63黒服達の攻撃
(黒服視点)
「見てみろ」
俺は団長によく子供を見るように言った。じっと見る団長がハッとした顔つきになる。その隣では分かっていないのか魔獣使いの女が喚いていた。
団長と違い首輪がなければほぼ何も出来ない魔獣使い。目の前の大事な事に気づきもしない。この仕事が片付き次第、この女は消してしまうか…。子供が手に入れば、この女の何十倍もの戦力になるのだから。
気を取り直し、団長に話をする。
「分かったか。あの子供を手に入れようとしている理由が。そしてその証拠はそこに復活もしている」
「まさかここまでの力の持ち主だとは……」
ファイヤードレイクが魔獣達の先頭に陣取っている。俺が最後に見た時は見たことがない程の穢れに取り込まれていたというのに、今の奴は穢れに取り込まれる前の完璧な姿で立っているのだ。そしてもう片方。やはり穢れに取り込まれて居たフェニックス。あちらも半分以上穢れが祓われている。そしてそのフェニックスの傍にはあの子供が両手を前に出し何かしている。そしてさらにフェニックスの穢れが祓われていく。
そうあの子供が穢れを祓っているのだ。この様子だとファイヤードレイクの穢れを祓ったのもあの子供だろう。
確かにあの子供はなかなかの魔力を持っていることは分かっていた。影からいつも見張って居たからな。初めて子供が首輪を外したのを見たあの時、この子供は使えると思い、それからはちょくちょく監視していた。
上手く子供を拐うことができ、今まで失敗していた計画がようやく成功したと、内心喜んでいたのだが。気を許したつもりはなかったが…。
部下からの知らせで戻ってきてみれば、今までに捕まえて居た魔獣は全て逃げ、建物は破壊され、部下は全員が殺されて居た。1人を除いては。最後に俺達に知らせてきた部下以外は。
死ぬ前に部下から何が起こったのか聞き、どうしてこう問題ばかり重なるんだと、少々イラつきながら、魔獣達が走り去って行ったという方へ俺達も急いだ。まさか火山地帯から遠ざかる方向ではなく、全魔獣がここへ走ってきたのには少し驚いたが。
だが俺はこの光景を見て、これも計画の一部と考える事にした。子供の力がもう1つ分かったからだ。
穢れを祓える人間は居る。だがここまでの強力な穢れを祓える人間は、今この世界に1人も居ないのではないか。首輪を外す力。伝説の魔獣と契約する力。そして穢れを祓う力。この子供が魔力石を使えばどれ程の攻撃が出来るのか。そう思い俺は気づかないうちに笑っていた。
いまだに私の隣で驚いている団長に声をかけ、これからに攻撃について簡単に話をした。絶対に、絶対にこの子供だけは連れて帰らなければ。しかもだ。チラッと魔獣を見渡す。あの子供を守ろうとしている魔獣が何匹か居る。あの子供を捕まえて脅せばついてくる可能性もある。くくく。さあ、攻撃を始めよう。
(ハルト視点)
どうして、どうしてなの。確かにちょぴっとしか木の実食べられなかったけど。最後フェニックスの片方の羽の穢れを祓うだけなんだよ。一瞬だけ祓う速さが上がったけど、すぐにさっきみたいになかなか穢れが祓えなくなっちゃった。オニキスに手伝ってもらってるけどそれでも全然ダメなの。
「ロイ。ハルトを守れ。俺は奴らの攻撃をどうにかする!」
オニキスが僕とフェニックスを守るように立ち上がって、それから黒服達の方見て攻撃態勢になったのが分かりました。ロイがオニキスに言われてすぐ、僕のこと支えながら周りを警戒します。反対側を向いたオニキスが言いました。
「ハルト、俺は危ないと思ったら、お前が何と言おうとここから逃げる。フェニックスの穢れが祓えていなくてもだ。いいな!」
その言葉にフェニックスも、
「オニキスの言う通りだ。我は今すぐにでも逃げてもらいたいくらいだ」
