99面倒なあいつ
「おい、お前!!」
突然僕達の後ろで大きな声がして、バッて振り向きます。
僕達の後ろには冒険者さんが並んでたんだけど、その横に、さっきまで居なかったドルサッチ達が立ってました。
何でここに? ていうか何でしれっと割り込みしようとしてるの。だって冒険者さんと僕達の間にグイグイ入って来るんだよ。割り込み最悪。この前レイモンドおじさんに怒られたこと、イーサンさんに怒られたこと、全然反省してないじゃん。
お父さんがドルサッチを睨んで、僕達の前に立ちます。
「何かうちの者に用かな」
「お前になど用はない。私が用があるのはそっちの男だ、どけ!」
ドルサッチはディアンのことを指差して、お父さんを無視して進んでこようとします。こいつ本当にバカなの? お父さんのこと知ってるはずでしょう? この前の門での騒ぎの時だって、レイモンドおじさん達と居たし、それにお父さんはお前達よりもぜんぜん上なんだぞ。
ドルサッチはフンフン鼻息荒く、無理やり僕達の前に来ようとして、お父さんにさらに止められます。それからレイモンドおじさん、ペインおじさんも僕達の前に出てくれました。
「ドルサッチ、俺の家族、そして関係者になにか用か?」
「レイモンド!! はっ!? そうかその顔はキアルか!」
いやいや、本当に? 本当に分かってなかったの!? こんなにバカなのにそれなりの貴族? 親の力って怖い…。
「レイモンド? キアル?」
「い、いえ、申し訳ありません。レイモンド様何故ここに?」
急に態度を変えるドルサッチ。騎士の挨拶をした後、それでもぺこぺこ頭を下げながら、顔はヘラヘラ笑ってるけど、目が笑ってません。本当にレイモンドおじさん達が何でここにいるって、目で言ってる。普通の子供だったら分かんないかも知れないけど、僕は向こうの世界で、こういう目をしている人達に囲まれてたからね。良く分かるよ。
僕が引き取られて暮らしてた叔父さんの家には、叔父さんに取り入ろうとしている人達が毎日たくさん出たり入ったり。
その中には自分の野心を全開にしてくる人、なるべく心は隠し言葉では従順なフリをして、叔父さんの隙をつこうとする人、初めから敵対してくるような人、邪魔に思っていて言葉では良いことを言い、目は笑っていない人。
本当にいろんな人がいて、叔父さんは僕に、そういう人達を見分けられるようにって、必ずお客がきてる時は自分の隣に置いて、表情を読む訓練させたんだ。
そしてお客が帰ると、その人がどういう人物か言わせ、間違うとただでさえ少なかったご飯が、1日無くなるって感じで、僕必死に覚えました。
この世界に来て、オニキス達と出会って、お父さん達と出会って、いろんな人達と出会って、小さくなったのも関係あるかも知れないけど、人を見るって事忘れてたんだ。
でもあのサーカス団の事件があって、何となくだけど、人の表情がまたわかるようになってきました。
ドルサッチは、邪魔に思っていて言葉では良いことを言い、目は笑っていない人。相手にすぐに考えが読まれちゃう、1番ダメなやつね。
「お前にいう必要が。だいたい分からないのか? ここに居るんだ」
バカにした様にいうレイモンド叔父さんに、さらにドルサッチの顔が歪みます。でも何とか顔はニコニコしたまま、またディアンの方を見てきます。
ここでドルサッチが、レイモンドおじさんやお父さん達の話から、ディアンの話にかえてきました。
「いや、私はそこの男に用事があって。その使用人の男はレイモンド様の?」
「我が使用人だと?」
ディアンが1歩前に出ようとしたところをグレンが止めます。
「彼は私の妹の家で暮らしているのだ。使用人ではない。彼に何の用だ」
「い、いえ、この前その男の力を見た我部下がいまして。少し話をしたいと」
「そうか、だが分かっただろう。彼は私の一族の一員。話があるのならば俺が聞こう」
「め、滅相もありません」
そう言いながらドルサッチ達も1歩下がります。ディアンとディアンの洋服をギュッと掴んでる僕、それからフウ達のことを睨みながら。僕はそっとディアンの前に立ちました。
体はふるふる震えちゃってるけど、ディアンはディアン達は僕の大切な家族だもん。僕が守らなくちゃ。あの夢みたいになったら嫌だ。
