90オニキスとディアンのイノシシ魔獣
クッキーを買う列に並び出して少し、いやちょっと? いやいやだいぶ?
「はりゅと、ぼくあきちゃの」
『『キュキュイィ~………』』
「僕達もだと言っている」
だろうね。僕も飽きたよ。え、こっちの世界の人ってこんなに長い間並んでても平気なの? まぁ、時間なんて分かんないけどさ。それでもけっこう並んでると思うんだよね。前の僕だったらどうだったんだろう? これくらいなら平気で並べた気もするんだけど、この頃我慢もきかなくなってきてるみたい。
今僕の足元にはスノーとブレイブ達が足に顔をすりすり、飽きたコールです。そしてそれはスノー達だけじゃなくて…。
「ハルト、我はあっちに見たいのだが。これはいつまで待たされるのだ?」
ディアンがねさっきから1番煩いんだよ。スノー達よりも先に飽きたって言い始めて、それからずっと。いい歳した大人なんだから、スノー達より待てないってどうなの。
「ふふふ、ハルト凄い顔してるよ」
「う?」
お兄ちゃんが僕の顔見て笑いました。それに気づいたイーサンさんも僕の顔見て笑います。え? 何?
僕気づかないうちにほっぺ膨らまして、列を睨んでたみたい。オニキスが教えてくれたよ。ほっぺをもみもみマッサージ。
「ハルト君飽きちゃったか。いつもより列の流れが遅いな? よし、俺が並んでるからハルト君達はお店見てくると良い。俺の並んでる場所が分からなくなったら、そうだな、あの鳥の銅像の前で待っててくれ。オニキス、ディアン、ハルト達のこと頼むぞ」
イーサンさんに許可もらってたら、僕達を呼ぶ声が。ロイが自分の荷物の片付けが終わって、僕の護衛に来てくれたの。
「ハルト様、遅くなりました」
「ロイちょうど良いところに。ハルト君達並ぶの飽きちゃってな。俺はこのまま列に並ぶから、ハルト君達のこと頼むな」
「はい。俺はそのために居ますから」
ロイも来てくれたし、どこのお店から行こうかな。お兄ちゃんが僕達が見たいお店で良いよって言ってくれたから、最初はスノーが見たいってお店に行くことにしました。ディアンがブツブツ言ってたけど小さな子順ね。後でちゃんとディアンの行きたいお店にも行くから。
スノーが見たいって言ったお店は、小さなキラキラの石をたくさん売ってるお店でした。こういう綺麗な石がたくさん取れる洞窟が、街の近くにあるみたい。でもけっこう強い魔獣がいるから、ベテランの冒険者が取りに行かないとダメ。でもベテランが行けば問題なしで、この大会に集まる子供達が買えるように、たくさん取って来てくれるの。
僕達もちょっとずつ買おうって、でも今フウとライいないからね、買うのは今度にして、どの石を買いたいか選ぶ事にしました。
僕は青と黄色とピンクが良いかな。それとも赤とか緑? どうしようかな。スノーは白と透明と青、ブレイブは赤と茶色と緑、アーサーは黒と茶色と緑だって。お兄ちゃんはね黒と紫となんか黒っぽい緑。全部色が暗いんだけど…。
「僕こういう色好きなんだ。カッコいいと思うよ。だってお父さんのマント止める金具とか、キラキラ光る黒色の鳥の金具でカッコいいでしょう?」
確かにお父さんの騎士の洋服に使ってる飾りとか、渋くてカッコいいのが多いね。今の僕には全然似合わないけど、いつか僕もお父さんみたいなカッコいい洋服着てみたいな。お兄ちゃんは…お兄ちゃんももう少しお兄ちゃんにならないとダメな気が。
次はブレイブ達が見たいって言うお店に。花屋さんでした。花で綺麗な飾りや、くまさんのぬいぐるみが花束持ってたり、僕が1番気に入ったのは、うさぎさんのぬいぐるみが花束持ってて花冠もしてるやつ。とっても可愛いの。ブレイブ達は盆栽みたいなやつが気に入ったって。
それから花びらを花の蜜に漬けて乾燥させたお菓子も売ってました。お店のおばさんが僕達にお菓子を味見させてくれて、花の香りがフワッと口いっぱいに広がって、甘さもちょうど良いくらいに甘くて、とっても美味しかったです。お父さん達のお土産はこれで決定!
次は僕が見たいお店ね。僕はガラスの小物を売ってるお店に行きました、ガラス細工ね。オニキスのガラス細工売ってたの。お小遣いで買える値段だったから、お兄ちゃんが買って良いって。ふわふわのワタで包んで袋に入れてもらいます。それを僕はオニキスカバンにそっとしまいました。他にも可愛いガラス細工を売ってて、フウ達が喜びそうな物もあったから、今度またみんなで来ることにしました。
さぁいよいよオニキスとディアンの番。2人は同じ場所に行きたいって。スタジアムの表の方に戻って、人だかりができてる所に。2人はここに来てすぐ、それに目を付けてたみたい。
「「わぁ~!!」」
「やれやれぇっ!!」
何これ…これが見たかったの? 冒険者が集まって丸が書いてある中で勝負してるの。2人ともこれが見たかったの?
