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壊れる世界の歩き方  作者: 木下美月
二章 暴かれてゆく

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しがらみ

 

 サイとクラリスが南小学校を去った後も、水谷零士は暫くその場から動けなかった。


(俺は何故動かなかった。何故止めなかった。攻撃的な避難民を、去って行く二人を、俺は何もせずに傍観していた)


 あの場でどうするのが正しかったのか。

 サイの様にクラリスを庇うべきだったか。

 しかしクラリスのせいで死んだ者達は納得するだろうか。

 クラリスのせい?

 魔物が食べられることなんて誰も知らなかったのに、クラリスの言葉を鵜呑みにした俺達にも責任はあるだろう。

 そもそも俺は何故皆の意思を尊重している?

 勇者だから?

 勇者だから皆が納得する道へ進まなければならないのか?

 それって民達の奴隷ってことか?

 俺の意思はなんだ?

 俺が守りたいのは誰だ?

 俺はどうしたらいい?


「叶子……」


 知らず知らず呟いていた零士の顔を、隣に来た伶奈が覗き込んでいた。


「先生。いい加減不合理なヒーローごっこは辞めましょ? あんな奴ら生かしておいても害にしかならないもん」


 伶奈は言いながらステータスを持たない避難民を指差す。

「なっ……なんてこと言うんだ、ガキ!」


 吠える大人を冷めた目で見下した後――さっきのサイと似てるな、と零士は思う――伶奈はサイが去って行った方向を見つめた。


「食料は消費するし、私達の気分をも害する。こんな愚図共の為に、先生は強大な戦力を二人も失ったのよ。バカらしいでしょ。もう付き合いきれないわ」

 歩き出そうとする伶奈を、零士は慌てて呼び止める。「ど、どこに行くんだ」


「決まってるでしょ。サイくんの所よ。自分のすべき事を自分で決定していて、それを実行する手際は合理的そのもの。頭も回るし力も強いし、彼の方がよっぽど勇者だわ」


 伶奈の言葉は零士にとって鈍器の様なもので、それで頭を殴られた零士は何も言い返せなかった。

 彼女の言う通りだ。

 サイは自分の正義を持ってる。

 サイは誰が批判しようと自分の道を行く。

 サイは合理的で、目的の為に手段は厭わない。


 あれ?

 サイは……幼少の頃から変わってないぞ?


 零士の全身に悪寒が走った。

 今までは彼の正義が誰も傷付けなかったからよかったけど、もしもあいつの目指すものに対立する人がいたら、その人は、無事でいられるだろうか。

 そうだ、さっきだって避難民が殺されそうだった。

 あれが冗談のレベルか?

 あの場で恐怖していない人間などいなかった。

 俺が止めなかったら、あいつは刀を振り切ったんじゃないか?

 そもそもあの刀も、あの黒い魔法も、あいつの力について俺達は何も知らなかった。

 隠していたのか?

 俺は過去に何度も迷った末、最終的にサイを安全だと思い込んだ。

 だが、それはやはり勘違いだった。

 法の強制力が無くなった現在を精神病質者(サイコパス)が生きるなんて、鎖を解かれた獣が街を歩く様なもんだ。


 未だ自分のすべきことを迷う零士だったが、サイが明らかな悪を起こす可能性が高い事に気付いてしまった。

 だからダメだ。伶奈を行かせるわけにはいかない。

 そして俺がサイを連れ戻すんだ。


 呼び止めようとしたのに、向こうの空から大き過ぎる咆哮が響いて、零士の言葉は掻き消された。


「な、ななななんだよ!?」

「ひっ、あれって――」


 距離が離れていてもわかる程大きい。

 あれは間違いなく――


「――ドラゴンだ!」


 反射的に身体が動いたのは二人。

 伶奈と零士だ。

 二人とも目的は同じ。あの方向に歩いて行ったサイとクラリスを助ける為だ。

 零士はサイの本質に気付いてしまったが、彼はまだ罪を犯していない(と零士は信じたい)から、助けに行くのは当然の行為だった。

 しかし――


「み、水谷さん! どこ行くんだよ! アンタがここを守ってくれなきゃ全滅だよ!」

「そ、そうだよ水谷先生! 行かないで!」

「ね、ねぇ、どうせ異世界人達が倒してくれるから、ここにいてよ」


 避難民も、ステータスを持っている者ですら怯えて、零士の力に依存している。


 零士は戸惑う。

 まただ。

 また動けない。

 皆んなを助けたいのに。


 そんな零士達を――勇者零士すらを見下した目で、伶奈は言い放った。


「もういいわ。アンタ達はここで身を寄せ合って恐怖に震えていればいい。私は私の大事な人だけを守る。守るべきものを決められない奴は来なくていい、邪魔よ」


 最後の言葉は零士に向けられていたのに、何も言い返せず、その場から動けず。

 一人で走り出した少女の事を、零士を含め誰も止めなかった。


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