104ダイアー・ウルフをなでなで
やはり? 魔力があったかい? 僕ダイアー・ウルフに会ったことあったっけ?
それにしてもオニキスもカッコいいけどダイアー・ウルフ…もうおじさん狼でいいや、おじさん狼もカッコいいね。なでてみたいなぁ。でもその前に挨拶だね。
「えちょ、はじめまちて?」
「ああ、ちゃんと会うのは初めてだぞ。ただ俺はお前の気配をいつも感じていたからな。俺はお前を知っていたが、お前は俺を知らないぞ」
魔獣って良いよね。気配で何でも分かっちゃう。お父さん達も凄いけど。
この前お父さんとイーサンさんの訓練見学してた時に、後からレイモンドおじさんが部屋に入ってきました。てか、僕レイモンドおじさんが入って来たの気づかなくて、突然僕の後ろでパンッ!! 鋭い音がして振り向いたの。
そしたら僕達の後ろにレイモンドおじさんが立ってて、そしてレイモンドおじさんの後ろの壁にはナイフが。
「さすがに分かったか?」
「それはまぁ、あれだけ殺気を出されては」
え、何々? 僕がわたわたしてたら、ディアンが何があったか教えてくれました。
レイモンドおじさんが殺気を放ちながら部屋に入って来たんだって。それでお父さんがその殺気に気付いて、後ろ向いたままナイフをおじさんの方に投げたの。
「おとうしゃん、はいっちぇきちゃのわかる?」
「ああ、知っている人が放つ殺気なら誰の殺気かは大体わかるし、そこいらへんのごろつきが放つ、バカらしい殺気も分かるぞ」
ただレベルが高い人とかは殺気を隠して近づいてくるから、対処に遅れるって。
え? 普通にそれって凄いことなんじゃ。レイモンドおじさんとイーサンさんの顔を見ます。2人ともまぁこれくらいならなって。それ聞いて僕は、訓練してる人はみんなそうなのかなって思いました。
そんな話を聞いてたら、グレンが休憩用のお茶を運んできてくれて、僕はグレンにも聞いてみます。そしたらグレンも人や魔獣の殺気が分かるって。やっぱりみんなそうなんだって、その時は納得したんだけどね。
レイモンドおじさんの屋敷で働いてる筆頭執事のグーガーさんに、おやつの時にその話したんだ。大人の人はみんな出来るんだねって。僕も大人になったら殺気が分かるようになるかな。そう言いました。
そしたらグーガーさんが、お父さん達を普通の人達と一緒に考えちゃいけませんって。
「一般の街の住民の方は、殺気など感じることはできません。旦那様方は訓練の仕方も、そして元々の能力も、少し街の方々とは違うのです。旦那様方は見本にはなりませんよ。坊っちゃまはあまり真似をなさらぬように」
そう言って部屋から出て行っちゃいました。
ああ、やっぱりそうなんだね。お父さんやレイモンドおじさん達がおかしいんだ。そっか、ただ大人になるだけじゃダメなんだ。
でも殺気が分かって戦えるって、なんかカッコいい。グーガーは真似しないようにって言ったけど、僕も一生懸命訓練したら、お父さん達みたいになれるかもしれないでしょ。
だから僕の目標、いつか殺気が分かるくらい強くなる、になりました。
「それでハルト、俺のことはヒューイと呼んでくれ。街でその名前を呼ばれていた男がいてな、なんとなくカッコいいと思ったんだ。それから、俺のことを撫でてくれ」
………なんかグイグイくるね。でもヒューイから撫でてくれって。ちょうど良かった。僕お願いしようって思ってたからね。
僕が近づいたらヒューイがちゃんと僕が撫でやすいように、座れして頭を下げてくれました。そっと手を伸ばしてすっすっ。僕が思ってた通りとってもさらさらで手触りが良くて、僕は頭なでなでした後、今度は体をなでなでしてあげます。
そして…
「ダイアー・ウルフとは、あんな魔獣だったか?」
「俺の時はもっと殺気を振りまいて、魔獣だろうが人間だろうがおそっていたな」
お父さん達がそんな話をしてます。さっきまでの警戒してたお父さん達じゃありません。そりゃ今のヒューイの格好見たらね。
今ヒューイはお腹を出して両手両足をだらぁ~んって伸ばして、ベロ出してヘッヘッって。僕はダイアー・ウルフがどんな魔獣かまだ分かってないけど、一応狼ってことは分かってる。
