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月影の守護師  作者: ドッグファイター
第一章 守護師覚醒編
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13話 守護師について

今回は冬馬が守護師の事を知らないせいで、説明が多くなってしまいました。申し訳ありません。


悪霊と出くわした冬馬たち三人だったが、準がなんとか退治した。

冬馬が守護師の事を何も知らないとわかった準と泰典は……

 冬馬は準の案内で泰典と共に山道を歩いている。すでに陽は落ちて暗くなっているが、空には見た目はほぼ満月に近い十四夜月が明るく照らしている。道には街灯が無いので本来は薄暗い夜道なのだが、泰典が陰陽術で周辺を明るく照らしてくれている。ボールのような霊気の塊が、まるで照明灯のように頭上の数メートル上で浮いている。これなら足元もよく見えるので転ぶことも無いだろう。

 そして冬馬の後ろには相変わらず、守護獣である二頭の犬が尻尾を左右に揺らしながら付いて来ていた。


 これから向かう下宿先というのは根石家の別邸らしいのだが、先に守護師の集会所のような邸宅に向かうそうだ。そこでこれからお世話になる根石家の人々を始め、守護師と呼ばれる面々と顔合わせをするの()()()、と二人から聞かされた。

 “だろう”というのは、準も泰典もこの後にどのような段取りになっているのか知らされていないからである。二人が今持っている情報を擦り合わせて考察した結果、推測から仮定したものだ。正直なところ、よくわからないというのが本当のようである。


 ここで冬馬は初めて『守護師』について準や泰典から詳しく教えてもらった。


「守護師はな、悪霊退治専門や。陰陽師とはちゃうんやで」


 準が泰典を一度チラ見してからまた続ける。


 守護師は人に害をなす悪霊を退治することを生業として活動しているという。悪霊は霊気を媒体にして死者の魂が実体化する霊のことで、人に憑りつくこともあるようだ。だがそれよりも危険なのは、霊感の強い者ほど悪霊に命を狙われやすいということ。その魂に悪霊は惹きつけられ、生前の想いをその魂を媒体にしようと欲する。怨念は未練や悔恨といった情の塊なのだ。


「悪霊は霊感の強い生きている人間の魂で想いを遂げようとする、というのが一般的な解釈になっている」


 泰典は相変わらず強面のままである。もし明かりが無かったらと思うとゾッとするだろうが、幸いにして灯りがあるので威圧感は薄れている。冬馬はそれを表情には出さずに、「なるほど」と相槌を打ちながら聞いている。準より説得力があってわかり易い事も合わせて、二人には黙っておくことにした。


「悪霊は物理攻撃が効かんのは知ってるか? あいつらを倒すには俺らの霊気であいつらの霊気を分解するんや。さっきの俺みたいにな!」


 準は急に立ち止まり、股を広げ腰を落として拳を前に突き出す。いわゆる空手の正拳突きである。先程の戦闘では刀を模造して悪霊を倒していたはずなのに、どうして拳なのか。冬馬は意味がわからず、不思議そうな顔でただボーっと見ていた。


「い、いや、ツッコまんのかい!」


 準は置いといて、つまりは自分の霊気を使って悪霊に集まっている霊気を飛散させて実体化を解くということである。冬馬が昨日まで裏山で悪霊を倒していたのもこれと同じ原理だ。


「まあ、別に悪霊自体を追い払ってもええんやけど、あんまりお勧めやないわ。結局またどっかで出現する可能性があるからな。せやから守護師は悪霊を見つけたら、躊躇なく実体化を解く方を選ぶんや。要するに片っ端からブッ倒すってっ訳や! さっきの俺みたいにな!」


 そう言ってまたも正拳突きをしてドヤ顔になる準を、今度は泰典があっさり無視してそっと教えてくれる。


「実体化を解けば悪霊となった魂のほとんどが成仏すると言われているんだ。だからその方が良いんだよ」


 下を向いてしょんぼりした準だが、すぐに持ち直して続けて説明する。


「守護師はな、霊感の強い人たちを悪霊から守るっちゅうことを第一の使命としてるんやで!」


 聞けば、霊感の強い人間はそうでない人間と比べると数は少ないそうだ。それでも犠牲者は後を絶たず毎年それなりに被害が出てしまう、と自慢げに話していた準が寂しげな表情になる。

 冬馬はしんみりとした空気に耐え切れず、泰典へと話題を変えてみた。


「陰陽師は戦わないんですか?」


「陰陽師も戦闘は出来るさ。霊気を操って式神を使役したり、呪術を駆使して悪霊を祓うんだ。だが陰陽師の仕事は戦いだけじゃない。結界の構築、天文観測や八卦による占術もやる。中でも一番大事な役割として霊脈(れいみゃく)の管理があるんだ」


「霊脈って?」


「霊脈とは、言わば地脈や水脈といったような、霊気が流れている脈が日本全国に張り巡らされているんだ。その保全と維持が非常に重要になってくる」


 泰典は陰陽師の話になると、更に饒舌(じょうぜつ)になっていく。もちろん泰典にとって大事なポイントということでもあるのだろう。

 要約すると、この霊脈が乱れると霊気溜(れいきた)まりといって、霊気が滞ってしまう状況になる。そうなると霊気の濃度が異様に高くなり、人体に影響を及ぼしたりもする。霊気が過剰に体内に入ると正気を保てなくなり、怨念に精神を侵され、気が狂うといった事態に陥る。そして体を(むしば)むこともあるそうだ。そうなると陰陽師によって治療は施されるのだが、最悪は元に戻らないことも少なくないという。


