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壊れる世界の歩き方  作者: 木下美月
二章 暴かれてゆく

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28/45

追放

 

「死ね! アンタなんかさっさと死んじまえ!」

「この化物!」


 避難所の人々はどんどん激しく怒るようになり、クラリス目掛けて石や、皿の破片が飛び始めた。


 誰も止めない。

 正義の居所を誰も知らず、罰の落とし所を誰も決められない。

 ただただ感情に任せて攻撃的になり、何も出来ない者達が一人の少女を傷付けようと群がっている。

 また、何かを変えられる者達ですら、その力の使い道を決めあぐねていた。


 そんな中で、誰よりも純粋な少年が動いた。


「もうやめなよ」


 美城サイはクラリスに直撃しそうな石を受け止めると、それが飛んできた方向に全力で投げた。


「ひっ!?」


 石は一人の女の横を高速で飛んで行き、百メートル離れた場所にある体育館の外壁に当たって砕けた。

 それを見た大人達は思わず手を止めた。


「貴方達に何を言っても無駄だから、僕らは出て行くよ。もう二度と帰らない。平和的解決だ。水谷先生、魔神が来たら頑張って勝って下さい。それだけが、この愛すべき愚民共を守る道ですから」


 愚民という言葉に反応してヤジが飛ぶ。

 サイは水谷零士に全てを任せ、クラリスの手を引いて去ろうとする。

 だが、愛すべき愚民達はそれに納得しない。


「ふざけんな! こっちは人が死んでんだ! 殺人鬼に罰を与えろ! 殺せ!」

「そうだ、そいつを殺せ! 水谷さん、逃すな! そいつを殺せ!」


 クラリスは棒立ちで、どんな罰でも受け入れてしまいそうだ。

 だからサイが守る。

 そもそもサイがこの避難所に来たのはクラリスが目的だったのだから、考えてみればこれは当然の決定だった。


「殺す? やってみるかい? おいでよ、僕らの死を望むならその手で奪ってみせろ」


 直後、辺り一帯の温度が急激に下がる。

 サイが水魔法を熟練させて辿り着いた、氷魔法だ。

 この場でサイとクラリスを除いた全員の脚が地面と共に凍り、動きを制限される。

 自分達が正義だと勘違いしていた大人達は、圧倒的な力の前に困惑した。

 ここは多数派が有利な世界ではない。

 大人が子供よりも強い常識は覆された。

 命を奪う行為は容易い。

 これを悟った人々の心には、もはや手遅れな恐怖が生まれる。


「さて、君達が僕らを殺そうとするなら、こっちも大人しくしてられないよ。だって、ここで貴方達を殺さなくちゃ、僕たちが殺されちゃうから。ねぇ醜い大人達。僕は正しいでしょ? 貴方達は正義に殺されるんだ。自分から仕掛けた戦いに負けて死ぬんだ。これは貴方達の責任。可哀想に。惨めだね。何も出来ないクセに吠えるからこうなるんだよ」


 少年の言葉には説得力があった。殺人を正当化する事など出来ないはずなのに、誰もサイを咎められなかったし、逃れることも出来なかった。

 また、彼の瞳には燃え盛る様な怒りが迸っている様で、それでいて淡々と全てを破壊してしまう様な冷たさを感じた。

 だから誰もが少年の本気を理解した。自らの死をリアルに予見した。


 サイは影から刀を取り出し、わざとらしくゆっくり抜刀し、一人の男に近づく。

「や、やめてくれ! 俺達が悪かった!」

 男は目を見開き唾を飛ばしながら必死に、それこそ生死を掛けて許しを乞う。

 それを見る後ろの人々も、これが次々に繰り返され、自らにも順番が回ってくるのだと絶望し、目が離せない。


「まず一人。己の愚かさを悔いながら死ね」



 大きく振った刀が男の首に触れる直前。


「やめろ!」

 零士の声が響いた。


 刀はピタリと止まる。

 まるで最初から斬るつもりなどなかったかの様に。


「ふふ、はっはっは! 冗談ですよ先生。僕がそんな事するわけないじゃないですか。ちょっと灸を据えただけですよ」


 サイが笑いながら刀を仕舞うのを見て、男を始めとする避難民達は困惑した。

 間違いなく殺意を感じた。いや、そんな生半可なものではない。微塵の抵抗も許さないほど強大な死に捕らえられていた。

 それなのに死神は突然姿を変えた。ほんの一瞬で空気が変わった。

 胸を撫で下ろしたいのに、この違和感が怖い。

 助かった筈なのに、生きた心地がしない。




 氷の大地を踏みしめながら、サイは今度こそこの場を離れようとクラリスの手を引く。


「ただね、今後もし本気で僕達に敵対する事があったら――」


 校門を出る直前、サイは振り返って一同を睨んだ。


「――その時は冗談では済まないよ」


 その言葉と同時に氷は砕け散った。

 それでも誰も動く事が出来ず、二つの幼い背中を茫然と眺めていた。






サイ「冗談ですよ先生。僕がそんな事するわけないじゃないですか」


宗介(霊)「どの口が言うんだ」

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