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要らねえチート物語  作者: 汐乃タツヤ
第一章
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第1話 生き返りはしたけれど

 目が覚めると俺は仰向けに寝ていた。

 まぶしい光と真っ白な天井が視界に入ってくる。

 まぶしさに目を細めながら起き上がると、何やら驚く声が聞こえてきた。


「患者が起き上がりました!!」

「起き上がった!? 30分前に死亡が確認されたんだぞ!!」

 

 声がした方に向くと、医者と看護師が信じられない様子でこちらを見ている。


 状況が把握しきれず、辺りをきょろきょろと見渡してみると、点滴の器具やベッドなどが置いてあった。

 少し考えて、俺は車にはねられた後、病院に運ばれたのだと気づく。

 

 よかった。間違って異世界に行ったわけじゃなかったんだな。

 ひとまず元の世界に戻って来れたと分かり、ほっとする。

 

「嘘!? 身体の傷が全部消えてる!?」

「こ、こんなことは医学的にあり得ない……。だが確かに傷が見当たらん……」

 

 医者と看護師が確かめる様に俺の身体をあちこち調べているが、セレスが言っていた通り、本当に怪我一つ無いようだった。

 

 それなら最後にセレスが「間違えた!!」と叫んだのは一体何だったんだろう。

 これといった変化も感じられず、見当もつかない。

 

聖也まさや!!」 


 聞き慣れた声が俺の名前を叫ぶと同時に、母さんが病室に駆け込んできた。


「あ、母さん。来てくれたんだ」

聖也まさや……?」


 俺を見た母さんの表情が固まり、その場に立ち尽くす。

 

「母さん?」

「え……? 母さん、あんたが車にはねられて死んだって……警察から連絡を受けて来たんだけど……」

「え!? そうなの?」

「そうよ!! ……でも、あんたピンピンしてるし……それなのに病室にいるし……な、何がどうなってるの……?」

 

 まずい。俺が死んだことは、もう母さんにまで伝わっていたのか。

 女神に生き返らせてもらったと言って、信じてもらえるだろうか。いや、絶対に信じてもらえない。じゃあ、なんて説明しよう。


「えっと……確かに死んだけど……何か生き返った」


 セレスのことを伏せたら説明のしようがなかった。


× × ×


「本当に……息子は1度死んだ後に生き返ったのですね……」

「はい。我々も信じられないのですが、実際に息子さんの外傷と死亡を確認しました。ですが、こうして蘇生した上に損傷も無くなっています。医学の常識では到底考えられませんが、事実なのです」

 

 しばらくのやり取りの末に、ようやく母さんが納得する。

 

 結局、俺の発言は無視されて、母さんは実際に俺を診ていた医者と看護師に、何があったんですかと問い詰めた。

「原因は不明ですが、息子さんは確かに一旦死亡した後に蘇生しました」と聞かされても母さんは納得しなかったが、俺が死んでいた状態を撮影した写真や、心電図の記録を確認したことで、ようやく話を信じ始めたのだ。


「ねえ聖也まさや、身体で痛い所はないの?」

「大丈夫だよ。どこも痛くないし、身体も普通に動くし」


 母さんが俺と写真を何度も見比べて、たずねてくる。


 俺が死んだ時、車にぶつかった身体の部分がくぼんでいたりと、かなりのグロさだったらしい。

 だから母さんは、俺が元の状態で生き返っても、何か悪影響がないかと心配していた。


 実際、俺は平気なんだけど、だからってそう簡単にはいかないんだな。

 内心でため息をついていると、母さんが何かに気づいたのか、あっと声を出した。

 

「ところで聖也まさや、あんたどうして車にはねられたの? もしかしてひき逃げされたの!?」

「ああ!! 忘れてた!!」

 

 そうだよ!! 俺を車ではねた罪で危機に陥っている人がいたじゃないか!!

