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要らねえチート物語  作者: 汐乃タツヤ
第二章
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第26話 転校生はやって来ない

 セレスを我が家に迎え入れた翌日。

 今朝の目覚めは最悪だった。

 

 モンスターを倒してセレスのレベルを上げようなんて考えたせいだろうか。

 俺が召喚した化け物を倒した時に、実はレベルアップしていた。という夢を見たからだ。

 その内容がひどくて、ただでさえ制御できない能力なのに、必殺技の威力だけがより凶悪になるだけでなく、さらにお手軽に撃てるようになったというシロモノ。

 俺が思いっきりくしゃみをしただけで大爆発を引き起こし、辺り一面を灰燼(かいじん)に帰した。


 とうとう取り返しのつかない大量殺人をしてしまったと自分自身の悲鳴で目を覚まし、夢だと気づいた時は心の底からホッとしたが、化け物を倒してから必殺技を出したわけでもないと気づく。

 

 ……そのため、あの大量殺人がもしかしたら正夢になるのではという懸念がどうしてもぬぐい切れなかった。


「おはよー……」

 

 夢見の悪さと先行きの不安から、テンションが下がり切った状態で階段を下りてリビングに入ると、親だけでなくセレスも既に起きていた。

 

聖也(まさや)、朝からその元気の無い挨拶は何なの。もっとシャキッとしなさいよ」

「勘弁してくれない。嫌な夢を見たから気が重いんだ……」

「だからってセレスちゃんもいるんだし、そんなに暗くなってるんじゃないわよ」


 母さんは眉をひそめて俺を(とが)めてくるが、そう簡単に気分は変わらない。

 朝っぱらから憂鬱(ゆううつ)な俺とは対照的に、母さんは鼻歌を歌っていて妙に機嫌がいい。


「……母さんは何か良いことでもあったの?」

「ええ、今日はセレスちゃんと服を買って、美味しいランチを食べに行くの!」


 服? 改めてセレスを見てみると、昨日会った時に着ていた白いドレスの様な服ではなく、母さんの普段着である水色のシャツと丈が長くて生地が分厚い黒のスカートを着ていた。


「申し訳ありません。家に住まわせて頂くだけでなく、服まで用意して下さるなんて……」

「気にしなくていいのよ。私も娘ができたみたいで嬉しいんだから」

 

 恐縮するセレスに、母さんがあっけらかんとしている。


「こうして若い娘と一緒に出かけられるなんて楽しみだわ。ウチの男連中はロクに買い物に付き合ってくれないからね」


 思わぬ非難に、俺と父さんが母さんから目をそらす。


 母さんが服を選んでいる間はやることが無いし、どっちの服が似合うかって聞かれても、どう答えればいいか分からないから困るんだよ。適当な返答をしたら怒られるし。


 そんなことを考えていると、ポケットのスマホが震えてRAINが来たのを知らせる。画面を見ると一樹(かずき)からだった。


『今日いつ頃家を出る?』

『8時に家を出るつもりだけど』

『分かった。学校に着く前に合流しようぜ』

 

 俺が返事を書き込んだら、間髪入れずに返信が来た。

 一緒に登校しようと誘ってくるなんて、一樹(かずき)にしては珍しい。

 俺は首をひねりながらスマホをしまった。


× × ×


 学校近くになり、比良塚(ひらつか)高校の制服を着た男女が増えてくる。

 歩いていると、後ろから俺を呼ぶ声がした。


聖也(まさや)!!」


 振り向くと、一樹(かずき)が何故か全力疾走で駆け寄って来て、俺に追い付いてきた時には息を切らしていた。


「……なあ聖也(まさや)、セレスさんはどうした……?」

「どうしたって……セレスは家にいるよ。後で母さんが買い物に連れて行くみたいだけどな」

「何で!? こういう時は魔法を駆使して上手いこと転校生としてやって来るのがお約束ってもんだろ!!」

「……」


 一樹(かずき)が一緒に登校しようと誘った意図を察し、俺は少し呆れながら一樹(かずき)を見た。


 セレスは転校生として潜り込むどころか、まともな生活すらできずに路上生活を送っていたわけだが、一樹(かずき)はそんな事情なんて知らないからな。

 セレスと一緒に登校できるものと夢を見ていたわけか。


「……セレスはそういう器用な芸当ができないんだ」

「マジで!? なんでだよ!! これから学校で毎日セレスさんの姿を拝めると……すっげえ楽しみにしてたのに……」

 

 セレスが学校に来ないと知った一樹(かずき)がこの世の終わりみたいな顔をして明らかに落胆する。

 そんなリアクションをされては、セレスの実態を教える気にはなれなかった。

 このまま夢を見させておこう……。


× × ×

 

