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My Nightmare  作者: 燕尾あんす
四つ脚
9/98

砦町 スラープ

# baker side



間一髪と言ったところだろうか

僕からは岩陰の裏の出来事だったので

詳しいことはよく分からなかったが

ミザリーが岩陰に飛び込み、あの緑色の悪魔をどうにかしたらしい



少し遅れて岩陰にたどり着くと


そこにはミザリーと二人の子供が居た

ミザリーやベイカーの幾つか年下ぐらいの女の子と

その子が守るように抱き抱えている10歳に満たないぐらいの男の子


二人とも顔には涙の跡が残っている


それでも恐怖を忘れたようにぽかんとしたような顔で目の前に立つミザリーを二人して見つめていた



『…大丈夫?』


ミザリーが沈黙に耐えかねたように声をかけた


ハッとしたように姉らしき少女が首を縦に何度も振った


「はいっ…あの、ありがとうございました」

絞り出すように少女が言う


と言っても先程まで生命の危険に遭遇していた訳だからして、未だに腰が抜けて立ち上がれないような状態らしい


『そう…』


先日のハンドベルの出来事が頭をよぎるのか、その姉弟の視線に耐えかねたようにミザリーは背を向けた


だが僕はその姉弟がミザリーに向ける視線が畏怖から来るものでないと察した


姉に抱き抱えられている男の子の目が

何処か輝いて見えたからだった


「あの…もしかして…」


少女がおずおずとミザリーに声をかけた


それに対してミザリーは少し振り向いた

警戒されている訳では無いと感じ取ったのかも知れない



「…巡国遊撃隊の方ですか?!」


その声には力が戻ってきたようで、問いかけながらその少女は男の子を抱き抱え立ち上がった。



『………なにそれ?』


ミザリーは僕に問いかけるようにこちらを向いた


「えーと、確かルグリッド公国の軍隊組織の内の一部の精鋭達で構成されてて、国中を巡回しながら悪魔の被害にあっている街や村を手助けしている部隊だっけな…」


三年前、ハンドベルが悪魔に襲われた時

後々収束に向けて応援に来てくれたこともあったがミザリーはその頃死んだままだった訳だから知らないのだ



『へえ…でも違うわ、私らはただ旅してるだけの田舎者よ』


ミザがそう告げると少女たちは少し残念そうだった


「そうなんですか?軍服を着てるからもしかしてと思って…噂にも聞いたことあったから」


そう言ってもまだ信じきれないようで、二人してミザリーを観察しているようだった


「確かミザの服は軍服なんだっけ?紛らわしいよね」


場を和ませようと思って発言したことだったがすぐ睨まれた


「ちなみにその噂って?」


ミザリーに睨まれているのを見て見ぬふりしながら姉弟に尋ねた



「はい、ルグリッド公国の巡国遊撃隊の隊長は女の人だって聞いてて」


「最強なんだって!」


今まで沈黙していた男の子も元気が戻ってきたようで急に大声を出したので僕は少しびっくりした


「それで、その女の人の特徴が目が鋭くてこの国では珍しい鮮やかな髪色をしてるんだって聞いてたからてっきり…」


少女の視線はミザリーの金髪に向けられていた



『金色って…珍しいの?』


三つ編みの端っこを手でつまみながらミザリーが言った


「そりゃ珍しいよ…この国の人たちは大体が茶色だったり赤茶だったり、多少明るい茶色の人は居るけど金色の髪している人なんて僕はミザとアリスさんしか知らないし」


そう、この国では金色の髪はとても珍しい

元々ミザの母親のアリスさんがこの国の人ではないと言う話を聞いたことがある

アリスさんの元々の故郷の特色めいたものなのだろうか


などと考えていると


「私、リヅって言います。この子が弟の」

「バッツ!」


思い出したかのように二人は自己紹介してくれた


「僕はベイカー、よろしくね」


少女たちが次いでミザリーに視線をやる



『ミザリーよ、ミザリー・リードウェイ』



簡単な自己紹介を終わらせた僕達は四人揃って山道を下り始めた



「じゃぁリヅたちはスラープからこの山に探検に来てたのか」


「はい…それがあんなことになっちゃって探検にはもう懲りちゃいました」


リヅが肩を落としながらボヤいた


そのリヅに手を引かれて歩いているバッツはミザリーの鋼の手が気になるようでずっと見つめていた


『あぁ…これ?義手なのよ』


視線に気づいたミザリーが手首をプラプラさせながらバッツに言う


「へぇー…カッコイイなぁ」


目が輝いている


(なるほど、確かに義手や義足だって言えば特に不思議がられることもないんだ)


僕は関心した、案外ミザもちゃんと考えているんだな


とミザリーに目を向けるとミザリーも横目にこちらを見ていた


(ミザは僕の考えてることが分かるんだろうか)




そうして四人は小一時間ほど歩き、とうとう山を降りた


登りと比べるとやはりそれほど時間はかからなかった


「確かスラープは宿場町であると同時に砦町とも言われてるよね?」


ふと思い出しリヅたちに尋ねた


「はいっ、なんでも昔大きな砦が立っていた跡地に作られた町とかで、建物とかは残ってないんですけど城壁はほぼ昔の通り残っているんです。それを領主の一族が修復し、その中に町を作ったのが始まりなんだって聞きました」


「城壁があるのか、そりゃぁ悪魔もそうそう襲っては来れないだろうし安心して寝れそうだ」


ハンドベルを出てから僕達は野宿しかしていない


辺りが暗くなり始めていることもあり


周りには悪魔がいつ出るか知れない状態なので精神的にも気の休まる宿にあり付けそうなのは嬉しかった


「今の領主さんが有志の兵を募ったりお金で衛兵を雇ったりしてて防衛に力を入れてるので安心を求めて移住してくる人達で結構賑わってるんですよ」


「凄いお金持ちなんだね…でも安全によって栄えてるって言うのなら王都とかと同じかもね」


「なにより!見たらきっと驚くと思いますよ、対 悪魔用の兵器も城壁に備え付けられているんです!」


なんだか得意げにリヅが言った


『対 悪魔用兵器?』


「なにがあるの?」


僕とミザリーの問が被った


「こないだもそれで悪魔やっつけてたんだ」


バッツも得意げだ


「見てからのお楽しみですっ!…あっ、今夜の宿!まだ決まってないですよね?」


「うん、飛び入りで行って部屋取れるかなぁ」


僕はふと心配になった


「大丈夫ですよっ!私たちの家、宿屋なので家に泊まって下さいっ」


「そうだったの?よかった…野宿せずに済む」


ホッとして息をついた




談笑しながら暫く歩き続けていると



『ん…あれがそうじゃない?』


ミザリーの声で前を向いた僕の視界に入ってきたのは


町全体を城壁で囲んである、まさしく砦だった


「そうです!あれが私の町スラープです!」


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