 

 その後は、女の子を助けようと道路に飛び出したせいで、無関係な車にはねられるまでの一部始終を話し、運転者はむしろ巻き込まれた側だから、助けるのを手伝ってくれと母さんに頼み込んだ。

 そして、報せを受けて病院に来た父さんと一緒に、警察へ向かっていった。


× × ×


「はあ……昨日は本当に大変だった」


 車ではねられた次の日の朝。

 俺はいつも通りに登校していた。


 警察に着いたら、俺を車ではねてしまった人を必死に弁護し、そのおかげか相手におとがめが無くて済んだ。

 

 だけど、被害者側の俺達が相手をかばったせいで警察に不審がられ、4時間ほど聞き取り調査や本人確認をさせられた。思った以上に、生き返ったからめでたしって訳にはいかないもんだ。


 ……そういえば、セレスは『勇敢な心を持った人間を導く』って言ってたけど、結局は俺を生き返らせるだけで終わったよな。ありがたい話だけど、異世界行き候補の人間をあっさり生き返らせて大丈夫だったんだろうか。

 考えてみるが、今となっては分からない。


「でもこれで、いつもの生活に戻ったんだ……」

 

 そうつぶやきながら俺は教室のドアを開けた。


「えっ、吉村!?」


 クラスの皆が驚愕(きょうがく)の眼差しで俺を見ている。

 何が起きたかと思えば、なんと俺の机の上に花束が置かれてあった。


 ……俺が死んだ話は思った以上に広がっていたらしい。


× × ×


「何だ、車にはねられたんじゃねーのかよ?」 

「違う違う、だって俺に怪我1つないだろ?」

「確かに……、そうだよなあ」


 生き返ったと言えばややこしくなるから、車にはねられた話が間違いということにしておいた。疑問に思われても、怪我は全部癒えているから、みんなは納得するしかなかった。


 これで余計な追及はされない……と思っていたら。


「フフッ、車にはねられた話がデマなんて、真実を隠すためのカモフラージュなんじゃない?」

「!?」


 図星を突かれて振り返ってみると、同じクラスの三浦玲奈みうられいなが腕を組みして立っている。


 三浦は切れ長な目と(つや)やかな黒髪が特徴的で、シュッとした小顔の美人だ。ただ、黙って立っていれば校内屈指の美少女なのに、見えない脅威から身を守るためと言って、怪しい模様が描かれた眼帯を付けて登校する。不浄な存在に出会った時に備えて、瓶詰にした黒色の塩を鞄に常備するといった、数々の奇行でクラスメイトをドン引きさせる存在だ。


「本当は人知を超えた力によって蘇った……とか?」


 三浦が自信に満ちた表情で真っすぐに俺を見る。

 まさか俺が生き返ったことに気づいていたのか!?


「いやいや、ドヤ顔でファンタジーなこと言ってるけど、三浦だってさっきまで聖也まさやが死んだってショックを受けてただろ」


 俺の友人である飯田一樹いいだかずきが三浦にツッコミを入れた。


「そ、そうだけど……これだけ吉村君が死んだって騒ぎになったのに、それが間違いだったなんて……どう考えてもおかしくない?」


 三浦が一樹(かずき)にも疑問を向ける中、俺は自分の心配が全くの的外れだったと内心で脱力していた。


「いやいや、死んだ人間が生き返ったって考える方がよっぽどおかしいだろ。漫画じゃねえんだから」


 一樹かずきは呆れ顔で言った。 

 さらに言えば、三浦は厨二病だけでなくオカルト系も入っていて、恋愛に悩んでいる女子におまじないと称し、手のひらサイズの人間を模した奇妙な手作り人形を渡して、周囲を怯えさせたこともある。


 そんな一樹かずきと三浦のやり取りもチャイムが鳴ったことで中断された。


 頼むからこれ以上厄介事を増やさないでくれ。

 俺はそう願ったが、これはほんの序章に過ぎなかった。

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