106ヒューイとの生活と激辛鍋の攻撃
次に起きたのはお昼近くでした。オニキスが居るって安心したら、ぐっすり寝ちゃったんだ。しかもあのトイレの後、ヒューイのトイレの感想を長々と聞くことになって。おんなじこと何度も言うから、こっちはいい加減ウンザリ。
そしてそのヒューイの興奮ぶりに、寝てたフウ達まで起きちゃって。フウ達はいつもトイレ見てるはずなのに、ヒューイと一緒になって騒ぐんだもん。最後にはオニキスに怒られて、やっとみんな静かに。
オニキスがおやつなしにするぞって言ったんだ。ヒューイには美味しいお酒を教えてやらないって。ヒューイなんてそれ聞いた途端クッションに戻って、さっさと寝る態勢に。
僕が目をしょぼしょぼさせながら休憩の部屋に行くと、お父さんが何かの資料見てました。
「おはようハルト。良く寝てたな。ぐっすりで朝起こしても全然起きなかったぞ」
誰かさんが騒いだせいで、変な寝かたしちゃったからね。まぁ、それは置いておいて、今日もこれから話し合いするのかな? 本当はオニキスとゆっくり遊びたいんだけど、ドルサッチ達の事も大事だからね。
「おとうしゃん、きょうもおはなちあい?」
「ん? ああ、もうお話し合いは終わったぞ。ハルトが寝てる間にな」
え? 本当? オニキス達の方を見たら2人が頷きます。え~、僕も参加したかったのに。だって大切な話だよ。
「お父さん達の大切な話し合いだ。ハルトは聞いててもつまらないだろうし、それに難しい話もしないといけないからな」
ああそうか。これってお父さん達の街の安全に関わる、大切な話だもんね。お父さん達がいつもしてる大切なお仕事。僕は見た目幼児だし、この頃は行動とか感情とかも幼児に近づいてて、そんなお子様に大切な仕事の話しなんかしないよね。もし話し合いに参加して、僕がしっかり意見したら、変に思われちゃうよ。うん、納得。
後で何か気になる事があれば聞けば良いや。で、話し合いが終わってるって事は、もうオニキス達と遊んでも大丈夫って事だよね。
「おとうしゃん、オニキスとあしょんでいい?」
「ああ良いぞ。だが今日は、外は屋敷の庭までだ。ちょっと忙しくて、スタジアムとか外まで一緒について行ってやれる人間がいない。それは明日にしろ」
「うん!」
遊べるならどこでも良いよ。もうすぐお昼だからお昼食べてからお庭に行く事にしました。
ご飯になるまで、おままごとの道具とか用意します。僕達の遊びのお部屋と練習や訓練のお部屋見て、またまたヒューイは大興奮。特にあの人工芝にビックリしてました。自然の芝とそんなに代わりないって。それ聞いてイーサンさんはニコニコです。
芝生の上でお腹を出してゴロゴロするヒューイ。大きな犬がゴロゴロしてるみたい。狼だよね。動きが完璧犬です。しかもはしゃぎ方はまだ若い犬って感じ。そっとオニキスに聞いてみました。
「オニキス、ヒューイはなんしゃい?」
「ああ歳か? 確か俺とそんなに変わらなかった気がするが、俺よりも年上だぞ。ちゃんと数えた事はないし、あいつにも聞いた事はないが180歳は超えているはずだ」
…ああ、そう。それであのはしゃぎようなのね。ふ~ん。
ご飯に呼ばれたから、急いで食堂に向かいます。なるべく早く食べて、早くお庭に行かなくちゃ。久しぶりに遊べるんだから。
お昼は料理人さんがヒューイの分のご飯を、ちゃんと用意してくれました。大きめの海賊肉です。オニキスにもそれを用意してくれました。2人に今回のお礼だって、レイモンドおじさんが。街で1番の美味しいお肉を売ってるお店で買ってきてくれました。
それを骨ごとバリバリ、ボリボリ。カケラも残さないで2人はさっさと食べちゃいました。
僕も急いでご飯食べて、さぁ、いざお庭へ。
おままごとの前に2人にロガーを紹介です。それからみんなでおままごと。ヒューイにおままごと教えなくちゃね。ダイア・ウルフのままでも良いけど、人間に変身できるなら人間に変身した方が楽かな?