「こっちには興味がない、我が興味あるのはあっちだ」
ディアンが指刺した方を見ます。そこには大きなイノシシの魔獣が、ドンっと机に置いてありました。僕の何倍もあるイノシシ魔獣です。
「あれはどうすればもらえるのだ?」
「あれは…冒険者と戦って、1人で連続10人倒せば貰えるはずだ」
「誰でも参加できるのか? 冒険者ではなくとも」
「ああ、だが大体は腕っ節に自信のある…って、おい!」
ディアンがロイの話を最後まで聞かずに、丸の方に近づいていきます。まさかディアン参加するんじゃ。ディアンが出たら勝つのは決まってるけど、やりすぎて相手の人が無事じゃすまないかも!
僕はオニキスにディアンを止めるように言おうとしました。でもオニキスが、
「あのイノシシは美味いからな。俺もアレがどうすれば手に入るのか聞こうと思っていたんだ。俺が出ても勝てるだろうが、相手は人間同士だからな。ディアンにやってもらおう」
ちょっと、そこはちゃんと止めてくれなくちゃ! ロイも慌ててディアンを止めようとしてます。そんなロイを軽くかわして、ディアンが丸の中に入りました。
今勝ったばっかりの冒険者が、ディアンを見て笑いました。しかもディアンのこと馬鹿にしたの。ヒョロっこいとか、武器も持たないなんてどれだけ金に困ってるんだとか、魔法はちゃんとつかえるんだろうなとか、しまいには一瞬でディアンのこと倒して笑い者にしてやるって。
何こいつ、最悪なんだけど。
「あの男は、素行の悪い冒険者として有名なドグとか言う男です。1度冒険者ギルドで見たことがあります。新人冒険者を潰すことでも有名です」
完璧な嫌な奴じゃん。僕ディアンを馬鹿にされてイライラです。スノー達も同じみたい。それに新人冒険者を潰すなんて、どれだけみんなが憧れて冒険者になると思ってるの。ディアンそんな最悪な奴、さっさと倒しちゃって!
みんなでディアンの応援します。隣でロイはディアンを止めてくださいって言ってるけど、ダメだよ馬鹿にされたままなんて。
「ふむ、では我がお前を一瞬で倒してやろう。ハルト達も応援してくれているからな」
イノシシ魔獣を提供してる商人の護衛の冒険者が審判してて、その審判の男が初めての合図をかけました。ドグがディアンに飛びかかって…。うん、一瞬でした。
ドグは近くにあったワラが積んである荷台の方に飛ばされて、荷台に叩きつけられると、荷台が大きな音を立てて壊れて、ドグの上にはワラが。そのままドグはピクリとも動きません。
あれだけ騒がしかった、見学してた人達がし~んとなります。審判の男が慌ててドグの所に。ワラを掻き分けてドグの様子を見ます。
「完全に気絶してる…そっちの黒い洋服着た男の勝ちだ!」
し~んと静まり返っていたのから一転、大きな歓声が上がりました。
すぐに次の対戦相手が名乗りをあげます。その間にドグは誰かがどこかに運んで行きました。
試合は休憩なしですぐに始まります。そして次の冒険者との試合も一瞬で終わらせたディアン。5人目まで全員一瞬で勝負がつきました。
うん、この辺まではみんな盛り上がってたんだけどね、6人目くらいからまたし~んって。そうりゃあね、そうなるよね。僕達も最初は喜んでたんだけど、この辺からスノーがね、
「ディアンのちゅよいの、ボクちってる。おうえんちなくてもかちゅ。きょうのよりゅごはん、いのちちね」
って。ですよね。
それからも一瞬で相手を倒すディアン。10人倒すのにそんなに時間いりませんでした。10人倒し終わって丸から出てきたディアンに、近ずく冒険者は誰も居ません。
「よし、これでその魔獣は我の物だな」
商人の顔が引きつってます。ディアンが魔獣を持ち上げようとして、慌ててロイが止めに入ります。そして小声でディアンに何か言うと、ディアンはそうかって言って、ロイが慌てて荷車を借りてきて、それに商人の手を借りて何人かでイノシシ魔獣を荷車に乗せました。ディアンなら片手で持てちゃうけど、普通の人間には無理だもんね。ロイナイス!
みんなの視線が刺さる中、僕達はイノシシ魔獣を積んだ荷車を引きながら、イーサンさんとの待ち合わせの場所に向かいました。