34ハルトは可愛い我息子
(キアル視点)
ハルトを部屋まで送り、お休みの挨拶を済ませて、全員で休憩室に戻った。もう1度リーゴという木の実の温かい飲み物を飲むと、フレッドも明日学校だからと、自分の部屋へと戻って行った。ここからは大人の時間だ。さっき詳しく話せなかったハルト達の話をしなければ。
「それにしても驚いたわね。あんなにたくさん魔獣や妖精を連れて来るなんて。その中の1匹はあのホワイトノーブルタイガーだし。」
「話を信じて、探しに行かれて良かったですね。それに襲われたわけでも、ありませんでしたし。」
「最初見たときは、かなり驚いたがな。」
ハルトが見つかった時の状況、それから森でどういう生活を送っていたか。また、家族のことを聞いた時、オニキス達が家族だと言った事。いろいろな事を話した。
ハルトはなぜあんな森に居たのか?本人も分かっていないようだったが、他の同じくらいの子供よりも、話の理解能力がだいぶ良いことから、もしかしたら我々のような、貴族の屋敷の子供だったのかも知れない。あんな小さい頃からいろいろと教育を受けていたのではないか。しかし、
「屋敷で何かあり、あの森に捨てられた。もしくは誰かに連れ去られて、連れ去られた先のあの森で何かが起こり、1人あそこに置いていかれたか。どちらにしろ、何かあった事は間違いないだろう。」
「そうね。あんな可愛い子がどうしてこんなめに。あなた、必ずハルトちゃんを幸せにしましょうね。私とっても可愛がる自信があるわ。」
「俺だってそのつもりだ。」
次に話に出たのは、穢れを祓う力についてだ。これについては、後でハルトに言って聞かせるしかないだろう。もしそれを人前で使えばどうなるか。勿論俺達のような大人だったら問題ないが、ハルトのように、小さい時から魔力を使えるのはよくない。
ハルトの力について、同行していた者達に絶対に言わないよう言っておいた。同行したのは俺の顔見知りの冒険者と、部下の騎士達だったのも良かった。まあ、俺がこの話をした時は、すでに全員がハルトの可愛さにやられていて、当たり前だろうと逆に怒られてしまったが。
そしてこの話は、街に入る時、ハルトと家族になったという書類を用意した事とも関係してくるのだが。もしハルトが俺の家族ではないと証明出来ていなければ、今頃ハルトは教会へと連れて行かれていた。なぜなら親の居ない小さい子供は、必ず教会へ行く事が決まっているからだ。
教会ではまず全ての子供が、力を持っているか調べられる。力とは、魔力石を使うための魔力のことだ。もともと魔力は、誰もが成長するにつれ、だいたい8歳頃から、必ず備わるものなのだ。最初は自分の手を洗える程度だが、訓練や練習をしていくうちに、段々と魔力は強くなっていく。
しかし8歳ごろから備わるはずのその魔力を、20人に1人くらいの確率で、もっと小さい頃から持ち合わせている者がいる。ハルトもそのうちの1人だ。
そこまで珍しい事でもないが、そういう子供は、必ずと言っていいほど、強力な魔力を持っている。ハルトが穢れを祓えるのも、奴隷の首輪を外してしまった事も、これに関係しているだろう。何故小さい子供が魔力を持っていると、その力は強いのか。その理由は分かっていないが、今、冒険者で有名なある男が、やはり小さい頃から魔力石を使う事ができ、今では誰もが知る最強の冒険者になっている。
しかしそれは、ちゃんと訓練をして、力の使い方を勉強した場合だ。何も考えず、自分の魔力の上限も知らず、ただただ魔力を使えば、小さい体には負担が大きく、制御できずに、魔力の暴走を引き起こす。最悪の場合、死んでしまう可能性だってある。
教会は子供達が、そんな事にならないように、魔力を持っていることが分かれば、保護をするのだが。たまに子供を高値で売る輩が現れる。買う人間はいろいろだが、そういう奴は子供がどうなろうと関係ない。自分のために力を使わせ、力のせいで子供が死のうが廃人になろうが、そんな事は関係ない。死んだら次を探すだけ。
