あるいはプロローグ
窮屈な世界。
単調な日々のサイクル。
コツコツコツ。
カチャカチャ。
近付いてきた足音と、錠を開ける金属音が、ボクの一日の始まりを告げる。
一体どうしてこんな所にいるのだろう。
少し前はもっとマシな生活をしていた筈なのに。
もっと身軽に世界を駆けていた、そんな気がする。
「おい、さっさと立て……死んでないだろうな?」
「息はあります。躾が必要ですね」
「やめろ。監獄長から警告されているだろう。こいつは規格外だ。敵に回したらどんな報復があるかわかったもんじゃない」
「とは言いますが、こんなボロ雑巾みたいな子供に、何が出来るのでしょうか?」
「お前は目に見えるものだけで他者を判断するのをやめた方がいい」
何を言ってるんだ。
敵だとか味方だとか、そんな無駄なことに拘っているのか?
そんな分類をした所で、邪魔なものを排除するという当然の行動理念は変わるわけないだろう。
お前こそ目に見えないものを信じる愚かさを捨てた方が良い。
「ほら、歩け。歩けば食料にたどり着く」
仕方がない。
生きる為の選択肢が一つしかないなら、それを選ぶ他ない。
いつかは別の選択肢を創るつもりだ。
だけど今は、力がない。
何も、出来ない。
前は、違った。
何でも出来た。
全てが自分次第で、自由だった。
自由?
本当にそうだったろうか?
何かに負けた。
負けるということは、敵わないということ。
勝てない敵に対して、自由ではいられない。
でも、割といい所まで行ってた気がする。
少なくとも、こんな狭い世界よりは、マシな日々を送っていた筈。
――本当にそうだったろうか?
誰の声?
どうしてそんな疑問を投げつける?
違ったのか?
でも、記憶にないのだから、仕方がないだろう。どちらでも良い事だ。
――そうやって目を背けるのか?
覚えていない事をずっと考えていたってどうしようもないだろう。躰が重いんだ。余計なエネルギィを使わせないでくれ。
――お前なら取り戻せる。
何を取り戻すって言うんだ。
記憶か? 力か?
――その先で本当に求めていたものが手に入る。
ボクが求めていたもの。
生の中で無限に創れる選択肢。
他者によって判断される正しさではなく、自らの証明によって勝ち取る道筋。
そこには正解も不正解もなく、ただ理に適っていればいい。
他者の苦しみも不幸もわからない。
けど、構わない。
そんな事はボクが選択する未来について、なんの影響も及ぼさない。
それこそが、自由だ。
どうして自分の為にそこまで出来るの?
いつだったか、誰かに聞かれた気がする。
そんな事言われても、何故生きているのかって質問と同じくらいくだらない質問だなって思うよ。
でも、確かに。ボクはどこに向かっているのかな。
自分次第でどこへでも行ける自由が欲しい。
誰からも咎められる事なく。
どんな障害も自らの手で斬り捨てる。
果たして、その先に何が待っているのだろうか。
考えてもしょうがないこと。
だけど考えずにはいられないこと。
――雑念を捨て、求めよ。
そうだ、無駄な思考にエネルギィを消費するなんてバカげていたな。
――黒い刃は深淵を切り裂き未来を創る。
ならば利用しよう。
この不自由な牢獄で死にゆくなんてつまらない。
ボクは自分の手で未来を創る。
ここを出るんだ。
「……っ!? 今こいつの気配が変わらなかったか!?」
「え? そうですか? そんなことより、こいつ何を見てるんですかね。ほら、こっちだ。さっさと来い」
こんな奴らの指示ではなく、自らの足で歩くんだ。
その歩みはどこへ向かうのか?
わからない。けど、進むんだ。
その先に何が待っているのか?
どうでもいい。何があっても取るに足らない。
今はとにかく、ここから出るんだ。
出るためにはどうしよう?
刀を持って行こう。
どこにあるだろうか?
わからない。けど、それが大事なものだった気がする。
ボクは何かを大事にするような奴だったろうか?
わからない。けど、武器は必要だろう。
そもそもここは何処なのだろう?
わからない。誰かに聞いた覚えのある場所だけど、興味が無いから忘れてしまった。
自分は何のために生かされてるのだろうか?
わからない。毎日生命力を吸われてる気がする。
毎日って正しい時間か?
わからない。
ボクは何日間ここで過ごした?
わからない。
ボクはあとどれくらい生きていられる?
わからない。
なにもわからない。
でも、ここを出るんだ。
ここを出たら、どこに行こう?
わからないけど、まずはここを出て、
そして、
そしたら、
その後は……
後書き
最後までお付き合いくださった皆様、誠にありがとうございました。
続きそうな終わり方をしていますが、本作品はこれにて完結となります。
また違う作品を執筆する予定なので、そっちにもお付き合いいただけたら嬉しく思います。
あ、因みに作者はサイのようなサイコパスではありませんので、感想等いただけたら素直に喜びます。
それではまたお会いしましょう




