81長い長い旅の途中
「………」
「頑張った方か?」
「そうね。5日間よく我慢したわ」
僕は今馬車の中でブスッとしてイライラしてます。そして僕の周りではフウ達も一緒になってブスっとしてます。うん。お母さんの言う通り僕達頑張ったと思うよ。
ルリトリアに向かって出発して今日で5日目。馬車の外の景色はシーライト出発してから何も変わってません。片側が森か林だったり、辺り一面草原だったり。それが順番に繰り返し見える感じです。
僕が初めてシーライトに来たときも、ディアンに家まで運んでもらったときも、何となく気付いてたけどさ。街から街に行く間に何もないの。そりゃあ小さな街や村なんかは所々で見たけど、それ以外は木と草原ばっかり。あっ、岩ばっかりの所もあったかな? どっちにしても何にもないんだよ。
最初は馬車の中でおままごとや、お母さん達に絵本読んでもらってたりしたけど、さすがにずっとはね。
そう、完璧に飽きました。馬車ってこんなにつまんないの? もっとこう楽しい旅と思ってたのに、ただただ同じ景色を見ながら永遠に座ってるの。
テレビとかで見た事あるけど、よく休みの日に出かけてる家族撮影して、小さな子供がお父さん達に、まだ着かないの? あと何分? って聞いてるのあるでしょう。それに対してお父さんが困ったり、お母さんが、まだだって言ってるでしょ、って怒ったり。今の僕がその状態です。ごめんね。聞いちゃいけないと思うんだけど…。
「おとうしゃん、あとどのくりゃい?」
聞かずには居られなかったんだよ。そしたらお父さんもお母さんも苦笑い。やっぱりそうだよね。お父さんが僕のこと、自分のお膝に乗せました。
「頑張って我慢してくれたな。だけどまだまだ着かないんだ。ただ、今日泊まる街には早めに着く予定だから、少しだったらその街で遊べるぞ。だからそれまでもう少し我慢だ」
街で遊べる? 本当? なら我慢だ。とりあえず街に着いたら、思いっきり動こう。てか走りたい。
フウ達もお父さんの話聞いて、ぶつぶつ言いながらおままごとで遊び始めました。僕は僕で、持ってきた魔力石のもう使えないただの石を、コロコロ転がしながら時間を潰します。
なんとなくいつもと変わらない外を見ました。そしたらオニキスに乗って移動してるはずのディアンが居ません。僕は背伸びして窓から顔出してディアンの姿を探します。
「何してるんだ。危ないだろう」
お父さんに馬車の中に引き戻されちゃいました。
「おとうしゃん、ディアンいない」
「居ない?」
今度はお父さんが外を見ました。
「本当だな。オニキス、ディアンはどこに行った?」
「ディアンならこの森の中を走ってるぞ。ついでに暇つぶしに、魔獣でも倒しながら行くかと言っていた。馬車を見失うことはないから安心しろ。ディアンはちゃんと俺達の気配を感じ取れるからな」
「いやいやいや、待て待て! なに勝手に行動してる。走って来るってなんだ? 魔獣を倒すってなんだ! まさか走ると言うのはドラゴンに変身しているんじゃ…」
「え? ディアン何処か行ったの! フウも行きたい!」
「オレも!!」
一気に馬車の中は賑やかになりました。ディアンのことを詳しくオニキスから聞きたいお父さん。ディアンが自分だけ暇つぶしに、森に行ったって聞いて、自分達も行きたいと、何で置いて行くんだと、ワァワァ、ギャーギャー騒ぎ始めたフウ達。僕も1人だけ運動しに行ったディアンにイライラして、フウ達と一緒に怒ります。
それから何? どうしたのって窓から外見るお兄ちゃん。挙句、僕達が怒るから、話が進まなくてお父さんも煩いぞって。もうね本当に大騒ぎだよ。
でもね、これだけの騒ぎの中、静かにニコニコ笑って座ってるお母さん。僕気づかなかったよ。
お母さんがぱちんっ!! って大きな音させて、手を叩きました。みんな一斉にお母さんの方向きます。
「みんな、馬車の中では静かにね。それからフウちゃん達、あなた達は行っちゃダメよ。ディアンは帰ってきたら、お母さんがしっかりお仕置きしますからね」