って。ダメ。ダメだよ。絶対祓うから。お願いドレイク、ガーディーお父さん、僕頑張るからあの黒服達少しでいいの。止めていて。そう思ったらドレイクがテレパシーでお話してきました。
『分かっている。ハルト頑張れ』
ありがとうドレイク。僕はもっともっとって思いながらフェニックスに魔力を流しました。
僕の後ろでもの凄い音がします。それもずっと。魔獣達が黒服達と戦ってる音。見なくても分かるよ。みんな僕とフェニックスを守れって言いながら戦ってるんだ。ロイがたまにチラチラ後ろ見てるけど、僕には何も言いません。集中してるの分かってるから。
それにしてもどうして片方の羽だけこんなに祓えないんだろう。もうちょっとなんだよ。僕どんどん魔力流してるのに。僕の顔を見てフェニックスが話してきました。
フェニックスについてる穢れ。1番質の悪い穢れが羽に取り憑いちゃってるんだって。今までドレイクやフェニックスについてた穢れの中心って感じ。とっても強力な穢れの中心は祓うことが難しくて、もし魔獣達にこういう穢れがついてたら、魔獣が取り込まれちゃう前にドレイクやフェニックスはその魔獣を静かに眠らせてあげてるみたい。
それって…。やっぱりそういう事だよね。殺して静かに眠らせてあげるって事。
「ぼく、しょれダメ。がんばりゅからね」
そんな事絶対ダメ。ちゃんと祓って、悪い奴も何とかして、みんなでここから逃げよう。あっ、でもここに元々ドレイク達住んでるんだよね。じゃあ黒服達捕まえて、お父さんの所に連れて行った方がいいか。ここに黒服達残したら、また悪いことや、みんなのこと無理やり従わせようとするかも。
うん、そうしよう。じゅあ悪い奴ら捕まえるにも、早く穢れ祓わなくちゃ。
僕がこんなこと考えてからちょっと経った頃でした。フェニックスの羽、あと半分の半分の所まで穢れを祓うことが出来ました。ふぅ。僕急いでほんの2口だけ木の実食べて、すぐにまた祓い始めたんだけど。後ろでオニキスの声が聞こえて。
「何だあの闇魔法は」
「なぜこんなにも自由に闇を操れる。我の結界の中まで侵入するとは。そっちに行ったぞ躱せ!」
フウが報告してくれました。ドレイクが結界を張ってくれたんだけど、黒服の闇魔法が結界の中まで入ってきちゃって、それと一緒に団長達や他の黒服達が結界の中に入っちゃうみたい。何回もドレイクが結界を張り直して、上手くいけば攻撃を阻止出来るんだけど…。
それにね黒服達、闇魔法で体に結界張ってるって。それのせいもあってなかなか倒せないみたいです。
でもねドレイクやっぱりドラゴンだよね。とっても強いから、半分はドレイクの力で倒しちゃったって。力で押さえつけたって、フウ達が興奮しながら教えてくれました。
「次はそっちだ!!」
ドレイクの声が途切れません。と、ドレイクが今までで1番大きな声で叫びました。
「避けろ!!」
それと同じくらいにガーディーお父さんとラナお母さんの声も。
「「マロン!!」」
それから、ドバンッって音がして
「キャイィィィィンッ!!」
って、悲痛な声。その声が僕の隣を通り過ぎて目の前にドシャアァァって落ちました。
え? 僕の前に落ちてる物。マロンでした。体から赤い血が滲んでるのがハッキリ分かります。それから危ないって言うドレイク達の声がまた聞こえました。パッてちょっと後ろ見たら、黒い塊が結界の外から中に入ってきて、倒れてるマロンの方に飛んでくるところでした。
そこからはそんなに時間かかってないはず。僕は思わず立ち上がってマロンの方に走ります。ちょっと躓きながらマロンの所まで行って、それでマロンのことギュウゥゥって抱きしめました。
「ハルト!!」
オニキスの声が聞こえた瞬間でした。僕の体に真っ黒い塊が当たります。凄い衝撃と痛みが襲ってきて、それから体が浮く感覚がしました。
僕の目の前が真っ暗になります。遠くでオニキスが僕のこと呼んでる声が聞こえた気がしました。