「霊気溜まりが発生したら、そこに悪霊が異常発生してまうんや。そうなったら人間社会にも影響が出る。それによって死人が出ることも、ようある話や」


 それまで明るく喋っていた準が真剣な顔で話している。それだけ深刻な問題だということが冬馬にも理解出来た。


「『霊脈が乱れれば国も乱れる』というのが俺たち陰陽師の昔からの通説だ。悪霊が発生すれば守護師が出向いて退治する。その後の霊脈の修復や補正等の調整を陰陽師が担うというのが両者の主な役割になっているな」


 守護師と陰陽師の違いとは――――悪霊退治に特化する守護師に対して、陰陽師は霊気に関する全般的な活動ということだ。

 だが決定的に違うことがある。それは霊気を体内に宿すことを可とするか否とするか、である。

 これについては、泰典が苦笑いしながら言う。


「霊気を体内に入れるなんて俺からしても有り得ないことなんだ。精神崩壊にも繋がるし、そもそも肉体的にも耐えられないはずだ。やはり君たちは特別だ。選ばれし人間ってやつさ」


「まあ、良く言えばそうやけど……」


 準はそう言って神妙な顔つきで首を横に振る。


「ただの()()()()()や。狂気やと世間から怖がられて、弾かれて、嫌われて……。守護師は表に出たらあかん人間なんや」


 それから重くて静寂な時が流れる。時間にすればほんの少しの間だったが、冬馬の心にも深く突き刺さった。霊気を使うことは身をもって経験している。それがどういうことかも何となく感じてはいた。これまでの歴史がどうとかはわからないが、守護師とはずっと常人には計り知れない()()を抱え込んで生きてきたのだろうか。もしそれが本当ならば、冬馬が知らなかったというのも当然ではある。


「まあ、それはええとして! 守護師の名家も教えとかなあかんな!」


 準はまたいつもの元気の良い声を張り上げた。その顔は冬馬の知る先程までの笑顔に戻っていた。


 準の説明によると守護師界には序列があり、両主(りょうしゅ)四従(しじゅう)八下(はっか)という名家が絶対的地位として存在する。ピラミッド型の主従関係で構成されていて、上から順に両主の二家、四従の四家、八下の八家となり、守護師の名家とはこの十四家の事を指す。


 両主とは主家(しゅけ)のことで、犬走(いぬばしり)家と望楼(ぼうろう)家である。

 四従とは従家(じゅうけ)のことで、本丸(ほんまる)家、二之丸(にのまる)家、三之丸(さんのまる)家、根石(ねいし)家である。

 八下とは下家(しもけ)のことで、各従家の下に二家ずつが下家として位置している。八下については数が多いので説明が省かれた。準が言うには、「まあ、そんなん追々わかるわ!」ということらしい。


 他に、それぞれの名家に一門衆と呼ばれる守護師が属している。名家の各当主の下にその一門衆が従者として仕える、言わば直属の部下のような者が存在する。

 ちなみに上記の事柄を準に当て嵌めると、主家である犬走家の一門衆に属していて犬走家当主の従者ということになる。


「俺は従者として犬走家当主の美姫さんに仕えてる。で、お前は二之丸っちゅう名前や。もうわかるやろ? 今、従家の二之丸家は当主が死んでもうて空席状態や。聞いた話やったら、従家が四家揃ってないんは何かと都合悪いみたいやな」


 準はそう言ってから、“しまった”という顔になった。


「それって……父さんのこと、だよね。父さんが死んじゃって、ぼくが何も知らなかったから空席になってるんだよね。だったら、ぼくのせいだ」


「そういうつもりで言うたんや……。いや、ちゃうな、俺の言い方が悪かったわ。すまん」


 暗く沈んだ顔の冬馬に準は目を瞑って頭を下げた。別に準は嫌味を言ったつもりはでなかったのだろうが、少々配慮に欠けていたと感じたようである。こういったところは見た目のチャラさとのギャップを感じるが、返ってそれが冬馬には真っすぐに伝わってきた。

 冬馬は準の優しさに嬉しくなって、「全然大丈夫だから」と言ってすぐに笑顔に戻った。


「父さんは守護師だったってことだよね。その従家の当主っていう仕事をしてたのかな」


 その問いには泰典が答えてくれた。


「御父上の御名前は?」


「『冬』に漢数字の『ニ』と書いて、冬二(とうじ)って言います」


「そうか。それなら間違いないんじゃないか。前当主は『二之丸冬二(にのまるとうじ)』っていう名前だからな」


「えっ! 父さんのこと、知ってるんですか!?」


 冬馬のその驚きに泰典は目を見開いて反応した。ひょっとすると、冬馬の父について何かを知っているのだろうか。

 泰典は少し悲しそうな目で冬馬を見つめた。そしておもむろに空を見上げ、粛々と輝く月をじっと眺める。何かを決意したかのように唇を噛んだ後、また泰典は冬馬の顔を真っすぐに見つめた。

 それは冬馬が知らなかった父のことを聞く、初めての瞬間でもあった。




最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


説明ばかりで申し訳ありませんでした。冬馬のせいです。(←お前が言うな)

次話からまた話が急展開(?)していきますので、また読んで頂ければ嬉しく思います。


よろしくお願いします!


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