第37話 新たな目標
家に帰ってリビングに入ると、セレスが不安そうな顔をして俺を出迎えた。
「お帰りなさいマサヤ、サワムラさんとの練習は大丈夫でしたか?」
「それなら無事に終わったよ。一樹と練習した時よりも距離に余裕があったし、この分なら問題なさそう」
「そうでしたか、良かったです……」
俺の返答にセレスがホッとした表情を見せる。すると母さんがキッチンから出てきて俺に詰め寄った。
「聖也、何かあったんじゃないかって、セレスちゃんはずっと心配してたんだからね!! 大丈夫だったなら連絡くらい入れなさいよ」
「ゴメン、沢村との練習に集中してて忘れてた」
そっか、セレスも沢村との練習がどうなったかって、心配してたんだな。もう少し気を配っておけば良かったか。
ん? これってセレスが魔法で俺の様子を把握することもできないって話だよな?
となると、もし俺が出かけた先で何かあったとしても、連絡を入れない限りセレスは動きようがないってわけか……。
セレスが近くにいない時は、特にうっかり能力を発動させないように注意しよう。俺はそう心に刻み込んだ。
× × ×
夜8時過ぎに俺が自分の部屋で勉強していると、三浦からRAIN通話がきた。
「吉村君、今大丈夫!?」
「大丈夫だけど、そんなに慌てて何かあった?」
「何かあったじゃないでしょ!! 今日、体育館で吉村君が普通にボールを投げていたけど、いつの間に能力を制御できるようになったの!?」
「あー、あれは沢村からドッジボールの練習に付き合ってほしいって言われて断り切れなくてさ。どうにか威力を抑えるために土日で練習してたんだ。何もしなかったら、沢村の命に関わるし」
「それで力を抑えられるようになったんだ」
「それが、力を思いっきり出した上でムリヤリ普通にしてるだけだから、能力を制御できてるわけじゃないんだ」
俺の場合は力を抑えるどころか、むしろ全力で必殺シュートを投げ、相手にボールが届く前にエネルギーを使い切ることで、威力を強引に落とす力技だ。
もしエネルギーを使い切る前に相手に当たれば大惨事になるわけだから能力を制御するという根本的な解決にはなっていない。
そう説明すると、三浦が「そうなんだ……」と少しガッカリした様子を見せる。
「話は分かったけど、全力を出すだけで、そんなにうまくいくの?」
「いや、全力を出せば俺のイメージ次第で性質が変わる必殺技になるんだけど、その分威力が凶悪になるから、思い通りにするまでに相当苦労したよ」
「イメージ次第で変わる必殺技……。吉村君の場合もイメージが大事なんだ」
「俺の場合も? 他に何かあったっけ」
「そんなの魔術に決まってるじゃない! 魔術っていうのはイメージしたことを実現させる術なんだから!」
あ、うっかり三浦のスイッチを入れてしまった。さらに早口になった三浦が解説する。
「他にも魔術に聖水を使う場合、その聖水を作る時もまずカバラ十字の祓いっていう儀式の場を浄化する儀礼をするの。そこで色々な動作をするんだけど、まずは聖光とその光に包まれる自分をきちんとイメージするのが大事で、それに聖水は信仰や祈りがあってこそ力を発揮するものだから、ただ手順を踏んで作るだけじゃダメで、過程ごとにしっかりイメージを込めるのが重要なの」
「な、なるほど、手順だけじゃなくってイメージが大事なのか……」
三浦の勢いに圧倒されながらも相槌を打つ。
考えてみれば、俺の必殺技もイメージが重視されるタイプで良かった。もしボールを投げようとするたびに複雑な身振りをする必要があるとかだったら、とても現実向けではなかっただろう。
「そうそう……。あ、そうなると吉村君も普通の強さでボールを投げるのに、結構労力を使ってるの?」
「距離が近くなれば負担は増えるけど、今日ぐらい離れていたら、そこまでじゃないな」
「ふーん。でも負担があるのは確かなんだよね。それなのに沢村君とドッジボールの練習をしてる時は凄く熱心じゃなかった? 私たちが帰った後も練習を続けてたみたいだし」
「シュートを普通の強さにするのに大分苦労したからなあ。沢村との練習をすぐに終わらせたら苦労した意味が無いっていうのもあるけど、一樹が俺の練習に付き合ったのが大きいかな」
「飯田君も練習に参加してたの?」
「まあ、セレスが目的ではあったんだけどな。……それでも俺が威力を落とすのに失敗したせいで何度も死にかけたのに、止めようとしなかったんだから本当に凄いよ。セレスの魔法で回復はできても痛いのは変わらないのに」
俺だって数えきれないほど自滅したけど、動けないくらいのダメージを負ったのは、セレスの防御魔法が無かった時に受けた2回だけ。後は多少痛い程度で済んでいる。
それに対して一樹は、失敗するたびに死にかけるほどのダメージを受けていたのだから、間違いなく俺よりも被害が大きかったはずだ。
「一樹がいたから守備をする時の注意点とかも分かったし、俺だけじゃできない実戦に近い練習ができたけど、そうじゃなかったら今日の内にボロを出してたと思う。だから、一樹との練習を無駄にしないためにも、球技大会が終わるまで沢村の練習にとことん付き合おうと思ってるんだ」
「そうなんだ。じゃあ球技大会で練習の成果が見れるのを期待してるね」
「まあ、どこまでできるかは分からないけど、やれるだけやってみるよ」
こうして三浦との通話が終わった。
沢村にもドッジボールで活躍しようと言ったわけだし、三浦からの期待も掛かっている。 ここまで来たなら球技大会を乗り切るだけじゃなくて、何か結果を残したい。
俺の目標は少しずつ変わり始めていた。