ぽんっ。上を見上げたらディアンがニッコリ笑って、僕の頭撫でてくれてました。
そのまま僕達の後ろに並ぼうとするドルサッチ達。レイモンドおじさんにこの前の事を忘れたのかって言われて、チッてお父さん達に気づかれないように小さく舌打ちして、そのままスタジアムから離れて行きました。舌打ち僕しか気づかなかったみたい。
ドルサッチ達がいなくなって、僕力が抜けちゃって涙が…。
「うっ、くっ」
「ハルトちゃん頑張ったわね。ディアンのこと守ったものね」
僕達の前に、お父さん達みたいに守って立ってくれてたお母さんが、僕のこと抱っこして背中を優しく撫でてくれます。お父さんもレイモンドさん達も頑張ったって褒めてくれたよ。
その時でした。もう少しでドルサッチ達が見えなくなりそうになった時、フウとライが叫びました。
「みて! あいつの体!」
「黒いモヤモヤ出てるぞ!」
この時粉をかけて貰わなくても言葉の分かる僕と、ディアン達だけがフウ達の言葉に反応しました。
僕は涙目のままドルサッチを見ます。一瞬だったけど、ドルサッチの体に黒いモヤモヤが入っていったような。涙で良く見えなかったよ。でもディアン達はバッチリ見たみたい。
「我は奴の様子を少し確認してくる。ハルトすぐに帰ってくるから、お前は大会の申請とやらをやっておけ。楽しみにしていただろう。ほらもう泣き止め。お前達も後で帰ったら詳しく話してやる。だから今はハルトを楽しい気持ちにさせてやってくれ。ハルトは我のために頑張ったからな」
そう言って、僕達からはなれると、他の人に分からないように、一瞬で飛んでいっちゃいました。お父さん達は少しだけざわついてたけど、お母さんがほらディアンの言う通りにって言ったら、中断してた申請の続きを始めました。
申請どころじゃないよディアン。お父さん達にちゃんと説明しなくちゃ。って僕そう思ったんだけどフウ達がね、ディアンが僕達の楽しみにしてた申請しろって言ったんだから、申請ちゃんとしようって。
…うん、そうだね。ディアンがそういったもんね。
僕はフウ達と一緒に、お兄ちゃんの後ろに並びます。そう、ちゃんと申請しなくちゃ。オニキスと一緒に自慢大会に出るんだもん。
お兄ちゃんの申請はすぐに終わって、いよいよ僕の番です。
係のお兄さんが僕のこと見て、ブレイブ達のこと見てにっこり笑います。
「おはようございます。お名前は」
「ハルト!」
「ハルト君だね。ハルト君はどの競技に出るのかな」
「えと、ブレイブとアーサーと、それからオニキス!」
お父さんが隣でクスクス笑ってます。それから僕の代わりに詳しくお兄さんに伝えてくれました。
「子供が出る競技と魔獣決定戦に出たいんだ」
「それでしたら…」
あっ、そう言えばそんな名前だった。今更気が付いたよ。魔獣自慢大会になっちゃってた…。でも、まっいっか。おんなじだよね。
今回の小さい子が参加できる競技は全部で4つ。1つ目が駆けっこ、2つ目が障害物競走、3つ目が宝物探し、4つ目が魔獣と一緒の競走。
全部の競技に出ても良いし、出たい物だけ出ても良いの。僕は全部出たいけど、それよりも魔獣と一緒の競走って何?
この競技はお父さんやお母さん、自分の家で契約してる魔獣と一緒に、例えば僕だったらオニキスに乗って、もしペインさんが僕みたいに小さかったらロガーに乗って。そういうふうに自分の家で契約してる魔獣に乗って、スタジアムを3周してゴールするの。
うん! それは絶対出る! オニキスと出る!
「じぇんぶ!! じぇんぶでりゅ!!」
僕思わずジャンプしちゃったよ。お兄さんが笑って、全部ですねって。そんなに競技もあるんだね。楽しみに!!
それから魔獣自慢大会は、僕は小さいから保護者が1人つかないとダメなんだって。だからお父さんが一緒に出てくれるって。
書いてきた紙を出して、ここで書かないといけない紙に自分の名前書いて、これで申請終わりです。僕の名前ちゃんと分かるかな。ミミズみたいな字になっちゃってるけど。ゆっくりゆっくりお父さんと書けば何とかなるんだけど、僕今ウキウキしちゃってて、お父さんと一緒に書いててもジャンプしちゃってたから。
「これで申請終わりです。では最後にハルト君にはこれを」
お兄さんが箱の中から何か取り出しました。




