49虎魔獣と例のあの人
倒れてきた柱には紐やテントの布とか、いろいろな物が結ばれてたりくっついてて、オニキスでも飛び越えられなそう。
「ハルト様別の出口から外へ出ましょう。奥様、リスターさん別の出口から出ます!」
「分かったわ!早く行って!」
お母さんはまだ魔獣の相手してます。
「じゃあ外でね」
お兄ちゃん達も歩き始めました。僕達も別の出口に向かおうとして周りを見ます。1番近い出口は…、あっ、あそこ!ちょっと行った所にテントの布が切れてて、そこからお客さんが逃げてます。
「ではあそこか…!」
ロイが話した瞬間でした。オニキスが叫びました。
「ハルト掴まれ!!」
ぎゅうってオニキスにしがみ付きます。オニキスが飛んだ瞬間、的当ての時の中ぐらいの虎魔獣が僕達に襲いかかってきました。オニキスは攻撃を避けながら、その場を飛びまわります。僕はしがみ付いたままオニキスに叫びます。
「まほう、ちゅかわない?」
「魔力封じの石のせいで魔法が使えない!だから奴も魔法を使ってこないんだ!」
そうかあの時の石。チラッと下を見たら魔力封じの石がけっこう転がってます。ならどうして噛み付いたりそういう攻撃しないの。オニキスは魔法使わなくてもとっても強いはずなのに。………。そうか僕がオニキスに乗ってるから。オニキス攻撃出来ないんだ。本当は戦えるのに。
「オニキスごめん。ぼくじゃま」
「何を言ってる!邪魔なもんか。オレの大切な家族だぞ」
ありがとねオニキス。後でたくさんなでなでしてあげよう。あとはブラッシングとおやつもたくさんね。
オニキスがもう1度避けて声をかけます。
「お前もやれ!」
「分かっている!」
ロイさんが剣で虎魔獣に斬りかかったんだ。2人で上手く連携プレーです。オニキスが避けてロイさんが攻撃。1度もそんな練習したことなかったのに、何回も練習したみたいに完璧なの。凄くない?虎魔獣も最初のうちは余裕って感じで、ロイさんの攻撃をヒョイって避けてたんだけど、その隙をついてオニキスがたまに攻撃するから、だんだん唸り声を上げ始めたんだ。イライラしてるみたい。
またまたロイさんの攻撃。ここで初めてロイさんを攻撃してきました。でもさすがのロイさん。難なく攻撃をかわしました。かわされた虎魔獣がこっちに攻撃してきます。でも今までの攻撃と違ったの。スピードも唸り声も全然違うんだ。そんな虎魔獣をオニキスが珍しく受け止めました。ドォーンって凄い衝撃です。受け止めた衝撃でどっちもが離れます。
「ふぉ?!」
その衝撃でオニキスにしがみ付いていた僕の手が離れました。オニキスから体がズレ落ちます。落ちる!!僕は目を瞑りました。これから来るだろう衝撃と痛みが頭に浮かんできて…。
と、最初に衝撃がきたのは首の辺りでした。痛みは全然ありません。首から落ちて痛みを感じないくらい怪我しちゃった?
