35いろいろな規格外
朝、とても元気のいい声に起こされました。
「ハルト様、朝ですよ。皆様食堂でお待ちです。さあさあ、お洋服を着替えましょうね。今日はこの洋服にしましょう。」
うう、眠い。僕まだ寝ていたいんだけど。でもここは洞窟じゃないからね。今までみたいにいつまでも寝てられない。起きてもこっくりこっくりしている僕を、ビアンカがさささって、洋服を着替えさせてくれます。それから抱っこしてもらって食堂へ。うん。やっぱり女の人の方が、抱っこの時柔らかくていい感じ。お父さんは…、安定してるから良いんだ。
食堂へ行って、ドアを開けたところで降ろされちゃったよ。フラフラな僕は、それでも何とか朝の挨拶。
「おはよ、ごじゃいましゅぅぅぅ…。」
「相変わらずだな。よし、いつもみたいなご飯の食べ方でいいか。イスから落ちても大変だ。」
今度はお父さんに抱っこされて、お父さんの膝の上に座ります。運ばれてきたご飯見てびっくり。朝からけっこうな量だよ。この前の宿でのご飯は何だったの。あれでも多いと思ったのに。お父さん朝からステーキ2枚に、他にもお肉料理がいっぱい。お母さんはステーキ1枚だけど、そのかわりたくさんパンが用意してありました。お兄ちゃんは…。良かったお兄ちゃんは普通だった。パンに大きな目玉焼きと、ハムみたいなのでした。僕はスープ。スープに何か入ってます。ひと口食べてこれもびっくり。これお米だ。お粥だよこれ。とってもおいしいお粥でした。
地球と似てるものや、同じ物、けっこうあるのかも。知らない物ばっかり森で見てたから、街のお店通りでいろいろ探してみたいなぁ。
ご飯を食べた後は、お兄ちゃんのお見送りです。お兄ちゃん学校に行くんだって。学校に行けるようになるのは8歳からだって。僕はまだまだ。馬に乗って学校に行くお兄ちゃん。従者の人が2人ついて行きます。
「いてらしゃい。」
「行ってきます。帰ってきたら遊ぼうね。」
お兄ちゃんは、僕が見えなくなるまで、振り返りながら手を振ってくれました。だから僕も最後まで手を振って、それから部屋に戻りました。
その後は休憩室で、お父さん達とお話です。いろいろお話があるんだって。街で注意しなくちゃいけない事とか。それはちゃんと聞いておかなくちゃ。変な事して目立ちたくないもん。
僕はお母さんの膝の上で話を聞きます。お母さん、どうしても抱っこがいいって。ここは大人しく言う事を聞きましょう。
「さてハルト。まずはハルトの魔法についてだ。」
お父さんが話してくれたのは、小さい僕みたいな子供が、魔法を使えるのはおかしいって事。本当は8歳になるまで、皆んな魔法が使えないんだって。僕の魔力はとっても強いし、穢れを祓えるでしょう。だからもしその力を使えることが悪い人達にバレたら、僕はその人達に拐われて、奴隷の首輪をつけられちゃうかもしれないんだって。ダメダメ。そんなのダメだよ。
だからお父さんは絶対に人のいる場所で、魔法を使っちゃダメだって言いました。うん。絶対使わない!
他にも初めて聞く話が。普通の人には妖精の言葉、分かりませんでした。何か特別な妖精の粉っていうのがあって、それを妖精にかけてもらわないと、言葉分かんないんだって。しかもフウもライも、僕と普通に会話してたから、その事忘れてたって。だってお父さん達には粉かけたんでしょう。どうしてその時変だって気付かなかったの。もう。
「だからなハルト。もし街で2人と話すときは、粉をかけてもらったことにするんだ。いいな?」
「うん。」
勿論だよ。それから、お父さんが僕に、2人の事で聞きたいことがあるって。僕から2人に話しかけるとき、どうやって2人を見分けてるのかだって。ん?どういうこと。何でそんな変な質問するんだろう。2人とも全然違うんだから、いちいち見分ける必要ないでしょう?
