110闇の人々
う~ん…。
「ぴぃぴぃ」
う~ん、うるさい。
「ピュピィ」
もう誰煩いの? もう朝? 僕もう少し寝るから静かにしててよ。
「ぴゅいぴゅ」
「うるしゃいの!」
僕はがばって起き上がって、目をゴシゴシ。ちょっとだけ目を開けます。眠たいからちゃんと全部目が開かない。もう少し寝たいからうるさい原因を探します。
ぴゅいぴゅい、ぴぃぴぃ、煩いって事は鳥? 何で鳥の声が近くから聞こえるの?
周りを見たら机の方にみんなが集まってました。お父さん達もいるみたいです。僕が起きた事に気付いたオニキスが僕の方に歩いてきて顔をすりすり。それからそれに気づいてフウ達も集まってきます。それからディアンが近づいてきて…。
あれ? ディアンの肩の所、何か乗ってる? もう少し目を開けてよく見てみます。
ディアンの肩に乗ってたのは、小さい鳥でした。とっても綺麗な青い鳥です。この鳥が鳴いてたのかな?
「ハルトおはよう。我からお願いがあるからすまんが起きてくれるか?」
ディアンが僕にお願い? この鳥のことかな? じぃ~って鳥を見ます。なんかとっても不安そうな顔してる。僕はなんとか目を開けて、まずは着替えから。それから顔を洗いに行って、部屋に戻ってきました。
部屋に戻ってきたらお父さんが、レイモンドおじさん達も話が聞きたいからって、休憩の部屋に移動するって。だからみんなでぞろぞろ廊下を歩きます。その間も鳥は僕のことを不安そうにチラチラ見てきてたよ。
休憩の部屋にはレイモンドおじさんとイーサンさん、それからペインおじさんと窓からロガーが覗いてました。それだけ大事な話ってことなのかな?
ソファーに座って、僕はココアみたいな飲み物をのんで、ふぅ、これで少しは頭がすっきり。珍しく早く目が覚めました。
まずは昨日ディアンが見てきたドルサッチの泊ってる部屋の話から。ディアンそんな危ないことしてたの。僕はちょっとだけムスッとディアンの方見ます。ディアンが悪い悪いって。
でも話を聞いてるうちに、ディアンの事もムスッてきてたけど、それ以上にムスッてする話が。ううん、凄く凄く頭にくる話が。
もうね、あいつ本当最悪だよ。あいつってもちろんドルサッチのことだよ。
ドルサッチの部屋の中、魔獣達のはく製だらけだったって。しかも珍しい魔獣ばっかり。変異種って言われてる魔獣だよ。
例えば本当は大きい魔獣なのに小さいままだったり、角が1本なのに2本生えてたり、羽が大きかったり、瞳の色が違ってたり。部屋の中いっぱいに飾ってあったんだって。
ん? 変異種? 色が違う?
僕は鳥を見ました。ディアンがそっと鳥の頭をなでなでしてます。
「この鳥はクフスというんだが、元々は灰色の鳥だ。しかしこ奴は見ての通り、綺麗な透き通った青い色をしている。変異種だ」
鳥がぴぃぴぃ鳴くと、ディアンが通訳してくれます。
鳥はこの街から、ずっとずっと遠くの森に住んでたんだって。でも最近、変異種の魔獣ばかり狙う冒険者達に見つかっちゃって、捉えられて魔力が使えなくなるカゴに閉じ込められて、この街まで運ばれてきました。
街に着いた後、どこかの店の地下に連れていかれて、そこには何人か人が。それから他の変異種の魔獣が何匹か連れてこられてきてたんだって。
そして集まってた人達が冒険者達とお話始めて、何かが入った袋と交換で集まってた人達に渡されていく魔獣達。クフスも交換されて、受け取った人があのグイダエスでした。
グイダエス受け取るとすぐにクフスをドルサッチの所へ。ドルサッチは少しの間生きたままクフスを飾ったあと、数日前にそろそろはく製にするかって言ったみたい。
もう死んじゃうと思って泣いてたら、ちょうどディアンがドルサッチのそのはく製が置いてある部屋に入ってきて、それで助けてもらえたの。そのままディアンはクフスを連れて帰ってきました。
なんてひどい奴。僕はディアンに近づいてぴょんぴょん。クフスに手を伸ばします。どうしてそんな酷い事するの! ドルサッチはもちろんその冒険者たちも、それからはく製を受け取った人間達も!
