85師匠はグレン
お父さんの洋服から少しだけ顔出してイーサンの顔見たら、イーサンさんが少し困った顔しました。その後スッと立ち上って、僕達とお父さんの横まで来てピタって止まって。
ビクってなる僕。さっきよりもお父さんの洋服の奥に隠れます。フウ達も隠れようとして、お父さんにギュウギュウ。と、
「頼む! 撫でさせてくれ!!」
ん? 今言ったの誰? この状況で触らせてくれって、誰に何を触らせてくれって? ん?
「頼む!」
ソロっと顔出します。僕隠れてる最中なのに、撫でさせてって誰が…って。横に立ってるイーサンさんが僕達の方にお辞儀してました。今のもしかしてイーサンさんが言ったの? お父さんの顔見たら、お父さんやれやれって顔してます。
「ハルト、イーサンはお前と同じで、可愛い物、可愛い人間が大好きなんだ。パトリシアが手紙でハルト達の事をいろいろ話していて、お前達がくると聞いて1番喜んでいたのは、このイーサンなんだぞ」
え? じゃあずっと僕達のことジロジロ見てたのって…。
その時パッてイーサンさんが元の姿勢に戻ったと思ったら、もう1度凄い勢いで頼むって言って頭下げてきました。その勢いに驚いてまたもやお父さんの洋服に隠れる僕。
そんな僕達の様子を見てたアイラさんが、イーサンさんを怒る声が聞こえました。
「だから言ったでしょう。ハルト君は人見知りする子だから優しく、怖がらせないように接しなさいって。それを貴方はじぃーっと見続けるわ、凄い勢いで頼むだなんて迫って。ハルトちゃんが怖がるのは当たり前です!!」
そうそう。まったくその通り。人見知りにそれはダメ! アイラさん怒ってくれてありがとう。
「む、そ、そうか」
「ハルトちゃんいらっしゃい」
お母さんに呼ばれて、お母さんの方に急いで移動します。そんな僕にぞろぞろ付いてくるフウ達。お母さんに抱っこしてもらって、顔はイーサンとは反対側に。そんな僕に後ろからイーサンさんがすまないって謝ってきました。
「すまない。あまりの可愛さに興奮してしまったんだ。怖がらせるつもりはなかった」
あれ? 声の張りがなくなってる? 何て言うんだろう、ひょろひょろって感じ。さっきまでの勢いが完全に無くなってます。
気になってそっと振り返ってみたら、そこには悲しそうな寂しそうな顔したイーサンさんが、項垂れて立ってました。
なんかひと回り体小さくなってない? 僕が怖がったのがそんなにショックだったの? そんなガックリする程? どれだけ可愛い物好きなのさ。
しょぼくれてるイーサンさん見てたら、なんか可哀想になってきちゃった。だからってすぐには仲良くなれないけどね。でも少しだったら、話聞くくらいなら良いよ。まだみんなをなでなでするのはダメ。
お母さんのお膝に座り直して、イーサンさんの方見ます。僕がちゃんとイーサンさんを見たからか、パァッと笑顔になるイーサンさん。
「ハルト君。改めてこんにちは。俺の名前はイーサン。よろしく頼む」
だいぶ落ち着いたみたい。そんなイーサンさんを見てアイラさんが、部屋に案内してあげたらって言いました。
良く分かんないまま僕達は、休憩室から出てイーサンさんの後ろを歩き始めました。歩いてる最中、アイラさんがお父さん達にお話します。
その話によると、僕達が寝泊りする部屋以外に、僕達やお兄ちゃんが遊べるようにって、遊び専用の部屋を用意してくれたみたい。で、その部屋の用意をしたのがイーサンさん。
お母さんが送った手紙に、僕ちゃんをここへ連れてくるって書いてあるの確認して、その手紙が届いてからつい最近まで、僕達のために一生懸命部屋の用意してくれたんだって。ちょっとテンション上がってきたよ。
さっきまではお母さんの洋服に隠れて歩いてた僕。話聞いてるうちに、だんだんとお母さんの前を歩くようになった僕。フウ達なんかイーサンさん抜かす勢いだよ。
着いた部屋は、僕達が泊まるお部屋のすぐ隣でした。泊まる部屋は今グレン達が荷物運び入れて準備してくれてるの。
「遠い部屋に移動するより、すぐ隣に部屋を用意した方が、ハルト君達には楽だと思ってね。よし、じゃあ開けるぞ」
ガチャ。イーサンさんがドアを開けます。パッと走ってドアのところから中を見る僕達。