「ふたり、じぇんじぇんちがう。かおもようふくも、ちがうよ。」
「ハルト、妖精は人みたいな姿してるか?」
僕は2人の洋服の色とか、顔の特徴とか、髪の毛の色とか、詳しく説明しました。そしたらそれも、人に知られちゃいけない事だったみたい。普通の人は妖精は光の塊にしか見えないんだって。人の姿をしているのが分かる人は、今この世界にいないだろうって。昔見えた人は、何百年も前の昔の人なんだって。
僕は少しがっくり。何で僕、そんな規格外の事ばっかりなの。僕普通でいいのに。何でこの世界に来たか分からないけど、普通が1番だよ。あっ、でも、もし普通だったら、オニキス達と出会ってなかったって事だよね。それはヤダな。うーん、でも…。
「あとそれから。」
まだあるの?今度はどんな規格外なの。
「スノーの事なんだが、スノーはとっても珍しい魔獣で、スノーも悪い人達に見つかったら、絶対に拐われてしまう。とられるって事だ。だからそのままの姿じゃ、お店通りは歩けないし、他へ出かけるのもやめた方がいい。それくらい珍しい魔獣なんだ。」
やっぱりそうなんだ。おかしいと思ったんだ。今までの街でもここに着いた時も、タオルにくるんだり、鞄から顔だけ出してたり。お父さんが誰かに何か聞かれたら、ホワイトウルフの子供って言ってたから。
それにしても外に出せないなんて。スノーの方みたら、スノーが寂しそうな顔してました。
「ぼく、おしょとでハリュトと、あしょべない?」
スノーが僕に抱っこしてって。僕はぎゅうって抱きしめます。そしたらお母さんが。
「大丈夫よ。ちゃんと考えてあるから。今からそれの用意するわね。そうすれば、いつでもお外に行けるわ。」
お母さんがビアンカに合図したら、ビアンカが物凄い勢いで部屋を出て行きました。それから、相変わらず箱を何個も積んで、部屋に戻ってきました。
「奥様、朝1番でお店に行ってまいりました。全種類完璧です!」
すっごい笑顔なんだけど。その笑顔の迫力に、僕は何か嫌な予感がしました。
「じゃあビアンカはスノーをお願いね。私はハルトちゃんの準備をするわ。」
お母さんは箱を1つ抱えて、僕を連れて部屋の端っこに。スノーはビアンカが。ソファーの上で何かしてます。
僕は今着てた良い服の上着だけ脱いで、ズボンはそのまま。それからお母さんが箱の中からあるものを出しました。僕はそれ見て、思わず嫌がっちゃった。でもね…。
「おっ、なかなか良いじゃないか。可愛い可愛い。」
「ね、ピッタリよ。もう、可愛さがさらにアップしちゃって、お母さん逆に心配になっちゃうわ。街で可愛さのあまり目を付けられて、拐われたらどうしましょう。」
「奥様、大丈夫ですわ。もしそんな輩、私がこの世からすぐに消し去ります。ああ、本当に、なんてお可愛いんでしょう。」
僕はちょっと不満げです。僕の隣には、うさぎの着ぐるみきたスノーが。そしてそれとお揃いの着ぐるみ着た僕。最初僕、抵抗したんだよ。だってこの歳になって着ぐるみだよ。しかもピンクの。まあ、体は今2歳だけど。そう2歳の僕が、抵抗なんて出来るはずなくて。僕はさっさと着ぐるみ姿に。
ブスってしてる僕。皆んなを見ます。お父さんもお母さんも、凄い笑顔です。グレンは一瞬ニコってした後、すぐに無表情になっちゃったけど。それに、
「ハリュトといっちょ。うれちいね!」
そうスノーが言いました。それ見て聞いて、僕もいつの間にか笑顔に。皆んなが喜んでくれるならいいか。それに鏡で自分の姿見て、けっこう似合ってると思ったんだよね。ただ、部屋に戻ってクローゼットの中見て、やっぱりがっかり。
カッコいい洋服たくさん入ってたのに、半分以上が着ぐるみに。ねこにいぬに、くまとかいろいろ。お母さんとビアンカの、あの迫力のある笑顔が頭に浮かんだよ。
ああ、早く大きくなりたい。