「待て待て」
ディアンがしゃがんでくれて、そっとクフスを手に乗せて、僕の前に差し出してくれます。
僕はそっと手を出しました。ビクッてするクフス。僕はニッコリ笑って、それから手のひらを出します。クフスが大丈夫と思って自分から乗ってくれるの待たないとね。無理やりはダメ。
クフスがディアンの顔見ました。ディアンもニッコリ笑ってて、それからうんって頷きました。それを見たクフスがそっと僕の手に乗ってきます。
僕何もしないよ。大丈夫だよ。
手に乗ったクフスがお座りしました。僕は片方の手を外して、それからそっとそっと体をなでなで。そのあと頭をなでなでしてあげます。
最初のうち体がこわばってたクフス。だんだん力が抜けてきて、最後はぴぃぴぃ泣き始めちゃったの。僕はぎゅって抱きしめてあげて、それからもっとなでなでしてあげます。
クフスが落ち着くまで、お父さん達もレイモンドおじさん達も、ずっと待っててくれました。
「それにしても、私の街でそんなことが行われているとは」
クフスが落ち着いて、お父さん達は話を再開します。クフスは今、僕の頭の上でお座り。今もぴゅいぴぃ鳴いてるけど、泣いてるんじゃないよ。お歌うたってるの。僕のなでなでがとっても嬉しかったんだって。
僕達は今お部屋の端っこ、みんなで一緒に遊んでます。何かクフスに聞きたいことがあったら聞くから、僕達は遊んでていいってお父さんが。まぁ、本当のお子ちゃまなら、きっとこれからする大人の難しい話なんか分かんないもんね。でも僕は分かるから、遊びながらお父さん達の話を聞きます。
どこの家で闇取引がされたのか、部屋には誰が居たのか、そして冒険者達の特定、これからやらないといけない事いっぱいだって。
たまにクフスに聞いてくるのは、連れていかれた地下がある家を見れば分かるかとか、冒険者の顔、受け取りに来てた人間の顔を、確認すれば分かるかとか。
「証拠が残っていればいいのだが」
「証拠なら奴の所のはく製で良いではないか」
「ドルサッチの所だけ行って、あいつがそう簡単につかまると?」
正規のルート、例えばたまたま寿命を全うして老衰で死んだ魔獣とか、そういうのがオークションに出てきたりするんだって。そういった魔獣のはく製は、レイモンドおじさんやお父さん達、王族の関係者が本当に正規品なのか、かなり念入りに調べて、オークションにかけられるんだって。
「だが、どう考えたってドルサッチの部屋にあったはく製の数はおかしいだろう?」
そうだよ、それだけ念入りに調べるなら、ドルサッチが持ってるのが正規品じゃないって分かるでしょう?
「ほかの国で手に入れたと言われたら? こういうものに対してあまり規制していない国があるんだ。そこで手に入れたと言われてしまえば終わりだろう?」
え~、そんな国があるの? それにって続けるお父さん。
「こういう時はドルサッチだけ捕まえるのはダメだ。他のかかわった人間すべてを一度に捕まえないと。1人捕まえたところで、被害がなくなるわけではないからな。捕まえるなら、全員いっぺんにだ」
そうか。ドルサッチ捕まえるだけじゃ、本当の解決にはならないんだね。クフスみたいな被害魔獣がどんどん生まれちゃうんだ。
「これからのことについて話し合わなければ。皆を集めよう」
レイモンドおじさん達とお父さんが部屋から出ていきます。残された僕達もこれからの事お話し合いです。お兄ちゃんも一緒だよ。お母さんは静かに僕達のこと見ててくれます。
もう。ドルサッチ達って、どうして悪い事しかできないんだろうね。