86もう1つのお部屋
トランポリンからなんとか1人で下りて、隣の部屋に移動します。
イーサンさんに続いて中に入ってびっくり。部屋の中に芝生が敷いてあって、他には台とか、水の魔法石が上に取り付けてあって、下にはレンガでできてるシンクみたいなものが置いてあります。え? 何? 庭をお部屋に作っちゃったの?
またまたフウ達が部屋の中に飛び込みます。でもすぐにみんな止まりました。どうしたのかと思ってたらスノーが戻ってきて、草なのに草じゃないって言いました。フウ達もおかしいおかしいッて騒いでます。何言ってるのか良く分かりません。
スノーと一緒にフウ達の所に歩いていきます。ん? この感触もしかして。しゃがんで芝生を触ってちょっとだけ芝生を摘んでみたらやっぱり、この芝生、人工芝生でした。まさか人工芝があるなんて。
「そうその芝生は偽物だ。最近街で売られるようになってね。何に使うのか私も良く分からなかったんだが」
最近街の子供がいる家で人気って聞いて、イーサンさんが僕が遊びに来るから、もし良いものだったら用意しておこうって、この人工芝生売ってるお店にわざわざ行って店主と話したんだって。
最近ルリトリア雨の日が多くて、もう雨の多い季節は終わってるのに、こんなに雨が降るなんて珍しいみたい。この世界の人達は傘なんか差さないで、雨具みたいな洋服着て雨をやり過ごします。僕ももちろん雨具買って貰いました。大人達はそれを着てなるべく雨に濡れないように気をつけるけど子供は…。晴れだろうが雨が降ってようが関係なく遊ぶでしょう。
そりゃあ数日なら洗濯も良いだろうけど、この世界に洗濯機なんてないからね。オニキスみたいに浄化で綺麗にできれば良いけど、浄化を使える人はあんまり居ません。お母さん達が一生懸命手で洗濯してるんだよ。雨であんまり子供が洋服汚すから、お母さん達は子供にお外で遊ぶなって。そうなれば子供は家の中で遊ぶけど、ほらねぇ、飽きちゃうじゃない。
そこで店主が仲間と作ったのが、家の中に敷ける人工芝。家の中で少しでも外の雰囲気を味わいながら遊べるように考えたんだって。何で出来てるかは教えてくれなかったって言ってたけど、イーサンさんは僕も長くこの街にいて、外に出れない日が続いてもいいように、この部屋全部に人工芝敷いてくれたの。
「雨が降らなければ降らないで、今はかなり暑いからな。外で遊んで暑くて具合が悪くなる前に部屋に戻って、後はここで遊べば良いだろう」
それにって、僕が剣の練習してるって、その事もお母さんの手紙で知らされてたから、剣の練習もできるぞって。あの水の魔法石とレンガのシンクみたいなのは、汗かいて手や顔を洗うために付けといてくれたの。台は、剣とか荷物を置く台です。
「凄い部屋を作っていただいて良いのでしょうか」
「良いのよ。イーサンが作りたくて作ったのだから。ハルトちゃんはまだ小さいし、これから何回だって大会でこちらに来て遊べるのだから」
「そうですよ。それに大会の時だけではなく、いつでも遊びに来てください」
「ありがとうイーサン」
そんなお父さん達の話しを聞いてたディアンが、
「ふむ。いつでも来て良いのか。ならば何日も馬車に乗るのはハルトは大変そうだからな。我がひとっ…もがっ!?」
慌ててオニキスがしっぽでディアンの顔にアタックします。しっぽはバッチリディアンの顔に当たって、ディアンの話が途切れました。ちょっと今何言おうとしたの。ひとっ飛びって言おうとしなかった? パッてお父さんの方を見たら、お父さんお顔がピクピク、顔が引きつっちゃってます。
「すまないが、今そこの男性は何て?」
「い、いや何でもないんだ、そ、そう言えば紹介していなかったな。この男はハルトの護衛の1人で名前はディアンだ」
「おお、そうだったな。我の名前はディアン、ハルトの護衛だぞ。よろしく頼む」
お父さんがそれ以上突っ込まれないようにディアンの紹介始めました。ここに来るまでにディアンのこと何て紹介しようか、お父さん達話し合ってたんだよ。それで護衛だったらいつも側にいてもおかしくないだろうって、僕達家族以外の人達が家にいるときや。こうやって他の街に来るときは護衛ってことで決まったの。
お父さんが紹介してるうちに、僕とオニキスはディアンに注意します。もうドキドキさせないでよ。ファイアードレイク何てバレたら大変なんだから。ディアンは笑ったまま僕達にすまんすまんって。はぁ~。
紹介が終わってお父さんが僕に剣の練習してみたらどうだって。そうだね。せっかくイーサンさんが作ってくれたお部屋だもんね。
僕は部屋の真ん中に走って行って、腰から剣を取りました。そして、
「ふんっ!! たぁ!!」
剣を振ります。どう? カッコいい? 何回か剣を振ってイーサンさんの方を見ます。そしたらイーサンさん、両手でお顔を抑えてプルプル肩を震わせてます。何? どうしたの? 僕の剣何か変だった?