 教室に入っても、一樹(かずき)は未だに立ち直っていなかった。

 そんな様子を見た三浦が俺に尋ねてくる。


「ねえ、飯田君が抜け殻みたいになっているんだけど、何かあったの?」

「セレスが魔法を使って、転校生としてやって来るものだと期待していたのに、そのアテが外れたからショックを受けてるんだよ」

「ああ……うん、そう……」


 返事をした時の三浦は何とも言えない表情をしていた。


 仮に、俺が能力で問題を起こした時の対処を考えるなら、一樹(かずき)の言う通りセレスが転校生として潜り込むのが正しくて、それができない方が本来おかしいはずだ。

 にも関わらず、一樹(かずき)を見ていると、その期待が痛々しく感じられるのは何故だろうか。


「そういえば、三浦は? 昨日、俺達の世界じゃ人間は魔力が非常に乏しいから、セレスと同じ方法では魔法が使えないって聞いてショックを受けてたけど」


 一樹(かずき)とは対照的に、三浦は普段通りだ。魔法に執着している三浦のことだからもっと引きずっているかとも思ったが、そんな様子には見えない。


「確かに最初はショックだったけど、人間が研究してきた魔術を完全否定されたわけじゃないからね。だったら今までと同じ通りに私は自分の道を行くまでのことよ」

「そ、そうか……」

 

 一切のブレを見せない三浦に俺がそれ以上の言葉が出せずにいると 始業のチャイムが鳴る。


 結局、一樹(かずき)は今日1日を死んだ目のまま過ごしていた。

 

× × ×


「ただいま~」


 学校から帰って玄関で靴を脱いでいると、珍しく母さんが俺を出迎えてきた。


「ちょうどよかったわ。聖也(まさや)、ちょっとリビングに来て。早く、早く」


 何故か母さんが手招きをしつつ俺を急かす。


「へ? 何で?」

「いいから!!」

 

 俺の疑問に答えないまま、母さんは強引にリビングへ引っ張っていく。

 

「ほら、セレスちゃんを見てみなさい。可愛いでしょう!!」

「え? お、おお……」


 言われるままにセレスを見てみると、思わず声が漏れた。

 明るい黄緑色のブラウスにふんわりとしたベージュ色のスカート。

 長い金髪も相まってセレスは今朝と全く違う、雰囲気まで明るいおしゃれ女子に見える。

 そこに母さんが「このスカートはフレアスカートって言ってね……」とか色々説明をしてくる。


 俺としては服の話よりも、でかい買い物袋が3つも置いてある方が気になるんですが。

 いくら何でも服を買い過ぎじゃないか?


「セレスちゃんはスカートもカワイイけど、足が長いから、パンツスタイルもカッコ良かったのよ~。あ、それでこのスキニージーンズを買ったんだけど……」


 母さんが買い物袋から次々と服を取り出してはアレコレとまくし立てる。


「なあ、もしかして母さんはずっとこんな調子だったわけ?」

「はい……。様々な服の試着を薦めて下さって、ずっと楽しそうなものですから……」

 

 セレスが少し疲れた声を出している。

 これ絶対に着せ替え人形よろしく色んな服を散々着せられたな。

 

 正直、俺が学校に行っている間に買い物を済ませてくれて良かった。

 こんなテンションに俺は絶対ついていけない。

 そう考えていると、いつの間にか母さんの手にデジカメが握られていた。

 

「セレスちゃん、せっかくだし写真を撮らせて頂戴ね」


 そう言うと、本人の同意を得る前に様々な角度でセレスを撮影していく。


「え、ええと、その……」

「……悪い。もうしばらく母さんにつきあってくれ」


 戸惑ったセレスが、助けを求めてこっちを見てくるが、今の母さんを止める術など俺には無かった。


× × ×


 自分の部屋に入って、制服から私服に着替え終わった俺はベッドで仰向けになる。

 

 母さんによるセレスの撮影会は留まることを知らなかった。

 写真を撮り終えたと思ったら、今度は違う服を持ち出して着替えを要求。

 その段階で、母さんから「セレスちゃんが着替えるからあんたはどっかに行ってなさい」と言われて、俺はリビングから追い出されていた。


「ふー」


 息を吐きつつ、ボンヤリと現状を考える。


 昨日とは打って変わって、母さんは俺の能力なんか忘れているんじゃないかと思える程にはしゃいでいる。

 のんきだなと思わなくはないが、いつ能力を外せるかなんて分からないのだから、深刻に心配されるよりもよっぽど気が楽だ。

 父さんも、俺が家の中で能力をポンポン暴発させているわけではないと知ってか、多少は安心した感がある

 

 後は、俺が大人しく過ごしてさえいれば、ひとまずは新しい問題は起きないだろう。

 

 ……そう考えていた時期が俺にもありました。

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