「ふわわわわわ!!」
何これ何これ! 凄すぎる! 壁は子供部屋って感じの、妖精や魔獣の絵が描いてある可愛い壁紙が貼ってあって、窓の所にも同じ感じの絵が描いてある、可愛いカーテンがついてました。灯りのための光の魔力石には、お花のケースがかぶせてあります。
じゃあまずはお部屋の右側から。大きなおもちゃ箱が3箱置いてあって、はみ出てるところだけしか見えないけど、そのおもちゃ箱いっぱいにおもちゃが入ってるのが分かりました。
次は真ん中。真ん中にはトランポリンみたいな遊具と、押しぐるま。押しぐるまにも可愛い魔獣の絵が描いてあります。
そしてそしてお部屋の左側。フウとライがビュッて飛んでいって、スノー達も後に続いて走って行きます。えへへ…僕もね。
お部屋の左側にはぬいぐるみがいっぱい。そうお家にあるオニキス達勢揃いのぬいぐるみが、このお部屋にも置いてあって、他にもいろいろなぬいぐるみが置いてあります。
「見てみて! フウそっくり!」
「ボクにもそっくりだ!」
「シュノー、おおきしゃもいっちょ」
『『キュキュキュイ~』』
「自分たちもそっくりだと言ってるぞ」
オニキスが通訳してくれます。あのね全部が本人達サイズでできてて、オニキスのぬいぐるみもオニキスサイズだから僕乗れちゃいます。
「グレン師匠から手紙で絵を送ってもらって、それを見ながら作ったんだ。グレンはこういう可愛い物作るときの師匠なんだよ」
グレン師匠ですと!! まさか師匠の弟子がいるなんて。僕のイーサンを見る姿勢が変わります、僕も大きくなったらグレン師匠に弟子入りしようと思ってたから、先に弟子入りして、これだけの物を作るなんて尊敬しちゃう!
「まぁ、まだまだ師匠には及ばないが。どうだ? 気に入ってくれたか?」
まだまだ何てそんな。こんな凄いお部屋準備してくれるなんて。僕達みんなでイーサンの方に走って行って、抱きついたり肩に掴まったり、それからみんなでありがとうの大合唱です。フウ達も粉かけてありがとうだよ。
「イーシャンしゃん、ありあと!!」
「「ありがとう!!」」
「ありあと!!」
『『キュ~イ!!』』
「はははっ、喜んでくれたなら良かった。真ん中に置いてある遊具の使い方教えてやるからな」
みんなで真ん中に移動して、まずはお兄ちゃんにやってみろって。お兄ちゃんはこれがなんだか知ってるみたい。すぐにトランポリンみたいな遊具に乗っかります。そしてジャンプ! うんやっぱりトランポリンだったよ。
お兄ちゃんとっても上手なんだよ。ただ高く飛ぶだけじゃなくてクルッと1回転、宙返りまでしちゃうんだよ。みんなで拍手です。
お父さんに僕もやってみろって言われて、トランポリンに上ろうとしたんだけど、
「ふぬぬぬ…」
上るだけで精一杯。やっと上ったと思ったら、これがぼよんぼよん揺れて真っ直ぐに立てないんだよ。ちょっとお兄ちゃん揺らすのやめて。
お兄ちゃんがピョンって弾みつけて地面に下りると、その反動で僕はハイハイの格好のまま上に飛びました。そして背中で着地。ちょっと跳ねすぎじゃないのこれ。でも面白いからまぁ良いか。
今度はそっとまっすぐたってえ、えいっ!! ジャンプは上手くいったけど着地はやっぱり背中でした。
「ハルト、これは学校にも置いてあるんだぞ。これで訓練するんだ」
なんの訓練? 変わった訓練するね。体操選手になるわけでもないのに。僕が良く分かってないのが分かったのか、僕をトランポリンから下ろしたお父さんが、もう1度お兄ちゃんに乗るように言いました。
そして乗っかったお兄ちゃん目掛けて、お父さんが近くにあった魔獣のぬいぐるみ投げます。それを跳びながらひょいっと避けるお兄ちゃん。
このトランポリンの練習は、森とか林とかいろいろな所に、冒険者として騎士として出かけたとき、足場の良い所ばっかりじゃないからね。突然魔獣や盗賊に襲われても、避けたりバランスを崩しながらでも攻撃できるようにするために、子供が訓練し易いようにしてるんだって。
「訓練と言えば、ハルト君、もう1つ特別な部屋を準備してあるんだよ。隣の部屋なんだけどね。移動しよう」
特別な部屋? 今度は何のお部屋かな?