「ヒューイ、へんちんしゅる?」
「どっちでもかまわないぞ。だがそうだな、人間の生活をいろいろ経験してみたいからな。よし、人間に変身しよう」
さっと変身するヒューイ。みんなでお椀の持ちかたとか、お皿の使い方とか教えてあげます。ヒューイはお椀とかあんまり分かってなかったけど、飲み物入れるための入れ物とか、おままごと用のお酒が入ってたビンの事は良く知ってました。このビンはお父さんに貰ったの。
「ハルトは酒が好きなのか? 今度オレが美味しい酒を持ってきてやろうか」
いやいや、僕未成年ですから。隣にいたお兄ちゃんがヒューイに子供は飲めないって説明してくれます。
「ほう、人間とはそういう生き物なのか。どおりで良く酒をもらいに行く店に子供がいなかったわけだ。こんなに美味しい物を飲めないとは、人間の子供はかわいそうだな」
ちなみにこの世界のお酒は甘いお酒が多いみたい。辛いお酒ももちろんあるけど、果物でできてるお酒が多いんだって。
1度フウが、お父さんのお酒隠れて味見したの。それで酔っ払っちゃって大変でした。目が覚めたら頭痛いって言うし、寝ても飛ぶのがふらふらで。その時フウがお酒のこと、とっても甘いって言ってました。
それをお母さんに言ったら、お酒は甘いものが多いって教えてくれたんだ。お酒として作らなければ、美味しいジュースだって。
最初はぎこちなくおままごとをしてたヒューイ。でも続けるうちになかなか上手に役をこなしていきます。ヒューイは僕のお兄さん役。本当のお兄ちゃんはそのままお兄ちゃん役。今日は家族の設定なの。
「おにいちゃ、しょのおわんとっちぇ」
「これか? よし、木の実を入れてやろう」
いろいろ工夫してくれます。
ヒューイって、街にはお酒を貰いに来てるだけって言ってるけど、本当にそうなのかな? 人間の生活とか覗いてない?
おままごとしてたらお父さん仕事終わったみたい、そろそろ中に入れって呼びに来ました。パッと周りを見ればもう夕方。おままごとに熱中してて、すっかり時間のこと忘れてました。
お片付けして、ロガーにまたあとでねって言って、屋敷の中に入ります。ご飯の後、窓からロガーとお話するのが、この頃の僕達の習慣なの。だってこのまま寝るまで1人は可哀想でしょ。楽しい方がいいよ。まぁ、完璧に1人じゃないけど。
ロガーの小屋の隣に、僕が1人はダメって、イーサンさんにお願いして、やたらと耳が長いうさぎの魔獣と、モルモットみたいな魔獣の小屋作ってもらいました。2匹ずつ小屋に入ってて、ロガーとっても喜んでくれたんだよ。僕達が遊べない時とか夜は、ロガーは魔獣達と仲良しです。
ちなみにうさぎ魔獣とモルモット魔獣は、人間の小さい子にも大人気の魔獣で、初めて魔獣と暮らす子にはピッタリなんだって。大人しくて人にも他の魔獣にもすぐに懐いて、とっても優しい性格なんだって教えてもらいました。
教えてもらったのは良いんだけどね、ブレイブとアーサーがうさぎさん魔獣気に入っちゃって、僕の家でも飼いたいって言い始めちゃいました。
それで今お父さんとブレイブ達は、時間があればうさぎの話し合いしてます。オニキスとディアンが帰ってきてくれて良かったよ。スノーが通訳すると、話がややこしくなっちゃうんだもん。
そして今のところ、お父さんは反対。うちには僕の家族がいっぱいだからね。ブレイブ達は、仲良くしてご飯もちゃんとあげるから。寝床も自分で作るように言うから。って、お世話と後は放し飼いみたいな事、お父さんに訴えてます。
そんな感じで話し合いは平行線のまま。
家の中に入って少しして、夜のご飯時間です。そしてこの夜のご飯の時、オニキスとヒューイは、レイモンドおじさんのあの激辛鍋の洗礼を受けました。
鍋が僕達の前に運ばれて来たのを見て、フウ達はレイモンドおじさんの前にはアレが運ばれて来るのが分かってるから、激辛レースの前はなるべくレイモンドおじさんから離れるようにしてます。でもオニキス達は…。
後でお話聞いたら、変な感じはしてたんだけど、それが何か分からなかったって。
僕は鍋が部屋に入ってきてる時は息止めます。匂い嗅ぐと大変だから。それから目を瞑って。そして僕の隣では、オニキスとヒューイの叫び声が。
お母さんが良いわよって言って、目を開けてオニキス達の方見たら、2人とも目や鼻を押さえて、のたうちまわってました。
「た、あ助けてくれ! 攻撃されたぞ!」
「は、ハルト! 大丈夫か!?」
オニキスは自分が大丈夫じゃなくても、いつも僕のこと心配してくれます。僕は大丈夫だよ。…それ、なかなか治らないから頑張ってね。