25闇取引と魔獣
お父さん達が出て行って、どのくらい経ったか分からないけど、けっこう時間がかかってる気がする。気がするだけかもしれないけど。ここには時計なんてないし、待ってるだけって、時間が長く感じちゃうよね。でも、約束だから、僕は大人しく部屋で待ってました。それからまた少し経って、オニキスがピクって動いて、頭を上げました。
「どちたの?」
「戻って来た。」
オニキスはそう言うと、立ち上がります。ドアが開いてお父さんとライネルさんが部屋に入ってきました。ガントさんとアランさんが居ません。オニキスが風の結界を広げて、お父さん達を中に入れました。
「おとうしゃん。まじゅう、いまちたか?」
「ああ、多分居ると思うんだが。ハルトに頼みがあるんだ。一緒に来て、どの箱から声が聞こえるか教えて欲しいんだ。」
そんな事でいいの?勿論だよ。オニキスが状況確認します。お父さん達がギルドに行ったら、やっぱりギルドは閉まってて、灯りもついていませんでした。でも、情報収集の人達が、いろいろな所からギルドの事調べたら、ギルドの後ろの倉庫にしてる建物の方から、1台荷馬車が出てきたんだって。何人か荷馬車を追いかけて、お父さん達は、誰も居なくなった倉庫を調べました。
いろいろ調べて、別におかしな物はなかったけど、最後にギルドマスターの部屋で、ギルドマスターの机調べたら、鍵のかかってる引き出しがあって、無理矢理に開けたんだって。そしたら中から1つの箱が出てきました。それには封印の魔法がかけてあって、普通なら封印した人しか解けないんだけど、封印した人よりも魔力が強ければ、封印を解くことが出来るらしくて。だから騎士の中で1番魔力の強いライネルさんが解いてみたら、箱が開いて、中から奴隷の首輪がたくさん出てきたんだって。
その後すぐ、荷馬車を追いかけてた人が1人戻ってきて、荷馬車が街から出て、ちょっと行った所にある林の中に入って止まったって報告してきました。そこには、全部で15人の人が居て、その中には、この街の冒険者ギルドのギルドマスターとサブマスターが居たらしいです。
「確実とまではいかないが、ほぼ闇取引で間違いないだろう。オレは領主権限で、奴らを摘発するつもりだが、確実な証拠のために、ハルトに手伝って欲しいんだが。いいだろうか?もしかしたら奴ら、荷馬車以外に魔獣を隠しているかもしれないからな。」
お父さんは僕が小さいから、難しい話は無理だと思って、オニキスに話してるけど、本当は話が分かってる僕。すぐにでもそこに行って、魔獣を助けてあげようと思ったよ。オニキスの方を見ます。オニキスが僕の事見て、それからお父さんに言いました。
「よし。じゃあ、俺達をそこへ連れて行け。でもハルト、1つだけ約束しろ。結界は張ったまま行くが、もしあんまり具合が悪くなるんだったら、引き返すからな。俺はハルトの方が大事だからな。その約束が出来ないなら、連れて行かない。いいか?」
オニキスをじっと見た後、フウとライとブレイブを見ます。皆んなも同じこと思ってるみたい。皆んなが僕の事、とっても心配してるのが伝わってきます。ちゃんと約束守らなくちゃね。
「やくしょく、だいじょぶでしゅ!」
「よし!」
話がまとまって、僕達は街の外へ向かいました。僕はオニキスに乗って、フウ達は僕の肩と頭の上。僕達を挟むようにして、お父さんとライネルさんが歩きます。ガントさん達は先に林に行ってるんだって。荷馬車の場所を知ってる人と街の入り口で合流して、いよいよ林の中に入ります。
林の中は真っ暗です。良く皆んな平気で歩けるね。僕全然見えないんだけど。なれてるのかな?
「おとうしゃん。」
「どうした。具合悪いか?」
「ううん。ちがうでしゅ。どちてみんな、くりゃいのに、あるけましゅか?」
「ああ。その事か。今日は月も出てるし、真っ暗に見えても、今日は明るい方なんだぞ。まあ、灯りをつけた方が勿論いいが、悪い奴らに見つかったらいけないからな。まあ、慣れてるって事だ。」
やっぱりそうなんだ。僕も慣れたら見えるようになるかな。でも、目は良くなりそうだよね。僕、視力は良くもなく悪くもなくって感じ。視力良くなったりしないかな。
「ハルトは別に慣れなくてもいい。俺達がちゃんと見えてるからな。」
オニキスの言葉にフウ達が頷きます。…だよね。考えたら皆んな、夜簡単に移動してた気がするし。なんか仲間外れみたいでやだな…。よし、僕も慣れて、少しは動けるようになろう!
僕が目標を決めてるうちに、現場に着いたみたいです。今のところ、頭もそんなに痛くなってないし、何とか大丈夫そうです。オニキスの風結界のおかげで、僕達の声は聞こえないけど、一応静かにね。お父さん達はそっと、結界から出て行きました。僕達は呼ばれたら、お父さんの所に行く予定です。荷馬車の方からは、声がずっと聞こえてきます。
『助けて…。痛いよ…。』
たしかに荷馬車に、魔獣が居るみたい。もう少しの辛抱だからね。頑張って!
お父さん達が見えなくなってから、少しして、お父さんが僕達のこと、呼びにきました。
(キアル視点)
ハルトを少し離れた場所に残し、ガント達と合流する。向こうの様子を窺いタイミングをはかる。そして。
「動くな!!俺はキアル!シーライトの領主だ!今からお前達を領主権限で捕捉する!魔獣の違法な闇取引き、またそれに関する、取引現場を確認したためだ!全員大人しくしろ!!」
私の合図と共に、一気に奴らを取り囲んだ。ギルドマスターのヤクは、最初驚いた顔をしていたが、すぐに笑い顔を浮かべ、我々に向かって来た。取引相手と思われる、飾りをごちゃごちゃ付けた服を着ている太った男、多分どこかの貴族か?は、逃げようとして、すぐに騎士達に取り押さえられていた。ヤク側は、やはり元冒険者だけあって少し手こずることになった。しかし。
「全員取り押さえました。完了です!」
我々は、闇取引に加担したであろう全員を、捕まえることに成功した。
捕らえられたヤク達は何も言わないまま、拘束用の特別な縄で、縛りあげられていく。
はあ、取り敢えず、拘束には成功して良かったが、これからがまた大仕事だ。いろいろ問題が残っている。奴隷の首輪が使われていれば、その問題は、とても大きい問題だ。ちゃんと対処しないと、またハルトの具合が悪くなってしまう。
まずは魔獣を見つけることからだが、ハルトはどこまで近づけるだろうか。