「ハルト!!」
「「ハルト!!」」
「「キュキュー!!」」
「ハルト様!!」
みんなの声が聞こえます。その後いくら待っても次の衝撃はありませんでした。そっと目を開ける僕。ちょっと離れた所にオニキス達とロイがいます。僕の後ろを見てる感じ。ん?僕何か揺れてない?体がこうぶらんぶらんって。それに首の所、何か洋服が食い込んでる感じがする。それから息遣いが頭の上から。
そう~っと上を見ます。僕の目に入ってきたのはあの的当ての1番小さい虎魔獣でした。多分ね。アゴの所しか見えなかったから。
「ハルトを離せ!!」
オニキスが向かってきてそれをヒョヒョイって避けながら、僕もそれに合わせてぶらぶら。もしかして僕虎魔獣に洋服咥えられてる?そう気づいた瞬間、虎魔獣は倒れてきた柱や縄をつたって上に登り始めて、すぐにテントの上の方に到着。さっきまで僕達に攻撃してた虎魔獣も一緒に登って来ました。2匹はそこでピタって止まります。何なの?どうして僕のこと咥えるの?もうね僕パニックだよ。勝手に涙が出てきちゃいます。オニキス、お父さんお母さん、助けて…。僕の意識はそこでなくなりました。
(オニキス視点)
一瞬だった。奴の攻撃を受け飛び退いた衝撃でハルトが手を離してしまった。すぐに回収しようとしたが突然上から何かが降って来た。そしてその何かはハルトの洋服を咥え、俺たちから距離をとった。あの魔獣だ。的当ての演技をしていた。全員がハルトに呼びかける。そっとハルトが目を開けた。何が起こったのか分かっていない様子のハルト。
何故的当ての魔獣達は俺達を狙う?いや、まさかハルトを狙っているのか?そう考えながらすぐにハルトを助けようと動いたが、奴は軽く攻撃をかわすと、柱や縄を足場にヒョイヒョイとテントの上の方に登って行った。先程まで相手をしていた魔獣もそれにつづく。すぐに追いかけようとする俺にロイが声をかけてくる。こんな時に何のようだ。俺は急いでいるんだ!
「俺も連れて行け!」
「ダメだ!邪魔なだけだ!」
奴から目を離さないようにそう答え行こうとすると、さらにしつこく言ってくる。
「もしハルト様が怪我をしていたら?俺は少しなら回復魔法が使えるぞ。」
確かにハルトが怪我をしていたら、あいつを倒してもすぐに回復させれる奴が見つからなかったら?考えている暇はない。
「振り落とされても俺は知らないぞ!乗れ!」
ロイを乗せすぐに奴のいる所までかけ登った。そしてハルトを見れば何か様子がおかしい。気を失っているようだ。早く助けなければ。だがここまで来れば。さっきまであった魔力封じの石が今いる場所にはない。これなら。
と、その時また奴が動き始めた。今度はテントの頂上付近の布が破れているところから、ハルトを連れて出て行ってしまったのだ。風魔法を使ったが間に合わなかった。
慌てて追いかけて外に出て奴を探す。勢いよくテントの布を滑り降りている途中だった。俺達もそれに続き滑り降りる。滑りきると少し先に奴は止まって待っていた。そして俺達が滑り降りたのを確認するとまた走り始めた。
何だ?何でそんな変な行動をする?そう思ったのは俺だけじゃなかったらしい。
「おかしくないか?何か俺達にと言うかお前達に、こっちに来いって言ってるみたいじゃないか?」
ロイまでそう言ってきた。確かにその通りだ。俺達が追いつけば走り出し、また追いつけば走り出すの繰り返しだ。何がしたいんだ奴らは。俺達に何の用がある。
散々追いかけっこし、気づけばもう街から出てしまっていた。しかしそんな追いかけっこも急に終わりが来た。ある場所で追いかけさせられたあと、奴らは急に逃げるのを止めたのだ。
一定の距離をとり睨み合う俺達。そこに突然奴等が現れた。黒い空間が現れたと思った瞬間その中からサーカスの団長と、この魔獣達を従えていた女、そして最後にあいつが現れた。そう、スノーを助けた時にギルドに現れたあの黒服の男、奴が現れた。
何故あいつがここに居る?奴はハルトに近づき、ハルトの首に首輪を取り付けた。あれは奴隷の首輪か?ハルトなら簡単に外せるが、今は気を失っているし、起きていたとして簡単に外してしまえば、それはそれでやばい気もする。
と、男が話しかけて来た。
「主が大事なら黙って俺について来い。いいか、少しでも変な動きをすれば、このガキは殺す。俺に攻撃して殺しても、俺が死んだのに反応して、この首輪にかけた闇の力でガキを殺すようになっている。お前達は黙ってついて来るしかないというわけだ。」
くそっ、仕方ないついて行くしかないだろう。
「分かった」
「そっちの男は別に殺しても構わんが、そうだな…、何かの役に立つかも知れん。お前も来るんだ」
男に言われるまま男の方に行くと、また黒い空間が現れた。この前消えたときの闇魔法とは違う。これはこれで別の闇魔法だ。かなり強い魔法が使えるようだな。団長が最初に空間に入り、次に我々が空間に入った。着いたのは火山地帯だった。