し~んとする馬車の中。お父さんとオニキスが静かにお話再開。フウ達も静かにおままごとに戻ります。僕も静かにフウ達のおままごとに混ざりました。お母さん怖い…。
街にはお昼ちょっと過ぎに着きました。その頃になってディアンも戻ってきたんだけど…。戻ってきた途端、まだ街の外なのにお母さんのお説教が始まっちゃって。お父さんがとりあえず街に入るぞって促して、何とか街の中へ。
街の中心まで行くと、大きな噴水がドンッ! って設置してあって。大きな広場になってました。お店通りから広場までいろいろなお店が並んでて、遅いお昼は屋台でご飯買って食べます。
馬車が広場の前で止まって、最初にフウ達がわあぁぁぁぁぁぁ!! って勢いよく外に飛び出します。そのあとをまずはお父さん。それからお母さんが下りてお兄ちゃんが下りて、最後に僕は抱っこして下ろしてもらいます。
凄い勢いで外に出て、凄い勢いで広場をぐるっと周って来たフウ達。何か面白い物見つけたみたい。僕に突撃して来ながら、あるお店を指差します。
「ハルト! あれ見て! フウあれが欲しい!」
「オレも!」
「しゅのーも!」
『『キュキュキュイ!!』』
そのお店には、飴が売ってたんだけど、妖精の飴とか魔獣の飴とか、いろいろな形の可愛い飴を売ってました。あ、あれオニキスにそっくり。
走りたかったのと、見たいのが一緒になって、思わずお店に向かって走り出す僕。後ろでお父さんが待てって言うのが聞こえました。その後に…
「じゅしゃあぁぁぁぁぁ!!」
うん。思い切り転びました。それはもう完璧って言っていい程の転び方したよね。顔面からこうダイブするみたいに。すぐに起きられません。びっくりとかなりの痛みが襲って来て。
「ハルト!」
「ハルトちゃん!!」
お父さん達が慌てて走って来て、お父さんが僕の事立たせます。
「いちゃ…いちゃい………くっ、ひっく」
涙がぽろぽろ、ぽろぽろ。
「全く、待てと言っただろう。いきなり走り出すから転んだりするんだぞ。ああもう、かなり擦りむいてるな。パトリシア頼む」
「ええ」
お母さんが魔法で擦り傷治してくれます。それですぐに擦り傷は治ったんだけど、もうね、涙が止まらないの。でもとりあえず、謝らないとダメだよね…。
「ごめ…しゃい」
お父さんに抱っこしてもらう僕。お父さんは気をつけるんだぞって言ったあと、ニコって笑って大丈夫かって。それで僕達が行こうとしてた飴を売ってるお店に、手を繋ぎながら移動して、1人に1個ずつ飴を買ってくれました。
僕泣きながら飴買ってたから、お店の人に笑われちゃったよ。どうもお店の人、僕が転んだの見てたみたい。気を付けろよって、おまけに小さい飴がたくさん入ってる袋を僕にくれました。ありがとうおじさん。これはみんなでちゃんと分けて食べるからね。
やっと涙が止まって、オニキスの飴を買ってもらってルンルンの僕。広場にはテラス席みたいに椅子とテーブルがいくつか置いてあって、僕達はお兄ちゃんと一緒にそこに座って、ご飯買ってきてもらうの待ちます。
そして僕の後ろで、かなりしょげてる人物が1人。ディアンです。ディアンだけさっき飴買って貰えなかったの。それに今日と明日のおやつはなしだって。勝手に居なくなった事に対する、お母さんからの仕置きです。
僕達と暮らすようになって、お菓子とおやつの時間が毎日楽しみなディアン。そんなディアンにこのお仕置きは辛いよね。しかも勝手に食べたら、2度とおやつなしだって。ディアンだったら、力尽くで何とでもなりそうだけど、今は大人しくしょげながら僕の後ろで反省してます。
大丈夫だよディアン。あとでこっそりお父さんに飴買ってもらって、お仕置き終わったらあげるからね。僕がもらった袋の飴もちゃんと取っておくからね。
遅いお昼のご飯を食べて、広場のお店通り見て周って楽しかったし、たくさん動けて大満足の僕達は、今日泊まるお宿について、ベッドの上でだらぁってなりました。オニキスまでお腹出してゴロゴロしてます。
明日からも馬車に乗らなくちゃいけないけど、少しは我慢できそう。少しだけね。あとはなんとかフウ達と遊んで、みんなで我慢しないと。早くルリトリアに着かないかなぁ。