劣な人たちを黙って許してたら、余計に付け上がるよ!」


「お前なあ……」


 そう言う準だったが、嬉しいのか若干目を潤まして冬馬を見つめている。だがこちらは面白くないのか、光太は冬馬を鬼の形相で睨みつけた。


「はあ? お前、新入りのくせに生意気だな。先輩に対する礼儀も知らないのか。お前如きが俺たちに意見するなんて百万年早えんだよ!」


 光太は軽く腰を落とし、腰の横で両手を拳に変えて構えた。すると体が薄っすらと白く発光して、黒鳥居の前にもう一つ照明が点いたように明るくなった。


「お、おい! 何する気や!」


 いきなり身体強化の術を体に掛けた光太。唱事(となえごと)言霊(ことだま)は口にしていないので、霊気の使用としてはさほど強くはないようだ。

 光太の視線が冬馬に向いて、そしてニヤリと笑った。


「やめろ! こいつはまだ何も知らん素人やぞ!」


 咄嗟に準も言霊を使わない霊気による身体強化術で冬馬の前に出ようとした。


 しかし――

 力強く踏み込んだ右足が砂利の上で滑り、引っ張られるように右足が後ろに下がった。


「しもたっ!」


 思わずバランスを崩して体が前のめりに倒れていく。

 準は両手を突いて踏ん張り、顔面強打を回避した。しかし、その代償は冬馬を助けに行く時間と引き換えになってしまった。


「くそっ!」 


 体勢を立て直そうと膝を立て顔を上げると、身体強化した光太は冬馬の目の前まで迫っていた。陰陽師の泰典は準のさらに後ろにいる。準も泰典も今から何をしようとも間に合わない位置にいた。


「あかん! 冬馬っ、逃げろ‼」


 準が必死の形相で叫んだ。その顔色は生気を失いかけている。準は光太という守護師の実力をよく知っているのだろう。そしてこれだけ必死になるということは、これがただの喧嘩では済まないという危機感の表れでもあるのかもしれない。この時の準の脳裏には、『危険』という二文字が限りなく大きく浮かんでいたに違いない。

 

 だが、冬馬は動かなかった。

 逃げることもなく、じっと相手を見据えたままだった。


「ハハハッ! そのままじっとしてろよ‼」


 光太は右手の拳を後ろに大きく振りかぶり、目を見開いてニヤついた。


「おりゃあああっ‼」


 と叫んでから、冬馬の顔へ勢いに任せて突き出した。

 

 そして――


 地鳴りのような地響きと鈍い音が空気の振動と共に伝わってくる。そして辺りは霊気の光が飛散して砂埃が舞い上がった。


「冬馬あああああーーーっ‼」


 準の大きな叫びが大きなこだまとなって辺りに空しく響き渡っていった。




ここまで読んで頂き、ありがとうございます!


遂に新キャラが出て来ました! また男ですみません……。そして予想通り(?)にバトルへと突入です。ここから一気に怒涛の展開になっていくので楽しみにして下さい!


では、今後もよろしくお願いします!


追記:後半部分の『石鳥居』を『黒鳥居』に訂正しました。失礼しました。

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