61ファイヤードレイクの驚き
(ファイヤードレイク視点)
まさかこんな事態になろうとは。我の隣で我と同様、苦しげに呼吸をするフェニックス。何百年ぶりかに再会したフェニックスと一緒に小鳥を助けたまでは良かったが…。
あのよく分からない人間どものせいでかなり傷ついていた小鳥。せっかく首輪を外し治療をしていたのにあの者どもが邪魔したおかげで、穢れが小鳥を飲み込んでしまった。強い力を持つ小鳥。黒服どもの怒りの感情とその力が合わさり、今までに遭遇したことのないくらい大きな力の穢れが生まれてしまった。
フェニックスと2人力を合わせ小鳥から穢れを祓うことに成功したが、それがそのまま我らの方へ来てしまうとは。あまりにも莫大な力の穢れはすぐに我らの力を取り込むと、そのまま我らを飲み込んでしまったのだ。
我らの力を以てしても祓えないほどの穢れ。なんとか抵抗はしているが、このままでは確実に全てを飲み込まれ、我を忘れて全てを攻撃してしまうただの獣になり下がるだろう。
「あとどれくらい持ちそうだ…」
我が周りの魔獣に聞こえないようにフェニックスに聞けば、
「どうだろうな…。だが、あまり長くはないだろう。あと数日といったところだ」
という答えが返って来た。やはり同じか。
「ドレイク。我は覚悟はできている」
「我とて同じだ。周りはうるさいだろうがな」
そう覚悟はできている。我はもうだいぶ長いこと生きてきた。まあ最後がこれかとは思うが。だがそれでも我を頼って慕ってく、今も黒服共から守ってくれている者達を巻き込む訳にはいかない。もし穢れに全てを飲み込まれるのならその前に自ら命を終わらせよう。そうお互いに考えていた。しかし…。
これはいよいよ不味いかと思い始めたとき、遠くから暖かいそしてとても綺麗な輝く光が近づいてきた。我らの前に現れたのはあの虎魔獣。はじめて見る魔獣に妖精に、大きい人間に小さい人間だった。そしてあの暖かい綺麗な輝く光はあの小さい人間から溢れているものだった。隣見れば、フェニックスも苦しい顔をしながらもまた驚いた顔をみせている。
話を聞けば、穢れを祓いに来たというではないか。周りの魔獣、それにファイヤーフォースは大きい人間を見ながら対峙しているが、我らは分かっていた。あの小さき者が穢れを祓える人間だと。何百年と生きてきて、こんなに素晴らしい輝きに溢れる人間に会ったことはない。この穢れを祓えるのはこの者しかいないだろう。
そんなことを考えていると、また驚くべきことが起きたのだ。まさかこんなことが…。突然頭の中に声が聞こえてきた。
『ぼくのなまえハルト。よろちくね。』
何だこれは。まさかあの子供が我に話しかけてきたのか?! 子供は自分の名前を言った後も、我の心の声と苦しみ、それをずっと聞こえてたし感じてたと言ってきた。我と波長があったのだと。辿々しい言葉ながら一生懸命説明してきた。
これだけ長く生きてきて、今まで1度も波長の合う相手と出会うことなどなかったのに。たくさんの場所で生きてきていろいろな出会いをしてきたのに。まさか今更波長の合う人間と出会うとは。しかもこんなに気持ちのいい魔力を持つ人間が我と波長が合っているだと。
全てを聞き終え、それについてフェニックスに今聞いたことを伝える。そしてそれに付け加え、この子供が我の運命かも知れないということも伝えた。一瞬驚きの表情を見せたフェニックスだが、すぐに良かったなと言ってきた。そしてもし穢れを祓うならば我からだと。
「こんなことはもう2度とないかも知れん。チャンスを逃すな。我なら心配するな。もし穢れを祓うことが間に合わなくても、穢れに飲み込まれる前に自ら命をたち、復活することもできる。私という人格はなくなるかも知れんが、それでも命は続くのだ」
それにと続けるフェニックス。せっかく出会えた運命の相手を逃すなと。穢れを祓ってもらい、もしあ奴らがまた攻撃してくるならば全てを陰で守れと言われた。
