136僕の練習なんだけど?
私は今、あの男の命令で、急にあの男が食べたいと言い出した、クッキーを買いに、スタジアムの近くまで来ていた。
クッキーを買う列に並ぶが、相変わらずの長い列で、本当に嫌になってしまう。だが、ここでいつものように騒ぎを起こすのは、これからの事を考えると得策ではない。
私はスタジアムを見ながら、ここ数日のことを思い出していた。
まったく、あのクフスに逃げられるなど。逃げられてその後処理をするのは私なんだぞ。まったく、今までどれだけの魔獣達を手に入れて来たんだ。逃げらることがどれだけ危険な事か。まったく威張るばかりで役にたたない奴め。
これであのクフスがあのレイモンドの屋敷に逃げていたら。ありえない話ではない。レイモンドは我々のことを監視していた。たまたまでもあの屋敷にあのクフスが逃げて、そこから何かの拍子に我々につながる何かに気づかれたら。
幸い後数日で準備は整う予定だ。ちょうど大会が始まり、日程の半分が過ぎたころに動くことができるだろう。タイミング的にも良いはずだ。町中の人間が、1番集まっている頃だからな。
他のメンバーはすでに街に入ってきているし、先に来たメンバーは、すでにスタジアムなど、主要な場所に潜り込んでいる。馬鹿な奴らだ。知らない人間が入りこんでいると気づかずに、いつも通りの生活を送っているのだからな。
さて、私も確認しに行かなければ。アレがなければ、今回の計画は進められない。それどころか、計画自体がなくなる可能性だってある。
今まで長い間、仕えたくもない男に仕え、理不尽な要求にもたえ、ようやくここまで来たのだ。あのバカな男に仕えることが、どんなに苦痛だったか。あそこまで馬鹿な人間はそうはいないだろう。
自分の持っている本当の力、能力に気づかずに、金だけですべてを解決しようとする男。失敗すればすべて人任せにし、自分は関係ないと、すぐに新しい物に手を出し、また失敗を
繰り返す。そんな生活に、何年も、何十年も、よく耐えて来たと、自分を褒めてやりたい。
だがそれも、これから私がやろうとしている事のため。今回の計画が成功すれば、今までのすべてが報われ、そして、すべてが私の手に入るのだ。そう、この国までも…。
そうなれば、あの男は用済みだ。大した力にはならないだろうが、さっさと殺して、私の力の糧にしてしまおう。
あと少し、あと少しだ。
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最初は1人で走る練習してたんだけど、そのうちフウとライが、僕と一緒に、僕の横を一緒に飛び始めて。その後はブレイブとアーサーが一緒に走り始めて。それを見てたスノーも一緒に走り始めて。結局、大人魔獣達以外、みんなが僕と一緒に、走る練習始めちゃいました。
それでね、始めたのは良いんだけど。どう考えてもみんな僕よりも早く走って。スノーだって小さい子供魔獣だとはいえ、魔獣は魔獣。僕よりもお全然早く走ってさ。
一応ゴールを決めて走ってたんだけど、何回やっても、みんなより遅い僕。それで慌てちゃって。うん、案の定、僕は思いっきり転ぶことに。
いろんな所擦りむいた僕は、練習を一時中断。怪我の治療をすることに。
「確かにみんなで走った方が、早く走れるかもしれないけれど、みんなちょっと早く走り過ぎね。少しの間ハルトちゃんだけで、走らせてあげてね」
ってお母さんが言ってくれて、それから僕は自分のペースで走る練習ができました。フウ達はつまんないって、別の所でみんなで競争してたよ。
走る練習が終わったら、次は障害物競走と魔獣に乗っての競争、どっちの練習も一緒にやります。
なんでかっていうと、障害物競争は、僕だけが出る時もあるし、魔獣と一緒に出る時もあって。だからその時はオニキスと一緒に出て、オニキスと一緒に網の下を潜ったり、オニキスに乗って移動したり。
ね、オニキスに乗って動く練習するなら、どっちの競争の練習やっても、一緒のことでしょう?
僕長くはオニキスに乗っていられないからね。勿論オニキスにしっぽで支えてもらいながらなら、少しは長く乗ってられるけど。
オニキスに乗る僕。さぁ、練習始めようとしたら、いつの間にか魔獣姿になってたヒューイ。どこで変身したの? あんまり外で変身しちゃダメだよ。ドルサッチの関係者が、どこかから見てるかもしれないんだから。僕がそう言ったら、悪い悪いって。もう、本当に分かってるの?
それで僕がぷりぷりしてたら、オニキスの練習のあと、自分に乗ってみろって。今度はオニキスがヒューイのこと怒ります。
「なぜ、お前の背に、ハルトが乗らなければいけないんだ。ハルトが乗るのは俺の背中だけだ」
「ふん、心の狭い奴め。ハルト。たまには別の魔獣の背に乗るのも良いだろう?」
何だろう、みんな僕が子供大会の練習してるって、ちゃんと分かってる? 走る練習はフウ達の方が早くて、慌てて怪我しちゃうし。今度はヒューイが乗ってみろ、って言って来るし。
練習が全部終わってからなら良いけど。だってオニキスと一緒に出るのに、ヒューイに乗る練習してもしょうがないよ。
「だから俺だけで良いと言ってるだろう」
「良いじゃないか、別に減るものでもない」
このままじゃオニキス達の言い合いが終わらなくなって、また練習が遅れちゃいそう。うん、こうしよう。僕はヒューイに言いました。