第23話 はたから見れば
「あの、魔法を使って姿を消すとか、生徒に変装して学校に潜り込んだりはできないんですか?」
三浦の質問にセレスが力なく首を横に振る。
そうだよな。そんな器用な真似ができるなら、飢餓状態で路上生活なんてやっていたはずがない。
俺が学校にいる間、セレスは事実上何もできないって考えた方がいいか……。
内心で落胆していると、玄関のチャイムが鳴る音が聞こえてくる。
何か宅配便でも送られてきたのかと思っていると、母さんが俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「聖也ー、一樹君が来たわよー」
一樹が?
RAINに特に書き込みもされてないし、何の用だろう。
「じゃあ、ちょっと下に降りてくる」
階段を下りて玄関に行くと、一樹と母さんが軽く話をしていた。
「おう一樹、いきなりどうした?」
「ああ、さっきやったカードゲームのことなんだけどな、お前が帰った後に改めてカードを確認したら、結構ダブってるのを見つけたんでお前にやろうと思ったんだよ。カードの種類が多いと、それだけ色々なデッキを作れて楽しいからな」
そう言いながら一樹が背負ってきたリュックをポンポンと叩く。
「それでわざわざ持ってきてくれたのか。悪いな」
「いいってことよ。ところで、見覚えのない靴があるけど他に誰か来てるのか?」
一樹が三浦とセレスの靴を指さして尋ねると、俺が答えるよりも早く、母さんが話し始めた。
「ああ、それならクラスメイトの三浦さんとウチにホームステイに来た娘がいるのよ」
「へ? 三浦がどうしてここに? それにホームステイって?」
どこか楽しそうな母さんとは対照的に、一樹は状況を飲み込めずに困惑している。
「母さん、一樹にもセレスのことは話してあったから、ホームステイってごまかさなくても大丈夫だよ」
「セレス?」
セレスの単語を聞いた一樹が、いきなり腕を絡めてきて俺を引き寄せる。それから少し移動し、会話を母さんに聞こえないようにするためか小声で話し始めた。
「セレスって、さっきお前が話してた女神のことだよな。どうして家にいるんだ?」
「それが、俺の能力で起きる騒動を抑えるためにこっちの世界に来たけど、元の世界から離れたせいで、力が弱まって帰れなくなったんだ。それで母さんにセレスが俺を生き返らせたのと、決まった家が無いのを説明して、家に置いてもらうことにしたんだよ。恩もあるわけだし」
「事情は分かったけど、肝心の能力は何とかなったのか?」
「いや……それが全然。それと、能力の話はまだ母さんにしてないんだ。……やらかしの規模がでかすぎるから言うに言えなくて」
俺を生き返らせたセレスに、母さんが凄く感謝していた手前、その俺が首都上空で大爆発を起こして世界中を騒がせた。と言う度胸は俺には無かった。
「どうしたの? 2人でコソコソと」
「いやー、聖也から話には聞いてたんですけど、セレスってどんな感じの人なのかなーと」
母さんの問いに一樹が適当にごまかすと、母さんが何やら納得のいった表情をする。
「それならセレスちゃんに挨拶していったらどう? 当分ウチに住むから、これから会うこともあると思うし」
「そっすか、じゃあ挨拶していきまーす」
成り行きで一樹もセレスに会うことになった。
× × ×
「しかしセレスがお前を生き返らせたって話をおばさんが信じたのもそうだけど、よく家に住ませる許可なんてもらえたな」
「母さんが腰痛だったから、実際に回復魔法を掛けてもらったんだよ。それと、俺が車にはねられて死んで、その後に生き返ったのも母さんは知ってたからな。だから思ったよりも話はスムーズに進んだ」
「そうだったのか。……ところで三浦がいるのは何でなんだ?」
「……セレスがウチに来て実際に回復魔法を掛けたって話をしたら、こっちに来るって聞かなくてな」
「そりゃ、厨二病でオカルト好きな三浦にそんな話をしたらそうなるだろうよ」
一樹と話をしながら階段を上っていき、俺の部屋の前に着く。
セレスと三浦がいるので一応ノックしてからドアを開けた。
「マサヤ、そちらの方は?」
「俺の友達で名前は飯田一樹。一樹にも俺の能力とセレスの話をしてたから紹介しておこうと思ったんだ。……って、一樹、どうした?」
てっきり一樹が挨拶をするかと思ったが、当の本人はセレスを見たまま固まって動かない。
どうしたのかと思い一樹の肩を軽く揺さぶっていたら、いきなり俺の両肩をつかみだした。
「お、おい女神ってどんなものかと思ってたけど、セレスさんすっげえ美人じゃねえか……」
「あ、ああ。そうだな……」
俺に顔を近づけて話しかけてくる一樹の勢いに押されながら返事をする。
というか、セレスに対する呼び方が、さん付けにいきなり変わってるぞ。
そういえば、俺も初めてセレスを見た時は凄いドキドキしてたな。
その後のポンコツぶりやら、余計な能力を渡されたせいで、そんな感情はどこかにいってしまったが。
「……おばさんがホームステイって言ってたけど、つまりお前とセレスさんがこの家で一緒に暮らすってことだよなあ?」
「そ、そりゃ、そうなるけど……」
一樹の声に明らかな怒りがこもり、俺の肩をつかむ力がどんどん強くなっていく。
「俺はな、お前が能力のせいで散々苦労していて、ゲームもロクにできない悲惨な状態だと思ったから、わざわざカードを持ってきたんだ。それなのに、あんな美人と1つ屋根の下で生活できるなんて、悲惨どころかリア充そのものじゃねえか……」
「い、言いたいことは分かるけど、落ち着けって、な?」
一樹が憤怒の表情を浮かべながら、俺の首に手を掛ける。
怒るのも仕方がないかもしれないが、だからって首を絞めようとするのはやめてくれ。
「あ、あの、カズキさん?」
セレスが戸惑った声を上げると、一樹が俺から手を放し、次の瞬間にはセレスの方へ向き直っていた。
「あ、始めまして!! 俺、飯田一樹って言います!! セレスさんの事情は聖也から聞きました。俺に出来ることがありましたら協力しますので、どうかよろしくお願いします!!」
セレスを前にした一樹が分かりやす過ぎるくらいに舞い上がっている。
それにしても、セレスに協力するとか軽はずみに言っちまって本当にいいのか。
「あ、はい。ありがとうございます。ご迷惑をお掛けするかもしれませんが、こちらこそよろしくお願いしますね」
「はい!!」
セレスがそう答えて微笑むと、一樹が力強く返事をする。
きっと一樹の視点では、セレスが人当たりの良い超美人に見えているんだろうな……。
それは間違いじゃないが、もの凄いポンコツだぞ。その女神は。




