20さあ、出発です!
領主様あらため、お父さんと話をして、街へ行くのはあさってって言われました。何かもう少しこの森でやることがあるんだって。子ファングとバイバイして、街へ行く気満々だった僕は、ちょっと拍子抜け。でも、大事な仕事みたい。
話が終わってから、僕は遅い朝ごはんをテントの中で食べさせてもらったんだけど、そのとき、この前紹介してもらったメンバーが集まって、僕には分からない難しい話してたんだ。この世界のこと、この森のことしか知らないもんね。しかも少しだけ。お父さんのお屋敷に行ったら、いろいろ教えてもらおうっと。
この日から僕は、領主様とずっと一緒にいました。たまに冒険者の人ともいたけど、ほとんどお父さんと一緒。そしてお父さんはずっとニコニコ。僕が家族になって、本当に喜んでくれてるんだね。そう思った僕もつられてニコニコです。そんな僕を見て、可愛い可愛いって言うお父さん。ライネルさんに、もう親ばかになったんですか?って、あきれられてました。うん。それは僕もそう思うよお父さん。
そんなこんなで、いよいよ出発の日になりました。空は雲1つない綺麗な青空が広がってます。最高の出発日和です。僕はオニキスに乗って準備万端。まあ、ここまでに少しもめたけど。
僕は最初からオニキスに乗って行くつもりだったんだけど、お父さんがどうしても僕と、自分の乗って来た馬に一緒に乗りたいって。馬…。牛みたいな顔した馬…。まあ、それは良いんだけど、僕がオニキスと行くって言ったら、凄くしょげちゃって。それで後で一緒に乗るって約束しました。もう、しょうがないお父さんなんだから。
ガントさんを先頭に次に冒険者の人が何人か続いて、真ん中にお父さん達と僕達、その後ろに騎士さんと冒険者さんが続きます。お昼くらいになって、ちょっと休憩してまた出発。今日の夕方には森から出られるみたい。僕が疲れないように、ゆっくり街まで移動してくれてるんだ。
お昼の後から、ブレイブがふらふら走って、先頭まで行ったと思ったら、今度は後ろに走って行って、それにフウとライが続きます。今までこんなに森の外の方まで、来たことなかったみたい。だから楽しいんだって。僕はっていうと、お昼食べて眠くなっちゃった。オニキスの上でこっくりこっくり、前に倒れそうになったり、後ろに倒れそうになったり。
「ねみゅい…。」
「こりゃあ、ダメそうだな。オニキス、ハルトを抱っこしてもいいか?このままじゃ落っこちるぞ。」
「ああ、そうしてくれ。前に落ちたことがあるんだ。」
僕はお父さんに抱っこされて馬の上に。お父さんは片手で僕を上手く抱っこして、片手で手綱を引きました。ゆらゆら、ゆらゆら。ちょうどいい揺れ具合です。それからオニキスみたいにあったかい。僕はすぐに寝ちゃいました。
<キアル視点>
始めに一緒に馬に乗らないと、言われた時の俺の気持ちといったら…。こんなに心が沈んだのは初めてだ。俺の様子を見て慌てるハルトにちょっと笑いそうになったが、そのままわざとしょんぼりしていたら、ハルトが後で一緒に乗ると言ってきた。そんな俺を見て、ライネルが溜息を吐き、そして哀れなものを見るように俺を見てきた。いいじゃないか。せっかく家族になれたんだ。子供と一緒に馬に乗るのなんか、当たり前だろう?
お昼を食べた後のハルトが船を漕ぎ出したため、俺はオニキスに確認して、ハルトの事を抱き上げた。ハルトはすぐに眠りについた。本当に軽い、まだとっても小さいハルト。よくこの森で生きていてくれた。
初めてハルトと出会った時、驚きの方が大きかった。報告にあった子供。心の中では生きていて欲しいと思っていたが、まさか本当に生きているとは。報告を信じて森まで来た甲斐があった。
そしてその後のハルトの力にも驚いた。こんなに小さいのに穢れを祓う力を持っているなんて。それもかなりの力だ。
ハルトに出会ってすぐ、俺は妻に手紙を届けさせた。ハルトを絶対に連れ帰り、自分の家族として育てようと。そんな事よくやったと自分でも思うが。なんとなくハルトを家族にしなければと思ったんだ。そうしなければいけないと。本当に連れてけれるかも分からないのに。多分運命を感じたんだ。
それからもいろいろあったが、ハルトが家族になると言ってくれた時の気持ちといったら。そしてお父さんと呼ばれた時の気持ちも。今までに味わったことのないものだった。嬉しくて嬉しくて。抱きしめた時もう離せないと思った。そんな俺を見て、ハルトは何とも言えない表情をしていたが、それは気にしないでおこう。
俺の腕の中ですうすう寝るハルトを見る。安心した穏やかな表情をして寝ている。ハルトがどういう子だか、これからどんどん知っていけばいい。時間はたくさんあるんだ。それよりも俺が嫌われないようにしなければ。この森に帰るなんて言われたら俺は…。
「体調は大丈夫そうですか?」
ライネルが話かけてきた。こいつも何だかんだハルトのことを気に入ってる1人だ。こいつが世話をやきたがるのを初めて見た気がする。
「ああ大丈夫だ。お腹いっぱいで眠くなったんだろう。昼寝の時間だ。」
「どうしますか?今日は森を出る前あたりで休みますか?」
ハルトの事を考えれば、それが良いだろう。ゆっくり街へ行けば良い。
「そうだな。そうしよう。もし先に行きたい奴が居れば、人数を数えて先に帰してやれ。多すぎたらダメだが。」
森から街まで本来なら2日で着くが、ハルトが一緒だからな。3日といったところか。早く帰って家族に会いたい連中も居るだろう。
ずっと眠り続けるハルト。起きたのは今日の野営地に着いてからだった。