52僕のお話し。ロイのお話し。
どこまで話していいか分からなかったけど、でもここから逃げるためにも、僕のこと知ってもらうのは大切。僕が話すと時間がかかって、あいつらが来ちゃうかも知れないから、オニキスがロイに僕のこと説明します。
僕が森にいたこと。そこでオニキス達と暮らしてたこと。いろいろあってお父さん達と出会ったこと。それから僕の魔力や力のこと。いろいろ話をしました。
話を聞いてびっくりするたび、ロイは何か言いそうになったけど、最後まで何も言わないで全部話を聞いてくれました。
それからとっても難しい顔してます。それから寂しそうななんとも言えない顔になったんだ。何考えてるのかな?僕ちょっと心配だよ。もし僕の力のこときみが悪いって言われたら?こんな子供といたせいで捕まったって言われたら?僕はオニキスのしっぽにくるまります。
「ロイ、ぼくきりゃい? きもちわりゅい?」
そう言ったらオニキスがロイのこと怒りました。
「何だ。話を聞いてハルトのことが怖くなったのか?それともハルトの言う通り気持ち悪いと思って、護衛になったのを後悔したか?」
「ち、違います! ハルト様!! そんな気持ち悪いとか怖いなんて考えてません! ただ聞いていた話よりももっと凄かったもので」
ん?どういうこと? オニキスが詳しく聞いたら、何とお父さん、僕やオニキス達のこと全部話してたんだって。でも僕が今みたいに他の人に力を知られて、びくびくするといけない、早く護衛に慣れてもらわないといけないって、何も知らないフリしてくれって言われてたんだって。確かに僕そのこと知ってたら、手品があってもあんなに早く打ち解けなかったかも。お父さんの言う通り、今みたいにびくびくしてたよね。
でもお父さん、穢れを祓えることと首輪が外せることまでは、お話してなかったみたい。ちょっと強い魔力を使える子供から、とっても強い魔力を使う、しかも殆どの人が使えない穢れを祓う力が使える子供に変わったんだから、そりゃあ驚くよね。
「それで結局怖い顔をしているのは何でだ?そのあとは微妙な顔をしていた」
「怖い顔をしたのは謝る。ハルト様不安にさせてしまい申し訳ありません。オニキス、俺が微妙な顔したのは昔を思い出したからだ。まだ幼いハルト様には、俺のこの話は分からないだろうが」
ロイが話してくれた微妙な顔した理由。本当に小さい子なら分からなくて良かったんだろうけど、一応僕本当の2歳児じゃないからね。
このロイの話、けっこう? いやとってもくだらない話でした。
ロイは冒険者学校へ入った時、なかなか優秀な魔力の持ち主だったんだって。大魔法使いになるのが夢だったみたいだよ。でもロイが学校に入学した年、やっぱり魔力が優秀な可愛い女の子がいました。ロイは入学式で出会った時からその女の子の事好きになったんだって。
何回もテストや実戦で一緒に審査を受けた2人。ロイは1度もその女の子に勝つことが出来ませんでした。それでも頑張って女の子に勝った時にロイは告白する事に決めていました。
でもある日、女の子から衝撃の告白が。
「もう何年も競ってきたけど、あなた1度も私に勝てないんだもの。私弱い男嫌いなの。もう私あなたを待たない事にするわ」
ショックを受けたロイ。しかもその女の子。卒業してすぐに結婚しちゃったんだって。なんとお菓子職人の人と。理由は大好きなお菓子をその人が作ってたから。冒険者も力も関係ないじゃん! って言う感じでさらにショックを受けたロイ。
回復まで力を使えるようになってたけど、ショックで剣の方に進路を変えたんだって。
っていうかそれを思い出して、あんな微妙な顔してたの?!僕の心配返してよ。なんか僕の特別な力の話聞いて思い出しちゃったって。もう!!オニキスもフウもライも、ブレイブもアーサーもじーって見てます。スノーは何の話してるか分からなくて、僕の隣でコロコロ転がってました。うん。この話はもうお終い!!
それで怖い顔してたのは、これからのこと考えたからだって。僕の力をあの黒服や団長達がどれだけ知ってるか知らないけど、もし僕がいろいろ魔力使っちゃってうまくここを逃げ出せることができたとしても、黒服や団長から他の人に話が伝わって、また別の人に狙われちゃうかもしれないって。
「だが、ここへ連れてきた時点で、ハルトの力をだいぶ分かってるんじゃないのか?」
「もちろんそれはそうだろうが、穢れを祓えることまでは知らないかもしれないだろう。その力はどんな力よりも手に入れたいものだ。奴らがハルト様の魔力に目をつけたのは確かだが、何とかここから逃げ出すことができても……」
ロイさんが話してる途中でした。外にいたライが結界に入ってきました。
「奴らが来るよ!フウ早く片付けよう!」
「うん!」
2人がサァーって結界のキラキラした粉を片付けます。すぐに結界は片付きました。本当に便利な粉だね。フウが花を見つけてくれたおかげだね。それにそれを集めてくれたライも、花のこと知ってて、集めるように言ってくれたオニキス。みんなのおかげだよ。
ドアが開いて女の魔獣使いと小さい虎魔獣が入ってきました。僕咥えられたの思い出して、ちょっと震えちゃってます、オニキスが気づいて、しっぽで包んでくれました。
「ふん、団長が見張っておけってさ。私は見張りなんて面倒なことしたくないんだよ。こいつをここに残していくからね。少しでも変な動きすれば、私に連絡が来るようになってるから、大人しくしてるんだよ!!」
女の魔獣使いはそう言うと、さっさと部屋を出て行っちゃいました。小さな虎魔獣がドアの前でお座りします。じっとみんながそれぞれを見つめます。
少ししてなんとか震えが止まってきたよ。全然ドアの前から動かないし、唸ったり、威嚇したりしてこないんだ。とっても静かなの。それでオニキスのしっぽからもう少しだけ顔を出した僕。それである事に気づきました。
よく見たら虎魔獣、首に見たことのある首輪つけてます。あの首輪、ギルドマスターがスノー達につけてた奴隷の首輪と同じだ。いま、僕についてる首輪も同じやつかな?
「オニキス。首輪スノーといしょ。ぼくも?」
「ああ、そうだな。だがあの時よりも首輪にかかっている魔力は強い。あの魔獣のもだ」
そっか。首輪をつけた人の力によって、レベルが変わってくるんだ。ん?でもそれなら。
「ねえオニキス。おはなちできりゅかな?」
「やめておけ、あの女の魔獣だ」
「でもありぇ、どりぇいのくびわ」
「…確かにそうだが」
だって強い魔力のかかった奴隷の首輪付けられてるってことは、あの虎魔獣が逃げないように、それから無理やり言うこと聞かせるためでしょ。だって最初から言うこと聞く魔獣だったら、首輪なんて必要ないはず。僕達みたいに契約すればいいだけだもん。まあ僕達は家族だけどね。
あの首輪外してあげられること伝えたら?もし虎魔獣が逃げたいと思ってたら?僕ちょっと怖いけどお話してみようかな。本当にあの女の魔獣使いと一緒にいたいなら、ちょっと近づいただけで、見張りだから唸ってくるはず。
僕はそっとオニキスのしっぽから抜け出しました。