第33話 天国と地獄
次の日の朝、俺とセレスが集合場所の駅に着くと、既に一樹が駅の改札口で俺達を待っていた。
「どうもおはようございまーす!!」
セレスの存在に気づいた一樹がブンブンとこちらに手を振ってくる。
……完全に浮かれているな、あれは。
「前にお会いした時も思ったんですけど、セレスさんって凄いオシャレですよね~」
裾がふわっと広がっていて襟元が少し開いた黒のブラウスと細身な青のデニムパンツを着ているセレスの格好を一樹が早速ほめたたえる。
「ありがとうございます。ですが、前の服も今の服もマサヤのお母様が買って下さったんですよ」
「へえー、そうなんですか」
「なんでも、この上着はカシュクールブラウスと呼ぶらしいですよ」
「……はあー、なるほどー」
一樹……お前、絶対にカシュクールブラウスがどんな服を指しているのか分かってないだろ。俺も知らないけどさ。
電車で移動している最中も、一樹はセレスにあれこれと話しかけている。 昨日と同じく、周りの男連中がセレスと会話している一樹に嫉妬の視線を向けているのだが、当の本人は全く気にもしていないようだった。
その図太さにちょっと感心したが、目的の駅に到着したのにも気づいていなかったから、セレスとの会話に浮かれていて周りの状況が見えなかっただけかもしれない。
× × ×
練習場所に到着すると、一樹が辺りを見渡すと「はあー」と声を上げる。
「結構歩いたけど、こんな所で練習してたのか」
「そりゃ、人目につきたくなかったからな」
「まあそうだよな。……にしても結構荒れてるな」
「そりゃ練習してる時に色々あったからな……」
土壁には走った時にぶつかってできた人型の穴があちこちにあるし、必殺シュートの余波で地面が荒れていて、おまけにクレーターまである始末。せめてこれ以上は被害を広げないようにしよう……。
昨日までの練習では流れ弾がセレスに当たらないようにするため、セレスにはシールドの外にいてもらった。
今となってはその心配も無くなったので、今日はセレスもシールドの中に入ってもらうつもりだ。というか、セレスがいないと心配でならないことが……。
「セレス、一樹を練習に参加させて本当に大丈夫?」
もちろんセレスが一樹にも防御魔法を掛けてはいるが、身体が頑丈になっている俺が防御魔法有りの状態でエネルギー光線を受けても相当痛いんだ。普通の身体でしかない一樹に当たれば、より被害が大きくなると当然予想がつく。
「ええ、防御魔法が効いていますし、仮に怪我を負っても即死さえしなければ私が回復魔法を掛けて完全に治しますので」
「じゃあ聞くけど、即死する可能性は本当に無いんだよな?」
「はい、私の見立てでは大丈夫なはずです」
何故だろう、防御魔法での実績がちゃんとあるのに、セレスの見立てが不安でならない。
「大丈夫だから心配すんなって! それよりもまずはどうするんだ?」
セレスに良いところを見せたいのか、危機感もなく楽観的な発言をする一樹を見て俺の不安が増す。
「最初は安全のためにできるだけ距離を取ってから練習して、問題なければ少しずつ近づいていこう。じゃあセレス、シールドを頼むよ。……できるだけ広めで」
いくら回復できるといっても、一樹に危険が及ぶのは極力避けたいから、俺が気を付けていくしかないか……。
× × ×
「なあ、いくら何でも間隔を開け過ぎじゃないのか?」
「エネルギー光線に当たると、ダメージがシャレにならないんだよ。だから最初は慎重に行きたいんだ」
現在、俺と一樹はお互いにシールドのはしっこに位置して、離れられる限界ギリギリの距離を取っている。
昨日はこれより短い距離でも普通の威力にできたのだが、いざ人に向けて投げるとなるとプレッシャーでどうしても及び腰になった。
「じゃ、じゃあ、いくぞ」
緊張しながらも全力でボールを投げると、平凡な勢いでボールが飛んでいき一樹が問題なくキャッチする。
よし、ひとまず上手くいったな。
俺は少し安心してホッと息をつく。
「……? 心配そうに言うから身構えてたけど、別にどうってことないじゃないか」
一樹が拍子抜けした様子で俺にボールを投げ返してくる。
「そう見えるように練習したからな。できるようになるまで本当に苦労したんだぜ」
とはいえ一樹が違和感を覚えないなら、それだけボールに余計なエネルギーが残ってないわけだし、それだけ普通のシュートに見えるってことだろう。
少し自信が付いたがまだ油断はできない。距離はそのままにして何度か同様にボールを投げてみる。
「なあ、いいかげん距離を詰めてもいいんじゃないか? これだけやって何ともないんだから、もう大丈夫だろ」
「確かにな。じゃあ、少し前に出るから」
一樹がもどかしそうにしているけど、安全には代えられない。ひとまず1メートルほど前進して様子を見る。
距離が縮んで少し不安になったが、シュートは無事に成功した。
「全然問題ないじゃねえか! 今度はもっと距離を詰めようぜ」
「ちょ、ちょっと待て。もう1回試してからにしてくれ」
一樹は体験してないから無理もないが、失敗した時が怖いんだよ!!
用心のために距離を縮めないでボールを投げたのだが――。
「こんな調子でやってたら日が暮れちまうだろ!!」
「一樹!?」
いきなり一樹がボールに向かって走り始めた!!
「ほら!! こうしても何とも……ぎゃあーーーー!!!!」
「か、一樹――――!!!!」
ボールを取ろうとした瞬間、ドゴォと鈍い音が上がり悲鳴と共に一樹が真上に弾き飛ばされた!!
「カ、カズキさーーん!!」
慌てたセレスが一樹の元へと走り出す。
え? ちょっと待て。セレスが集中を解いたら……。
「あーー!! シールドがーーーー!!!!」
セレスが集中を解いたことでシールドが消えてしまい、遮るものがなくなったせいで一樹が空高く打ち上げられていく。
一樹の姿が豆粒ほどの大きさでしか見えないくらいになったところで、落下し始めた。
お、おい。あの高さから地面にぶつかったら無事じゃ済まないんじゃないのか!?
「セ、セレス。何とか一樹を助ける方法は!? 例えば防御魔法を重ね掛けするとか」
「い、いえ、防御魔法は重ね掛けをしても持続時間が延びるだけなんです! ど、どうしたら……」
俺とセレスがオロオロしている間にも、一樹は勢いを増して落下し続けている。
こうなったら俺が受けとめる……でも野球のフライボールだってまともに捕れる自信が無いのにできるのか!?
そ、そうだ!!
「一樹!! こっちに来い!!」
叫びながら一樹を俺に引き寄せるように全力でイメージする。こうすれば地面にぶつかりはしないはず――。
地面まであと数メートルのところで一樹の軌道が急激に変わり、猛烈なスピードで俺に向かって来た。
「ぐえっ!!」
俺のみぞおちに一樹が頭から激突する形になり、勢い余って俺と一樹はそのまま地面を転がった。
いてて……これは地面にぶつかるよりも本当にマシになったんだろうか。
そうだ、肝心の一樹はどうした?
「一樹――!! しっかりしろ――――!!!!」
一樹は白目を向いたまま地面に倒れ込んでいた。




