75オニキスの知り合い
「しゅっぱちゅ!」
みんなでディアンに乗って森に出発です。全員ちゃんと乗れました。僕達が乗ってきた馬もね。お父さん達ディアンに乗るとき、そぉ~とそぉ~とディアンに乗りました。お父さん達でもそりゃぁドラゴンに乗るとなったらそうなるよね。でもすぐにいつもの堂々としてるお父さんにもどりました。
森にはすぐに着いて、とりあえずあの湖の所に降りました。そこは1番ディアンがゆっくり降りられる場所だったから。
「まず俺がやつと話をつけてくる。それまでハルト達はここで待っててくれ。ディアン、ハルトのこと頼むぞ」
そう言ってオニキスが何処かに走って行きました。う~ん久しぶりの森。マロン達のことが終わったら、前のお家に行って久しぶりにゴロゴロしたいなぁ。でも中がどうなってるか分かんないね。ホコリとか凄いことになってたらやだな。だって集めた花の食器とか置いてあるんだもん。
「ねぇハルト。ハルトは前ここに住んでたの?」
マロンが湖のふちでお水バシャバシャしながら聞いてきました。他の子魔獣も遊んでます。大人魔獣の方は、いろんな所見て回ってました。
「うん。ここ、ぼくのしゃいしょおうちありゅ」
「僕ここに住めたら嬉しいなぁ。ここなんか気持ちいい。あんまりトゲトゲした気がしないんだ。前住んでた森は、強い魔獣がいつもトゲトゲしたもの放ってたの」
威嚇かなんかかな? それなら確かにここは関係ないかもね。みんな仲良しだし、縄張りもちゃんと別れてるから揉め事少ないし。子ファング元気かなぁ。きっとマロン達お友達になれるよ。そうだ! ブレイブも家族やお友達に会いたいよね。う~ん。なんかやりたいこといっぱい。
そんなこと考えてたときでした。僕の近くの草むらがガサガサガサって揺れました。次の瞬間黒い塊が僕の方に飛んできたの。僕はその黒い塊と一緒にその場に倒れちゃいました。
「わあぁぁぁぁ!」
「ハルト!?」
「ハルト様!?」
お父さん達が慌てて僕の方に走ってきます。僕の胸の上、そして僕のお顔の目の前に大きなお顔が。見覚えのあるお顔です。そう僕達のお友達子ファングが僕の上に乗っかってました。
「ハルト! やっぱりハルトだ!」
「こんちわ!」
「わぁ、どうしてここに居るの?」
「お父さん達は?」
「キュキュイ!」
みんなで戯れてたら、また草むらがガサゴソって子ファングのお父さん達が現れました。僕達の気配がしたから急いでここに来たんだって。もう久しぶりで嬉しくて凄い勢いでみんなで戯れます。横目でお父さん達みたら、お父さんがグレンに何かお話してました。お父さんのお顔はやれやれって感じです。お父さんは子ファング達のこと知ってるもんね。多分グレンに子ファング達のこと説明してるんだ。
やっと落ち着いた僕達。スノーとアーサーとディアンはみんなのこと知らないから教えてあげないとね。説明したらスノー達も子ファングと遊び始めました。それにしても子ファング。ちょっと会わない間に少し大きくなった? 前はちょっと大きいぬいぐるみって感じだったけど、今はもう少し大きいぬいぐるみ?
