94オニキスの確認
(オニキス視点)
夕方にハルト達のことをディアンに任せると、俺はあのドルサッチとか言う男を確認しに行った。街に来た時の奴の匂いをまだ覚えているからな。匂いを辿り、すぐに奴の所へたどり着くことができた。
奴は奴の手下と一緒に大声をあげながら、まだ夕方だと言うのに酒を飲み、店の店主が困り顔で奴らの相手をさせられていた。やつらを避けてか他に客は誰もいない。
俺はそっと気配を消し、店の屋根裏へと上がり、奴らの話していることに耳を傾ける。
奴らの話している話の内容は、どれもくだらない事ばかりで、このままこの酔っ払いの話を聞いていても、何も情報は得られそうになく、奴の顔を覚えようと顔を覗かせたときだった。
「私の先祖は珍しい魔法が使えたらしい。世界をも手に入れられる程の力だったと聞いている」
「そうなのですかドルサッチ様」
我は集中してその話を聞いた。
ドルサッチの先祖には、闇魔法の使い手がいたようだ。昔はこの辺り全部が奴の一族の土地だったと。今の王国ができるまでは、奴らの祖先がその役割を果たしていたとか何とか。
その祖先は闇魔法以外にも珍しい魔法が使えたらしい。それが何なのかその祖先の子供達もドルサッチも分からなかったらしいが、奴の屋敷にはその魔法を使って捕まえたとされるドラゴンの剥製が飾ってあると、自分が捕まえたわけでもないのに、ドルサッチが自慢げにしている。
「特別な魔法とは一体何なのですかね」
「さぁな。だがとても危険な物らしい。先祖が残した本の中に、これから同じ魔法が使える人間が出てくるかもしれんが、それを使えば自分の命も危ないから気をつけろと書いてあったらしい。それに…」
何十年も前にその魔法を使えると何代目かの奴の祖先が現れた。その男は屋敷にはたくさんの強力な魔獣の剥製を残していたため、一族はまた自分達の時代が来るのではと喜んでいたのだが、証明してやると言って、屋敷から出て行ったまま結局帰って来ず、そのままずるずると今の奴らの地位まで衰退してしまったようだ。
「全く。その魔法とやらが分かれば、私がそれを使い、また全てを手にして、愚民どもを支配してやれるのに。先祖もなぜその魔法の事について、しっかり書き残さなかったのか」
「本当ですね。しかしそんな魔法が使えなくとも、ドルサッチ様なら今回の大会に優勝して、その力に愚民共がひれ伏す時は近いはず」
「私も今大会はかなり力を入れている」
すぐに話はドルサッチの自慢話に戻ってしまったが、俺は奴の話が引っかかった。闇魔法ではなく、自分の命をも奪われるかもしれない未知の魔法。
俺はもう1度顔を出しドルサッチの顔を覚える。奴の横で奴の世話をしている男の顔も覚え、すぐにハルトの元へと戻った。すでにハルトが寝る時間をかなり過ぎている。
ハルトが泊まっている部屋の窓から、そっと中に入る。俺が部屋の中に入るとすぐにディアンが俺の方に寄って来た。
「用事は終わったか? やはり行くのか?」
「ああ。確認してくる。もし俺の考えが間違っていなければ、大変な事になるかもしれない。まぁ奴がそれほどの人間には見えないが、一応気をつけておかなければ。俺が居ない間、ハルト達の事を頼む。もし何かあれば、ハルトの家族だけでもここから無事に逃がしてくれ」
「ハルトを守るのは当たり前だ。そしてハルトが大切思っている家族もな。それでどれくらいで帰ってこられる?」
あの森まで行ってダイアーウルフに話を聞き戻ってくるからな。けっこう時間がかかるだろう。
「分かった、我が途中までお前を運んでやる。早くお前が帰らんとハルト達が心配してダメだからな。ちょうど今から行けば、闇に隠れてかなり移動できるだろう。と、その前にあいつに話をしてからだな。いろいろうるさいからな」
ディアンが煩いと言っているのはキアルとパトリシアとグレンのことだ。確かに話をしないでいけば、帰って来た時文句が凄いだろうからな。時間がもったいない。早速話に行こう。
