64最後の力
僕はハッとして目を開けました。身体中がとっても痛くて、1番痛いのは背中です。オニキス達が僕の所に走ってくるのが見えます。ロイもね。僕攻撃されて一瞬だけ気を失ってたみたい。僕の隣にお腹に酷い傷のあるマロンが横たわってます。
「ハルト大丈夫か!!」
目の片隅に見える戦ってる魔獣達。さっきよりも攻撃力が上がったみたい。でもあの黒服の変な攻撃で、やっぱり苦戦してます。でもみんなが戦ってくれてるんだから、僕痛いなんて弱音吐けないよ。本当は物凄く痛いけど…。
大丈夫ってオニキス達に言おうとしたんだけど、あれ? おかしいな。
「パクパクっ」
声が出ないの。声出そうとすると背中がもっと痛くなるし、それに喉もなんか変。
「ハルトどうした?」
オニキス達がとっても心配そうな顔してるけど、僕口パクパクするだけで、大丈夫だよってオニキス達に伝えられません。
「ハルト様失礼します」
ロイが僕の体そっと撫でます。いろんなところ触って、1番痛みが酷い背中は本当にちょっとだけ。それでもまた物凄く痛くなっちゃったよ。それから喉も触ってロイがとっても難しい顔してます。
「オニキス、声のことは何とも言えないが、背中の傷がかなり酷い。俺が一応回復魔法をかけるが、なるべく早くもっと力のある人間の居る所に行かないとダメだ」
「とりあえず回復してくれ。俺は他の魔獣と一緒に、どうにかあの黒服共を倒す。倒さなければここから逃げることも、街へ行くこともできない」
2人は話を進めてるけど、お願いロイ。マロンのこと見てあげて。きっと僕より酷い怪我してるから。だって2回も飛ばされて、血だってあんなに流れてるんだよ。僕はマロンのこと指差します。ロイはチラッて見てそれからすぐに僕に視線を戻して回復魔法使い始めました。
マロンの所にラナお母さんが来ました、それから怪我したお腹のところ見て、小さなため息です。何の溜め息? どういうことなの? 僕マロンの方に行こうとして体が痛かったけど体の向きを変えようとしました。そんな僕をオニキスやみんなが怒ります。
「動くな。怪我が酷くなったらどうする!」
「パクパク(でも)」
「でもじゃない!」
おお、オニキス僕の口パクパクだけで何言ってるか分かったよ。怒られる僕にラナお母さんが言いました。
「ハルト。マロンはあなたよりも傷が浅いわ。確かに酷い怪我だけれどね。そうだわ。ハルトあの木の実の残りもらうわね」
そう言うと、フェニックスの方に歩いて行って、僕の食べかけの木の実を拾って戻って来ました。傷が治るわけではないけど、少しは痛みを和らげることができるみたい。倒れてるマロンの口にラナお母さんが木の実を落としました。ゆっくり口を動かすマロン。待っててマロン。僕治ったらすぐにロイに治してもらうからね。
治す…。僕慌ててフェニックスのことみました。穢れを祓ってるときにこんな事になっちゃったから。どうしよう、またフェニックスの穢れが広がったら。フェニックスと目が合います。その途端にフェニックスにも怒られちゃった。しっかり自分のことだけ考えろって。
「ハルトのおかげでかなり良くなった。後は羽だけなのだから心配せずに、自分の怪我を治してもらうといい」
そう言って顔を地面につけました。そうだよね。僕が治んなきゃ、フェニックスの穢れ祓えないもんね。
僕は静かにロイの回復を受けます。痛くて最初目を閉じて我慢してた僕。それで少したったら背中の痛みが少し良くなって、周りの様子を見ることができるようになりました。
オニキスは戦いに戻らないで僕達の前に立ってたよ。真っ黒のモヤモヤの塊がまた襲って来ても大丈夫なように、それかそれ以外にたまに飛んでくる、戦いのせいで飛ばされた石や岩から守ってくれてるんだ。
ドレイクが結界張り直してくれたけど、あの襲ってきたモヤモヤは防げないみたいだからね。あっ、でもねほら。戦ってる魔獣達みたらモヤモヤ蹴り飛ばしたりそういうのはできるみたい。あれ一体何なんだろう。
時々飛んでくるモヤモヤを、オニキスとラナお母さんが蹴り飛ばします。
「ハルト大丈夫? フウがなでなでしてあげるね」
「オレも!」
「「キュイキュイ!!」」
「ボクも!」
みんなが僕の頭なでなでしてくれます。スノーそれなでなでじゃなくてペシペシ叩いてるんだけど…。でもありがとう。ちょっとだけ痛いのなくなった気がするよ。横向くとマロンがさっきまでヒューヒュー息してたのが、ゆっくり落ち着いてます。木の実が効いたんだね。
この時僕達気付いてませんでした。あの1番偉そうな黒服が、とってもイライラした顔しながら僕達の方見てたの。
「ふん。やはり時間がかかるな。いくら俺がこの魔法を使って結界の中に攻撃できても、ファイヤードレイク達が居てはな。そろそろやってしまうか……」