そうだ。もし穢れを祓ってもらいこれからの長い生で、もう2度と会うことが出来ないかも知れない運命の相手。しかもこれほどまでに暖かい魔力を持っている、世界に1人として居ないであろう素晴らしい人間。ハルトを守らなければ。
我等を護ろうと集まってくれている魔獣達に道を開けさせ、ハルト達を招く。近くに来たハルトを見れば、さらにハルトの纏っている輝きが増した気がした。
ハルトは我に近寄るとすぐに穢れを祓い始めた。そっと我の爪に触れるとすぐに爪の所の穢れが祓われた。思わず目を見張る。こんなにも簡単にこれほど禍々しい穢れが祓えるものなのか? 爪の先からどんどん祓われていく穢れ。早々に片腕の穢れが祓われた。
片腕だけだが自由に動かせる感覚が戻ってきた。どんどんと祓われていく穢れがまた暴走し、ハルトのことを傷つけてしまうことがないように、もしそうなったときはすぐにこの命を消し去ろう。少し話しただけだが、ハルトが心の優しい人間だということは分かっている。きっと我が死ねば自分が穢れを祓えなかったせいだと自分を責めるだろう。凄い悲しみを味合わせる事になる。だが、ハルトを傷つけてしまうなど、そんなことは我には考えられんのだ。
もう1つ気になることもある。もしあ奴らが襲ってきたら? その時も絶対にハルトとハルトと一緒にいるあの者達を護ろう。穢れと共にあ奴らを道連れにこの世界から消えるのだ。
いつあ奴らが襲ってきてもいいように、周りに注意を向ける。今我の穢れは体半分と頭の方全てが祓われている。思考がはっきりとし、少し余裕も戻ってきた。このまま何事もなく過ぎてくれれば…。
(キアル視点)
ハルト達が消えてあれから何日経ったのか…。ライネル達も頑張ってハルト達の痕跡を探してくれているのだが、まったく何も見つからない。そしてサーカス団団長とあの魔獣使い、他にも団員が少々、まったく見つけられずに居た。
「旦那様、少し休まれた方がよろしいのでは。体も頭も休めなければ、急な動きがあれどすぐに動けなくなります」
「ああ、分かっている。分かっている。だが……」
ハルトが今苦しんでいるかも知れないと思うと、ゆっくりするなど考えられないでいた。だが、グレンに無理やり部屋に帰されてしまい、仕方なくベッドへと潜り込む。やはり疲れているのかすぐに睡魔が襲ってきた。
隣には泣きはらし目元が赤く腫れてしまっているパトリシアが眠っている。
なかなかハルトの情報が掴めないまま、かなりのストレスだったのだろう。捜査から戻ってきたパトリシアは泣き崩れ、そのまま眠ってしまったのだ。体力も限界だったんだろう。パトリシアの髪をそっと撫で、俺は机の上に置いてあるおもちゃの剣を眺めた。
サーカスを見てはしゃいで居たハルト。とても可愛い顔で笑って居たハルト。サーカスの時だけではない。ハルトと出会ってからいつもあの可愛い顔を見せてくれていたハルト。ハルトが居ないことがこれほど悲しく寂しい、まだそれほど一緒には暮らして居ないが、これほどまでにハルトの存在が大きくなって居たとは。
オニキスやロイ達も一緒に居なくなっている事から、きっとハルトと一緒に居てくれていると思いたいが、もしもの場合もある。そしてそれはハルトにも当てはまる。だが狙われたのはハルトだ。ハルトの魔力を目当てに連れ去ったのは間違い無いはず。それならばまだ生きている可能性が高い。
それでも言うこと聞かせるために、肉体的にも精神的にも苦痛を味合わされている可能性が高い。
何故オニキスが警告してくれた時、もっと慎重に調べ上げなかったのか。どれだけあの団長達の危険を見つけるチャンスがあったか。悔やまれてならない。
そう考えていると、また目が冴えてきてしまった。頭を軽く振り何も考えないように目を瞑る。
目が覚めたらまたすぐに調査しなければ。なんとしてでも見つけ出す。必ず見つけ出して、またあの輝くような笑顔を見なければ。ハルト待っていてくれ。