もちろんこの街で、そういう子供を出さないように、定期的に教会を調べたり、情報を集めて調査したりしているのだが、必ずしもそれが成功しているとは言えない。
ハルトが教会へ行き、わざわざ魔力を持っている事を、そういう奴らに知られるリスクは避けたいからな。だから、パトリシア達が書類を急いで作ってくれて助かった。
「あなた、私達に感謝してよね。」
「ああ。助かった。ありがとう。」
「それにしても首輪外れちゃえの一言ですか。凄いですね。それに穢れを祓う力も相当なもののようですし。」
「ハルトがこの家に落ち着くのを待って、なるべく早く魔力の事を教えなければ。それに外で魔法を使わないようにも言わなくちゃいけない。」
それを教えるまでは、取り敢えずこの屋敷の中で遊んでもらおう。庭も自由に遊べるようにして。
「ああそれと、ハルトは妖精と、妖精の粉を使わずに会話が出来るぞ。」
「本当なの?!」
「ああ。最初は粉をかけてもらって話していると思っていたが、いつでもどこでも関係なく話をしていた。俺達は粉をかけてもらったが、ハルトは分かってないだろう。それに契約の事も問題だ。まさか妖精と契約しているとは。」
普通、妖精の言葉は人間には分からない。妖精が持っている妖精の粉をかけてもらい、やっと話が出来るのだ。ハルトはそれを知らずに話しているのだろう。
それに契約している事も問題だ。妖精と契約したという話は、ここ何百年もなかったはず。
ここシーライトは、他の街と比べて妖精がいっぱい居る。そのため、たまに妖精が人に粉をかけてきて、話をしてくる事がある。だからハルトが街で妖精と話すのは問題ないと思うが、契約しているとバレない方が良いだろう。
妖精魔法は他の魔法とまた違うものだ。普通は大人になり、魔法のレベルはいつしか上がらなくなる。それがその人にとっての上限というわけだ。だが妖精魔法は違う。上限がないのだ。いつまでも成長していく。契約し魔力の威力が上がった今、将来を見越して、ハルトを狙う奴も現れるだろう。
「考えることと、教えなくちゃいけない事がいろいろあるな。」
「そうね。でも、必ず守って、ハルトちゃんにはいつも笑顔で居てもらいましょう。」
取り敢えず今日は話を切り上げ、寝ることにした。明日も規格外のハルト中心の生活になる。だがそれもこれからの生活を考えれば楽しいものだ。
もう眠っただろうハルトの様子を見に行く。ドアを開けベッドの上を見たが、ハルトがいない。びっくりして部屋の中に入り、すぐにオニキスと一緒に寝るハルトを見つけてホッと息を吐いた。
「静かにしろ。今眠ったところだ。」
「また何でそんな所で。」
「ベッドが広すぎたんだろう。今までこうして皆んなで丸まって寝ていたからな。寂しくなったんだ。明日ハルトが聞こうとしていたが、明日から俺達も、ハルトと一緒にベッドで寝て良いか?」
「もちろん。それでハルトが安心するなら。だいたいここはハルトの部屋だ。ハルトが何をしたって、怒る者はいないさ。」
「そうか。」
そう言うと、オニキスも寝始めた。ハルトの寝顔を見て部屋を出る。とても可愛い寝顔だ。
そうだ。明日は手紙を書こう。手紙の相手はカージナルという街に住んでいる、俺の親友ウイリアムだ。最近奴も可愛い息子ができたと、何度も息子自慢の手紙をよこして来ていた。ほぼ可愛いしか書いていないが。うるさい奴だと思っていたが、俺もハルトの可愛さを自慢したい!
それにもう少したったら、ハルトを連れて遊びに行くのも良いな。確かウイリアムの息子ユーキ君も2歳と言っていた。同じ歳の友達が出来て、きっと嬉しいはずだ。
ああ、本当にこれからの生活が楽しみで仕方ない。