83お母さんのお兄さん登場
「ハルトちゃんご挨拶よ」
じぃ~と見入っちゃってた僕。慌てて挨拶します。最初の挨拶はとっても大事。
「ハルトでしゅ。はじめまちて」
「へぇ、お前の手紙に書いてあった通り、ちゃんと挨拶できるんだな。ペインなんてこのくらいの歳のときは、父さんの後ろに隠れて何も言えなかったのに。良く来たなハルト。パトリシアの兄でレイモンドだ。よろしくな! お兄ちゃんって呼んでくれ」
がしがし頭を撫でられて、首が前に後ろに左右にがくんがくん揺れます。そのせいで体も動いちゃって、僕に乗ってたフウ達もがくんがくん。お母さんが力入れすぎだってすぐに怒ってくれたんだけど、レイモンドさんはガハハハハって笑って終わり。
て言うかお兄ちゃんって、どうなのそれ? お父さんよりも年上でしょう、お兄ちゃんじゃないじゃん。おじさんだよ。
それに新しい名前も出てきたよね。ペインさん? ペインさんって誰だろう?
「と、挨拶は屋敷に行ってからゆっくりするとして、パトリシア、ペインの話をしたが、あいつも遊びに来ると言っていたぞ。ハルトに会いたいって言ってな」
「あらそうなの? ハルトちゃん、ペインは私のもう1人のお兄様よ。ルリトリアの近くの街に住んでいるの」
おお! もう1人のお兄さん。ふと横を見ると、お父さんが一瞬嫌そうなお顔して、その後僕が見てるのに気づいて、いつものニコニコお顔に戻りました。もしかしてお父さんペインさんも苦手なのかな?
と、その時外からレイモンドおじさんを呼ぶ声が。お父さんが窓を開けると若い男の騎士さんが居て、軽く頭を下げた後お父さんとお母さんに挨拶してから、レイモンドさんに早く戻って下さいって言ってきました。それからまだ仕事は残っているんですよとか、なんで途中で居なくなるんですかとか。話すこと全部文句ばっかりです。
「あ~、分かった分かった。今戻る。まったくお前は相変わらずだな」
「レイモンド様がいつも勝手に現場から居なくなるからです。早くして頂かないと、後の処理が遅れます」
「しょうがない。パトリシア後で屋敷でな。キアルこれからしばらくよろしくな」
そう言ってお父さんの肩ぽんっと叩いて、レイモンドおじさん馬車から下りて行きました。お父さんが大きな溜め息つきます。
「相変わらずだな君のお義兄さん」
なんかもの凄い勢いのある人だったね。フウ達見たらみんなもそう思ってるみたい。ボケっとレイモンドおじさんが出て行ったドアを見てます。
レイモンドおじさんの特徴は、体がガッチリしてて背も高くてとっても大きい人。僕なんか片手でひょいって感じだよ。それから髪の毛の色は金髪で、髭がちょっとだけ生えてます。
あとは体に見合った大きな剣を持ってて、おじさんが乗ってきて椅子に座った後に、自分の目の前に剣を立てたんだけど、ガシャンって大きな音がして、ちょっと馬車が揺れました。それにね。
「もうお兄様ったら、また馬車を傷つけて、後でしっかり直してもらわないと」
そう、おじさんが剣を立てたところの床、傷とちょっとした凹みが。お母さんがあれだけ重い剣なんだから傷つくの分かってるはずなのにって。その言ってる顔がね、あの笑ってるけど本当は怖い笑顔なんだ。僕もフウ達も、もちろんお父さんもお兄ちゃんも、みんなそれぞれお母さんをこれ以上怒らせないようにしました。僕達は出してあったぬいぐるみで遊んでお兄ちゃんは窓から外眺めて、お父さんはお母さんに街に着いたら、まずはあの店に行こうとか、いろいろ機嫌をとってました。
そしてそんな僕達家族の番がやっと。騎士が確認している間に、お父さんに抱っこしてもらって窓から外見ます。シーライトよりも全然大きな門がドンとあって、とっても迫力があります。それに門で確認をする騎士の数もかなり多いです。
僕達の馬車と荷馬車のチェックはすぐに終わりました。もちろん何にも異常なし! 騎士が手を振ってくれたから手を振り返したら、ブレイブとアーサー、スノーがしっぽで振り返したの。騎士達の顔が情けなくなっちゃった…。しっかりお仕事に戻ってね。でもその気持ち僕分かるよ。可愛いもんね。フウとライも手を振ったんだけど、妖精の光は分かっても姿分からないからね。ちょっと見ただけですぐにブレイブ達の方見てニンヤリしたもんだから、その後少しの間プンプン怒ってたよ。
馬車が街の中に入って少し進むと…。
「ふおぉぉぉぉ!!」
「「わあぁぁぁ!!」」
「しゅごい! キラキラ!!」
『『キュキュイ!!』』
「ははっ、目がキラキラだな」
「これ見ればそうなるでしょうね。それにハルトちゃん達だけじゃないわよ。ほら…」
「まぁそうだよな」
「ほらハルト、あそこのお菓子売ってるお店、オニキスみたいな形のクッキー売ってるよ!!」
窓の所、僕達とお兄ちゃんでぎゅうぎゅうです。お店通りの規模も違うし、お店の大きさも違うし、お店の飾りもキラキラだし、人の多さも違うし、違うものだらけ。こんなの初めて見た!!
