異世界裁判 -再審案件-
なろうラジオ大賞の応募作品です。
人肉だけの料理を載せたトレイを持って料理長が表れた。料理はひげを蓄えた男の前に並び始める。男はナイフとフォークを手に取り、目の前に並べられる料理を観察しながら料理長に話しかけた。
「メニューは?」
「本日は母親を殺した息子です」
男の前に料理を並べながら料理長は淡々と答え、男は人肉にナイフを入れながら言った。
「もう人肉料理は飽きた。魚が食いたい」
「それは致しかねます」
料理を並び終えた料理長は丁寧に頭を下げて、さらに言葉を続けた。
「そもそもあなたが食する理由は、罪人の魂を取り込み罪人の伝記を書くこと。料理に不純物が混入すれば、不正確な伝記が出来上がり、それを読んだ裁判官殿が誤った判決を下すではありませんか」
「それに入ってくる食材は罪人だけですから、初めから無理な相談です」と一言吐き捨て料理長はその場を去った。
料理長が去った後、男は人肉を口に運び味を確かめた。脂身が少なく淡泊な味だ。それに出された料理の品数の少なさから、罪人は極端に痩せていたと男は思った。罪人の犯した罪を想像しながら、男は無言で料理を食べた。
食事を終えると男は何も言わず店を出て、真っすぐ自宅に向かった。帰宅した男はすぐに書斎机に座り、罪人の伝記を書き始めた。
男が罪人の伝記を書き上げたのは、執筆を始めて七日目の夜だった。男は達成感に浸る間もなく原稿を鞄に詰めた。そして原稿を詰め終えると、何かが出窓を叩く音がした。窓の外には一羽のフクロウが部屋を覗いている。男は窓を開けてフクロウを招き入れると、フクロウは部屋の隅にあるコートハンガーに止まり男が話しかけた。
「今回は飢えで追い詰められ、息子が母親を殺害するお話だ」
男は書斎机からパイプを取り出しタバコを詰めながら話を続けた。
「最近の再審案件は、ほとんどがこの手のものだ。あっちの世界では飢饉が起きているのか?」
「ああ……しばらくは類似した再審案件が続くだろう」
男の問いにフクロウが答えた。
「それなら今後同じような案件がきたら書かない。どうせ罪状は棄却されて転生し、人生をやり直すんだからな」
「それを決めるのは私の仕事だ。君は今まで通り伝記を書けばいい」
フクロウはそう言い放ち、原稿が入った鞄を咥えて窓から飛び去っていた。男はパイプに火を入れて立ち上がった。すると見計らったように電話が鳴った。
「もしもし……」
「私です」
声の主は料理長だった。
「料理の準備が整いました」
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