53虎じゃなくてワンコ?
そっとそっと虎魔獣に近づきます。
オニキスの話だと、今はドアの前の見張りが誰もいないみたい。結界は温存するチャンスだよ。何回もあの花の結界張ってたら粉がなくなっちゃう。今のうち。
オニキスとスノーが後ろから唸って、僕の前ではブレイブとアーサーがボクシングの人みたいなフットワークで跳ねながら、僕を守ってくれてるよ。フウとライも僕の上の方でパンチ出しながら守ってくれてます。もちろんロイもね。剣とかは取られちゃってるから、体を張って守ってくれようとしてます。みんなありがとう。
だいぶ虎魔獣に近づいた僕は、そっと話しかけようとしました。そしたら。
「逃げないなら僕何もしないよ。痛いこと、苦しいこと僕も嫌いだもん」
って、虎魔獣の方から話しかけてきました。一瞬黙っちゃったよ。まさか向こうから話してくるなんて思わなかったから。それから虎魔獣は伏せの状態になりました。え?見張りなのにいいのかな? そう思いながら、改めて声をかけました。
「ぼくのなまえ、ハルト」
「僕はマロンだよ」
マロン。クリの名前。そう言えばここにクリってあるのかな。
「マロン。かわいいね」
「ありがとう」
「あのねマロン。マロンはあのくろいひとたちのなかま?」
「ううん。違うよ。あのねハルト。咥えちゃってごめんなさい。でも、僕ああしないとこれのせいで痛いし苦しくなっちゃうから。お父さんもお母さんもなんだよ。」
マロンはすぐに伏せの姿勢やめてお座りしたあと、上手に前足で首輪を触りました。その後は僕の方に歩いてきてお顔すりすりして、もう1度ごめんなさいって言ってきました。それからクウンクウン鳴いたの。ふおおお! 可愛い!!
僕は叫びたいのを何とか我慢してマロンに聞いてみました。
「えと、なでなでいい?」
頷いたからそっと頭をなでなでしました。なでなでしてあげたら、その場でまた伏せしちゃったよ。それから体をなでなでしてあげたら、今度はお腹出してゴロゴロ。うう、なんて可愛いの!
なでなで止められなくなった僕とゴロゴロしっぱなしのマロン。何か虎っていうか大きいワンコみたい。はあぁぁぁ、癒されるぅ。そんな僕達の間にオニキス達が割り込んできました。
「お前は何をそんなに呑気になでなでしている。そんな奴は放っておけ。俺達をなでなですればいいだろう。それにお前、お前もお腹を出してゴロゴロするなんて図々しい! さっさと立て!お前は一応見張りで、俺達の敵だろう」
「え~。僕、ハルト好きだよ。あいつらはとっても嫌な感じがするけど、ハルトはとってもあったかくて、日向ぼっこしてるみたい。僕本当はハルトに酷い事したくなかったんだもん」
「ハルトから離れてよ!! それでハルトは僕達の家族なんだからね! ハルトもフウなでなでしてよ!」
フウがずいって前に出てきました。
「フウずるい! オレが先!」
今度はライ。その後をスノーが続きました。
「「キュキュイ!」」
ブレイブ達まで僕の頭の上に登ってきて、僕の頭の上の取り合い始めました。それを見てたロイさんが溜め息。何だこれ緊張して損したって。もうみんなやきもち妬かないの。後でなでなでいくらでもしてあげるから。
でも…、うん。この感じやマロンの言ってたことから、やっぱりマロンは無理やり首輪つけられて、苦しい思いさせられてるって分かったね。そう言えばお父さんとお母さんって言ってた。詳しく聞かなきゃ。もしここにお父さん達がいてやっぱり苦しい思いしてるなら、首輪外してあげないといけないし、そしたらここから逃げるのみんなで逃げたら、何とかなるかも知れない。
僕はマロンにいろいろ聞いてみることにしました。
それで分かったこと。何とお父さんとお母さんは、あの大きな虎魔獣達でした。それで、ラス達が首輪付けられちゃったのは、マロンがあの黒服に捕まっちゃったからなんだって。
ずっと遠くの森に住んでたマロン達。そこにある日突然あの黒服が現れたんだって。あの黒服は見たことない闇魔法使って、近くにいたマロンをすぐに捕まえました。それでその時首輪を付けられたみたい。
見たことない闇魔法とマロンを使って、黒服はマロンのお父さん達脅して、2人にも首輪を付けました。
それからはあのサーカスと一緒にいろいろな所を移動したらしいよ。それで街に行ったり森に行ったり海に行ったり、いろいろな場所で他の人が契約してる魔獣を奪ったりしてたみたい。僕みたいな子供を拐って来たのは初めてらしいけど。
そして今居る火山地帯。ここには最近よく来るようになったんだって。マロンもよくは分かんないみたいだけど、ここで魔獣か何かを捕まえるために来らしいよ。マロンのお父さん達が黒服と一緒に何回も捕まえに行ってるって。
後はこの家に、たくさんの黒服が居るってことも教えてくれました。
う~ん。ここは僕達を連れてくる為だけの家じゃないってこと?