お兄ちゃんがあっち見てって指差した方みんなで見たり、僕がアレ!! って指差した方みんなで見たり、あっちもこっちも見なくちゃいけないからとっても大変。しかもこんなに賑やかなのが、大会が行われるスタジアムまでずっと続いてるんだって。
住宅街はスタジアムとお店通りを包むように建ってて、そのまた周りには、騎士達や冒険者達の家が囲んでます。
レイモンドおじさんの家は、スタジアムの後ろの方。他のいい家柄の人達が住んでるのもそっちの方みたい。
まぁそれは良いとして、僕早く遊びに行きたい。
「おとうしゃん! はやくおりよ!」
「ハルト残念だが、今日はこのままレイモンド殿の屋敷へ行くぞ。遊ぶのは明日からだ。荷物の整理もしなくちゃいけないからな」
えぇ~、そんなぁ~。僕もフウ達もみんながっくりです。せっかく遊べると思ったのに。こんなに凄いの見せておいてお預けなんて…。
あ~あ。フウ達が怒ってお父さんのお顔に攻撃しに行っちゃったよ。
「ま、待て待て、止めろ!! レイモンド殿の屋敷にはお前達が喜ぶものが用意してあるらしいぞ、今日はそれで我慢しろ」
それ聞いてフウ達の目が光ります。たぶん僕の目もね。何? 喜ぶものって?
楽しみができたけど、やっぱりこれだけキラキラの街見ちゃったから、ちょっとだけ残念な気持ちも持ちながら、お屋敷に着くまではずっと窓から街を眺めてました。
お屋敷に行くにはスタジアムの横を通って行くんだけど。ここでもまたまた感動が待ってました。
「ふわわわわわ!!」
大きな大きなレンガでできたスタジアムがドンっと建ってて、装飾もかなり凝ってるの。その装飾を見にくる人達もいっぱいいるんだって。
大会とかイベントがないときは見学自由で、このスタジアムを回るツアーがあるんだって。
「ぼくも! ぼくもみちゃい!!」
「大会の用意が始まるまであと少し見学出来たはずだからな。よし、報告やらなんやら終わったら連れてきてやろう」
やったぁ〜!! みんなで万歳です。お兄ちゃんまで…。お兄ちゃん前にお父さんが出てた大会で、スタジアムに入ったことあるんじゃないの?
「にいしゃ、きちゃことない?」
「何回も来てるけど、いつも応援する席から動いたことないんだ。スタジアムに来て席について応援してそのまま帰る。スタジアムの中がどうなってるか僕も良く知らないんだ」
そうなんだ? 応援する席はみんな決まってて、僕の家みたいな貴族の人達が座る席。騎士団の団長やちょっと位の上の人達が座る席。とかなんとか、いろいろ細かく決まってるみたい。
「僕も1度スタジアムの中いろいろ見てみたかったんだぁ」
ならお兄ちゃんもお父さんにお願いすれば良かったのに…。
「フレッドはいつもお店回ってるうちに、帰る日になっちゃって、ツアーどころじゃなかったものね」
ああ、そういうこと。でもそうだよね。僕だって見たいものいっぱいだもん。これはちゃんと予定立てないとダメな感じ? ちゃんとお父さん達が話してるの聞いておかなくちゃ! お父さん達だって大会の準備に訓練、練習の時間がいるし、その合間に遊ばなくちゃいけないんだから。
馬車はスタジアムの横を通り過ぎて行きます。ふとスタジアムの反対の方を見たとき、魔獣達が集まってるのが見えました。