そう思ってたらイーサンさんが突然僕の方に近づいてきて、僕の頭を思いっきりなでなでしました。しかも何か凄い笑顔なの。
「うんうん。作った甲斐があった。こんな可愛い姿を見られるなんて。師匠はいつもこんな姿を見ているんですね」
何か今にも泣きそうなんだけど…。
「可愛いハチの姿に、可愛い剣の練習の姿…」
………ああ、そういう事。僕ね街に着く前にハチの着ぐるみに着替えたんだよね。カッコいい洋服のままでいたかったのに、お母さんがこっちの方が喜ぶからって。アイラさんの方を見れば、アイラさんもニコニコです。
ずっとなでなでするイーサンさん。そこにレイモンドおじさんが部屋に入ってきました。
「お、何だ? もうハルトの可愛さにやられてるのかイーサン」
「父上、こんなに可愛い子だなんて、可愛いハルト君に可愛いフレッド君。本当に大会だけではなく、いつでも遊びに来て欲しいですよ」
ああ、お兄ちゃんも可愛い分類に入るのね。だよね。お兄ちゃんだって可愛いよねぇ。地球だったら子役とかで人気がでそうだもんお兄ちゃん。お兄ちゃんの方見れば、お兄ちゃん困ったお顔して笑ってました。あのねお兄ちゃんは他の同じくらいの子と比べて可愛い方だと思うんだ。
剣を腰に戻して、休憩の部屋に戻ります。
ドカッとソファーに座るレイモンドおじさん。座って大きなため息です。
「まったく肩書きばっかりの連中が。良くあれだけ大きな顔できたもんだ」
「それでお兄様、先程のアレは結局どうしたの?」
さっき街に入る時に、怒鳴ってた人達の話みたい。怒鳴ってた人は確かにどっかの街の騎士団長だったみたいだけど、素行が悪い事で有名な騎士団長だったみたいです。お父さん達は家柄もあるけど、ちゃんと自分の実力でここまで登り詰めてきた貴族。今回問題を起こしたのは、家柄だけで他の人達を従わせトップに立った人間。そう実力もないのに親の力だけで騎士団団長になった人。
僕達の住んでるシーライトとは逆の方向、ルリトリアからかなり離れた街から来た騎士団長。名前はドルサッチ。かなりの嫌われ者団長らしいよ。何をするにも威張り散らして、気に食わない物は破壊して、気に食わない人は街から追い出したり、無実の人を陥れようとしたり。それで捕まえようとしても上手く証拠を消すから、今まで何回か捕まえられそうだったのに、最後には無罪になって処分できないんだって。
お父さんもお母さんもドルサッチの事知ってたみたい。シーライトにはドルサッチは来た事ないけど、お父さんのお友達の街には来たみたい。カイドさんじゃないよ。別のお友達。
それでやっぱりその街で問題起こして、かなり大変だったってお父さんが話してました。
何でそんな厄介な団長が街に来たか、そうやっぱりお父さんの力で、今回の大会に出場するんだって。まったく面倒なやつだなぁ。お父さんとは別の試合に出るけど、みんな楽しみにしてる大会なんだから、大人しくしててほしいな。
お父さん達の話はなかなか終わらなくて僕とお兄ちゃんはさっきのお遊びの部屋に移動。夜のご飯になったら呼びに来てくれるって。
さて、何して遊ぼう。それとも剣の練習? あっ、嬉しくてイーサンさんにお礼ちゃんと言ってない。後でご飯の時にありがとうしなくちゃ。