表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
要らねえチート物語  作者: 汐乃タツヤ
プロローグ
2/50

ポンコツ新米女神セレス02

 俺は昨日クリアしたRPGの2周目をプレイするため、今日の授業が終わるとすぐに学校を飛び出していた。

 持っているスマホならいつでもゲームはできるけど、俺は断然据え置きゲーム派だ。


 やっぱり帰宅部は気楽でいいなと思いながら、横断歩道の信号が青に変わるのを待っていた時だった。

 道路を挟んだ横断歩道の向かい側に、比良塚(ひらつか)高校とは違う学校の制服を着た女の子が、(うつ)ろな表情でフラフラと歩いているのに気がつく。

 

 女の子のただならない様子に、一体何があったんだろうかと思っていると――。

 

 信号が赤のままで、1台の車が横断歩道へと迫っている。

 それにも関わらず、女の子は周りの状況が見えてないのか、そのまま横断歩道を渡りだした。


「危ない!! 車が来てる!!」


 気がつくと俺は車の存在を叫びながら、女の子を突き飛ばして助けようと、反射的に道路へ飛び出していた。

 平凡な俺が漫画やアニメの主人公の様な行動を取った事に自分でも驚きながら。

 

 そして、身体を激しい衝撃と痛みが襲い、俺はそのまま意識を失った……。


「そうか……俺、車にはねられて死んだのか…」

 

 俺の呟きに、セレスが無言で頷いた。

 ようやく自分が死んだと実感が()いてくる。

 

「あの女の子は失恋をしたばかりで呆然自失(ぼうぜんじしつ)になり、周りが見えていなかったんです。あなたがあの時必死に呼びかけたおかげで何とか助かりました。そうで無ければ、あの女の子は車に()かれて命を落としていたでしょう」

 

 セレスの言葉を聞いて、自分が死んだにも関わらず、ほっとした気持ちになった。

 そうか、あの女の子は助かったのか。俺が必死に呼びかけたおかげで……。

 

 ん? 必死に呼びかけたおかげで?

 俺は女の子を突き飛ばして助けようと、道路へ飛び出したんだぞ?

 

「あの、俺が女の子を突き飛ばして車から助けたんじゃなかったんですか?」

 

 俺が疑問を口にすると、セレスが気まずそうな表情を浮かべた。

 

「確かにあなたは道路へ飛び出しました。ですが、女の子のいる所までは届かなかったのです……。女の子が助かったのは、あなたの呼びかけで車の存在に気づき、間一髪(かんいっぱつ)の所で車を避けたからでした」

「え、ちょっと待って下さい。じゃあ俺はどうして死んだんですか? 車にはねられた感覚は間違いなくあったんですけど」

「……道路に飛び出した時に、あなたの右側から別の車が走っていたんです。あなたは女の子に届く前に、やって来た車にはねられてそのまま……」


 そう言うと、セレスは俺を直視できないとばかりに顔を横に背けた。

 

 ということは……。

 俺は呼びかけさえすれば問題なく女の子を助けられたのに、道路へ飛び出したせいで無駄に死んだのか?

 

 記憶を改めて辿(たど)ったが、確かに女の子を突き飛ばした記憶はどこにも無かった。

 状況を理解した瞬間、俺は脱力して膝から崩れ落ちる。

 

 必死になって女の子を助け、その代わりに自分が死んだ。

 しかし、実態が余りにも間抜け過ぎる。

 

「あ、あなたの行動で女の子の命が助かったのは事実ですから、そんなに落ち込まないで下さい……」

 

 落ち込む俺を、セレスが必死に(なぐさ)め、カンペを持っていた天使が(あわ)れむように俺の肩に手を置くが、そう簡単に気持ちが持ち直せるはずがない。

 

「こんな間抜けな形で死んでどうするんだよ……」

 

 そうつぶやいた所で、肝心なことに気が付いた。

 

「俺はこれからどうなるんですか?」

「ええ、今からお伝えします」

 

 セレスが改めて俺の目を見る。それに合わせて天使も俺の(そば)から離れた。

 

「ヨシムラマサヤ、これからあなたを……」


 ──えっ、まさかこれって異世界に転生するっていう、黄金パターン?


「元の世界に蘇生させます」

「生き返れるんですか!? 異世界へ転生するんじゃなくて!?」

「ええ、私は元々この世界で死んだ勇敢な人間を異世界に転生させる役割を負っているのですが、今回は……その、あなたを異世界へ転生させるには問題がありまして」

 

 そう言うと、セレスがまた俺から視線をそらした。


「……俺が異世界に転生すると何か問題があるんですか?」


 別に異世界に転生したいわけじゃないが、問題があると言われたら気になってしまう。

 セレスの反応からして、何か嫌な予感がするけど。


「はい……。このまま異世界に転生させますと、あなたを車で()いてしまった罪無き方が犯罪者となってしまいますので……」

「あっ」


 そういえばそうだった。

 俺が女の子を助けようと道路に飛び出したせいで、無関係だった人がこの騒動に巻き込まれたんだ。


「あなたを()いた方は、とてもかわいらしい奥様と生まれたばかりの子供がいる男性でした。家族のためにこれからいっそう仕事に励もうと張り切っていたのですが、その矢先に……」

「嫌だ!! それ以上聞きたくない!!」


 女の子を助けるどころか、罪のない家庭を崩壊させる事態を招いた事実に俺は悶絶(もんぜつ)する。

 

「大丈夫。私があなたを怪我一つ無い状態で蘇生させますから、これで丸く収まりますよ」

「ありがとうございます……本当に、ご迷惑をお掛けします……」

 

 俺は申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、力なく返事をした。


「それでは……今からあなたを蘇生させますね」

 

 セレスが両腕を広げると、周辺に黄金に輝く光が現れる。光の輝きはだんだん強くなりセレスが両腕を天に掲げると、光はセレスから離れて俺を包み込んだ。

 

 ああ、これで生き返れるのか。生き返ったら、何から始めればいいんだろう……。

俺がぼんやり考えていると、目の前の光景が段々白く染まっていく……。

 

 そして……。

 

「あっ!? 間違えた!!」


 セレスの口からとんでもない発言が聞こえてきた。

 

「間違えたって何をだああぁぁ!!!!」

 

 ちょっと待て!! 間違いで俺は異世界行きになるのか!?

 セレスの返答が聞けないまま、俺は意識が遠のいていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