まだ身体中痛いけど、それでも体を動かすくらいならどうにかできるようになりました。体動かすだけね。起きるのはダメ。でもロイありがとうね。僕が少し具合良くなったの分かってロイがニコって笑ってくれた時でした。
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」
「ぐあぁぁぁぁぁ!!」
突然の物凄い断末魔? みたいな悲鳴が結界の外のいろんな所からから聞こえました。僕もロイもオニキス達も、ラナお母さんも他の魔獣も、ドレイクまで悲鳴が聞こえた方を見ます。そこにはあの魔獣使いの女の人とそれからサーカスの団員、黒服の仲間が大勢、あの黒いモヤモヤとは違うもっとドス黒い煙みたいな物に襲われていました。
魔獣使いの女の人が煙に飲み込まれて顔だけ出してる状態で、ある方向を見て叫びます。それにつられて僕達もそっち見ます。そこにはさっきいた場所じゃなく、岩の上に立っている黒服が居ました。その横にサーカスの団長が立ちました。
「何故です! 何故ですか! 私はあなた様のために!!」
「だからだ。今もっと役に立たせてやろうとしているのだ。嬉しいだろう?」
「そんな…。そんな…。団長助けて!!」
「本望だろう。お前の想い人の力になれるのだから。」
「そんな…。助けて…、助けて…。」
女の人も他のドス黒い煙に捕まってた人達も完璧に煙に包まれました。少ししてその煙が黒服に集まり始めます。黒服が手に持ってる石に。煙の後には何も残ってません。みんな消えちゃいました。
オニキスが黒服が持ってる石は闇の魔力石だって。僕が今までに見た中で1番大きな魔力石かも。
煙が全部集まると今度は黒服の周りに、あの真っ黒のモヤモヤが溢れ出しました。
「いい加減時間がかかり過ぎているからな。そろそろ終わらせよう」
その黒服の言葉と共に、大量のモヤモヤが一斉に結界の中に入ってきました。ドレイクも他の魔獣も対応するけど、対応しきれなかったモヤモヤが僕達を襲ってきました。オニキスが頑張って消してくれます。フウ達も上手くモヤモヤ避けて。でもロイがモヤモヤに襲われそうになって、避けてるうちに僕から離れちゃったんだ。
「ハルト様!!」
ロイの声にオニキスが僕の方見ました。
「ハルト!!」
僕の方に大量のモヤモヤが飛んできました。僕は目を瞑ります。ごめんねオニキス、フウ、ライ、ブレイブ、スノー、アーサー。僕、もう一緒に居れないみたい。
(フェニックス視点)
ハルトの方に大量の闇が飛んでいく。あれに襲われたら確実に命を落とすだろう。黒服が慌てた様子でこちらを見ている。ふん。ハルトを捕まえようとして、よく分からない闇魔法を使ったのか、それともただ単にコントロール出来ていないだけか…。
ハルトの方に大量の闇が飛んできた瞬間、我は空へと舞い上がった。片方の羽が穢れのせいで重いが、そんな事はもう関係ない。この穢れをハルトが祓ってくれたとしても、我は長く生きられないだろう。いろいろと力を使い過ぎたし、穢れに力を奪われてしまった。
だが、ハルトを助ける力は残っている。ハルトの怪我を回復し他の怪我をした魔獣達の怪我も回復する力が。
最後のときにハルトに出会うことができて良かった。これだけの暖かいそして包むような優しさに溢れた魔力の持ち主に出会うなど。何百年と生きてきて、その魔法に触れることができ、我はもう思い残す事はない。
そしてドレイクの運命の相手。ドレイクも今までいろいろな経験をしてきている。そんな奴にはこれから先、ハルトと幸せに暮らしてほしい。
それにハルトを守るために、奴は丁度いい。今はあの分からない闇魔法と万全の力が戻っていないため、上手く戦えず苦戦しているが、完全に復活すればハルトの最強の守りになるだろう。
我の体が光り始めその光によって、今そこにある大量の闇が全て消え去る。そしてハルト達の体を光が包む。すぐに効果は現れハルト達の怪我を回復する事に成功した。
ハルトは立ち上がると我の方を見てとても悲しそうな顔をした。我の体を全て穢れが覆ったのを見たからだろう。もう穢れに飲み込まれるのは時間の問題だ。だがその前にやることがある。あの黒服達を消し去らなければ。
我はすぐに攻撃態勢に入った。黒服は全ての闇が消えてしまったこと、我の力にもう対応する術がない事が分かったのだろう。別の小さな力の小さい闇の魔力石を出すと、闇の空間を作り上げた。
「ここは引くしかないようだ。子供を手に入れられなかった事は残念だが…。いろいろ報告することもできた。おそらくあのファイヤードレイクは…。おい、行くぞ!」
闇の空間に黒服と団長と言われていた男が入って行く。どうにか攻撃したが、攻撃が当たる前に奴らは闇へと消えてしまい、後に残ったのは先程奴の魔力石に吸収されなかった者だけだ。
我は力を使い果たして地面へと落下する。ハルトが駆け寄ってくるのが見えた。