道中~花の香り~
# another side
ここはルグリッド公国
テリブル大陸と呼ばれる世界を五つに分けた大陸の内の一つ
そのテリブル大陸内の四大国と呼ばれる
ルグリッド公国
ハイゼン武国
ドライセン護国
バリオール奏国
この四大国は規模、人口、武力等
総合的観点から見てほぼ対等、互角なバランスで成り立っていた
四大国は今現在、国同士の争いが凍結されておりお互いが自身の国を維持、防衛するための日々を送っていた
その要因が悪魔、魔物、異形の者
呼称はそれぞれだが
人外とされるそれらの影響である
どの国も同様に被害にあっており
襲撃されては立て直し、破壊・侵略されては建て直しの繰り返しであったため
他の国に攻め入って領土拡大、戦力増強などの選択肢を取れないままでいた
人と人との争いはある種の膠着状態
しかし人々は悪魔との戦いを強いられるばかりだった
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ルグリッド公国
王都 ソーデラル
王城を囲むように城壁がそびえ立ち、それを更に囲むように人々の住居が取り囲む
そしてさらにその住居を取り囲むようにさらに城壁がそびえ立つ王都ソーデラル
その人口は七百万人ほどと、大国と呼ぶには心許ない人口だが、それも悪魔の襲撃に備えて国内各地に兵隊を分散・常駐させているがゆえだった
現在の情勢的に戦争要員としての人員よりも公国全体の守護を重き目的としているためである
だがそれでも人手が届かない、手が足りない町や村が点在する
先のハンドベルもそんな村の一つだった
そのハンドベルから二日前旅立った二人はと言うと
「あ…暑い……」
ぼやいたのは赤茶色の短髪の少年ベイカー
大きな革の鞄を背負い、額には汗が目に見えて浮かんでいる
とある山に入り込む螺旋のようにうねる上り坂
ハンドベルから西へ向かう道中に彼等はいた
『暑い暑いうるさいわね…私まで暑くなるでしょ』
そのぼやきに返したのは
ベイカーの数m先を歩く、金髪を片側だけ肩までの長さ、もう片側の腰まである長い髪を逆さに撫でつけ三つ編みに編み込んだ少女ミザリーだった
「ミザは暑さなんて感じないんじゃなかったの?」
不思議そうな顔で問いかけるベイカー
ミザリーの身体は全てが機械で作られていると知っているが故の疑問だった
『知らないわよ、アンタが言ってた経験則からくるなんとやらのせいじゃない?』
すこし振り向き投げやりに言った
「なるほど、照りつける太陽の中長時間歩き共に歩く僕は暑いと言っていて汗をかいている。ミザの経験上、今は暑いんだと目と耳から入った情報をもって認識したってことかな?」
額の汗を拭いながらベイカーは解説し、少し早足にミザリーに追いついた。
『ご丁寧に解説していただいて光栄ね、汗をかかないだけマシと思うことにするわ』
やれやれと言った感じでミザリーは手をぶらつかせる
ハンドベルを出た二人は
二日間、休憩・睡眠を取りながらも歩き続けていた
ミザリーに比べて体力のない、主にベイカーのペースに合わせての旅だ
ゆったりとした道中と言えるが
それでも
歩き続けた二人はとうとう山頂にたどり着いたらしい
山頂と言っても少し開けた場所があるくらいでこれと言ってめぼしいものはなかった
少し休憩と
木陰を見つけたミザリーは木にもたれかかって座り込んだ
それに続いてベイカーも近くに座り込み荷物を下ろした
鞄の外にぶら下げていた水筒を取ると中の水を飲み始めた
が、水筒から口を離したベイカーは心もとなさそうに水筒を振った
パチャっと中の水が揺れ動く音が聞こえたがもう半分も残っていないらしい
『飲みすぎよ…どこか給水できるとこないの?』
それを横目で見ていたミザリーが尋ねた
地図を広げながらベイカーは説明し始めた。
「これだけ暑けりゃ仕方ないよ…この山道を降りると平地になってて、少し歩けば川があるよ。そんでその川を南西に少し下っていけば宿場町スラープがあるから、そこがとりあえずの目的地ってとこかな」
説明し終わると地図をたたみ、今度は小さな麻袋から細々とした機械の部品と工具を取り出しいじり始めた
ベイカーは休憩や一日の終わりに毎回こんなことをしていた。
細長い棒のようなものになにか細かい部品を組み込んでいる
『…ずっと何作ってんのよ』
手持ちぶさたに三つ編みをいじっていたミザリーが尋ねた
「もうすぐ……よしっ…できたよ!」
意気揚々と立ち上がると
15cmより少し大きいくらいの細長い管
、片側が少し細くなっているそれをミザリーに渡した
『…結局…なにこれ?』
受け取ったものの用途がまるで分からない
眺め回したものの内部にその管より少し小さい管が入っており、その中に液体のようなものが入っている
そして管の真ん中当たりに小さなボタンが付いているということしか分からなかった
「その細長くなっている方を口にくわえてみて」
得意げな顔のベイカーが告げる
『?』
言われた通りくわえてみてもよくわからない
パイプのようなものだろうかとミザリーは思った。
「そんで真ん中のボタンを押し続けてみて」
若干めんどくさくなりながらもボタンを押した
『……っ!』
ミザリーは目を見開き、驚いたような表情を浮かべていた
『花の匂いがする……』
驚いたミザリーはその鉄の管を再度眺め回した
「中のリキッドは花から抽出したもので真ん中のボタンを押すとその管の中に熱が加わり、加熱によりリキッドが蒸気となって香りを立たせるんだよ」
ミザリーは説明されてもイマイチピンと来ないが
ボタンを押すといい香りがするという点だけ分かったようだった
『ふーん…気の利いたもの作るじゃない』
お気に召したようで
ミザリーは目を瞑り、香りを楽しんでいるようだった
「ミザは花好きだもんね、でもそれ花のリキッドだって消耗品だから無闇やたら使わないようにね」
忠告するように告げたが、お気に召したのを見てとったベイカーもまた満足げだった
『その宿場町に行けば花もあるしできるでしょ?』
傍から見ればパイプをふかしているようだが
ミザリーは年相応らしく花の香りをただ楽しんでいた
旅の始まりにしては呑気な光景だが
先日あったことを考えればこのくらいは許されるだろう
ベイカーはそう思いながらミザリーを眺めた