キアルの匂いをたどれば、キアル達はまだ休憩する部屋で、みんなでお茶を飲んでいた。そんなキアル達に、これからちょっと森に戻ってくると言えば、なぜだと聞かれた。当たり前か。
俺はドルサッチの穢れの話や、昔そういう人間に会ったことのある奴がいるから、もう1度詳しく話を聞いてくると話し、さっきのドルサッチ達の話もした。
「そうか。分かった。そちらはお前に任せる。何か情報が掴めるかもしれないからな。しかし、早く帰ってくるんだぞ。お前がいないとハルトがソワソワと不安がるからな」
「なるべく早く帰る。行く時は途中までディアンに送ってもらうからな。時間がもったいないからもう行くぞ」
休憩室の窓から外に出る俺とディアン。近くの森までは一緒に走り、森からはディアンに乗って、人目につかない所まで飛んでもらう。
早く帰ってきて、ハルトを安心させてやらなければ。この前妖精達を襲ったドルサッチの穢れが、たまたまなら良いのだが…
(ハルト視点)
「オニキス、いない?」
僕が朝起きてすぐに僕の所に来てくれるオニキスが、今日は来てくれません。部屋の中を見渡して、ベッドの下も確認したけどいないの。
僕慌ててみんなを起こして、お父さん達の所に行きました。
「おとうしゃん、オニキスいない!」
「ハルト起きたか」
お父さんが僕を抱っこして椅子に座りました。そしてオニキスとディアンが今出かけてること教えてくれました。
オニキスは何か用事があって、僕達が住んでた森に急に行く事になっちゃったんだって。少しでも早く帰ってこれるように、ディアンが途中まで飛んで運んでくれてるから、今ディアンもいないんだって。
急な用事って何! どうして僕に何も言わないで行っちゃったの? 行ってらっしゃいも出来なかった…。
いつもいてくれるオニキスがいなくて僕しょんぼりです。
「ハルトちゃん、オニキスはすぐに帰ってくるわ。その間いい子で待ってましょうね」
だって今日もスタジアムの周りで遊ぶつもりだったんだよ。妖精達は今日朝帰るって言ってたし、僕の周り一気に静かになっちゃって寂しい…。
僕達は朝のご飯食べるために食堂へ。朝のご飯はふわふわのスクランブルエッグと、ふわふわのパン。それからソーセージとサラダとスープ。デザートはヨーグルトみたいなやつです。
いつもは楽しいご飯の時間も今日はしょんぼり。少しずつ口に運びます。
「ハルト元気出せ。今日は俺が街を案内してやる」
「うん…」
レイモンドおじさんがそう言ってくれたけど、なかなか元気が出ません。
ご飯を食べ終わって、妖精達にバイバイして、僕は準備が終わって玄関ホールでレイモンドおじさんを待ちます。今日はグレンとロイが僕について来てくれるの。
待ってる時でした。外の方からドシンッ、ドシンッ!! って、大きな音と地響きが。な、何? 地震? でも地震ってこんな一定のリズムでならないよね。また何か事件?
僕達が慌ててたら、レイモンドおじさん家族が階段を下りてきて、お父さん達も下りてきました。
「ハルト! お前が喜ぶものが来たぞ!! さぁ、玄関に出てお迎えだ」
みんなニコニコ、僕達はハテナ?のまま玄関に立ちました。
立ったんだけど、何アレ! 岩が動いてこっちに歩いてくる! その前には馬車が。
フウ達がビックリして僕の肩や頭腕にぶら下がります。
「ペインの家族だぞ。あの岩の魔獣はギガントロック。ペインの契約魔獣だ」
岩の魔獣がいるの!? 僕犬系とかリス系とか妖精とか、可愛い魔獣や動物系の魔獣ばっかり見てきたから、そういう魔獣しかいないと思ってたよ。
ギガントロックが近づいてくると、その大きさにさらにビックリ。普通の家の2階くらいあるんじゃないかな。
玄関前で止まる馬車とギガントロック。く、首が…。でもねすぐにギガントロックがお座りしたんだ。お座りしても大きいから見上げる事になるけど、大きい魔獣がお座り…ふふ、なんか可愛い。
馬車のドアを使用人が開けて、中からカッコいい鎧を来たおじさんが下りてきました。