僕達が遊んでる最中、大人組はなんかお話し合いしてました。多分オニキスがお話しに行ってる魔獣と話がついたときは、ここに住むこと話してるんだと思います。みんな輪になって大人しくお話し合いしてました。
「ねぇねぇ、マロンがここに住んだら僕、毎日一緒に遊べる?」
「うん。他の子ともいつでも遊べるよ。僕遊ぶの大好きなんだ」
子ファングとマロンもう仲良しです。こんなに仲良しになっちゃって、オニキスちゃんとお願いしてきてくれるかな。後でやっぱりここには住めないって言ったら、マロン達絶対泣いちゃうよ。
たくさん遊んだあとは、子ファングが魔法見せてくれました。いっぱい練習したんだって。風の魔法です。小さいけど竜巻みたいなのができて湖の上で消えていきます。おお~。ちょっと会わなかった間に魔法まで上手になってるなんて。僕なんて魔法も練習どころか、禁止になりかねない状態なのに。僕も魔法の練習したいなぁ。チラッとお父さんの方見たら目が合いました。それから思いっきりお顔振られちゃったよ。ちぇ。
それにしてもオニキスどこまで行ったのかな。なかなか帰ってこないけど。大丈夫だよね。マロン達ここに住めるよね。
(オニキス視点)
ハルト達と別れ、だいぶ森の深くまで来た。さらに奥へと入っていく。ここまで来るとオレくらいのレベルの魔獣しか居なくなる。ディアンほどの力を持った魔獣はいないが、それでも気をつけないといけないレベルの者も居る。今から会いにいく相手はそういう魔獣の1匹だ。
そいつは先ほどからかなりの威嚇を放っている。俺に向けられたものだ。多分分かっているんだろう。俺が厄介ごとを持ち込んだことが。
そしてようやく奴の縄張りに着いた。縄張りに入った途端、攻撃されてしまったが。
「何をしにきた! お前は馬鹿な人間と一緒に、奴らの所へ行ったんじゃなかったのか。挙句、あんな馬鹿でかい力を持ってるやつを連れて来やがって」
「悪い。だがハルトから離れるわけもないからな」
「おい、まさかあれも契約したのか」
「ああ。これからフェニックスとも契約する予定だ」
「………」
攻撃を止めるこいつはダイアー・ウルフ。この森で今1番力を持っているのがこのダイアー・ウルフなのだが。今日はちゃんと森にいたが。まぁこいつはいつもフラフラとどこかへ遊びに行ってなかなか帰ってこない。
さっき人間達の住む所へ行ったんじゃないのかと言っていたが、こいつだってよく人間の所へ行っているんだぞ。しかも人間の姿に変身して。
だいたいいつも酒を飲みに行っているんだが、奴の後ろ。大きな木の下にたくさんの酒瓶が落ちている。しかもこの匂い。つい最近も街に行っていたな。
「森も魔獣達は最近どうだ。穢れは出ていないか」
「ふん………。今のところはな。お前の所のガキがここを出ていく前にファングに使った、穢れを祓ったときの力が、まだ森に充満しているからな」
「そうか」
そうその時、ハルトが子ファングの父親を助けたとき、最後にユーキから溢れ出した穢れを祓う力は、この森全体を覆う程の力だった。それが未だに残り、森の穢れを抑えているらしい。さすがハルトだ。
大きな木の根本に戻り、奴はダイアー・ウルフの姿のまま酒瓶を咥えると、ガバガバと酒を飲む。それから俺にも酒を勧めてきた。酒を受け取りひと口だけ飲みひと息つくとマロン達の話を始める。そして全てを話し終えると、奴はとても嫌そうな顔をしていた。
「ふん。その人間どもを逃すとは、少したるんでいるんじゃないのか。最後まで確実に始末しなければ、あのガキの安全は完全には守られないんだぞ」
「それは分かっている」
奴にそう言われて、今度は俺が嫌な顔をする事になった。確かに黒服達を逃してしまったことは不味いことだ。いつまたハルトが襲われるか分からない。だが、あの時は仕方がなかった。フェニックスが全てをかけても防げなかったのだから。気を取り直し再びマロン達の話をする。
「それで。魔獣達のことを頼んでもいいか?」
「はぁ~。断ったらあっちにいるあの化け物みたいな奴が、乗り込んで来るんじゃないのか」
「そんな事はないと思うが。それは俺も断言できん」
ダメだとなったとき、それを聞いたハルト達とマロン達チビ供が泣き、それをみたディアンがハルトを泣かせた奴は誰だ! と乗り込んで来かねない。
「分かった。引き受ける。お前達が帰ったあと話をしに行くと、奴らを仕切ってる奴に伝えろ。それまでは勝手な事はするなと。いいな。まったく本当に面倒ごと持ち込みやがって」
「すまない。今度酒を持ってくる。いつになるか分からんが、ハルトがこの森に遊びに来るときにでもな」
そう言えば喜ぶと思ったが奴は黙ったまま、ハルト達がいる方角を見つめた。なんだ? どうしたんだ?
「………お前は今、あのガキと一緒にいて幸せか?」
「? ああ勿論幸せだ。それがどうしたんだ?」
奴がもう1度酒を飲む。そして立ち上がり伸びをした。
「何でもないさ。話は終わりだガキのとこに戻れ。いい加減帰らないと心配するんじゃないか」
「ああ? じゃあマロン達のことよろしく頼む」
俺はそう言うと来た道を戻り始めた。早くハルト達の所に戻ろう。
「幸せか…。良かったな。アレだけの気分が良い魔力を持ち、そこら辺の人間のように
威張り散らすこともなく、自分のことよりも相手のことを考える、とても優しい人間と出会えて。オニキス。お前が羨ましいよ」