「僕、森に帰りたいんだぁ。それでね、また湖の周りとか走り回りたいの」
マロンがしょんぼりして、そのまま伏せしちゃいました。
「それにね。痛いのも苦しいのも、もう嫌なんだ」
そうだよね。僕はマロンの頭をそっとなでなでしてあげます。苦しいのなんて嫌だよね。本当に酷い事するよ。
でもこれなら、マロンのお父さん達と話ができたら。案外手を貸してくれるんじゃ。
「マロン。おとうしゃん、ぼくあえりゅ?」
「ハルトに?多分会えるよ。僕の次はお父さんが見張りなの。ハルト会いたい?」
「おはなちしゅる。できりゅ?」
「う~ん。お父さん人間あんまり好きじゃないんだ。あの黒服達のせい。でも僕お部屋帰ったらお父さんにハルトのこと言っておくね。お話したいって言ってたって」
おお。何とかなりそう。オニキスがマロンに注意します。お父さんに僕の話するときに、絶対に僕とお話したこと気づかれないようにって。もし僕達がお話した事、それからお父さんと話がしたいってことがバレたら、監視がもっと厳しくなって、さらに苦しい思いするぞって。オニキス少し脅しすぎじゃない?ほら、尻尾がくるんって丸まっちゃったよ。
それから奴らが来るまで、ずっとなでなでしてあげてました。途中でちょっとだけ泣いちゃったの。僕が捕まったからお父さん達苦しいって。そんな事ないよ。マロンは悪くない。悪いのはあの黒服達なんだから。
女魔獣使いが来る気配がして、マロンがドアの前に戻ります。部屋に魔獣使いが入ってきて、マロンを連れて行きます。最後にくううんって鳴いてマロンが出て行きました。マロン、頼んだからね。
それから少しの間、ドアの前の見張り以外、誰も来ませんでした。ちょっと疲れちゃった僕。オニキスに寄りかかりながら、お父さん虎魔獣が来るのを待ちます。
こっくりこっくり始めた頃、オニキスがばって頭を上げました。
「オニキス?」
「来たようだぞ。起きろ」
魔獣使いが入ってきた後、1番大きな虎魔獣がのそのそ入って来ました。改めて見ると凄い迫力。思わずごくんってしちゃったよ。それからオニキスのしっぽに捕まります。
マロンの時と同じで、お父さんだけ残して魔獣使いもドアの前の見張りも、誰もいなくなりました。
じっとお互いを見つめ合う僕達。最初に話し始めたのはお父さんでした。
「話があるというのはお前か?」
その声は僕にでも分かる、僕達人間に対する憎しみが混ざってる感じの声でした。こう、低くて重たいような。それから威嚇もしてきたから、さらに怖さが増します。でも…。
ここで怯んじゃったら、いろんなチャンスがなくなっちゃう。勇気を出さなきゃ。僕は小さく深呼吸しました。