狼? 地球で暮らしてた時、おじさんの家の近くで飼われてた、人懐っこくてすぐにお腹出しちゃう黒の柴犬がいたんだけど、その柴犬にそっくり。
狼としてそれはどうなんだろう? でも大きい柴犬、いや、わんちゃんみたいで可愛い。そしてとっても気持ちいい。顔をお腹につけてぐりぐりしたい。
そんな事思ってたら、今まで黙って僕とヒューイのこと見てたオニキス達が、僕とヒューイの間に入って来ました。
「おい、いつまでなでなでされているつもりだ?」
「なでなではフウ達が家族だから、たくさんしてもらえるんだよ!」
「そうだぞ! 家族じゃない魔獣は少しだけなでなでなんだ!」
「はりゅとのなでなで、ちゅぎはボクだよ!」
『『キュキュキュイ!!』』
「ハルトのなでなでを返せと言っている」
オニキス達が無理やり僕とヒューイを離しました。ため息を吐きながら起き上がるヒューイ。
「心が狭い奴らだな。家族になればもっとなでなでしてもらえるのか?」
「簡単に家族になれると思うのか」
オニキスとヒューイが睨み合います。
ちょっとちょっと何してるの。ほらもう僕なでなでしてないんだから。てか僕も急なことで思わずなでなでに夢中になっちゃってたけどさ。まだヒューイがどうしてここに来たか聞いてなかったよね。まずそれをお話しなくちゃ。
ヒューイが話をしに来たんだから、さっさと屋敷の中に入れろって。さんざん僕になでなでされてだらけてたのに、しかもお父さんにもレイモンドおじさん達にも、ちょっとした動作とか言葉が上から目線なんだけど。
「こいつは俺の知り合いだ。誰も襲ったりはしないから、屋敷に入れてやってくれ。大事な話なんだ」
オニキスの言葉に、お父さんがレイモンドおじさんに一緒にお願いしてくれます。もちろんお母も。
「お兄様、まさか私の大事なハルトちゃんの家族の知り合いを、蔑ろにはしないわよね。心配しなくても大丈夫よ。何かある時はディアンに殺ってもらうから」
お母さんの言葉に、オニキスとヒューイが顔を見合わせます。お母さんやるって殺るじゃないよね。ただ叱るってことだよね。ね?
それからは少し大人しくなったヒューイ。レイモンドおじさんが中に入って良いって言ってくれたから、みんなで休憩の部屋に移動します。僕はオニキスに乗って移動。
そうだ。アレのこと覚えておかないと。急にヒューイが来たから、話し合いが終わったら、来てくれてありがとう? のちょっとしたプレゼント用意しなくちゃ。
ヒューイの分は、遊ぶ部屋にお菓子の箱が置いてあるから、そこから選んであげよう。小さな袋に入れれば良いよね。
部屋に入って、中を1周周っていろいろ確認するヒューイ。
「俺はたまに変身して街に行ったりするが、人間の住んでる家とやらに入ったのは初めてだ」
ふうん? そうなんだ? 確かオニキスがお酒が好きって言ってたよね。お酒を取りに街に来るとか。お金とかはどうしてるんだろう?
みんなでソファーに座って、グーガーさんとグレンがお茶を用意してくれました。ヒューイも人間の姿に変身。お茶を一気に飲み干して、おかわりを頼んでます。
おかわりも一気飲みしたヒューイ。ふぅってため息ついて、さてとって。
「どこから話すか? オニキスお前はどう思う」
「まずは俺から話す。その後お前の昔の話をするぞ。まず、俺が出かける前までの事は良いな?」
みんなが頷きます。僕達がいた森に昔、穢れを祓える人間が現れたって話でしょう? 僕が聞いたら、それだけじゃないって。僕が知らないだけでみんな知ってたんだよ。オニキスが森に行く前にドルサッチ達を偵察してた事。
もうそんな危ない事してたの? もし見つかって何かされたらどうするつもりだったの! オニキスが強いのは分かってるけど、やっぱり怪我したら痛いし、治らない怪我させられるかもしれないんだよ。
僕はオニキスの頭をポカッて叩きます。それからほっぺをにゅうぅぅぅって引っ張りました。
「しゅ、しゅまんはりゅと」
やっぱりプレゼント返してもらおうかな?